エリザベス・マリー×松本陽一(8)

※2018年8月20日、都内某所にて

エリザベス・マリー×松本陽一(8)

大きい舞台から盗める部分

松本
その後の、女優さんとしての活動や環境の話も聞きたいんですけど、松尾スズキさん(俳優・脚本家・演出家/劇団大人計画主宰)の作品とか、大きい舞台に結構出るようになったじゃないですか。
リズ
出るようになりましたね。
松本
今だと小劇場舞台より、大きい舞台の方がちょっと増えてるくらいじゃない?
リズ
そうですね、最近だと2.5次元舞台(マンガ・アニメを原作とする舞台)への出演も増えてます。
松本
どうですか、そういう大きい舞台は。
リズ
大きい舞台は大きい舞台でやっぱり勉強になるところがあって、ベタですけど、本当にすごい。
松本
『キャバレー』(2017年1-2月EX THEATER六本木 他)を観たんですよ。
リズ
ありがとうございます。
松本
あの公演で地方も回ってるよね。
リズ
大阪・仙台・博多に行かせてもらってます。
松本
周りは並み居る先輩俳優ばかりで。
リズ
もう、長澤まさみちゃん(主演)とかすごかったです。
松本
劇中で、すげぇキスしてましたよね。
リズ
ああ、石丸幹二さんとの獣のようなキスシーンもありましたね。脚本的には激しく求め合うみたいな指示で、最初は稽古場で、ちゃんとキスしてたんですけど、演出の松尾さんが「もっとなんかこう、犬みたいな感じで」って言ったんです(笑)。結局、あのシーンはお互い全く何の感情もなくただ相手の口を食べに行くぐらいな感じ。ガブガブしに行ってるくらいな感じです。

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松本
確かに大きな劇場で、ディープキスしてるように見えるってことは、相当大きく芝居してるよね。
リズ
実際はもう、こんな(最大限に口を開ける)です(笑)。全くそんな感情もなく、みたいな。でも、大きい舞台から盗める部分は本当にいーーーっぱいある。もう並み居る俳優さんばかりなので。どうしてそんなアプローチの仕方が思いつくんだろうなって思う。
松本
具体的にはどんな?
リズ
松尾スズキさんの作品に、皆川猿時さんっていう(劇団大人計画の)劇団員の方が出ていて、よくお尻を出してるんですよね。お尻を出してるのも、テディベアみたいなことをやったりしているのも、自分のキャラクターの持ち味っていうのを分かってて、それが面白い。あと、なるほどなぁって思ったのは、長澤まさみちゃんが『キャバレー』の時に要所要所に変顔を入れてくるんですよ。
松本
ほう。
リズ
彼女の中で、サリーっていうキャラクターはこういうものだっていう考えがあって、ちょっと変な顔をしてコミカルにするためなんですけど。長澤まさみちゃんって綺麗じゃないですか。それだけで勝負しないっていうところに人間味がすごく強いなあって思いました。
松本
役作りとして大真面目に変顔をしているわけですよね?しかも、面白おかしくしようとしてるわけでもない。
リズ
そう、そういうわけでもない。あと松尾さんの演出だと「誰々みたいにやって」って言われるとも多いです。「そこ、小林旭みたいな感じ」とか。
松本
なるほどね(笑)。
リズ
私も『キャバレー』の時にドイツ娘っていう役がちょっとだけありまして。「アウフヘーベンしてる?」っていう台詞があったんですよ。それをちゃんと真面目に言ってたんですけど、千秋楽の4つ前くらいから、「ザベスさ、ちょっと桃井かおりみたいな感じにして」って言われました(笑)。
松本
あ~、分かりやすいですね。
リズ
急にそこから(桃井かおりさんっぽく)「アウフヘーベンしてる?」(笑)になった。どんな意図かは分からないけど、ただ面白い。
松本
松尾さんの破天荒な演出は、ポンっと言って、特に説明も無いんだ。
リズ
無いですね。ここは面白いシーンって思わせるのがたぶん上手なんでしょうね。そういうことも含めて、大きい舞台から盗めるところは多いなって思いました。

劇場サイズによる表現方法の違い

松本
この間、銀河劇場に出演してましたよね。演じる印象で、劇場の大きさってどうですか。
リズ
やっぱり、劇場のサイズはちょっと気にしますね。大きい劇場になればなるほど、大きく見せなくちゃいけない部分はあるし、それでも繊細な部分、っていうのも大事にしつつですね。

