今年一年振り返り③「未来切符〜カコ編〜」

今年一年を振り返っています。

「未来切符」続き。

今作は6つの短編を「ミライ編」と「カコ編」の2つに分けて上演しました。劇団員を主人公にした6つの短編ということで、一演目に収めると各話20分弱となってしまう。短編で20分と30分じゃ随分印象が変わるのです。ある程度がっつりやりたいなと思ったので3つずつ×2演目という形にしました。尺の制約がなくなったのでミライ編もカコ編も第3話は40分くらいになりましたてへ。
カコ編は時間がどんどん過去に遡っていくという形。バブル期→高度成長期→太平洋戦争です。今年大河ドラマのいだてんでこの辺りを描いてましたが(大河的にはこの辺りの時代はコケることが多いみたいですが)調べてても楽しかったですね。大変でしたけど。こういう近過去の時代って言葉使いが分からないんですよね。歴史文献には事象や出来事、人物などは書いてあっても、あんまり当時の言葉使いが分かるような資料がない。でも当然2019年の今と同じ喋り方はしていないはずで。こういう時はその時代に作られた現代劇の映画を見ると参考になります。昔書いたギブミーテンエンという終戦直後を舞台にした作品は昭和25〜35年くらいの現代劇の映画をたくさん借りて観ました。
と色々言葉使いについて書きましたが、カコ編第1話「ジュリアナ犬」はバブルの流行をこれでもかとデフォルメした流行語のオンパレード。デューダするっていう転職の意味の流行語懐かしいって書いたんだけど、今でもデューダあるんすね。あとアッシー君、まさに大どんでん返し、などなど。第2話「枕の意味」では江戸落語口調。どちらもデフォルメされた台詞並びでしたね。短編で時代感素早く出すのにあえて誇張したかも知れません。それでは各話の話を。

第1話「ジュリアナ犬」
宇田川美樹主演。バブル絶頂期のジュリアナ東京を舞台にした作品。この物語が一番書き出すのに苦労したかも。宇田川さんが劇団ミーティングで作品のブレストをしていた時に「犬がやりたい」と言い出し、面白いねえとなり、バブル期を描くのはカコ編のスタートとしてはいいなと思い、「ジュリアナ犬」というバカっぽいタイトルが思い浮かびました。そこからはたと困った。劇団公演で久々(らしい)に宇田川さんでゴリゴリのコメディをやりたいなとは思っていたのですが、

犬ってなんだよ。

という至極当然の問題にぶち当たります。着ぐるみ着て出る?コメディとは言え、そういうナンセンス的なテイストは作品群全体からしても少しスベるなあという予感があり(今思えばそれくらい振り切った作品が一つくらいあっても良かったかも)、とりあえず犬を男にして、牧野君に演じてもらうことにしました。
服装もどこにでもいるようなにいやんがいい。と普通のジーンズにセーターといった出で立ちに。
そこから脚本的に大いに悩みます。それはこの犬がどう見えるかというところ。この作品のルールみたいなことです。パターンは二つ。

宇田川さん演じる主人公ヒトミにだけ犬に見える(他の人には人間に見える)。
「え、こいつ犬じゃん」
「何言ってんの、イケメンじゃん」
「イケメン!?」

もう一つは、ヒトミにだけ人間に見える(他の人には犬に見える)。

「え、こいつ人だよね」
「犬だよ」
「犬ぅぅ!?」

これでけっこう中身が変わってきます。いわゆるすれ違いコメディですから、どっちの方がすれ違うのかなと悩み、後者にしました。前者だとどうなってたのかな?それはそれで面白かったかも。

これでマッチアップは終わったのですが、そこからストーリー展開にも悩みが。ジュリアナ東京で犬が出て、面白い感じにはなったんですが、はてこの短編は何がしたいのか、みたいなことです。ひたすらおバカに笑ってもらうのはいいんですが、物語になんか着地点がないと切符も出せない。そのあたりからミライ編を書き進めて色々見えてきて、清水さん演じる女子高生カコをミライ編の母親にしようというナナメ軸アイデアが出てくるのでした。1991年→2021年だから年齢も合いそうだ、ミライ編とカコ編の橋渡しにもなる、と進んでいきます。そして壮絶不幸のカコちゃんをバブルの二人が助けるという、ある意味人情ものの物語になりました。壮絶な不幸(高校生で妊娠、彼氏と別れ話、親が夜逃げ、借金取りがカチコミに来る、住む家もなくなる)ってたたみ込むようにぶち込んだら違和感ないんだなという謎の学びをした作品です笑

