サカキバラダイスケ×松本陽一(4)

※2017年4月13日、シアターKASSAIにて

サカキバラダイスケ×松本陽一(4)

“スペシャル”は共通言語

松本
あのー、長く一緒にやってるんで、打ち合わせをするとき、共通の言語ができてるじゃないですか。
サカキバラ
はいはい。
松本
物語の最後ですごく盛り上げたいときに「ここでスペシャルないっすか?」っていう(笑)。
サカキバラ
(笑)。
「なんかスペシャルね」みたいな(笑)。
松本
そしたらサカキバラさんが、「分かりました。とりあえず、じゃあ、パッとは出ないけどスペシャルにしまーす。」みたいな(笑)。よく使うのが、このバックパー(バックPARライト)で、後ろからこう…バーン!と。
サカキバラ
そうですよね。まあ、便利ですよね。
松本
それもなんか、使いすぎると、観に来たお客さんが「またあれかい」ってなるので、演出としてもちょっと手を変え品を変えをしなきゃいけないんですけど。
他にどんなスペシャルがあります?他の演出家さんも多分スペシャル欲しがると思うんですけど。
サカキバラ
やり方は本当にもういくつもあって、でも一般的に強い印象を与えるっていうのは、ネタで陰影をつけるか、近頃で言えば、ムービングで動かしちゃうかっていう、そういうことにはなりますね。
松本
僕が自分で観た舞台ですごく印象的だったのは、キャラメルボックスさんの、タイトル忘れたんですけど、情けない男が最後剣を抜いて頑張る、みたいな。クライマックスのまさにスペシャルが欲しいところで、剣を抜いたときに、剣に20本ぐらい明かりが入ったんですよ(笑)。
サカキバラ
あー、なるほど!
松本
すごいな、と思って。これはスペシャルだな!と思った記憶がありますね。
サカキバラ
それはいいですね。
松本
これでもか!ぐらいに、1本や2本じゃなく、ズドドドドっと(笑)。
サカキバラ
キャラメルボックスはもともとビーム(照射範囲が狭い明かり。スモークと一緒に使用すると、光の筋が大量に出るので、シーンに迫力を出すことができる)が好きな団体さんなのですが、そちらの作品ではそのクライマックスに「ここぞ!!」とばかりに使ったんでしょうね。分かります、その使い方は。
松本
僕と一緒にやった作品で印象に残ってる作品ってありますか。もしくは苦労したっていう。
サカキバラ
どの作品もそれなりに苦労しているんですけど、地明かり的な意味でいくと『ガールズトークアパートメント』(2010年初演、2016年再演)ですね。あれは自分で言うのもなんですけど、高度なことをやっているんです。
松本
ほう。それはどんな。
サカキバラ
すごく細かいんですよね。近頃のコンピューター技術の発達でっていう話なんですけど。昔、それこそさっき話に出てきた『桐の林』だったり、6番シードが30人いたような時代って、明かりのゲージって大体10%刻みだったんですよ。なんでかっていうと、手でゲージのツマミを上げるしかなかったんですよね。その後、コンピューターで制御されるのがメインになってきたときに、100%で目盛りを刻むようになったんです。実際にはコンピューターの制御の中で255のゲージがあって、『ガールズトークアパートメント』は255階調で切っているんですよ。
松本
はあ…、なんかちょっと把握してないんですけど(笑)。
サカキバラ
(笑)。だから細かく陰影をつけられるっていうことです。
松本
つまり、今までは10分割だったのが、255の微妙なところを、
サカキバラ
攻めたっていうのが『ガールズトークアパートメント』です。
松本
はあー。
サカキバラ
あれは、作るものが地明かりだけなので、シーンの数が多くないんです、実は。非常にシンプルな演目です。
松本
でも、春夏秋冬を、綺麗に照明で表現していただいて。
サカキバラ
そうですね。あのアイデアは、春夏秋冬からの春という5つのシーンを、朝から昼になって、昼から夕方、夕方から夜になって、で、夜からまた朝になるっていう形で表現したプランです。ベースとして。で、それを実現していくために、すごく細かくゲージを切っていったっていうのが実際にやったことです。
松本
普段打ち合わせでも現場でも、照明について本当に細かく話さないじゃないですか。
サカキバラ
はい。
松本
それこそ「スペシャルお願いします」で、場当たりの時に「スペシャル入れました」「あ、いいですね」とか「スペシャル感もうちょっとください」とか、そういう。
サカキバラ
はいはい。

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松本
だから、『ガールズトーク』でそんなことが起きているなんて、演出家としては露知らずですよね。
サカキバラ
そうですね。だからその辺はもうこだわりっていうところになっちゃうんで、それがポイントではないんですけど、自分の中でのトライっていうことだったりします。
松本
あー。こうやって改めて聞く、この企画の面白さのひとつだなって。
サカキバラ
裏話ですね。

