サカキバラダイスケ×松本陽一(6)

※2017年4月13日、シアターKASSAIにて

サカキバラダイスケ×松本陽一(6)

ギリギリだけど順調

松本
うん。ギリギリって結構リスキーですよね。
サカキバラ
リスキーですね。今もまさにリスキーな状態ですね。
松本
いつもニコニコ笑ってらっしゃるけど、大変な時期とかもあるわけですよね。
サカキバラ
あります、あります。
松本
単純にお金とか…
サカキバラ
具体的に言うと月末はいつも大変。
松本
あー、僕も気持ちは分かる。
サカキバラ
んふふ(笑)。月末になると、だいたい…特に隠してないから言うんですけど、だいたい今、稽古場とそこの人件費とかを含めて、月末になると400万近く出て行きます。だから毎月毎月400万くらい工面して、工面して…。
松本
でも、分かんないですけど、劇場1個と稽古場が1つと、もう1つは4部屋もある広い稽古場で、シンプルに400万でいけるんだ!?みたいな気もちょっとしたんですよ。
サカキバラ
んー、そんなもんですね。それに関して言うと、稽古場の管理にずーっと付いていないとか、そういうやり方だから成り立っていると思います。新宿村LIVE(西新宿にある劇場で、都内最大規模のレンタルスタジオに併設されている)のような形の運営手法にしたい場合は、曙橋に関しては各部屋を毎日5,000円高くしないとダメですね。
松本
そうやって金額と、いろんなことの折り合いを付けてるんですね。
サカキバラ
そうそうそう。そこの良いバランスを探す、って感じですね。
松本
それはちょっとゲームなんですね、サカキバラさんにとっては。
サカキバラ
けっこうゲームですね。
松本
十条のトルクもかなり人気が高いですよね。
サカキバラ
高いですね、ありがたいことに。
松本
僕はKASSAIのスタートもトルクのスタートも知っているので、劇団員に「困ったらトルク借りればいいよ」って言ってたんですけど、最近「早く押さえないと空いてませんよ!」って言われちゃって。
サカキバラ
(笑)
松本
すごいなぁ、全て順調に回していってるな、とは感心してたんですけどね。
サカキバラ
でも、順調に回ってるけど大変ですね。
松本
順調に回って、ギリギリを攻めてる。
サカキバラ
うーんそうですね。計算上は、100%埋まれば黒字にはなるんです。
松本
稼働率が?
サカキバラ
そうです。でも、実際にはそこまではいかないんですね。KASSAIでいくと95%くらいで、稽古場は80~85%ですね。
松本
でもそれって稽古場や劇場には優良な数字じゃないんですか?
サカキバラ
ですね。これについては・・・別に面白くない話になるかもしれないんですけど、十条のトルクや曙橋のB−1は、他の所に比べて恐らく同じ大きさくらいの部屋では大体3,000円〜1万円くらい安いんですよ。
松本
はい。
サカキバラ
例えば曙橋のCっていう一番広い部屋は1日17,000円なんですけど、たぶん1日3万近くでも出るんですよ。あの大きさって。
松本
まずそんな大きい所が無いからってのもありますね、借りる側としても。
サカキバラ
じゃあなんであの値段で出しているかというと、もちろん元々の所で、ベースで出来るだけ安くしていきたいっていうのがあった。あと管理にかかるコストと不動産にかかるコストって考えたときに、ここまでは下げられるっていう判断がある。それに加えて、安くしているのには営業コストをできるだけ減らすっていうもう一つの理由があるんです。他の稽古場さんみたいに、例えばカンフェティなんかの演劇情報の集まるメディアに広告を出すとか、いろいろな経営努力をして、その経営努力でお客さんを呼んで、そこの稼働率を上げていくっていう手法もあるんです。でもそれはどういうことなのかっていうと、さっき言ったように、稽古場代とかKASSAIの劇場代が高くなることに繋がるんです。それはちょっと嫌なので、削れる所を削って値段を下げて、替わりに圧倒的に安くする。これによって、営業するための努力を…努力というか人件費や人の労力をつぎ込むのは経営的観点からするとコストなので、そこを削ってできるだけ安く出す。結果、他の稽古場より圧倒的に安くなるので使ってもらえるっていう形なんです。

