図師光博×松本陽一(7)

※2017年9月5日、都内某所にて

図師光博×松本陽一(7)

ピエロでいると人が寄ってくる

図師
誰一人全く知らない座組だと、僕、隅の方でちょこんと居るんですよ。で、仲良くなった時には千秋楽っていうのがよくあるパターンなんです。ちょっと上手く(人付き合いが)できなくて。
松本
あんまり上手くしようとも、最近は思わない?
図師
あ~(納得)、歳のせいもありますけどね。
松本
ちょこんと座ってる方が心地いい?
図師
はい、楽というか。
松本
取り繕わなくていい。
図師
あ、それはまさにかもしれない。すごい楽です。歳になるとあんまそこまで別に…
松本
ああ、まぁね。
図師
(人付き合いに)揉まれなくてもいいかなって。でも、一個の理由として、ピエロとか道化師って感じで居ると、人が寄ってくるんですよ。

松本
人が寄ってくる?
図師
例えば、稽古中にちょっと面白いことやったりとか、アプローチするときに面白いことするんですよ。そうすると、稽古を見ている人達が、あの人面白いなって思ってくれる。すると、こっちから行かなくても向こう側から一個近くに来るんです。「あれ、面白かったですね」って。そうすると自分から行かなくて済むんですよ。
松本
ほうほうほぅ。そうですよね。
図師
だから、あえてやったりすることもあるし。僕の中では、僕が稽古で立ってない時、イスに座って待機してる時に面白いことをやって、人に面白いって思われるのは、ハードルが高いんです。でも舞台上でやるのは、僕の中であんまりハードルが高くないので、やるのは簡単なんですよ。簡単というのも変だけど。そうすると、楽なんですよね。
松本
はぁ。
図師
喋りみたいなのも、自分が面白くやれば、この人達は好意を持ってくれるから。……なんか病気ですよね!あはっ。そこまで考えると。
松本
ちょっと、心理学の話みたいになってきたよね。
図師
ああ~。そうですね。
松本
モテてたのも、そういうところなんじゃない?そういうヤツ、モテるもん。ひょいっ!て感じが上手なのよ。
図師
なるほど(笑)。
松本
んふふふ(笑)。

求める側の意見

図師
今度は僕から質問良いですか?
松本
どうぞどうぞ!
図師
松本さんの中での良い役者って、ものすごいざっくりした聞き方ですけど、何かあるんですか?
松本
なかなかに深くて難しい質問ですよね!あるはあるじゃないですか、当然。
図師
当然ありますよね。
松本
やっぱり演出家は誰しもあると思います。うーん、ここでまた難しい言葉になるんですけど上手い人になるんですよね。
図師
やっぱりそうですよね。
松本
上手いって何やねん?ってことになって。
図師
まぁまぁ、当然そうですよね。
松本
うーんとね、すごく抽象的な言い方をすると、自分のタイプが分かっていて、かつ少しはみ出す人が好きかもしれない。
図師
はぁー。
松本
なんか、お芝居ってこう…野球に例えてもサッカーに例えてもいいんですけど、役割があるじゃないですか。
図師
はいはい、そうですね。
松本
主人公がいて、ヒロインがいて、脇役がいて、みたいな。1番バッターと4番バッターに求められてることの違いみたいに。で、その、1番ショートみたいな、なんかそういうのを得意としている人がいて、でも、3番も打てるよとか、
図師
ふんふんふん(頷)
松本
4番だけど送りバントもちゃんと出来るとか、サッカーでいうと自分のポジション+αくらいの仕事をするとか。
図師
うーん、なるほど。
松本
なんかそれはね、分かってやってる人は特に好きかもしれない。そういう人は伸びるし変わるし。
図師
まぁそうですね。
松本
だから、俺は4番です。4番だからこうです。ってやって、その芝居だけ見たらそれでいいんだろうけど、役者さんとして魅力的か?っていうと、飽きちゃいますよね。演出家としては。ブンブン振る4番が欲しい時はまた呼ぶと思いますけど。
図師
うんうん。必要な時はありますよね。
松本
だから、僕は、どっちかと言えば多才なプレイヤーの方が好きですね。
図師
なるほど。
松本
2番セカンドみたいなの大好きですね。
図師
あっはは!好きそう~。やっぱね、役者って雇われる仕事だから、求められなきゃ話にならないので、求める側の意見ってどうなのかな?って。

