佐藤修幸×松本陽一(3)

※2019年3月1日、都内某所にて

佐藤修幸×松本陽一(3)

カーテンコールで言うべきことは

佐藤
あと、今やってますけど、出来ればやりたくないのが、カーテンコールで物販の紹介をすること。
松本
それ、未だにうちの劇団でも議論になるんですよ。
佐藤
出来ればやりたくない。で・き・れ・ば。ただ(その選択は)できない。
松本
はははは!(笑)
佐藤
はははは!(大笑)
松本
それは、なぜです?
佐藤
流石にそこまで、なんというかこう、清らかになれない。やっぱ物販が売れなかったら生活していけない。死んじゃうんですよ。

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松本
言うと言わないでは、売れ行きが全く変わるみたいですよ。
佐藤
やっぱりそうなんですね。
松本
うちの劇団も、最近は言うのが基本です。でも作品によって、すごくシリアスだったり、みんなが涙を流して終わる話の時に、主演の人が「グッズなんですけど…」ってなるとちょっと興ざめちゃう。それもあって、グッズ紹介の人選も考えたりします。
佐藤
あー、そうですね。
松本
うちの劇団でいうと宇田川さんが「そんなもん言わなくたって買う奴は買うよ」ってタイプ。だからいつも議論になっちゃう、言うべきか言わないべきか。
佐藤
宇田川さんの考え方も分かります。じゃあUDA☆MAP(宇田川美樹プロデュース団体)の時は…
松本
…言ってますね。
佐藤
言ってんじゃねぇか!(笑)
松本
言わなかった時もありますけどね。
佐藤
へぇ、そうなんだ。ENGは劇団じゃなくてプロデュース団体だから、誰かに「物販紹介を言ってください」って頼まないといけない。
松本
まぁね、ゲストさんだし。
佐藤
だからうちは毎回、(レギュラーの)石部さんが言うんです。それから、キャストが終わった後に挨拶とかするでしょ。あれも結構…
松本
気ぃ使います?
佐藤
うん。あれも、僕の嫌いなパターンがあるんですよ。いきなり「じゃあ今日は○○さん!」「ええ、僕ですか?ええ、聞いてないっすよ」ってなるのが…。
松本
ああ、わかるわ…。
佐藤
いやいやいや、話を振られたのが嫌なの!?って。まぁ、役者は悪くないんですけど。
松本
あのまごつきの時間、どうでもいいですよね。
佐藤
そうなんですよ。だからそれを回避するために、うちは小屋入りの時に誰が喋るか全部決めて、座長にLINEして、キャストに伝えてもらいます。そうしたら、あらかじめ考えてくれるので。まあ面倒臭い話ですけど。
松本
でも、それで品が生まれるかもしれない。
佐藤
そうです!だからね、手前味噌ですけど、うちの公演の最後の挨拶だと結構良いこと言うんですよ。
松本
あとね、役者さんの心構えもちょっと変わるんですよ。
佐藤
ああ…そうか。
松本
僕、珍しく『劇シナ』の時のカーテンコールについて、劇団員にダメ出しし続けたんですよ。
佐藤
いや、でも、あれ素敵でしたよ。僕も1回、初日だったかな、松本さんに「挨拶長くないですか?」って言ったんです。
松本
あ、ありましたね。
佐藤
はい。
松本
土屋くんの後に、宇田川さんだったかな、良いコメントだけど2人ともが長く言っちゃった。同じようなことが他の日もあって、「劇団員今日もかよ」って思って。朝、全員が集まって前日のチェック、ダメ出しをするんです。その後に「劇団員ちょっと」って集めて、「昨日のカーテンコールですけどね」って。やっぱり、僕も品が欲しいんだと思いますね。
佐藤
そうですね。まぁ、いいことを押し付けがましく言うのもね。

ルリ子プロジェクト

佐藤
ちょっと前は良いことを言うのが流行ってたんですよ。
松本
ああ…流行り廃りがある。
佐藤
最近はちょっと良いこと言いすぎて、言い尽くしちゃった感がある。「お客様のためにみんな頑張って…」みたいなのはもう普通になっちゃった。最近は、どんどんハードルが上がってるんですよ。この前感動したのは、梅田悠ちゃんが手書きの手紙を用意して、緊張しながら読んでた時。でも書いてある内容がちょっと訳わかんなくて。でもそれを頑張って考えてきて、懐から出して読んでること自体がすごいなぁと思いました。プロだなぁと。
松本
へえ…カーテンコールにも流行り廃りがあって、いろんないきさつがあるんですね。
佐藤
カーテンコールの挨拶で(その役者と)お客様の向き合い方がわかってきたんですよ。こっちから見てて。で、やっぱちゃんと向き合ってる人は、面白いこと考えてきたり、お客様に添ったことを言うんです。でも、その覚悟がまだないと結構自分の話しちゃうんですよ、あそこ。
松本
うん。
佐藤
僕もしちゃうんですけどね。「すっごい充実してて」とか、「すっごい今回の現場はみんな仲良くて」とか言っちゃうんですよ。でも、ちゃんとしてる人は、自分の芝居とお客様はこうあるべきだみたいな話をちゃんとするんですよ。あれすっごい、良いですよね。
松本
髙田(淳)くんや福地教光くんとかがよく言ってる印象かな。それに「演劇は口コミが大事」とか「Twitterに感想書いてください」なんてことも言いますよね。
佐藤
ああ、それも大事ですよね。
松本
「口コミで広がる、まだまだ小さいコミュニティ…」みたいな話。少し前から劇団で使うワードがあって『ルリ子プロジェクト』っていうんです。
佐藤
なんですか?それ。
松本
浅丘ルリ子さんが…超ベテランの浅丘ルリ子さんが、映画の舞台挨拶の際にすごく真顔で品の良い感じで、「ぜひ、お友達に伝えてください」「ひとりでも多くの人に見て欲しいって言っても、なかなか見てもらえないのが映画」みたいなことを仰っていたんです。
佐藤
うんうんうん。

