エリザベス・マリー×松本陽一(7)

※2018年8月20日、都内某所にて

エリザベス・マリー×松本陽一(7)

可愛い・綺麗が通用しない演出家

リズ
さっきも言ったんですけど、松本さんって完璧な人だなって私は思うんですよ。
松本
何ででしょう?
リズ
それは、演出している姿に無駄が無いからですかね。
松本
お~!
リズ
それが『デッドリー』の時に一番衝撃的だったから。
松本
出会いの『デッドリー』に戻ってきましたね。
リズ
出会いは『デッドリー』なんですけど、初めて松本さんの脚本・演出を見たのは、初演の『傭兵~』(『傭兵ども!砂漠を走れ!』2012年11-12月)なんです。その時に、こんな作品があるんだ!って凄く衝撃を受けたんです。初めて感じた感覚でした。しかもシアターKASSAIの一番前で見たんです。
松本
それは迫力あったでしょ。
リズ
お芝居をこんなに間近で観たことなかったからド迫力で衝撃的だったし、なんて面白い作品なんだ!って、凄く心に残ってました。そこからの『デッドリー』だったから、あの『傭兵~』の演出家さんなんだ、って思って、稽古に参加してたんです。初めて会った時の私がとんがってるように見えたのは、実は凄く緊張してたんですよ(笑)。
松本
内気なリズさんが炸裂してたのね。
リズ
そうです。だからこそ、自分は頑張らなきゃ、強くいなきゃって部分もやっぱりあった。それは演出家さんに突っかかって行くってことでは無いんですけど。
松本
うん。
リズ
松本さんって、今まで出会ってきた大人の人とちょっと違う部分が多いんです。これ、言っていいのかわかんないんですけど……、松本さんは可愛いとか綺麗に誤魔化されないタイプだと思うんですよ。
松本
女性の?
リズ
そう!
(私が)アイドルをやってたこともあってチヤホヤされてる時期もあったし、外見の可愛さを武器にしてたこともあるけれど、そういうのが全く通用しないタイプなんじゃないかな、って。演出家さんというより、実力や人柄を見るタイプの人っていう印象が凄く強くかったです。『デッドリー』で演出を受けてて、私が変に色々喋ったところで、自分の薄い部分を見透かされて、内気な部分もだし、内面が伴ってない部分が、バレちゃうんじゃないかっていう怖さを感じて、あんまり話に行かなかった記憶があるんですよ。
松本
あの、僕ね、可愛い子とか綺麗な子の方が苦手なんですよ。
リズ
え~、そうなんですか?
松本
むしろ、ちょっとぶーちゃんぐらいの方が気さくに打ち解けられるの。
リズ
ラフに話せるんですね。
松本
だからこそ、稽古場で演出家と役者が話すっていうのはお芝居についてだけで、そこの純度だけを上げようって気持ちかもしれないですね。
リズ
私は『デッドリー』の時、キャリアはあったかもしれないけど、お芝居だけをやってきたわけではなかったから、そのお芝居の純度を上げようとしている松本さんには、自分が不釣り合いだなって思った部分が強かったです。こんな私が、松本さんと対等じゃないにしても、話を聞きに行くのすらおこがましいのではないか、とか思ってました。
松本
あ~、そういう壁みたいなものは、感じた気がしますよ。
リズ
(笑)そうですよね~。

