エリザベス・マリー×松本陽一(5)

※2018年8月20日、都内某所にて

エリザベス・マリー×松本陽一(5)

ネタ帳に書いてあるのは……?

松本
ネタ帳の見せ合いっこしましょうか。僕は『TRUSH!』のネタ帳を持ってきたんですけど、リズさんは?

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リズ
ネタ帳ねぇ……、私もう『TRUSH!』の時のネタ帳無いんですよ。振付のアイデアを書いて、構成を書いて、終わったら捨てちゃう。手元にあって今日お見せできるのは、次にやるENGの『メイカ』(2018年8-9月)だけですね。
松本
ネタ帳に結構書いてたから、『TRUSH!』のを持って来たら面白いんじゃない?ってLINEしたんですけど、リズさんは終わったら多分捨てちゃうんだろうな、って気もしてた。
リズ
うふふ、バレてた(笑)。
松本
すぐ捨てるんですか?
リズ
捨てちゃいます。振付の記録は残さないんですよ。でも、多分これ(メイカのネタ帳)を見て分かると思うんですけど、書きなぐってあるから後から見ても分からないじゃないですか?ダメ出しとかもザーって書き殴っちゃうから、結局読みとれない部分もあったり。
松本
(覗き込んで)これは確かに残しても何の意味もないね。
リズ
あははははは!(笑)ほんとに意味のないノートなんですよー。
松本
えーと「ダンスバトル、ケチャ、盆踊り、座頭市……」
まぁ、僕も思い出のように取ってあるだけで読み返すことはないんです。これが『TRUSH!』のネタ帳なんですけど。
リズ
(松本のネタ帳を覗き込んで)いやでも、すごいちゃんと書いてますね。
松本
これはね、書いて、自分でまとめてるようなところがあって、記録に意味はないんですよ、書くことに意味があるというか。
リズ
書き出すことに意味があるんですよね、分かります。
松本
あと、手を動かしているとアイデアが出て来るっていうのもあります。
リズ
へぇ~、松本さんって脚本を書くのはパソコンで書くんですか?
松本
パソコンでやります。
リズ
だから手を動かすのも必要なんですね。書いたものを見返しますか?例えば……(めくっていき)あ!相関図だ、凄い!

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松本
人数が多かったので、キャラクターをチーム分けしないとそれぞれのキャラが立たないなって思って、キャスティングされた人と共に書いてみたんだけど、完成形は全然そうなってないね(笑)。最初は、軸となる3人の未亡人(アール、フェス、ポイ)にチームが出来るみたいなことを考えてた。
リズ
最初の構想ではそんなのもありましたね。あ、こっちはタイム(各場面毎の所要時間・上演時間)だ。(スタッフに向かって)みんな~、これ面白いよー!へぇ〜、タイムかあ。
松本
最近、タイムはこだわりますね。
リズ
最近の松本さんはトータル90分ら辺を目指してますよね。
松本
目指すんですけど、大体延びるんですよ。『TRUSH!』もかなりアクト(歌やダンス・殺陣などのセリフ芝居ではない演技)があるから。
リズ
確かにそうですね。
松本
『TRUSH!』は最初から100分目安で書いてますね。そこにアクトが入って2時間になるだろうって計算。実際、見事に2時間でしたね。
リズ
2時間ぴったり。
松本
綺麗にはまりましたね。
リズ
素晴らしかったです。松本さんの作品で印象的なのは、『人生ガムテ』(『人生の大事な部分はガムテで止まっている』2017年4月)で、ぴったり90分くらいですよね。
松本
完全に90分を狙ってました。
リズ
凄いな~。

