細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編(2)

 

細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編(2)

※2017年11月28日、シアターKASSAIにて

3行の壁

松本
(細川さんに向かって)自分で自分の脚本を読んだりしますか?
細川
俺、読みますね。
松本
そうですよね。
扇田
声に出して?
細川
ええ、声に出して読みますね。山寺宏一さんっぽく、とか。
一同
(笑)
扇田
僕は演出している時に、3行を越えたら長台詞だと思っていて。役者さんって3行ぐらいだと、あんまり工夫せずに言っちゃうじゃないですか。
佐藤
以前、ベテランの俳優さんの家にお呼ばれした時に、その方が「最近の若い役者は3行以上のセリフ言える奴が居ねぇからな」って、酔っ払って仰ってました。

扇田
そうそう。やっぱり3行を越えると、何か役者なりにセリフを工夫しないと(時間が)持たないと思います。でも、サラッと言う人が多くて。
細川
うん、居ます。特に若い子は切り替えを入れない。
松本
確かに3行はひとつの基準かもしれない。
扇田
そう、基準なんです。
松本
3行あると、何かやらないと足らないですよね。
細川
感情の切り替えって、細かく入れて欲しいと思いませんか?
扇田
入れて欲しいですね。
細川
「あ、そうだね」ってセリフを「あ、そうだね」って一息でやられると、「あ、」と「そうだね」は違う!ってなるんですよ。
松本
僕も、それは言います。
扇田
もう一つ、松本さんが言ってたことで、「そのセリフを今思い付いたと思って言って」っていうのが、言えない役者さんが多いんですよ。
細川
そうそう!
佐藤
あ~、それは……。
扇田
確かに自然に言ってるんですけど、そんなにすぐ言っちゃえるものなのか。1つのセリフを言ったから次のセリフが蘇ってくる、っていうのが、3行あると結構あったりして。
佐藤
なるほど。他の選択肢もありますからね。別のことを言うかもしれない。
細川
セリフだから大事にしちゃって、思い付いた感じにならないんですよ。それ、役者さんに教える時に難しいんですよね。
佐藤
いや、(役者の立場からすると)言う方も難しいんですよ~。
一同
(笑)
松本
確かに3行辺りから、そういう回路が弱まったりしますね。若い人は特に、技術・テクニックとか実力が足りなくなってきて持たなくなるんですよね。
細川
あと歩き回りたがるんですよ。
扇田
セリフってアクションがあっての、リアクションじゃないですか。リアクションが思い付くセリフって、やっぱり1~2行なんですよ。そこから3~4行目のセリフは、自分で、あ!そういうことか!って繋がって、次の言葉が生まれるじゃないですか。脚本上も絶対そうなってるんです。だけど、それをせずに一気にやっちゃう役者さんが、(ヒザを叩きながら)多いんですよ、世の中に!
一同
(笑)

松本
例えばミステリーだと、名探偵が謎が全て解けた状態で話す、「じゃあ、事件の全容を説明しようか」ってタイプのセリフじゃなく、素人探偵が「あれ?あの時そういえば……」「でも、その時おじいさんはあそこに居たよね」みたいなセリフを3行以上やることがある。その時に、自分の中で推理して発展させながら口に出している状態っていうのがよくあるんです。それを、名探偵のように全部解った状態で(セリフを)読み込んじゃうんですよね。
扇田
今回(の『D・ミリガンの客』)は、その演出があるミステリーでしたよね。
松本
つまり、自分自身の気付きと、自分で言ったからこそ「あれ?じゃあ山奥の……」「それじゃ、あの時おじいさんはどうなったんだ?」って話が自分の中で進んで、自分でアクション・リアクションしているんですけど、それが出来なくてだんだん平坦になっていくんですよね。
扇田
今回は土屋(兼久)くん(6番シード)がそういうセリフが多くて、(松本さんが)彼によく言ってたのが、「このセリフはここから一個上のミステリーになってるから」って話だったんです。(内心で)そうそうそう!って思いながら見てました。それは、土屋くんのように上手い役者さんでも、いきなりは難しいんだなって。

