今年一年振り返り⑦「オトナインデッドリースクール」「オヤジインデッドリースクール」

今年一年を振り返っています大晦日だよもう。

9月
松扇アリス
「オトナインデッドリースクール」
「オヤジインデッドリースクール」

演出を担当しました。脚本は麻草郁さん。
過去何度か演出しました「アリスインデッドリースクール」のスピンオフ的作品。元の作品は女子高生達の物語。ある日世界が動く死体で一変し、学校の屋上に取り残された女の子達は何を決断するのか、といった物語。アリスインプロジェクトさんで長く再演を重ねている人気作です。
今回はこれを大人の女性版「オトナイン」と親父達が集う「オヤジイン」で上演しました。確か昨年のパンフ対談で麻草さんと「オヤジの屋上やりたいね」みたいな話が実現したのです。こういうのってなかなか実現しないんですよね。面白いと思ってもね。だからなかなかレアな企画でした。

だからなのか演出してても楽しかったですね。私としては勝手知ったる?デッドリーの屋上に、大人達が集うんですから。連日2現場の稽古だったのでスケジュール的には大変だった印象ですが、こういう企画はある意味夢のようで、本当に楽しかったです。では個別に。

「オトナインデッドリースクール」
主人公ユウを演じた七海とろろさんがとにかく出色に良かったですね。本人のEQというのか対応能力の高さと、ユウが持つどこか不安で儚げな弱さがピッタリはまりました。現場ではとにかくユウのボケを増やしまくりました。台詞の合間にとにかく「入れていけ!」と。ミズキやベニシマ で屋上が凍りついても、臆することなく行け!と笑。八木橋さん演じるミズキが自然淘汰について話す時に「こ・う・や・ど・う・ふ」と入れたとろろは侍だと思う。
相方のノブ役の遠藤さんは2回目のデッドリーで高森をやって以来に現場でご一緒しました(日替わりとかは除く)。遠藤さんは昔はちょっと優等生ぽかったのが、しばらく見ないうちにだいぶ僕好みのぶっ壊れ系女優になりましたね。いや、褒めてます褒めてます。昨年ユウをやって今年はノブ。そんな彼女ですから、ツッコミという役割なんだけどwボケの面白さもあって。だからより一層「二人にボールを集めろ!」みたいな指示を出しましたね。
これはオヤジでもそうですが、女子高生だから響く瑞々しさとでもいうのか、そういう面白さと、オトナだから出せる味や魅力、その違いはより意識して演出したように思います。その象徴が市長役のSetsukoさんかなあ。真野さんとの焼却炉のシーンは、女子高生版とは違う涙となりました。

「オヤジデッドリー」
これはもうね、くせが凄い。普通座組みにオヤジ(今後も愛を持ってオヤジと書きますね)って一人ですよ。いても二人。この座組は、若い人もいましたが半分以上オヤジ。平均年齢40超えの座組み。僕としても先輩の皆様と一緒に芝居を作れて刺激しかない稽古場でした。ヒカミ役の佐藤さん、イナリ役の白部さんなど、真摯に役に向き合い、そして時に若手が驚くほどの毒、といってもいいのかな、強いエネルギーを出してきます。真正面から向き合わないと、と演出として思いました。がっぷり四つ相撲だぞと。イナリの「監督になりたーい!」という絶叫は白部さんのアイデアでしたが、デッドリー史上初(だったかほとんどなかったか)だったようです。

そんな中、ユウの布施君は不器用ながら熱い芝居で周囲を唸らせてましたね。いやマジで不器用ですこの人。だからこそのスイッチ入った時の力がすごい。こういう役者さんに久々にあった印象です。予想はしてましたがオトナ版よりも涙腺に訴える作品になったのかなとは思います。
オヤジで膨らませたシーンはズバリ「喫煙シーン」屋上でタバコ吸うなんで男のダメさ、オヤジの可愛らしさじゃないですか。脚本では3人くらいしか吸わないのですが、この喫煙シーンを人数も増やしてかなり膨らませました。

そしてオトナもオヤジも共通して新しい発見というかアプローチをしたのはヒカミ。オトナは椎名が、オヤジはワハハ本舗の佐藤さんという布陣。この二人が演じたのを見た時に僕はなんなら初めて「ヒカミいい人じゃん」って思ったんですよね笑。これまでマッドサイエンティスト然とした方向に演出としては振ることが多かったこの役ですが、今回はヒカミの「可能性」を信じてみたくなる説得力があったというか。なので、お二人にはそういう演出にしたいと伝え、結構意見を出し合いながら作り上げました。照明や音響も変化をつけたりしようかとスタッフさんと話したのですが、最終的に全部やめました。この役とお二人の演技は、演出としては今作で一番思い出に残っています。

このデッドリーシリーズはこの翌月に本家女子高生版が上演され、年末にはアリスインアリスインデッドリースクールというゴリゴリのスーパースピンオフが上演されてましたね。長く愛されてる作品のど真ん中、屋上に集った人々の人間ドラマは、オトナやオヤジでもある意味変わらないのかなと思いました。変わらないは語弊があるな。大人達が「二度目の将来」と言いながら夢を語るシーンは、やっぱりいいですよね。

次回は振り返りラスト「なまくら刀と瓦版屋の娘」です。2019年中に終わらせたいぞ。

トムコラム