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松本
でも、これに関しては、まだ安定してないです。職人芸にはなっていないんです。
リズ
本当ですか?私の中で松本さんって完璧な印象があるんです。私が出てた作品は、狙ったタイムになってるような気がしますよ。『Life is Numbers(2016年9月)も2時間無かったかな。
松本
綺麗に予定通りのイメージでいく時より、思ったよりかかる方が多いかな。
リズ
ドラマがもうちょっと欲しいとか?
松本
それよりも、ここまでで30分って思ってて書いたのが、実際に演出を付けると40分かかるような誤差がまだある。
リズ
へぇ~、そうなんだ。
松本
人によってテンポは違いますけど、脚本家でいうと、A4用紙いっぱいに書くと、演じるには1ページで2分かかるとか、一応これぐらいかなって目安はある。だから50ページだと100分くらいになりそう、とかを当てにはするんですけど、あんまり当てにはならない。
リズ
(ネタ帳を見ながら)あ、ここだと、松本さんの心の声が漏れてる。「作品テーマか……愛、ですかね?何の愛?夫婦愛?」って書いてある。
松本
こうやって書くことによって、自分で考えを整理してるんです。
リズ
「ああ~何だろう?愛かな?」って、考えてる時の松本さんの姿が浮かびますね。

手札から振付へ

松本
リズさんの振付のネタ帳も、僕と同じで設計図みたいなものですか?
リズ
そうですね。ただ、さっき言ってた自分の手札みたいなものを最初の方に書いているんですが、(ページをめくりながら)もうどれが最初かも分からないくらいで…。あ、これが最初かも。
松本
(指で指しながら)これが手札?
リズ
手札もそうだし……、“たね”って書いてある、これだ!

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松本
タネ?
リズ
これがタネ、まぁ手札ですね。でもタネなのは多分ここだけです。こっちからは振付になっちゃってるんで。「徐々に広がる、前一列、増える、カノン、シンメ、エリア分け、隊列回る、鬼カノン、技、途中から踊らす、ウォーキング、フロア、クランプ、エアプレーン、千手、ケチャ、ジャンプ、移動しながら拳」みたいな。あっははは!(笑)
松本
分かんないなあ(笑)。
リズ
分かんないですね(笑)。
松本
(ネタ帳を見ながら)「鬼カノン」ってなんですか?
リズ
鬼カノンってのは、ものすごく大変なカノンってことで、良く使ってると思うんですけど……。カノンっていうのは『カエルの歌』の輪唱みたいに、1人が手を上げたら次の人が、
松本
ちょっとずつズレながら、同じ動きをしてウェーブになるみたいな……、
リズ
そう、どんどん増えていくやつです。
松本
あれがカノンって言うんですね。

舞台「真説・まなつの銀河に雪のふるほし」オープニングダンス
こちらもリズ振付で3:05付近からカノンになります

リズ
あれを大人数でやると、単純に凄く派手な絵になる。だから振付する曲の後半の部分で盛り上がる、タカタカタカタカみたいな感じの音のところで使ったりします。
松本
なるほど。
リズ
目まぐるしく、ダーって変化していくし、照明は多分ストロボ(強い光の点滅)みたいなイメージがあって、出て来たアイデアですね。ちなみに、これ全部台本の裏に書いてるから、演出家さんに見せるのはちょっと忍びないんですけどね。
松本
本当だ。
リズ
台本や設定資料の裏みたいに、紙の裏に書くのが好きなんです。ノートだと書いてることがよく分かんなくなって来ちゃうんで、紙に書いて、終わったヤツをホチキスでガンガンとめて、その後はあんまり見なくなっちゃいます。振付が付け終わってからは、いらなくなっちゃう。これは、今やってる『メイカ』の台本なんですけど、実は今、スランプなんですよね。
松本
どうスランプなんですか?
リズ
初めての現場ENGに初出演)っていうのと、オープニングや劇中の曲に、凄くストーリー性が強い振付を求められていることですかね。ダンス構成の福地慎太郎さんと一緒に作ってるんですけど、自分一人でやることとの違いとか。タッグを組むのが初めてで、擦り合わせをしてから振付に入るっていうのが慣れない感じがあります。

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松本
まだ噛み合ってない感じ?
リズ
スタートダッシュが、バン!って行けてる感じがしないんです。今やっと一曲出来上がったところです。

(つづく)