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松本
僕はそれをニュースかなんかで見て、感動したんですよね。単に一般的な、口コミしてくださいっていうテレビ越しのお願いなんですけど、思いと言い方と品格でこんなに届くんだ!って。まだTwitterとかない時代だったんですけど、その映画を観たら絶対、絶対口コミしようって思ったんですよね。
佐藤
おお!
松本
で、その感動を劇団員に伝えて、『ルリ子プロジェクト』っていうのをやろう、おちゃらけた感じじゃなくて真摯な気持ちで、動員を、口コミを増やそうって。それを…10年くらい前ですかね。今でも土屋くんとかは、「ルリ子でいきますか」とか、そういう言葉を使ったりするんです。
佐藤
なるほど~。

尽きない悩み

佐藤
あと悩むのは、プロデュース団体にゲストで来たタレントさんは、宣伝をするべきかしないべきか問題。
松本
ああー。
佐藤
そういうのあるじゃないですか。
松本
はい。
佐藤
それがねぇ、ずっと行ったり来たりしてますね。「するべき」「いや、ゲストで役者として来てるからしなくてもいい」「いや、自分が出る作品ならするべき」って。
松本
僕はやっぱり、団体とかにもよるかな、っていう気もするんですよね。
佐藤
でも劇団員は、絶対宣伝した方がいいですよね。
松本
あ、そうだ!僕、挨拶で良いなって思ったのがあったんです。ボクラ団義さんは劇団員さんの人数が結構多いじゃないですか。まだあんまり知らない頃に見に行った時に、最後の挨拶で、グッズ紹介を含めて劇団員全員が短いフレーズでとんとんとんって繋いでいったんです。
佐藤
ああ、ありますね。
松本
それでこの人たちが劇団員なんだ、って分かったんですよ。
佐藤
確かに分かりやすい。
松本
そんなに知らない僕からしたら、これは良いプロモーションでもあるし、ちゃんと告知もしてるし素敵だなって思って。それも真似しました(笑)。
佐藤
ありましたね。でも、今やってないかな。だいたい最後に高橋雄一くんが、アフターパンフレット(終演後に配布するネタバレ込みの解説用紙)のことを、「持って帰ってランチョンマットにでもしてください」とか「家に帰って冷蔵庫にでも貼っておいてください」ってボケるんです。それをいつも、今日は何て言うかな?って楽しみにしてました。宣伝は、こっちが強制的にさせることはできないけど、した方が健全ですよね。やっぱり。
松本
僕が以前、ちょっと商業的な舞台を観に行った時、グッズの宣伝なんかを役者さんにやらせていたんですが、良い時と悪い時があって。良い時は心からで、悪い時は義務感なのが…。
佐藤
ああー、やっぱりそうなんだよな。無理矢理やらせてもしょうがない。うん、そうだぁ…。
松本
でも、役者さんとしては、もちろんグッズが売れることは、別に売り上げがとかじゃなくても嬉しいと思う。
佐藤
まぁ、そうですね。
松本
だから、挨拶がそもそも嫌っていう人もいるかもしれないですけど、お願いすればみんな楽しくやってくれることが多い。
佐藤
そうですね。全国ロードショーみたいな映画でも、キムタクさんとかでも、テレビに出て宣伝するわけでしょう?だからどんなに売れててもみんなやってることなんですよ。仕事として、事務所がやらせてるのかもしれないですけど。
松本
でも、理屈は一緒ですよね。
佐藤
だから、もっと小規模ですけど、自分が出る時は宣伝してますね。でも、やっぱりちょっと忘れちゃう。「あ、やべっ!今日宣伝してねぇや」みたいな。
松本
結局、ゲストに言わすべきかどうかの悩みは…。
佐藤
その悩みは…、強制はやっぱダメ。理想は、上手く現場が転がっていればみんな勝手にやってくれる理論。集客も、芝居の質も。すべてにおいて、上手く転がってればいいんすよね。だから結構、前の対談の時も話しましたけど、稽古場のムードとか気にしますね。ネガティブなことは、なるべく言わないようにしてます。ツイートとかもそうだし。酔っぱらった時は危ないですけど。酔っぱらって変なこと呟いちゃうんですよね。

(つづく)