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松本
勝手に話が回るっていうか、口コミ効果ですね。すごいな。
サカキバラ
それを考えているんです。だって、ここより安い所無いんだもん、っていう感じですね。
松本
僕らはシンプルに、あぁ安いなぁって思ってましたけど、こうやって聞くとすごく理に適ってるんですね。
サカキバラ
そうですね、一応理詰めの人なので(笑)。

演劇のコスト

松本
あのー、いろいろ演劇のコストについてお話があったので、少しお伺いしたいなと思うんですけど。
サカキバラ
はいはい。
松本
僕も劇団を主宰してて劇団員が居たりして、赤字が出て借金が出来たりとか、いろいろ苦労はしたりしてるんですけど、さっき稽古場を作ることによって、いわゆる環境を、最近の言葉で言うとプラットフォームかな、環境を変えることによって、役者さんや座組さんのいろんな負担が減ればいいという話がありましたけど、演劇で一番難しいのは役者さんのギャラだと思うんですよ。
サカキバラ
そうですよね。
松本
ここに関して、あのー、まだこれを成立させる何かいいアイディアを持ってる人いるのかなっていうのが気になります。もちろんいろんな人が考えてると思うんですけど。小劇場界…と呼ぶのは正しくないんでしょうけど…、その中でけっこう人気があって一ヶ月に1本、年12本の舞台に立つような人って実際稽古するとほぼ休み無しくらい稼働するんです。例えばうちの椎名亜音とかもそれくらい仕事頂いてますけど、そういった方でも、なかなか東京都の時給にはいかないんですよ。
サカキバラ
いかないですねー。
松本
いかないんですよ。これを上げる工夫というか、努力をしてる方もいらっしゃると思うんですね。ちょっと前にTwitter上で賛否が割れる話があって、
サカキバラ
はい
松本
それは単純にチケット代を上げたパターンだったんです。で、「高いね」っていう声に対して、その方が、「役者さんにきちんとしたギャラを払うにはこの額必要です」みたいなことを書いていて、賛否両論出た。その考え方は一方で正しくて、一方で正しくない…というかお客さんに言っちゃいけないことだったかなと僕は思いました。お客さんは、その公演のチラシや事前情報や、なんなら劇場やイスや、なんかいろいろな基準でもって「面白いかな」、「この額なら払えるな」と思ってチケットを買う。100円マックがコストがかかって500円になったら誰も買わなくなるのと一緒で。単純に商売の理屈だと思うんです。

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サカキバラ
はい。(頷)
松本
ただ一方でそういう努力をされてるっていうのは、制作側の人間としては少し思うところがあって。
サカキバラ
うーん、そうですよね。その問題は非常に難しいところがあって、まず、小劇場がまがりなりにも市場として成り立っているのは、日本の中では東京だけなんですよ。
松本
ほぅほぅほぅ。
サカキバラ
地方でもごくごく一部、例えば大阪のスタージャックスさんのような、ものすごく動員している人達は東京の売れている劇団に近いと思っているんですけど、
松本
はい。
サカキバラ
それ以外の人達は大体まぁ、手弁当になっていく形になりますよね。えーと、東京の場合は、どこから始まったのか明確ではない…ボクの中で明確でないだけで、歴史的には押さえてる人がいると思うんですけれど…、いちばん初めって全部劇団員がやってたんですよ、まず。音響も照明も舞台監督も美術も、全部劇団員がやってたわけなんですね。そこからどんどん商業演劇のように、それぞれのセクションが独立して収入を得る形になり、食えていく人たちが出てくるという流れの中で、チケット代も上がっていったんですよね。

(つづく)