シアターKASSAI立ち上げの経緯

松本
じゃあそろそろ次の話に。
サカキバラ
はいはい。
松本
そうやって、照明さんとしてずっとお付き合いを続けていたんですけど、ちょっと前から色んなことをされるようになってきましたよね。
サカキバラ
はい。
松本
前から照明以外のこともやってらっしゃったんですか?
サカキバラ
そうそう。実は結構やってるんですよ。
松本
そうですよね。僕が知らないだけで。例えば、ライターをやられていたとか。
サカキバラ
そうですね。今はほとんどやってないですけど。物書きはしばらくやってましたね。 
松本
なんか誰かのゴーストライターやってらしたとか(笑)。
サカキバラ
とかもやってましたね。ちょっとその辺は言えないんですけど。残念ながら。
松本
言えないですね(笑)。そして、このシアターKASSAIのいわゆる館長さんというか。肩書きは館長さんでいいんですか?
サカキバラ
うーん、なんなんでしょうね。まあ上の2人KASSAI劇場スタッフ)が館長と呼んでいるから館長になったんだよ、ってそんなところがありますね。
松本
まあ同じ演劇界とはいえ、照明屋さんと、劇場主・館長って全然違う畑じゃないですか。
サカキバラ
ですよね。 
松本
そのいきさつというか、なぜそうなったのか。
サカキバラ
うーん、もうどうしようもなくそうなったという感じですね。元々のところで言うと、ここの技術設計をしたのがボクなんですよ。
松本
あー、立ち上げの時。
サカキバラ
はい。例えば、(天井を指しながら)このバトン(舞台の天井にある、物を吊るための棒)がこういう風になってるんですけど、このバトンのピッチ、間隔ですね、それを決めたりとか、48φ(太さ直径48mmにしましょうかってのを決めたりとか、灯体をこういうので行きましょうっていうのを決めたりとか、ここのひな壇の角度をこうしましょうっていうのを決めたりとか。そういうのをやったんですよ。
松本
はあ。技術アドバイザーというか。
サカキバラ
そういうことになりますね。
松本
シアターKASSAIは、元6番シードの代表の久間勝彦さんという方が6番シードをやめられた後に作ったんですよね。
サカキバラ
そうですね。6番シードをやめた3年後ぐらいに作り始めてるんですね。
松本
久間さんは前から劇場を作るのがずっと夢だったっていうのは聞いていたので、池袋から割と近いから、すごくいい場所見つけたんだなあみたいな。

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サカキバラ
ねえ。よく見つけたなあーって思いましたね。
松本
じゃあその立ち上げにすごく関わられたんですね。
サカキバラ
正確に言うと、久間さんが物件を探してるときから一緒にやってるんです。
松本
あー、そうなんですね。
サカキバラ
で、色んなところを見に行っていて。でもここは見に来てないんですよ、実は。
松本
へえ。
サカキバラ
見に来てなくて、なんかいつの間にかここになっていたんです。色んなところ見に行ったんですよ。豊洲とか。大宮とか。色んなところがある中で…
松本
豊洲!?(スタッフに向かって)豊洲行きます?劇場があったとして(笑)。
スタッフ
この間、360度の劇場IHIステージアラウンド東京)は行きましたけど、あれができないと行かないですね。
サカキバラ
ある程度大きい劇場じゃないとたぶん難しいでしょうね。
松本
それで…KASSAIの館長さんというか、責任者というか。
サカキバラ
そうですね。責任者というのが正しいな。
松本
そこからそんなに知名度のなかったシアターKASSAIが、ものの見事に、1~2年で一年中公演をやっているような劇場に。
サカキバラ
そうですね。ありがたいことですね。
松本
いや、それはだからサカキバラさんのすごい経営手腕というか。
サカキバラ
いや、そんなことないと思いますよ。これは池袋から近いというのが一番大きいと思います。まず立地というのがあって、その上で偶然にもアリスインプロジェクトだとか、6番シードだとか、ボクラ団義だとか、知名度のある団体さんが使ってくれたっていうのが一番大きいと思います。
松本
今だからお話ししますと、ちょうど館長さんになられた頃は、まだ知名度が上がっておらず、空日程もすごく多くて。
サカキバラ
ですね!びっくりするぐらい(笑)。
松本
で、さっそくすごく面白い提案をされたんですよね。1年にこれだけ使いませんか。使ったらその分キャッシュバックしますというような、すごくビジネス的なご提案、しかもこちら側としてもうれしい提案をいただいて。そんなこともあって、アリスインプロジェクトさんとかウチとかが、その年、結構な週使ったんじゃないかな。
サカキバラ
そうですね。
松本
そういう風にしてどんどん戦略というか作戦を色々立てて。
サカキバラ
そういうことをやらないと経営が回らなかったからっていう、それが一番大きいですよね。
松本
その時に、いわゆる照明屋さんのサカキバラさんから、ビジネスマンのサカキバラさんになってて(笑)。
サカキバラ
ワハハハハ(笑)。
松本
ああ、面白い発想や色んなものを持ってらっしゃる方だなと、そのあたりから思うようになったんですよね。

(つづく)