山岸謙太郎×松本陽一(9)

※2019年11月25日、某所にて

山岸謙太郎×松本陽一(9)

役者の重要性に気づいた『キヲクドロボウ』

松本
『キヲクドロボウ』は、初期の代表作と呼ばれるやつですよね。
山岸
そうですね。元々、石田とどこで知り合ったかというと、ルパン三世のファンサイトで知り合っていて、すごいルパン三世の絵が上手い奴がいたんです。お互いにルパン三世が好きなので、(作品のジャンルは)泥棒ものがいいんじゃない?という話があり、当時押井守監督の『攻殻機動隊』がちょうど上映されたくらいの頃だったので、そこにも影響を受けていて、SFでやりたいな、みたいな話から作り上げたのが『キヲクドロボウ』ですね。

松本
あれは、当然今見たらCGが荒いとか気になる点はありますけど、当時の自主制作だったらすごい反響は大きかったんじゃないかなぁ。
山岸
本当に(反響は)めちゃめちゃ大きかったです。
松本
パトカーが空飛んでるんですよね。
山岸
はい。パトカーが空を飛ぶのは、実は苦肉の策だったんですよ。本当はカーチェイスをやりたかったんです、エンターテイメントのアクション映画として。でも、カーチェイスを実際に公道ではやれないじゃないですか。
松本
そりゃね。
山岸
そこをCGでやる場合、カメラが動いてしまうと道路と接地している車を作るのって難しいんですよ。実写の道路の上にCGの車を乗っけた時に、カメラがちょっとでもぶれると地面とのズレができるじゃないですか。そうするとマッチングしないんですよ。今は人工知能でそこをうまくマッチングさせてくれる機能があるんですけど、当時はなかったので。だったらいっそのこと、地面にくっつかないで空を飛んでいる方が、多少ぶれてても。
松本
粗さが目立たないんだ!
山岸
そう、粗さが目立たないから、ってことで空を飛ばす発想になったんです。
松本
へぇ~。『キヲクドロボウ』は反響があって、たくさん賞をもらいましたよね。
山岸
そうですね。上海国際映画祭が一番大きい賞(インターナショナルパノラマ部門入選)だと思うんですけど、それ以外にもインディーズでいろんな所でグランプリをいただいたりしました。そこで完全に軌道に乗ったな、っていうところではありますけど。でもやっぱり『逃想少年』の時に僕が感じた、役者の重要性も大きかったですね。『逃想少年』には1人だけちゃんとした役者がいて、それ以外の人達は役者をやってみたい人達だったんですね。一人だけ役者としていろんな経験を積んだ、本気で役者をやりたい人がいてくれたおかげで、作品を見た時に明らかに芝居の違いが分かって、この人の芝居はずっと見ていられるのに他の人たちは見ているのが辛いって思ったんです。この時に、役者をちゃんと選ばなきゃいけないっていう当たり前の事に気づくんです。
松本
いろいろあったけれど、ついに役者に手が伸びるようになったんですね。
山岸
だから『キヲクドロボウ』の時は、主人公を演じた正木蒼二(まさき・そうじ)さんに会うまでに、いろんな芸能事務所を回っていろんな人に会って話をしました。ただその時に手ぶらで行くわけにもいかないので、いわゆるパイロットフィルムをそのために作りました。身内のスタッフだけで、本編が存在しない状態で予告編を作るっていう手法は。
松本
Dプロジェクトでもやったけれど)一番最初に『キヲクドロボウ』でやってたんだ。
山岸
フェイク予告を作って、それを企画書代わりに持って行って、「僕達はこんなにすごい映画を作りたいので、役者さんをただで貸してください」みたいな(笑)。
松本
ふふふ(笑)。
山岸
もちろんお金は無いので。低予算でとか言ったかな~、いやでも、ただでって言ってたと思います。今考えると恐ろしい話ですけど、あの頃は何も考えてなかったんで。そうやっていろいろ回ってて、正木さんに会うんです。
松本
その後何本もヤマケン組の主演をされてますよね。
山岸
それ以外の役者さんも、ちゃんとした人をキャスティングしようと思って、正木さんつながりだったり事務所の紹介で声を掛けてお願いしました。あの中に出てくる特殊部隊の人達もオーディションをやって、何百人もの中から選んでいます。
松本
ちゃんとやろうっていう意識だけだったのが、どんどんと、実際にちゃんとなってきた。
山岸
なってきましたね。

