今年一年振り返り⑥「紙風☆スクレイパー」

今年一年を振り返っています。

8月
UDA☆MAP
「紙風☆スクレイパー」

毎年夏の風物詩、UDA☆MAPです。宇田川美樹がPとなり、旬の女優を集めたユニットも来年10周年ですって。いやあすごいなあ。今年のコンセプトは「三国志×ソードアクション×グズグズコメディ」
最初は殺陣ものがやりたいというところから始まったと思います。仮タイトルは「るろうにUDA☆MAP」だったので笑、最初はまさに幕末あたりかなあと話してたと思います。UDA☆MAPには来年シーズン3をやる予定の「新宿☆アタッカーズ」という作品がありまして、それと時代とか雰囲気が近いなあといった話と、今回のテーマソングとなった曲の雰囲気から、中国歴史もの感がいいんじゃないかとなり、三国志の世界観となりました。

まあまあ調べましたね、三国志。全然知らなかったから。劉備とか関羽とか名前を聞いたことあるなあくらいの感じ。僕は戦国武将ものってあんまり響かないんだけど(理由は不明。女脳だから?)、三国志は面白かったなあ。曹操を主人公にした蒼天航路とか。
紙風のほうはと言うと、「蘇快(スカイ)」「外連(クリーン)」「雨引扉(ウインド)」という女三国が中華大陸の片隅にあって…というめちゃくちゃ架空の設定なんですが、だから三国志知らなくても全然いけちゃうんですが、三国志の「志」歴史というより「志(こころざし)」ってなんだろうと、それは知っときたいなと思ったのでした。結局は仲間や師をどう想うかみたいなところに行き着くんですけどね。というわけでどんどん少年ジャンプ化していったこの物語。バトルものってやっぱそういうとこあるよね。いいタイミングで主人公がシャキーンと登場するとか笑。実際にそんなシーンを照れもなく書けるのはUDA☆MAPの面白さのひとつです。

それでちょっとだけ三国志キャラ出たら面白いなと思い、椎名(wキャスト渡辺)が演じたお付きの超委(ちょうい)という役が実は実在した医師・華陀(かだ)という設定にしました。世界で初めて全身麻酔をしたらしいと文献に残っているようです。僕は結構マユツバな話だなと思ってますが。本当は男性でビジュアル的にはよく老人で登場しますが、そこは歴史を想像する面白さということで女性にしました。実は最初は、藤堂演じた舵違羅(だいら・ふりがな全部ふるのめんどくさいな)が、呉の国の有名な軍師・周瑜だったというオチを最初に思いついたのですが、ネームがデカすぎて架空の世界がぼやけちゃうなと思ってやめました。周瑜は確か矢の傷が原因で死ぬのですが、平井杏奈さん演じる義呂李(ぎろり)の矢だったというオチ。一応ラストバトルで刺さってるんですよね。

ソードアクションは大変でしたね。殺陣は藤堂と馬罵琉(バーバル)を演じた山本太陽君。特に長もの(槍と矛)の二人、神刄(じんば)の石井陽菜さんと、儒勢(じゅせ)の舞川みやこさんは苦労してましたね。舞川は努力の人ですよ。ほぼ初めての状態からひたすら稽古してた印象。佇まいもかっこいいし、儒勢は今作のMVPでしょうな。

ひたすら読み仮名ふってるから名前の話。この手の架空の名前はだいたい音の響きから決めます。「じんば」ってリーダーっぽいとか。翔孫(とんそん)と孫豚(そんとん)が姉妹とか(これ稽古場で自分でパニクった)。そこに漢字を当てていきます。今回のお気に入りの名前はなんだろ、儒勢もいいし、あと麓巾(ろっきん)かな。骨都(こっつ)も好き。骨の都ってなんやねん。

グズグズコメディの部分ですが、けっこう感想で「今回はあまりグズグズじゃなかった」と言われました。あんまりそんなつもりなかったんですけどね。UDA☆MAP通常営業のつもりだったんですけどね。昨年の「沼田☆フォーエバー」がクズグズマックスだったからかなあ。でもね、毎年グズグズしてるようで、私的にはグズグズは最後の産物というか、ちゃんと感動だったっり、興奮だったり、物語のど真ん中を描こうとは思ってます。アクションや仲間を想うみたいなところで結構骨太だったのかなあ。