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内面から出てくる華

リズ
だから、その次に(6番シードの公演に)呼んでいただいた時にびっくりしました。
松本
何でしたかね。
リズ
『ボイスアクター』(『ザ・ボイスアクター』2015年4月)です。その前の年に、宇田川(美樹)さん(6番シード)X-QUESTさんの公演(『ベニクラゲマン 実験都市マーベラスの逆襲』2014年6月)でご一緒したのを、久しぶりに見てくださったんですよね。
松本
あっ、その時かもしれない。すごいインパクトがあったんです。女優さんのいわゆる内面から出てくる華が、もう凄い満ち満ちていたので、この人はすごい成長したんだろうな、って気がしたんです。
リズ
そう思って頂いて、声を掛けて下さったのが凄く嬉しくて、私が6番シードさんの公演に出るのか~、大丈夫かな?って凄いドキドキしましたよ。
松本
『ボイスアクター』面白かったですね。
リズ
未だに大好きな作品ですよ。『ボイスアクター』でも、松本さんの脚本は凄いって思いました。
松本
あれのアニメーション編が、脚本の締め切り的に過去最高に危なかった。(アニメーション編とオンライン編の2本立て作品)
リズ
え~~~!?
松本
さっきの『TRUSH!』のクリケットの話じゃないけど、最後にみんなでアフレコを成功させる場面は出来ているんですけど、その前の部分が出来なくて。6幕危機って呼んでるんですけど。
リズ
名前付いてるんですね。
松本
とにかく難しいのは主人公。お客様が感情移入しているのは主人公だから。主人公の前田の「辛子色の軍服が見えた、一瞬」っていう台詞があるんですけど、あれがなかなか出なかった。主人公はピンチで、周りもヤバイ状況になって、物語は盛り上がってるはずなんですけど、そのまま物語を進めてもなんか足りなくて、なんだろう?って考えてた。そこで主人公に、ある意味嘘のような、アフレコ現場では白い紙しかないところに、一瞬本物が見えたって展開を思いついたの。
リズ
前田さんのミラクルみたいな展開。
松本
リアリティーを持ちながら、ほんのちょっとファンタジーさがあるのが、あの物語らしいし、それでスッと低迷状態から抜けたんですよ。
リズ
そうだったんですね。
松本
さっきの脚本の話で言った、あそこで苦労したら、いつもああいう台詞を出せばいいんじゃないか、っていう一例の作品でもありますね。
リズ
6幕危機でキーポイントになるフレーズだったり、
松本
台詞だったり、出来事だったり、『TRUSH!』だと人の配置だったり、いろいろあります。
リズ
『デッドリー』の演出は松本さんでしたが脚本は麻草(郁)さんですよね?
松本
うん。
リズ
私は『傭兵~』を観たことがあったけれど、松本さんの脚本を演じるのは『ボイスアクター』が初めてだったんです。その時、私がやってた役がオンライン編もアニメーション編も両方出る役だったので、アニメーション編もですけど、オンライン編の印象も凄くって。松本さんの頭の中って、どうなってるんですか?(笑)
松本
あれを書いた時期が、若いんですよ。僕のキャリアを分けるとすると、初期の無茶苦茶な最高傑作だと思います。長いスパンで見た、初期に作った作品。割とめちゃくちゃですよ。
リズ
でも、本当に最高傑作ですよ。繰り返しが多いのもあってページ数も多いですよね。
松本
あれも、体は動かないで頭の中だけで、あのパズルのような状況をわあーって考えて、書いてたかもしれません。
リズ
オンライン編は、ただお芝居だけじゃない、連帯感だったり責任感だったりがあって……、
松本
スポーツものに近かったかもね。
リズ
完全にスポーツでしたね。相手が読んでるのに合わせて、こっちが(劇中の台本を)めくってあげる。めくりやすくできるように、みんなで試行錯誤したり、前もって紙を慣らしとておくといいよって宇田川さんに教えてもらったり。あれは、初舞台の時の一体感みたいなものは感じましたね。その次は……『メイツ!』ですか?
松本
再演の『メイツ!』(2016年1月)でしたね。
リズ
『メイツ!』は、私の転機なんですよ。

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松本
うん。それに、僕たちとリズさんの関係性が『メイツ!』で一個仕上がったというか、深まった感じがしていて、その後『TRUSH!』に繋がったと言ってもいいかもしれない。
リズ
そうですね。
松本
そういう感じがありますよね。
リズ
たぶん、まだ『ボイスアクター』の時も緊張してたんだと思う。『メイツ!』でキョンっていう割とメインどころの役を頂いてからかな?人生変わった感がすごくありましたね。
松本
実際、お客さんも増えたよね。
リズ
そう、エリザベス・マリーの認知度もそのタイミングですごく上がりました。
松本
あれは作品も良かったし、キョンの歌やダンスはもちろん、芝居も良かったから、代表作みたいになったらいいな、みたいな思いもある。
リズ
本当に。『メイツ!』は自分を変えてくれたし、環境も変えてくれた作品だなと強く思いましたね。

(つづく)