山岸謙太郎×松本陽一(11)

※2019年11月25日、某所にて

山岸謙太郎×松本陽一(11)

音楽担当も感じた危機

松本
例えば、『イヤータグ』の最後のクライマックス前で「カタンッ」ってカメラが斜めになって携帯が鳴るシーンあるじゃないですか。
山岸
あー、はいはいはい。
松本
あれがすごく良かったんですよ。最後はちょっとバッドエンド感もあって。あと、『東京無国籍少女』もちょっとダークですよね。
山岸
そうですね。
松本
『イヤータグ』で監督の映画と出会って、まだ面識がない頃に、これはすごいっていう、さっき言った嫉妬の衝撃を受けたわけですよ。そして、『東京無国籍少女』の現場に、小沢(和之)さんと椎名(亜音)さんのマネージャーのフリをして潜入し。
山岸
はい(笑)。
松本
準備稿も完成稿も見せて頂いた記憶があって。準備稿の方がまだもうちょっとハッピーエンドというか、分かり易いオチだったような気がしたんですよ。
山岸
どんなオチでしたっけ。
松本
あんまり覚えてないですけど……時空が飛ぶことを示唆して終わる感じが、もうちょっと分かりやすかった気がして。完成稿を見て、あ、分かりにくくなったなって。
山岸
はいはい。
松本
僕は準備稿の方が好きだなとは思ったんですよ。
山岸
ストレートな、分かり易いシンプルなほうが。
松本
うん。ちょっと分かりにくくしたんだなあっていう記憶があって。
山岸
あ~、そうかもしれない。『東京無国籍少女』は、その前の仕事が終わってすぐ取り掛からないともう時間がない、みたいな感じだったんで。もう、怒涛の……それ故にあの感じが出たと思ってるんですけどね。落ち着いて作らなかったから、自分の頭の中がよく咀嚼されないまま出た、みたいな……。整理されないまま出たからこそ、観る人には色々考えてもらえるような形になったし、時間があったらもうちょっとメリハリのあるもの作りをしていたかもしれませんね。
松本
じゃあ、荒いヤマケンさんが出たみたいな感じ?
山岸
そうっすね。僕が唯一、編集終わった後に、もう無かったことにしたい!と思ったのが『東京無国籍少女』。
松本
あらそうなの?でも、評判わりと良いし、押井監督がリメイク(2015年)してますよね。
山岸
これが、自分でも意味が分かんないんですよね……。撮り終わって荒編集が終わって、音が付いてない状態の映像を音楽担当の小林に送って、そこに音を付けていく。音楽が付いていく過程が僕は一番楽しいんですよ。
松本
うん。
山岸
まず昼くらいに小林のところに行って、一緒に昼飯を食うんですよ。ラーメン屋とか定食屋に入って。お互い映像はすでに見てるから、食べながら何となく方向性の話するんですよ。
松本
ラフミーティングみたいなことですね。
山岸
そう。僕はこんな感じにしたいんだよね、とか、小林はこう思ったみたいな話をした後で家に行って、今度は具体的にいろんなサントラをつけて、音を試していったりするんですけど。『東京無国籍少女』の時は、ご飯ミーティングの時、2人とも一言も喋んなかった。
松本
へええ。
山岸
もうやばい、っていう。
松本
これはやばい、と。
山岸
うん、とんでもない。
松本
コケたと。
山岸
コケた。今までは……なんかとりあえず編集してもちゃんと話になったね、良かったね、っていうところからいつも始まってるのに、今回は……。俺、何がやりたかったんだろう、みたいな。小林も、山岸さんが何やりたいか分かんない、みたいな。これ、どうしたらまとまるんだろう、って状態でした。
松本
一番の反省点は何ですか?
山岸
僕が分からないまま撮ってるってことですよね。
松本
あ~~。
山岸
やりたいことは漠然とあって、アイディアもあったんですよ。それを自分の中でちゃんと消化せず整理せず、そのままイメージのまま描いたんですよね。それをしてる時間がなかったのも要因のひとつ。
松本
じゃあ、ストーリーとか、そのバックボーンが見えないみたいなこと?
山岸
うーん、そういうわけでもないんだけど……。
松本
イメージ映像をずっと撮り続けた、みたいな?
山岸
あ~、それみたいな感じっすかね。

クレイジーな撮影現場

松本
ちなみに僕は、嫉妬するほど惚れ込んだので、マネージャーのふりをしながら2泊3日くらいの撮影に……。たしか、真冬の学校でしたよね。
山岸
真冬で、年の瀬でしたね。
松本
どういう風に撮れば、ちゃんとイメージしてた絵になるんだろう、っていうのを僕はひたすら追ってたんですけど。単純にもう、ひたすら休みなく撮り続けてましたよね?
山岸
ああそうっすね。
松本
そして、あの……もうだいぶ撮ったし、夕方には終わるって聞いてたんだけど、外に照明を焚き始めて昼の明かりを作り始めて……。

