山岸謙太郎×松本陽一(10)

※2019年11月25日、某所にて

山岸謙太郎×松本陽一(10)

オリジナリティは勝手に出ちゃうもの

松本
作風についての話もしていきたいと思うんですけど。
山岸
はい。
松本
ダークで言うと『イヤータグ』だったり『東京無国籍少女』とかもそうですよね。でも、それに限らずいろんな作品を撮られていると思うんですね。実際のところ、監督のど真ん中と言いますか、がっつり作りたいものは何なんでしょう?エンタメっていう言葉が指しているものは広いと思うんですが、
山岸
広いですね。
松本
その中で言うとどの辺なんでしょう?
山岸
……うーん、ど真ん中かぁ。僕がずっと思ってるのは、リアルなルパン三世を作りたい、なんですよ。それが僕のど真ん中だとは思います。
松本
じゃあ、変な言い方をするかもしれませんが『THE THIRD2010年・ルパン三世実写映画のフェイク予告短編なんですかね。
山岸
そうですね。
松本
そこら辺をもっとダークにしたのが『イヤータグ』だったり、それを群像劇にしたのが『ディープロジック』だったりするんですね。
山岸
オリジナリティって、出そうと思わなくったって出ちゃうものじゃないですか。
松本
何したって出るものですよね。
山岸
オリジナリティが出ない人って、完全コピーができる人ですからね。僕がルパン三世をどんなに好きでも、好きな部分とそうじゃない部分っていうのがあって、結局残っていくのは好きな部分や、記憶違い、自分の中で気持ち良い方に変えていったものだったりする。その偏りが僕の個性になるんですよ。その個性が全くないっていうのは、それはそれで凄いことだと思いますね。小説家の石田衣良さんが「どうしたら面白い作品が描けるんですか?」っていう質問に答えていて、「僕は面白い作品しか見てなくて、面白いと思うものをただ真似してるだけで」「個性なんてものは、面白いと思ったものに対する自分なりの勘違いがそのまま出ちゃってる。個性を出そうとは思っていない。自分が好きなものをそのままやるのが個性になっている」ということを仰っていたんです。

松本
何か自分の好きなものを、本気でそれを真似してやろうと思ったら、オリジナリティが出るってことですよね。どこまで本気で好きかも問われるよね。好きであればあるほどその通りにはならなくて、その通りにしたら駄目って言う本能みたいなものも働きますよね。
山岸
僕のルパン三世は多分、銭形がかっこいいとかで、みんなのルパン像とは違ってくるんです。

闇とボケが生み出す、想像する隙間

山岸
僕もよく覚えてないんですが、昔、怪盗ジゴマみたいな名前の作品ありませんでしたっけ?(20世紀初頭、フランスのレオン・サジイによる怪盗小説『ジゴマ』およびフランス映画。これを原作とし、和製の小説や映画がブームになった)
松本
え~と……最近舞台でそんな作品ありますよね、(松多)壱岱さんの大正時代辺りを舞台にしたやつ。(『帝都探偵奇譚ジゴマ』)
山岸
明治とか大正の、要するに怪人二十面相とかの世界観ですね。ああいった感じの作品が好きで、僕は小説だとシャーロックホームズがめちゃめちゃ好きなんですけど、その……なんと言うか、ダークなワクワク感ってあるじゃないですか。でもやっぱり明るさが欲しいんですよ、少年探偵団みたいな。少年探偵団って子供達が主人公だからそこまで猟奇的なものは出さないにせよ、何か社会の闇みたいな怖さをちらつかせますよね。
松本
江戸川乱歩の小説ですよね。
山岸
そうです。廃工場の奥に子供達だけで行く怖さとか、多分そういうところが自分にとってのワクワクに繋がっているんです。廃墟に憧れるのも、そういうところが理由なのかなとも思うんですけど。
松本
だとすると、『イヤータグ』は結構やりたかったことが出来た作品ですか?
山岸
自分の出したい世界観とか雰囲気っていう意味では、『イヤータグ』は絵作りにおいて満足度が高いですね。ようやくあそこでドリーとボケ味を手に入れているので、僕はこれだ!って思ってました。先輩方には、ボケさせすぎって言われるんですが(笑)。ボケ味によって見せたいもの以外を見せずに済むっていう演出ができるようになったことが、僕にとってすごく大きいんです。要するに、主人公の後ろに迫ってくる犯人の姿がなんとなくボケてて、何か来てるよ!っていうのが出来る。闇への憧れがすごいんですよ(笑)。暗い向こう側からこっちに向かってきてるけれど、何なのかは見えないとか。
松本
少年探偵団は、それですよね。
山岸
まさにそうですね。
松本
どうしてボケるとあんなにかっこよくなるんですかね?
山岸
ふふっ(笑)。
松本
僕の好みなのかな。
山岸
でも多分、そういうことだと思いますよ。僕はエンターテイメントが何かって考えた時に、僕の解釈であって世間一般で通用する考え方ではないと思うんですけど、お客さんが想像するっていうことが一番エンターテイメントだと思っていて、全部を説明してしまったらお客さんは何も面白くないんですよ。そうじゃなくて、いろんなものをお客さんに与えていって、何かを想像するワクワク感みたいなものがお客さんの頭の中に出来上がった時が、そこに持っていくのがエンターテイメントだと思ってるんですよ。だから絶対に、お客さんが何かを想像する隙間というか、残しておかなければいけない。お芝居もそうで、全部説明するお芝居は面白くない。
松本
まあそうですね。
山岸
多分あの人ああいう風に思ってるんだろうな、ってお客さんが思った瞬間がエンターテイメントだと思ってるんですよ。
松本
なるほど。
山岸
そこをすごく僕はやりたいなと思ってます。