宇田川さん、栞菜さん、市原君が演じたズッコケ探検隊。これ結構大事で、脚本的には難しかったですね。よくあるストーリーテラー的な立ち位置なので都合よく使えるんですけど、だから都合よく使っちゃいけないなと。そこで生まれたのがチョメチョメシステムです。巻物が読めなくなるという荒技。でもそういう風にしないと絶対この3人、そしてこの物語は面白くならないなと思って、歯を食いしばって書きました笑。チョメチョメの語源が山城新伍さんだったというのは忘れてた。

あとタイトル。宇田川さんと行ったお好み焼き屋のおばちゃんのヘラ捌きが凄くて「このヘラなんていうんですか?」って聞いたら「スクレイパーよ」こんな理由です笑。そこから伝説の武器が「ちっさ!」となり、最後落雷の避雷針になるという飛躍。神風にしなかったのは、若林さん演じる洲久姫(すーくひめ)が、最初紙風船で遊んでるイメージから。紙風船出てこなかった!

今年も暑かったですね。UDA☆MAP。7月にしてもお盆明けにしても、暑くなる宿命なのでしょう。本番中に涼しい日があると「あれ?」って思っちゃう。でもついに宇田川Pは来年の公演を9月の終わりに設定しましたよ。これで鬼残暑来たら笑うな。来年は10周年。すでに発表されている通り来年は「新宿☆アタッカーズ」のシーズン3です。グズグズのミステリー時代劇ですな。お楽しみに。

振り返りはあと2公演3作品。大晦日に持ち越しだなこれ。
次回は、
「オトナインデッドリースクール」「オヤジインデッドリースクール」です。

今年一年振り返り⑤高橋明日香一人芝居&字幕フォーラム

今年一年を振り返っています。
今回は短編公演をふたつ。

5月
高橋明日香一人芝居「DOLL」

あすぴーこと高橋明日香さんのソロイベントに一人芝居を書き下ろしました。ある日あすぴーから「会って話がある」と呼び出された時はそわそわしたな笑。彼女がフリーになり、自分でイベントを企画しようと立ち上げた第一弾だったようです。普通のトーク主体のイベントではなく、芝居を入れたクオリティの高いものにしたいと熱く語る彼女はアツかったです。ということで長年ご一緒してきたあすぴーへのプレゼントのつもりで書きました。超ハイテンポで一人8役という芝居を。

タイトル「DOLL」の通り、彼女は人形で、骨董品屋で売れ残っている。そこにその人形を買おうと様々な客がやってきて…。という物語。けっこうゲスいキャラで笑、可愛いだけじゃない感にしたのは彼女との長い付き合い由縁かな。店に来る客も全て一人で演じることになリます。列挙してみるか。

ドール(主人公)、老父、老婆、オタク男、少女、母、女子高生A、女子高生B

ちなみに女子高生のひとりは青柳伽奈のモノマネだったらしい。一応私らしい伏線のギミックを効かせて、コメディタッチに仕上げました。彼女が企画打ち合わせの時に「お客様の喜ぶ顔」「幸せな物語」「成長、新たな出発」というキーワードが出たので、それを反映した物語になったかなと思います。
稽古は10日前くらいから5回くらいだったかな。普通の稽古だと何か課題を出して「考えといて」と別のシーンをやるとか、待ち時間にキャスト同士で台詞合わせをするとかってありますが、ひたすら二人なので割と見守っていた印象かな。稽古場は当然ふたり(私とあすぴー)だけしかおらず、気まずかった思い出笑。

8月
字幕フォーラム&ショーケース
「アマゾンさん」「ふたりカオス〜惑星エリス〜」

これはどんな公演かと言うと、演劇に字幕をつけるシステムを実際に上演した芝居を見てもらいながら、作り手、利用者に体感してもらおうというショーケース公演でした。字幕はタブレットに出てくるので、観客はタブレットを持ちながら目の前の舞台を鑑賞することになります。代表の南部さんも、耳の不自由な方だけじゃなく、幅広く利用者を増やしていきたい、とおっしゃってましたが、まさにそういう需要ありそうだなと思いました。テレビのバラエティなんて字幕つきながら見ているようなものでしょ?あのテロップね。そういった「視聴補助」が今後すごく大事になってくるようにも思うのです。ご高齢の方に見やすくなるとかね。演劇の字幕にはそんな可能性があるなと思いました。

