細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編(6)

 

細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編(6)

※2017年11月28日、シアターKASSAIにて

新しいものをどれくらい取り入れるか

扇田
僕が永遠のテーマだなって思っていることがあるんです。自分が良いと思ってずっとやってきていることと、皆さんが受け入れてくれるかどうか、は別の話じゃないですか。
細川
そうですね。
扇田
だからといって、皆さんが良いと思っているものに、行くべきなのか、行かない方がいいのか、っていうのが自分の中で永遠のテーマです。
松本
その話は面白いですね。もっと聞いてみたいです。
佐藤
芸術はピラミッド、っていう話を聞いたことがあって、一般の方は裾野の方に居て、芸術の最先端はピラミッドの頂点なんですって。でも、最先端すぎて理解されないらしいんです。何年後かに降りてくるんですけど。だから、頑張って最先端のものを作っても受け入れられなくて、売れるためにはそのちょっと下の、分かる人には理解されて、その下の層にも分かる、みたいなバランスを作らなきゃいけないんですって。
扇田
普通に考えるとそうなんですけど、最近SNSを始めとする発信の場が出来てきて一般の人達もいろんな発信をされるようになったじゃないですか。だから、芸術のピラミッドの裾野だと思っていた一般人の中に、頂点のセンスを持っている人も実はたくさん居るんだなって思ったんです。
細川
居ますね。
扇田
素人なのにこんなすごい道具を作っちゃうんだ!?とか、写真一枚に対する一言ボケでもこんなに面白い事を言う人いるんだ!?って驚くことがあるから、自分達はピラミッドの上の方から発信していたと思っていたけれども、もしかしたら今の流行を追いかけている一般の人達の脳の方が先に進んでいるかもしれないんですよ。

佐藤
そうかもしれないですね。
扇田
だから、こだわりを持ってここに留まるんじゃなくて、そっちに俺も行ってみよう!っていう軽いフットワークが今の時代はあったほうがいいのかな、とも思うんです。ただ、さっきの求道の話もすごく理解できる。
佐藤
常に新しいものを吸収するっていう刺激は大事なんじゃないですか。
扇田
そこのバランスって難しいじゃないですか。
細川
僕は、映画とかテレビとかバラエティ番組とか少年ジャンプなんかを、なるべく見るようにしてるんですよ。
扇田
めっちゃ見ます。
佐藤
僕も。
細川
でも少年ジャンプとか、大半の話で何が面白いのか分からないんですよ。『テニスの王子様』くらいから、何でこれがおもろいんか分からなくなって。
佐藤
分からないけれど、とりあえず読むんですか?一周回って、違う楽しみ方になってますね。
細川
『ボボボーボ・ボーボボ』は、何がおもろいん?
一同
(笑)
佐藤
面白いじゃないですか。
細川
俺には分からなくて。あ、俺、老害になっちゃった、って思ったんだよね。だから、そういうところでバランスを取って、今世間はこの温度なんだな、とか。
松本
世間や世の中の流行りは考えますか?
細川
考えます。
佐藤
さすがにプロデューサーは考えますね。
扇田
世間を考えると言うよりは、なんで今これが受けているんだろう?ってことは考えますね。
松本
僕は皆さんと比べたら考えてないかもしれませんね。
佐藤
あとは、時勢以前の脊髄反射的な快感はけっこう考えます。パチンコ的な、快楽装置みたいなのは考えます。ヒロインは可愛くなきゃダメ、とか。どんなに綺麗事を言っても、やっぱりヒロインは可愛くなきゃダメだと思うんですよね。なんかいろいろ、すっごく考えますけど、やっぱりヒロインは可愛くなきゃダメっすよ。
細川
何回言うねん!
一同
(笑)
松本
すっごい言いましたね。

2.5次元舞台に必要なもの

扇田
でも、我々演劇界の流れとしては、いわゆる2.5次元舞台(マンガやアニメ等、二次元の原作を三次元の舞台で表現する作品ジャンル)というのが流行っているわけで。
佐藤
それもね、全面的には良しと思わない。
扇田
そう、全面的には良しと思わないけれど、なぜあれがあんなに流行っているかは分析する必要があるんです。
細川
そうですね。
松本
細川さんは実際に(2.5次元舞台の)演出もされましたよね。
細川
そうですね。このキャラが良かったとかこの設定が良いじゃなくて、総合的にこのマンガやアニメを見た時の印象でここが良かったってあるじゃないですか。エヴァンゲリオンを見た時の、あの感じ。やっぱり、作り手が原作の総合的な良さを掬えてないと失敗します。
佐藤
ああ~、それはそうだ。
松本
僕もそう思うんですよ。僕は無趣味で、最近ではマンガもドラマもそんなに見ないんですが、やっぱり2.5次元舞台をやる上で一番大事なのは愛だと思うんですね。例えば僕は今『キングダム』ってマンガが好きでめっちゃ面白いと思っていて。ただ、春秋戦国時代の話だから、これを舞台化する時には、絶対僕には依頼が来ないパターンなんです。