アンバランスな製作過程

松本
これまでの話でプロジェクトヤマケンの歴史は分かったんですけど、関わってみて感じたことは別にあって。いわゆる素人集団、プロアマ混合ってHPなどに)書いてありますけど、それにしては技術力もすごいし、何より仕組みがちゃんとしてる。機材車があるとか、それこそドリー(カメラを乗せたまま動く台車)があるだけでもすごいじゃないですか。まあでも、今だとドリーの価値も薄れてるかもしれないですけどね。
山岸
あぁ確かに。ステディカムがありますから。
松本
僕が昔、(自分が作った映画で)どうして見た絵にならないんだろう?って思っていたのは、そういう仕組みの積み重ねだと思うんですよ。例えば機材の性能として背景がぼけるレンズを持っているかどうか、とか。
山岸
そうですね。
松本
もちろん歴史の中で、機材はコツコツ足されていったと思いますし、ドリーは譲り受けたという話も聞きました。僕はプロジェクトヤマケンのあり方が非常に面白いなと思っていて、インディーズなのにひたすらプロに近いことを目指しているというか、やっている。それってやっぱりこれらの積み重ねっていうことなんでしょうね。
山岸
まさに『逃想少年』の時に「映画をちゃんとやろう」って思った、……いや、正直『逃想少年』の時も思ってなかったんですよ。『ビックリ・シャックリ』があまりにも面白くなかったというか僕の中で納得がいかず、次はちゃんとやれば俺ならできる、って思って撮影したものが、こんなにちゃんとやったのにやっぱりプロとは圧倒的な差があるって思い知らされたんですよね。その時に覚悟を決めたみたいなのがあって。

松本
その時にプロとの差は何だろう?って考えて、埋めていくわけですね。
山岸
そこから1つずつクオリティを上げていく作業ですね。役者も機材も。『キヲクドロボウ』の時は、まだドリーとかカメラのボケ味とかはまだ一切やってないですけど。
松本
え!そういうのが無いのに、CGでカーチェイス作ってたの!?
山岸
あはは、作ってました。今思うと『キヲクドロボウ』の頃は何も分かってなかったですよ。
松本
『キヲクドロボウ』のメイキングみたいな動画がYouTubeに上がってるじゃないですか。[ https://www.youtube.com/watch?v=Sggw3TfWpdc
普通の区民館みたいな建物をCGで近代的な建物に変えて背景にするっていうことをやっておきながら、ドリーは無かったんだ(笑)。
山岸
ドリーは無かったですね(笑)。
松本
発想が面白いなあ。
山岸
だからずっと「カメラを動かしたいんだよね、本当は」って石田と言ってました。でも、CG合成もしなきゃいけないし、手持ち以外のカメラの動かし方を知らなかったから、やっぱりなかなか動かせない。
松本
当時のCGは絶対にカメラを動かしちゃいけなかったんだ?
山岸
そうですね。動かしたらダメで、動かしたらブレが出ちゃうからそれに合わせるのが大変。だからひとつずつひとつずつプロがやっていることに近づいて行くしかなかった。それこそ『キヲクドロボウ』が終わった後に、今度は『イヤータグ』を撮るんですけど。
松本
それが僕が初めて見た作品ですね。
山岸
その間に『ストークネスト』っていう企画があったんですよ。これは『キヲクドロボウ』がさらに飛躍していって空飛ぶバイク、今で言うUBER Eatsみたいな……。
松本
デリバリーの仕事だ。
山岸
(風の谷の)ナウシカ』みたいな世界観で、大気汚染が広がって未来の人たちは高い塔、カリン塔(『ドラゴンボール』に登場する架空の塔。天界と下界を結ぶ役目を果たしている)みたいな塔の上に住んでいるんですよ。このカリン塔からあっちのカリン塔まで荷物を運ばなければいけない。その荷物を運ぶ人の話で、こっちとあっちを行ったり来たりしながら、途中で盗賊に襲われたりするんですよ。
松本
かなりSF具合が上がってますね。でも『イヤータグ』は割と無骨な刑事物と言いますか、サスペンスですよね。当時の『セブン』(1996年公開のサスペンス映画/デヴィッド・フィンチャー監督)とか、そっち方面に思えますが。
山岸
そうですね、『セブン』の影響はかなり受けてます。『キヲクドロボウ』と『ストークネスト』までは、石田と一緒にやってたので石田と僕がやりたいものを合わせて映画を作ってました。
松本
SFエンタメ方面とでも言うんですかね。
山岸
『イヤータグ』をやった時に石田と離れるんですよ。僕は『イヤータグ』、石田は『KARAKURI-カラクリ-』っていう作品をそれぞれ作って、同時上映したんですよ。『KARAKURI-カラクリ-』の方は、いわゆる和風SFみたいなジャンルで、和服で刀で戦うけれどもちょっとSFの世界観がある話で、一方僕の『イヤータグ』は完全にSFを捨ててしまって、やりたいのは映画で言うところのノワール系、暗くダークな猟奇殺人とかの話をやりたかったので、そっち方面の作品作りをしました。結局『逃想少年』に寄る感じになったんですけどね。
松本
『逃想少年』は、やっぱりダークな感じの話になるんですか?
山岸
『三十路女は~』の元になってる話ですけど『三十路女は~』と違って、ラストはややダークな終わり方をしますね。何なんですかね、僕の中にはダークさに憧れる部分があるんですよね……。

(つづく)