佐藤
あと、9回公演なら9回同じことをするじゃないですか。やっぱり途中で慣れちゃうんですよ。
扇田
それ、稽古場ですごく言われました。
松本
(僕が)悪者みたい(笑)。
扇田
「なんか、この謎に慣れてきてますよね」って言われて、「くそぅっ!」って思いながら。俺、謎に全然関係ないんだけども。
佐藤
(セリフを)新鮮に言う、ってことですよね。それは久保田(唱)くん(ボクラ団義)も言ってました。それを聞いてパクろうって思って、それ以来、他の現場でも言ってます。
一同
(笑)
細川
例えばワークショップで、この長台詞を一人で読んでみてって指示を出して、楽しい話からだんだん悲しい話になっていく場合に、出て来た時から、もう泣きそうな顔してる役者がいるのよ。最初は楽しくてだんだん悲しくなるのに、あらかじめ不幸になる準備をしてる。そんな役者が本当に多い。
佐藤
そうですよね、分かるわ~。
松本
役者って、結末まで分かって冒頭を組み立てることって、どうしてもあるじゃないですか。だけど、結末が分かったから冒頭がより明るくなっているっていう(脚本の)読み方になっていればいいんですけど、結末が暗いって分かったから最初から暗くなる人っていますよね。
扇田
先読みしちゃうんですよね。
細川
真犯人だから最初から嫌われる感じで来るとかね。
一同
(笑)
佐藤
分かるな~、やっちゃうな~。
松本
新作台本で(出来上がった部分を)配りながら稽古をして、(自分が)真犯人って分かった時、その次から芝居が変わるんですよね。
佐藤
いや、それね、やっちゃうんですよ……。

芝居に基準はあっても正解はない

扇田
1時間ドラマだけを撮ってるディレクターさんのワークショップで聞いた面白い話が1つあって、普通、殺人犯だったら殺人犯に見えないように工夫するじゃないですか。でも、1時間しか時間がないから、とにかく分かりやすさを重視するお芝居の付け方をするんですって。
佐藤
ってことは、犯人っぽく出るってこと?
扇田
そう、犯人っぽく。
佐藤
ええ~!
扇田
これが2時間ドラマだと変わるんですって。

佐藤
面白いな。
扇田
最近は(1時間ドラマでも)テンポが早くなって来てますよね。だから少し昔の話で、分かりやすさを求められたみたいです。
細川
最近の刑事ドラマはだいたい、第一容疑者は犯人じゃないか、訳ありか、ですよね。
扇田
その人のワークショップを受けた時に面白かった事がもう1つあったんです。ある女の子が看護師の役をやっていて、患者役の横に立っていたら、そのTVドラマの監督が「ちょっとカット!君、看護師の役なんだから看護師に見えることをしないと」って言ったんです。カルテを持って何かを書いている演技をするとか。
細川
何か説明をせい、と。
扇田
その次の週に映画監督が(講師で)来て、たまたまその女の子が看護師の役だったんです。先週のことを活かせるぞと演技していたら、「カット、カット!君、看護師って設定なんだから、もう看護師に見えることしなくていいんだよ」って。
一同
(笑)
松本
かわいそう(笑)。
佐藤
なるほどね~。
細川
(女の子の口調で)「怖い怖い、お芝居分かんない!」
扇田
なるほどな~、これがお芝居なんだな、って思いながら見てました。
佐藤
正解って無いんですね。
扇田
作る人がどういう基準で作るかが重要で、
佐藤
やっぱり作る人は大事だ。
細川
リアリティのレベルですね。
佐藤
どっちの言ってる事も正しいですもんね。
扇田
だから、役者さんはもっとどっしり構えてればいいのにな、と思いますね。
細川
そうですね。怒られたくないって気持ちがあって、
扇田
そう、そこ!怒られたくないってなった瞬間に演技って極端につまらなくなりますよね。


撮影協力:sheena & todo

(つづく)