エンタメの共通感覚

松本
……さらに1時間話したんですけど。Dプロの話には行きませんでしたね(笑)。
山岸
あれ~?(笑)
松本
この対談の前にも(ディープロジックのパンフレット用の)対談をしていたから、話すことあるかな?って思ってたんですけど、全然ありましたね。
山岸
とは言え、これ以上俺のエピソード長く話してもしょうがない上に、エロVシネ時代を全く話してないや(笑)。
松本
そんなのあったんですか?
山岸
僕の闇の時代です。
松本
Vシネは闇じゃないんじゃない?
山岸
え?そうですかね。
松本
どうしよう、計算して喋らないと全然終わりそうにないな……。
山岸
もうDプロの話に行っちゃってもいいんですかね。
松本
いや~、僕、そんな話さなくってもいいと思ってるんですよ。みんな、Dプロのことは知ってるから。
山岸
そうですね、結構あちこちで話したもんな~。
松本
それ以外いい感じに話せたらな、ってのが。
山岸
うん。
松本
この対談って納期を決めてないんですよ。
山岸
あ、そうなんですね。だってこれ、書き起こしって地獄じゃない?
松本
でも今回は、ふわっと締め切りがあるような気がしないでもない……と思ったんですけど、今日話しててやっぱり締め切り無くて良いな!って。(一同爆笑)
まず長いっていうのと、あと、これが公開された時、ディープロジックがどうなってるか分からなくて。それがまた面白いかな、みたいな。
山岸
そうっすね……拡大公開されてれば、それはそれで。
松本
それはそれで面白いし、なんか、そうでもなく……人々に忘れられた頃に(笑)みたいなことでも面白いし。初心に帰るといいますか、やっぱ、この対談は狙わないのが一番面白いなぁって。
山岸
うん。突然始まったし。
松本
そういうのも含め、なんかニュートラルな視点でいいかなって。
山岸
じゃあ次、どこに持っていきます?(笑)
松本
さっきの……、さっきの闇の話が面白かったですね。作風の話になると思うんですけど、僕、山岸監督と打ち合わせして、物語作りがすごい似てると思ったんですよ。感性が似てるというか、面白い面白くないのセンサーが近いというか。
山岸
うんうん。

松本
それってなんか……説明が難しくて、ちょうどいい言葉があったら教えてもらいたいんですけど……たぶんエンタメみたいなところに……共通感覚があるのかなって。
山岸
そうですね。これがいい!みたいなのは割と一致する。
松本
唯一違うのは、その闇の部分。僕たぶん、闇が苦手なんですよ。憧れはあるんですけどね。
山岸
あ~、そうなんだ。
松本
江戸川乱歩も子どもの頃から読んでて、割と自分のアイデンティティみたいなところではあるんですね。だから、ちょっとダークな展開を書くと、自分的には楽しかったなって思っているんですけど……あんまり評判良くないんですよ。
山岸
おや(笑)。
松本
だから、山岸監督の作品に惹かれるところがあるのかも。

(つづく)