細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 前編(6)

 

細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 前編(6)

※2017年11月28日、シアターKASSAIにて

細川演出の作り方

松本
僕、細川さんの作品に日替わりゲストで出たことがあって、ちょっとだけ(細川さんの)演出の現場を見たことがあるんです。やっぱり作り方が独特じゃないですか。
少しでも何か盗めないかなと思って。作品が仕上がった頃に行ったのであんまり盗めなかったんですけどね。
出演してた宇田川さんだったかな?が言ってたんだけど、(細川さんは)シーンが出来た時に「決まった」って言うらしい。
佐藤
映画っぽい。
細川
俺、言ってますかね…。照明とかかな?
松本
場当たりとか、稽古とかでも、いろいろが上手く行った時に(指をパチンと鳴らして)「決まった」って言う、と教えてくれましたよ。
細川
あ~!言うかも。全部はまった時に、決まった的な事言ってるかもしんない。「これ!」とか「それ!それを一生やって」みたいな。

佐藤
独特の言い回しですね。
松本
演出トークになると、独特に背中で芝居するとか、陰影があったりとか、色々と画があるんですけど、あれはどういう手順で作って「決まった」になるんですか?
細川
えーと、どうなんですかね。このシーン背中いけるな、っていうのがあるんですよ。例えば、一対一で喋っている時とかって、映画でもそうなんですけど、一対一の会話って(演出を)面白くするのって難しくないですか?
松本
あー、確かに。
細川
その時に画の可能性を考えると、背中はアリやな。
佐藤
(観客が)想像できる。
細川
そうです。表情を見たいと思わせる。逆に僕は、自分がお客さんとして見た時に、大事なセリフを絶対に前を向いてやる芝居って…、そこだけ見ときゃええやんってなっちゃうんですよね。
佐藤
前ギリギリに出てきてね。
細川
それをスリリングにしたいというか。大事なセリフを背中で言うかもしれないってなると、お客さんがずっと積極的に見てくれるんですよ。
扇田
あれは映画には出来て演劇にはできない表現ですよね。
映画って、森とかのロングショットで、森の奥の方で二人が対峙してて、何やってるかギリギリ見えるぐらいで緊迫したシーンとか作れる。(演劇では)できないじゃないですか。
佐藤
確かに。
細川
それを何とかして作ってる。照明が暗いって言われるのは、目線を誘導したいんですよ。ここを見ればいい。その時に何かやってるぞ、ってことなんですよ。それ以外のところにも空間を作ったりするとマルチで展開できるんで。
あと、フェードイン・フェードアウトができるし、カットで場面を切り替えられるし、っていう風に…。
松本
フェードイン・フェードアウトは(どうやってるんだろうって)疑問に思ってて、カットチェンジはなんとなく分かるじゃないですか、照明がパンっと変わるとか。細川さんの芝居を見ると、フェードが上手いなと思ったんです。でも、よく分からないんですよ、その作り方が。
扇田
フェードは難しいですよね、やっぱりカットチェンジの方に行っちゃう。
松本
フェードが上手くいくっていうのは、どういう感覚なのかなって。
細川
フェードをやらせる時って、要するに同時進行なんです。
シーンが変わる時に重なるところがある。前のシーンの終わりと次のシーンの始まりが重なってるんですけど、普通に作っておいて、前のシーンのこのセリフとかこのタイミングで、次のシーンをスタートさせてって言うんですよ。
松本
ほほぅ。
細川
次のシーンが始まってだんだんテンションが上がってくるじゃないですか。そのテンションが良い時に前のシーンがちょうど終わると気持ちいいんですよ。
いつのまにかお客さんが「あれっ、場面変わってる」っていうように、場面が変わる時に待たされずに済むというか。
しかも話は繋がってるから、すごい複雑な話をやっても、すんなり分かった気になるんですよ。これが大事なんですよね。
松本
分かった気になる。