山岸
あ~(笑)。
松本
これは終わらないぞ、って感じ取って、椎名くんとかに「これ、ちょっと帰れねえぞ」って話をしましたね。で、散々……夜10時とかになって4~5時間押してるし、もう相当撮ったと思って、スタッフルーム行ったら、残りカット数を確認したら半分以上残ってた!この人たち頭がおかしいなっていうのが。
山岸
ふはは(笑)。
松本
それがヤマケン組の最初の印象だったんですよ。
山岸
まだ半分終わってないのかと。
松本
それ、最初の(撮影予定)カット数決めた時点で間違ってるでしょ!って素人ながら思うぐらいクレイジーな現場だったんですね。あの……バカだなって思って。バカっていうのはね……。
山岸
褒め言葉ですよね。実際クレイジーだったと思います。
松本
でもそれは、時間無い中で咀嚼しないままガンガン撮ったことで、そうなった?
山岸
そうです。現場に入っている時は、こういう風に作ろうって完成形が自分の中にあって、脚本をこれ以上あーだこーだいじるのはやめよう、この脚本に沿って撮っていこう、になっているので、その時はもう明確なイメージががあって、そこに向かって撮っていくってのはあります。でも、いざ編集で繋げてみると「なんだこれは?」みたいな感じになったんですよね。
松本
その「なんだこれ?」を掘りたいんですよ。
山岸
ん~。
松本
何が良くなかったんでしょうか。
山岸
何ですかね~。結果的にはよかったんだとは思うんです、あれはあれじゃないと出なかったなっていう意味では。
松本
ある種のフワッとした部分が、観客の想像の部分になるみたいな。
山岸
そうなんですよ。必死にストーリーを説明しようとしなかったところとか。
松本
ひょっとしたら、僕が完成稿を見てちょっとわかりづらいなと思った部分がそこかもしれないですよね。

余白がバイブルを生み出す

山岸
あの……押井守監督の作品って、ちょっとよくわかんない、みたいなところがあるじゃないですか。
松本
はい。
山岸
いわゆるバイブルって言われるものって、やっぱり人によって解釈が変わる部分を残しているものの方が、そういうものになり得るみたいな感じがありますよね。そういったところを目指したいとは思ってたんです。情報を少なくして、真白な世界の中でポツポツと情報がある映画にするのは最初から目指していたところなんですけども、でもいざ編集したら……なんだろう、不安になったっていうのが正しいのかもしれない。これじゃ何言いたいのか分からないよ、ってなって、多分僕だけで作ってたら本当に穴掘って埋めてたと思うんですよね(笑)。
松本
外部発注感のある、いろんな人が関わっててたから、自分が撮ってお蔵入りには出来なかったんだ。
山岸
出来なかった。……いや、どっちにしろプロジェクトヤマケンでやってる以上、お蔵入りには出来ないんですよ。
松本
まあ、そうですね。かなり大人数がやってたのは、僕もずっと見てましたし。
山岸
お蔵入りにできないのは当然で。でも……、ってなった時に小林が「まあ、でも案外悪くないかもしれないですよ」みたいな事をボソッと言ったんです。小林もその段階では悩んでいるんですよ。(音楽的に)盛り上げていいのか、この訳の分からないまま行っていいのか。僕は、とにかく映画として成立しないんじゃないかって不安があった。説明がなさすぎるし、ストーリーがどこに向かっているかわかんないし。でも小林は、僕以上にいろんな映画を見てたんで「いや、こういう映画あるよ」「多分どっかにあった」って、俺以上に何となく理解していたんですよ。だから、音でどんどん盛り上げちゃったらおかしなことになる、山岸さんの動揺がそのまま出てしまう。これは敢えて開き直るべきだ。って感じで、だから音楽はそんなに使わず、最後の方しか入れてないんです。
松本
そうですね、控えめな印象しか残っていないです。
山岸
そんな感じです……ん、あれ?!エンドロールで音楽が流れないのって『東京無国籍少女』ですよね。
松本
そうでしたっけ?
山岸
戦場の環境音しか流れない。
松本
へぇ~。
山岸
最後、音楽が流れなくて戦場の環境音だけが淡々と鳴っていてエンドロールになるんです。そういう意味では、訳のわからなさというか、この映画は普通じゃないことにしてしまえば成立することに小林も乗ったんですよね。
松本
僕はどっちかというとゴリゴリに分かりやすい物語を作るタイプだと自分でも思っていて、ちょっと分かりづらくすると評価が悪かったりするんです。だけど、この前やった『劇作家と小説家とシナリオライター』(2018年11-12月シアターKASSAIは、説明が普段より少なくてそれが非常に評判を得たんですよ。今までに無い評判で、終わった後に劇団員と、これくらいの要素入れたほうが今後うけるかもねって話をしたくらいなんですけど。これもやっぱり、人によって解釈が変わる部分を残しているものの方がバイブルになり得る話に近いと思うんです。
山岸
うん。
松本
でも、狙えないんですよ。
山岸
そうなんですよね。

(つづく)