細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 前編(5)
キャスティングにまつわる攻防戦
- 扇田
- 僕、嘘ついたことありますもん、それで。
- 松本
- どういうこと?
- 扇田
- どの公演か絶対言いませんけど、脚本を提出して、自分の希望の配役を書いて、明らかに台本上で二番手と四番手の役があったんです。それを「四番手にいた子をどうしても二番手にしてほしい、ここを変えてくれ」って言われて。
- 細川
- あぁ、 あります。言ったプロデューサーも覚えてる。
- 一同
- (笑)
- 扇田
- それを変えたら作品のクオリティに関わると思ったんで、僕はまた得意の嘘を言って、「いや違います。この役が実は二番手なんです」
- 一同
- (笑)
- 佐藤
- 四番目に名前があるけども、
- 扇田
- 「違うんです。本当の役の重要度で言うとこの役が二番手なんです。だから、なんだったら、販売する台本の番手を変えていいです」
- 佐藤
- なるほどね。
- 細川
- 名前をコピペしてね(笑)。
- 扇田
- プロデューサーなんて台本しっかり読んでない人もいるから。のぶさんはちゃんと読んでると思いますけど。
「あ、なるほど!」って納得してもらえて、心の中では、よっしゃ~!!!ですよ。 クオリティ保たれた~って思って。
- 細川
- そういう戦い、めっちゃ多いです。
- 佐藤
- あります、あります。
- 細川
- 僕も再演の時に、初演で大した役じゃなかったところに、
「細川さん、ここにこういう人を入れたんでこの役もうちょっと膨らませてください」
「えっ、この役最初ダブルキャストの役やったやん。そこになんでそんなんはめるん?」
「いや、ちょっとスケジュールが厳しくてそんなに稽古出れないけど、でもこの役、もうちょっと何とか……」
「いや、どっち!?」
- 一同
- (笑)
- 細川
- 稽古来られへんのやろ、増やしてどうすんねん?みたいな。
- 佐藤
- 確かに。
- 細川
- 増やしましたけどね。
- 一同
- (笑)
- 扇田
- 劇団とかでは考えられない話ですね。
僕は演出だけだから、極力脚本はいじらないようにしてます。
- 松本
- あぁ、なるほど。
- 扇田
- ただどうしても、こんなものくすりとも笑えんわ!っていう脚本もあるんですよ。
- 細川
- ありますねぇ。
- 松本
- あれ、細川さんって、演出だけの仕事もあるんですか?
- 細川
- たまに。
- 扇田
- あるんだ~。
- 佐藤
- たまにあるんですか!へぇ~。
- 扇田
- 脚本家さんとしては、書き換えたいなって思ったりしないんですか?
- 細川
- 思います。僕は、脚本家さんとの関係が良いことの方が多いので、直してもいいって言ってもらったり、 稽古場に来てもらって「ごめん、ここ足していい?」って確認するようにしてます。俺、その人っぽく書くの得意なんですよ。その人が書いたかのように似せて書くのが得意なんで、割とそれで通るんですけど。去年だったかな~、割と融通きかないパターンがありましたねぇ。
- 一同
- (笑)
- 細川
- この脚本を面白くするしかない、みたいなことがありましたね。
- 松本
- 僕も 脚本をガンガンに直しますよ。
- 佐藤
- ほぉ~。
- 扇田
- 直しますよね。だって松本さんは……
- 松本
- 正直に言いますね。今回 の『アリスインデッドリースクール ノクターン』。麻草郁さん が脚本だったんですけど、めっちゃ直しましたし加筆したりしました。
- 扇田
- 直してましたね。
- 佐藤
- へぇ~。
- 松本
- 関係性ができてるっていうことと、僕が何度も 演出をしているっていうのもあって、それはもうたくさん直しましたね。
- 扇田
- 麻草さんは結構そこら辺が柔軟ですよね。
- 松本
- そうですね。関係性は大事。
- 扇田
- 僕が『アリスインデッドリースクール』シリーズの演出をやった時に、僕は結構気を使うので「こういうシーンがあったら、もっと良くなるかな~」ってちょっと言ったら、すぐに書いてきてくださって、そこら辺はすごくいい脚本家さんだなと思いましたね。
- 細川
- うん、麻草くんはそうですね。
松本作品は過酷!?
- 扇田
- 僕、この前の『アリスインデッドリースクール ノクターン』で初めて 松本さんと仕事したんです。僕が舞台映像を作って。
- 松本
- 映像をお願いしたんですよ。
- 細川
- 何でもやるなぁ。
- 佐藤
- 何でもやりますね。
- 扇田
- 舞台映像を作ってオペ もやったんで、場当たり とかずっと居たんです。松本さんは笑顔でスタッフに鞭を打つタイプだなって思いましたね。
- 細川
- わかるわかる(笑)。
- 扇田
- 松本さんが「ここってアレできないですか~?」みたいなことを言って、スタッフさんが「いや~、ちょっとこれは渋いですね~」って返したら、「なんか頑張ってくださ~い」って。
- 一同
- (笑)
- 松本
- ど、どの、何ですか?
- 扇田
- いやいや、いっぱいありましたよ。
- 松本
- いっぱいありました?
- 扇田
- ありました。 「はい、頑張ります」て言ってましたけど。
- 佐藤
- まあそうですよね。しょうがないよな。
- 細川
- 常々、役者に対してホントひどいことするなって思ってますよ。
- 佐藤
- 細川さんが?松本さんが?
- 細川
- 松本さんが。ホントひでぇと思ってる。
- 佐藤
- へぇ~、どの辺が?
- 細川
- 『D・ミリガンの客』も、あの脚本は究極でしょう。
役者いじめみたいな脚本じゃないですか。でも、そこを超えると、すげぇ役者が得するってことなんですけど。
- 佐藤
- あぁ、そうですよね。
- 松本
- 『D・ミリガンの客』は、当時の看板役者を集めた企画として書いた ので、いじめのつもりで書いたやつですね。
- 佐藤
- いじめのつもりで書いた!?
- 松本
- いじめというか、看板役者が集まるんだから、普通の長台詞で役者がやれる1.5倍量、1.5倍の器
行数足らないなと思って、あえて伸ばしたりしたのが『D・ミリガンの客』の最初の時ですね。
を出そうと思って。
- 細川
- 台本来た時に読んで「は?」みたいな。これを一人でやるの?ずっと終わらへん、って思って。
- 扇田
- 最初のページを開いたら、ずっと長台詞なんですよね。
- 細川
- 「何、この拷問!?」って(笑)。
- 佐藤
- 一人どれぐらいなんですか?
- 松本
- たぶん5分以上ありますよ。
- 細川
- そうなんですよ。 だって、あれやってるんでしょ?
- 扇田
- 僕はでも、長台詞じゃないんで 。
- 一同
- (笑)
- 佐藤
- 自由時間!
- 細川
- なんかいちいち腹立つな~!(笑)要領よく、そこにはまりましたよね。
(つづく)