一同
(笑)
松本
ただ、自分が大好きな原作だからやりたいな、って思うわけですよ。
佐藤
めっちゃやりたいですね。
松本
もちろん知らない原作があって引き受けるのも仕事ですから、全うすべきなんです。ただ、今言ったようなことがちゃんと踏まえられている製作陣と作家さんがやるべきなのに、そうじゃない作品っていうのが増えてるんじゃないかなって、勝手に想像してますね。
細川
増えてると思います。だからやっぱり大変です。これをやらなきゃダメなんです、これはこうじゃなきゃいけないんです、ってことを説得しないといけない。
佐藤
それから、品が無いとやっぱりダメですよね。
松本
品とは?
佐藤
顔がめっちゃ可愛い、めっちゃかっこいい役者が、すごくかっこいい衣装を着て、全員が格好つけてるだけだと、やっぱり品が無いと思うんです。

演劇文化の裾野を広げるには

扇田
でも、いろんなものが変わるかもしれないですよ。映画はほぼCGじゃないですか。演劇ももしかしたら……
佐藤
演劇もCGに……(笑)。
扇田
あり得るかもしれないですよ。役者要らないじゃん、みたいな。
佐藤
実験的な作品で、プロジェクションマッピングみたいなものとかありますもんね。
扇田
最近はとんでもないスピードで世の中が転がっていくじゃないですか。そう考えると、演劇もどうなるんだろうって思うんです。
細川
でも、演劇だけは相変わらず、板の上に人間が立って一生懸命セリフを覚えて……。
佐藤
それが良さだと思いますけどね。
扇田
やっぱり、人間の感情っていうのが一番じゃないですか。昨日もオーディション動画を観ていたんですよ。泣きながら絶叫して歌を歌うシーンに、意味無くめっちゃ感動したりして、やっぱり演劇って人間だよなって思ったんです。
佐藤
確かに生の演劇の感動は映像とは違いますよね。三谷幸喜さんの映画と演劇の面白さについての名言があるじゃないですか。
扇田
上から、めちゃくちゃ面白い舞台、めちゃくちゃ面白い映画、めちゃくちゃつまんない映画、めちゃくちゃつまんない舞台、って順序になるんですって。
佐藤
めちゃくちゃ面白い舞台が一番面白いんですよ。生で観れて一緒に感動できるんですから、それは当然ですよね。そこは維持したいですね。小劇場って、何十年も前から始まってまだこんなに残ってるじゃないですか。すごく冷静な目で見ると、意外と廃れないんだな、必要とされてるんだな、って感覚すらあります。
細川
確かに。でもこれからは、今演劇を知らない人にも来て貰わないといけないんだって部分を、もうちょっと考えていかないといけないんですよね。
扇田
そこがテーマですよね。やっぱり文化としての演劇だったり、演劇を楽しむ人の分母を増やさないとお客さんは増えないですよね。私の知り合いに、日本では結構有名な自主映画を撮っている方がいらっしゃるんです。その方がオーディションをすると100人くらいの応募がある。アメリカでは全く無名なんですけれど、一度アメリカで撮影したいと思って渡米して、アメリカの演劇の専門学校の掲示板にオーディションの告知を貼ったら、2000人の応募が来たんですって。やっぱりアメリカは、ハリウッドやブロードウェイが盛んで、文化として分母が多いんですよね。
佐藤
ええ~!裾野が違うんだ。
細川
すっげぇな~。
扇田
だから、そういった意味で演劇もいろんな人に見て頂ける環境を作るために、こっち側も考えないといけないし、2.5次元舞台が流行っているんだから、それも取り入れた上で……
佐藤
学生に戦争とか教育色の強い演劇を見せるんじゃなくて、2.5次元舞台を見せればいいんですよ。興味の湧くものを見せたほうがまだいいですよ。

扇田
わ~、(対談の最初に話した事と)めっちゃ繋がった!
松本
学校でテニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)やればいいんだ!?
佐藤
若いうちに、食い付きやすいところから演劇に入ってもらえるなら、学校でテニミュ見せてもいいと思いますよ。
扇田
今、ダンスが学校の授業に取り入れられて、ダンスの文化が広まってるんですよ。あれを演劇でもやればいいんですよね。授業に取り入れたら、演劇の裾野が広がると思うんです。
細川
もっとポップな演劇をね。
佐藤
観に来てくれないと始まらないですからね。
扇田
それがこの先の演劇の未来として重要ですよね。


撮影協力:sheena & todo

(つづく)