名手になりたい

松本
話ちょっと戻りますけど、年10本ってなかなかの量で、コンスタントにやってると思うんですけど、それは求められてる訳ですよね。それが人気なのか、芝居の実力なのかは、一旦は置いておいて。
図師
はいはい。
松本
求められて呼ばれてやる上で、どうなんですか?役の振り幅だったり、やっぱまたこの感じで呼ばれたか、とか。
図師
まぁ昔と比べたら、そういう意味ではいろんな役をやらせてもらえるようになったな、と思います。昔は本当に、面白いことをやって笑わせてくれたらいい、という飛び道具みたいな役が多かったですけど。
松本
はいはい。
図師
歳なんですかね?分かんないですけど、それこそここ3~4年じゃないですか、いろんな役をやらせてもらえるようになったのは。まぁ、単純に飽きちゃうんです。いろんな役がないと、自分の中で楽しみがなくて。コメディの役だとして、コメディやってるときはシリアスやりたくなるんですよ。シリアスやってるときはコメディやりたくなるんですよ。
松本
分かりますよ。
図師
あの感じ。だから、役者としては(1つの方向に偏らずに)何でもできるよっていうのは、どんな役者さんもあるだろうし。
松本
図師くんの武器って何でしょうね?
図師
何なんですかね?これ、教えてもらったら、僕…。
松本
こういう質問をしたら、絶対図師くんは「何でしょうね?」って言うと思ってて。
図師
(大笑)ちょっと~、見透かさないでくださいよ~。
松本
そこを一緒に考える日かもしれないって思って。
図師
おお~。これは面白いですね! ……何なんでしょうね…。今、野球の例えが出たから野球の話をしますね。球際ギリギリのところでジャンピングキャッチして捕って一塁に投げてアウトにする人と、バッターを見て、この変化球を投げたらこいつはこっちに打つだろうって思ってポジションを変える人。僕は、同じ球が来ても簡単に取れる後者がが名手だと思うんです。究極を言えば。

松本
うん。
図師
でも、これは見る人から見ないとわかんないんです。素人が見ても(わからない)
松本
うん、球際でジャンプして捕った人の方が名手に見える。
図師
そういうのが、野球の話だとあるんですよ。僕、そうなりたいなって思ってて。芝居でなんとなくそうなりたいなって。だからニュアンスになっちゃいますけど、なんか面白いことしてるよね、って思われるよりは、なんか笑っちゃうよねあの人、って。っていう感覚になれたらいいなって思いますけど。
松本
トリックプレイじゃないんだ。
図師
うん。
松本
ダイビングキャッチして反転して投げるよりは、なぜか真正面にいたー!っていう。
図師
そうそうそうそう、野球マンガだと。かっこいいなー!って思うんです。
松本
ドカベンでいう殿馬[とのま]みたいな。
図師
そうですそうです。なんであいつがあそこに!?みたいな。ただ、お客さんとか一般の人からしたら、なんとも思われない。でも、(僕は)かっこいいなー、って思うし。地味だけど。芝居でもそういう感覚になれたらいいな、って思うし。面白いことやってます・やりますって雰囲気なんて邪魔だし。
松本
なるほど。
図師
僕、2番手3番手役者ってよく言われるんですよ。図師さんは1番推しじゃないけど、2番とかにいると面白くなりそうだな、って。だから僕(の扱い)では(チケットを)買わない。でも、そういう意味では名手の一人なのかな、って。それで効果が得られるんだったら名手かなって。

(つづく)