山岸謙太郎×松本陽一(4)

※2019年11月25日、某所にて

山岸謙太郎×松本陽一(4)

映画監督は演技指導をする?しない?

松本
監督って、映画監督のキャリアというか、そういうことをどう学んでいったんですか?
山岸
僕、映画学校出てないんですよ。
松本
そうですよね。
山岸
だからやっぱり本を見て学ぶことと、僕がマンガ家になりたかったこともあって……マンガって全部ペンで絵で描くじゃないですか。その時にやっぱりこういう影が出ると人の顔は不気味に見えるとか、そういうのはなんとなく考えてたんです。
松本
絵から学んだんだ。
山岸
その後、広告デザイナーもやった中で、色の印象とか構図でどういう風に相手にイメージを与えるのかは、仕事をしていく上で先輩に教わったり、自分で調べて知っていったり。ちゃんと学校に行って勉強はしてないんですけど、僕、割とそういうのを調べたり、本を読むのが好きなんで、そういうところからちょっとずつ吸収していってるんだと思います、今も。
松本
僕は元々映画学校に通っていたので、映画を監督する機会があればいいなって思うんですけど、やっぱり僕は脚本をたくさん書いてるし……何より僕は絵心が全くないので絵が描けないんですよ。「いや、そんなのできるよ」って言われるんですけど、でもやっぱり絵に対しての蓄積されたものはあると思うんです。映画を観るとやっぱりお芝居も大事だけど、絵も大事だよな、って思うので。その辺り、みなさんどうやって研鑽というか……キャリアを重ねてるんだろうなって疑問に思って。

山岸
絵の描けない監督はいっぱいいると思うんですよね。だからある程度イメージだけ伝えて、絵作りをお願いする。
松本
カメラマンさんに?
山岸
はい、任せるっていう人もいると思いますし……。逆にハリウッドには、お芝居はもうお芝居の人に任せる。演技指導っていう職業があって……「え、日本に無いの!?」「なんで監督が役者に芝居を教えてるの?」っていうくらい確立した職業なんですよ、ハリウッドからしてみれば。
松本
へぇ~。
山岸
「だってあの人(監督)は、お芝居できないでしょ?」っていう世界ですよ。僕も割とそっち側の人間で、映画監督ってお芝居の指導をするのも仕事のうち、みたいに思われてるんですけど、僕は僕自身が芝居をできないのに教えられないよ、ってちょっと思ってる。客観的な意見は当然伝えますよ。お客さんとして見ていて、それだと全然悲しさが伝わらないよ、みたいな話はしますけど、(お芝居を)どうやったらいいか、みたいな話はちょっとね、っていうのはあります。
松本
でも最近、お芝居のワークショップとかやってましたよね?
山岸
はい、行ってますね(笑)。
松本
それはどうして?
山岸
結局、日本で監督をやってる以上、そこを求められるんですよね。それと、僕がワークショップ講師をやるっていうことになった時に、僕はあくまでも演出家として講義に立ちますねって話はしてるんですけど、それにしたってお芝居を何も知らないってのは良くないだろうと思ったんです。試しにいくつか、本当に初心者でも始められますみたいなワークショップに行ったら結構面白くてハマって。最近は定期的に、すこし難しいワークショップにも……スタニスラフスキー・システム(ロシアの演出家が提唱した演技理論)を取り入れたものに行ったりはしてますね。実際やって良かったなと思ってます。今までそれだとなんか伝わらないな、面白くないな、って思ってた部分が、より具体的になんでダメなのか分かってきたし、他にも、役者さんがぶち当たる壁ってこういうことか、みたいな気づきが、ワークショップに通い初めてまだ一年かそこらの僕にも意外と分かるようになった。当たり前のようだけど、台詞覚えるためには、こればっかりは頑張るしかないんだな、ってことを初めてそこで知ったりもする。

松本
役者さんを知るっていう勉強になるんですね。
山岸
そうですね。役者さんを知って、どこで苦しんでいるのかが前よりは分かるようになったから、アドバイスしやすいっていうのはとても感じますね。

景色に紐づく言葉の記憶

松本
うちの劇団員も含め、Dプロの撮影で、演劇界のいろんな人が舞台の稽古場とは違う難しさを味わっていて、一定の傾向もあったりしたんです。難しいセリフが言えなくてNG連発した人もいるじゃないですか。
山岸
あ~、はいはい。専門用語が並ぶところだ。
松本
僕の感覚では、舞台の稽古だとそこまでNG連発に)ならないんですよ。
山岸
「あれ?」って思っているでしょうね。
松本
単純にプレッシャーもあるじゃないですか、「よーい、ハイ!」って言われてカメラが回るということに。でも、それだけじゃないか何か回路があるんだなっていうのを凄く感じて、僕はメイキングを撮りながら、その役者さんの生理反応に迫るのがちょっと楽しかったです。
山岸
回路っていうのは?
松本
例えば役者さんって、稽古場が変わるとセリフが出なくなったりするんですよ。つまり、景色が変わると。
山岸
へぇ~。
松本
今みたいに役者が向き合っているシーンで、すでに芝居が出来上がっているシーンをやっても、後ろの抜けの景色が変わった時点で急に台詞が詰まったりする。
山岸
うんうん。
松本
最初、これ何なんだろう?って思っていたんですけど、この間の現場でも同じことがあったんですよ。どうもみんな朝から調子が悪い。新しい稽古場で(セットを)仮組みしてちょっと段差がついたので、前半のおさらいをやりましょう、と。でも、みんななんか引っかかる。朝イチだからかな?昨日飲んでたのか、こん畜生!とか、考えたんですけど。
山岸
あはは(笑)。

松本
違うな……場所が変わったからだ、って分かった。しばらくすると馴染むんですよ。
山岸
ほぅ。
松本
環境の差で覚えてきた台詞が出ないとか、そういうのもあるんだな~と。
山岸
記憶のインデックスって可能性はありますね。この絵とこの言葉が結びついてるってのは、確かにあるんで。
松本
だから例えば、(カメラの脇にある)助監督さんのグーに愛を語ってください、みたいな紐付けがあってイメージできて、行けたらスッと感情が入るみたいな仕組みになっている。
山岸
はいはい、そうですね。そこに慣れるっていうのは大事なんでしょうね。
松本
やっぱり映像は瞬発力というか、時間が無いんですぐやらなきゃいけない面もあったんだろうな。
山岸
そうですね。映像は、もう本当に瞬発力なんだろうな。用意してきたものが現場で違うって言われることもあるし、それにすぐ対応できなきゃいけない面はあるんですよね。

(つづく)