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松本
まあ、そうですよね。
リズ
ちょっとした小ネタみたいなものは、大きい劇場だとあまり効いてこないし、小劇場でウケているものが必ずしもウケるとは限らない。ただ、大きな劇場でやっているものは小ネタが効かない分、もう、「脚本が面白い」か「台詞の言い回しが面白い」か「リズム感が良い」か、そういうところに重点が置かれてくるのかもしれない。
松本
確かにそうかもしれないですね。小劇場では、それを補完したり、アレンジしたりする様々な技があったりするけど、大きな劇場だとやっぱり通じなくて、悪く言うと大味でしか出来ないのかも。
リズ
そうですね。
松本
もっと言うと、そういった脚本でも演出でも、分かりやすさの純度が上がっていないとダメとか、存在感の出し方とか。
リズ
そこがちょっと難しい部分ではありますよね。その微妙なコントロールがやっぱり必要になるから。でも、どっちも必要だと思うんですよね。
松本
うん。
リズ
いかに大きい劇場でもリアル感を持ちつつ、でも大味にならない為に、掛け算したり、割ったり、引いたり、足してみたり……みたいな難しさがあります。

演出している松本さんは楽しそう

松本
今ちょうど、『傭兵~』の再演(2018年9月)を稽古していて、初演時シアターKASSAIでやったものが(新宿村LIVEで)張り出し舞台に変わるから、舞台上めっちゃ広いんですよ。やっぱりね、演出が全然変わります。
リズ
やっぱり違います?
松本
全然違いますね。
リズ
へぇ、そうなんだ~。
松本
久々に、あんまり脚本を変えないで、違う劇場で再演をやるっていうことで、単純に言えば楽しいんですけど、全然変わるなと思いました。

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リズ
演出が変わると苦労しますか?
松本
いや、むしろ楽しくてしょうがない。
リズ
やっぱり楽しいんだ。松本さんって、演出している時すごい楽しそうに見えるんですよ。だからかな、脚本で苦しんでいる姿があまり想像出来ないんです。
松本
演出の仕事は、体力的に疲れたり、脳がヘロヘロになっても、辛かったり嫌だったりすることはほとんどないです。
リズ
演出してる時に悩んでる松本さんの姿って、あまり見たことないなって思います。基本的に、最初に付けたミザンス(役者や小道具の舞台上の位置や移動)でそのまま行って、大幅に変更は無いですよね。
松本
あんまり無いかもしれないですね。
リズ
そこが、最初から最後まで画が見えているのかな、って感じるんです。脚本書く時に出来上がりの画を意識して書いてたりするんですか?
松本
脚本は、舞台上で演じている画を考えて書くことが多いです。例えば、浜辺のシーンがあったとして、浜辺の風景をイメージして映像のように書く人もいるんですけど、僕は浜辺をイメージした舞台に立っている役者さんをイメージして書いてます。だから、脚本の段階で少しは画が出来てるかもしれないですね。
リズ
なるほど。だから、演出付けるのが早いなって思ったのかもしれない。
松本
あ、でも、『Life is Numbers』は、意図的に映画のような気持ちで書きましたね。先に舞台を考えないほうがいいな、って思った。この間の『0:44の終電車』(2018年1月/脚本・演出:松本陽一/アリスインプロジェクトの公演)もそうですね。
リズ
あぁ、なるほど。『Life is Numbers』は、松本さんの得意とするワンシチュエーション・コメディーとは、全然違う作品だったから、松本さんの作品の中ではちょっと異質ですよね。
松本
うん。
リズ
あれはオシャレでしたね~。
松本
あれは、映画にしたいね。
リズ
したい!誰か撮ってくれないですかね!ヤマケンさん(山岸謙太郎さん/映画監督/劇団発映画『Dプロジェクト』を製作したProjectYamakenの代表)とか撮ってくれないですかね~。
松本
いいよね。でも、『Life is Numbers』をやるなら、僕が監督できたらいいな。
リズ
監督デビューいいじゃないですか!やってほしい。
松本
『Dプロジェクト』が夕張(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭)でグランプリ獲ったらね(笑)。

(つづく)