第2話「枕の意味」
土屋兼久主演。前述しましたが劇団員を主人公に物語を書くとなって「なんかやりたい役ある?」と聞いた時、土屋が言ったのが「落語家」。確か言葉や喋りをもっと掘り下げた役がやってみたいといった意図だったと記憶してる。僕も落語には興味があって、短編ならではの、物語全体が一つの落語みたいになったら面白いなと思って書きました。演出的に落語以外のシーンも全て高座でやる(つまりは土屋はずっと落語ポジション)というアイデアは稽古が始まってから決めました。やっぱリスキーでもあったんでね。あと足が痺れるんじゃないかなあとか笑。土屋はうまいこと上体を上げたりして凌いでたみたいですけどね。結果本当に短編ならではのお気に入りの話となりました。長編は無理です笑。

確かトワイライトゾーンだったかな、アメリカの古いテレビドラマ(映画だったかな)で世にも奇妙な物語みたいなオムニバスものがあって、第二話を若き日のスピルバーグが演出してたんですよ。それがホラー系、サスペンス系の作品群の中に、ハートウォーミングなクリスマスの奇跡的な話をぶち込んできて、とても印象に残ってたのです。そういう異質な回にしたいなと思っていたところはあります。6編のうち一つだけちょっと変わってるよねみたいな。首を括ろうとしていた若夫婦や、境内で出会ったルンペンなど、どこかファンタジーを感じさせるというか。この物語全部土屋演じる落語家、縁次の夢だったんじゃないかな、みたいなね。全編落語テイストでお送りしたので、その雰囲気は出せたんじゃないかな。しかし椎名な漫談は絶品だった。

第3話「ポンコツ玉砕隊」
樋口靖洋主演。これも異質といえば異質。だからこの未来切符全体を通して、色々チャレンジした演目であったのかも知れないですね。そういう感想もいただきましたし。終戦直前の頃のパプアニューギニアを舞台に、ひたすら逃げ続けた男を描いた物語です。開始しばらく樋口しか出ない短い(本当に短い!10秒くらい)シーンを暗転を挟みながらフラッシュ風に見せていく演出。こっちの方がリスキーだよ。で、実際リスキーでしたわ。稽古場でひたすら段取りを繰り返しましたが劇場で場当たり(照明や音響を合わせる)をやった時に大問題が発生。それは、暗転の残像が計算よりも全然残ってた(または残らなかった)というもの。残像とは、照明を落としても一瞬で見えなくなるのではなく残像がふわっと残るんですね。それを稽古場で計算してたのですが(具体的には照明落ちても樋口は芝居を少し残す)、思ったより残る。そして残らないシーンも発生(照明の種類によって残像感が変わる)。例えばここは4秒で次のシーン、3秒で次、だからその間にキャストはここまで移動しておく、などの段取りが崩壊。全部劇場で段取りを組み直すという作業が!今回この場当たりがカコ編初日の朝にあったので、マジで久々に幕が開かないかもという冷や汗をかきました。間に合いました。

戦争もの。短編だから重くなりすぎずいける、と思ったところはありましたが、やはり重いですね。僕は死ぬまでに「戦争ものだけど、ずっと笑っていられるコメディを作る」という目標のひとつがありますが、この作品はコメディを狙ってはいませんが、なかなかに戦争を扱うのはやっぱり難しいですね。これがカコ編のラスト、ひいては未来切符のラスト(切符としてはスタートだけど)になるので、その読後感はもう少し明るくしたかったなというのが正直なところです。でもご都合の良いハッピーエンドもしょうもないので、あのラストの二人の表情は良かったなと思います。

という訳で各話書いてきたら長くなっちゃった。次回に繰り越して、滋賀公演など、もう少しだけ未来切符続けます。続く。

トムコラム