分かった気にさせる技術

細川
分かった気になることって大事で、例えばアクション映画の『ダイ・ハード』ってどういうストーリーか、皆さん説明できますか?っていうことなんですよ。
どういう話だっけ?ってなりますけど、分かった気にはさせてくれるから。
佐藤
確かに。
細川
だから面白い映画だったな、ってなるんですよ。分かった気になるっていうのが大事で。
最近だと『マッドマックス』の新しい映画(『マッドマックス 怒りのデス・ロード』2015年公開)とかそうじゃないですか。
佐藤
(間髪入れず)良いですねぇ。
扇田
行って帰るだけのヤツ。
細川
そうそう、行って帰るだけの映画なんですよ。
佐藤
最高です。僕大好きなんですよ。
細川
あれ、イエーイ!って人が見ると、ヒャッハー映画じゃないですか。
でもちょっと頭のいい人が見ると、これはちゃんと聖書になぞらえてるなって(分かる)。見る人のフィルターによって見え方が違うんです、分かったつもりのレベルが違うんです。
そういう風に作るというか。だから全部分からなくていいんですよ。全部は説明しないんですよ。
この層で分かる人はこの層の理解で楽しめるし、ワーイ!でも楽しめるし、っていうふうにどっちの層にも楽しめるように作るっていうのが理想で、そういう作り方をします。そうすると、全部説明しなくて済むから。
扇田
なるほど。

見えないボールが飛んでるみたい

松本
僕はどっちかっていうと分かり易さが、作品のカラー的にも多いので(説明しちゃう)
扇田
今回(『D・ミリガンの客』の)稽古場に居て、頷くことが多かったです。だよな、だよな、ってのが。
松本
例えば?
扇田
僕が芝居を作る時って、ハケたと同時に次のシーンが始めることが多くて。
松本
あ~!ある気がする、扇田さんは。
扇田
ウチの演劇って基本的に場面転換がものすごく多いんですよ。
細川
うんうん。
佐藤
ウチもそうです。
扇田
なので、2人のシーンとか3人のシーンが多くて。とにかく意味のないハケは見せたくないんですよ。必ずシャッター(前を通過するなどの演出技法)をして、次のシーンを始めるようにしてるんです。このシーンが終わったら次のシーンの一発目のセリフがすぐに出てくる。だから照明もカットチェンジが多くて。松本さんも多分そういうのが多いなって思ってて。
松本さんはよく集中線って言葉を使うんです。ここに集中を持ってきて、そこに集中を持ってきて、って。
細川
それ、すごいある。
松本
集中とか目線誘導っていう言葉はすごく言いますね。
細川
だから6Cの芝居は、見えないボールが飛んでるみたいなんですよ。
佐藤
そういうメソッドもありますよね。お芝居上には光の玉が常に一個で、それが大きくなったり小さくなったりしながら常に移動してるっていう。
松本
僕はワンシチュエーションが割と多いので、引きで見た画を作ってるように思われがちですけど、だからこそ今どこを見て欲しいかっていうのをしっかり作る。

細川
だから僕わざと、松本さんがここ見て欲しいんだろうなっていうところと、別のところを見ていたりするんですよ。でもやっぱりちゃんと芝居を成立させてるんですよ。
でも遠近感が違って、ここを見て欲しい時にそっちは薄い芝居をしてるんですよ。
前に出ない芝居をちゃんとやってて、自分のところにボールが飛んできたら、その立ち位置のままで濃い芝居になる。その調律というか調弦がやっぱすげえなと思って。
松本
ダメな芝居とか、若い演出家さんの舞台を見ると、役者が悪い意味で自由にオフ芝居とかをやってて。
佐藤
悪目立ちですよね。
松本
役者はやっぱり、舞台上にいる時にできる限りいろんなことをしようと考えるから。
そうすると、「今こっちの人、悪目立ちで何かやってるわ~、本当なら話を聞くべきじゃないの?」とか、あるじゃないですか。
細川
うんうん、あります。
松本
だからアリスインプロジェクトみたいな若い女の子を演出する時も、そこが一番厳しいかもしれない。今何を一番お客さんに見せたいか、脚本から自分の役じゃなくても読み取ってください、みたいな。そうすると自然に、主人公がまもなく泣くって時にくしゃみは絶対できないわけですよ。分かりやすく例えると。
そういう時に細川さんは、後ろの人が背中を向けてる方が面白いか、ゆっくり振り返るのが面白いか、とか考えるんでしょう。そうやって芝居がどんどん掛け算になっていくんですよね。
細川
そうですね。

 

撮影協力:sheena & todo

(つづく)