字幕にも色々種類がありました。
・演出字幕…演者の芝居に合わせて大きく出たり、アニメーションのように動いたり(どどーんと出るとか、弱々しくフェードアウトとか)まさにバラエティ番組のテロップのような字幕。
これは面白かったですね。観客の感想でもこれは評判が良かったです。視聴補助にもなるし、生の芝居と字幕の掛け合わせを楽しむ新しい観劇スタイルといってもいいかもしれないです。
・多言語字幕…日本語、英語、かんたん字幕、という三種類がありました。かんたん字幕というのは、お子さんや、日本語が少し分かる外国人向けの字幕で、ひらがなが多かったり、ルビがふってある字幕です。なるほどこういう需要もあるのかと勉強になりました。三種類を手元で選択します。確か上演前に選択して上演中は切り替え不可だったと思います。これが上演中に切り替えられるようになるとさらに楽しいでしょうね。英語と日本語をスイッチしながら見るとか。

今後の課題的な話をすると、
・タブレットずっと持ってるの重い。その会場には椅子に折りたたみテーブルがついてる場所でしたが、普通劇場にはついてないからなあ。
・字幕(タブレット)と舞台の見方。これ説明しずらいんですけど、タブレットの置き位置と言いますか。あ!そうそう、老眼を強く感じてしまったんだったわし。手前のタブレットの字幕から遠くの演者を見たらピントが合わないという笑。そういうふたつを同時に見る最適な位置ってなんだろう。でも字幕を舞台下や横に投影する形よりは、このタブレット形式の方が良いと思いますし、そういう声も多かったです。
・光もれ問題。劇場では電源から切って頂いている機器が客席にずらり並ぶわけですからね。まあ「タブレット公演」みたいに、切り分けるのが現実的でしょうな。最初からそこそこ客席も明るめが良いかもね。寄席みたいな。暗めのもの凄く照明タイトな作品は厳しいかもなあ。やりようはあるとは思いますがね。
・役者の台詞が聞き取りずらいのに字幕補助は素晴らしい力を発揮しますが、役者の滑舌やミスなどが全て晒されます笑。

といった字幕ショーケースに、椎名、藤堂、樋口、そして中舘早紀さんにご参加頂いて10分×2演目を上演しました。
「アマゾンさん」脚本は細川博司さん。ワークショップ用に書き下ろして頂いた作品があまりに面白くて「使わせてください!」とお願いしました。宅配便を届けに来た業者(アマゾンさんと呼ばれる)とその受け取りを拒否する玄関前の攻防を描いたコメディ。

「ふたりカオス〜惑星エリス〜」以前上演した二人芝居からの抜粋。藤堂と樋口が数年前に演じた役と同じ役を演じました。役者さんはやっぱりある程度残ってるものですね。久々に稽古しても当時の雰囲気は残ってた。

今後もこういったショーケース公演や、実際に字幕運用した公演を企画していきたいとのこと。その時はぜひ協力したいですね。私が関わる公演でも今後考えていきたいと思います。良い経験になりました。
あと会場が江戸東京博物館で、ちょうど脚本を書き始めようとしていた「なまくら刀と瓦版屋の娘」の良い取材となりました。

次回は8月UDA☆MAP「紙風☆スクレイパー」です。おお、1日2本ペースでいかないと終わらないぞ。

今年一年振り返り④「未来切符〜滋賀公演〜」

今年一年を振り返っています。

「未来切符」続き。

今年から「47都道府県制覇の道」という途方もない企画を始めまして(あくまでゆるーくね)その第一弾として滋賀公演を行いました。琵琶湖のそばにある「滋賀里劇場」というオープンしたての劇場で、なんと宿泊施設もあり、敷地でバーベキューもできるという都内では絶対無理なハイスペックを持ち合わせた劇場でした。ていうか都内にこういう劇場できないかな。他県の団体や若い劇団が泊まり込みでお芝居が作れて、終演後にバーベキューなんでけっこうな引きになる気がする。実際めちゃくちゃ盛り上がりましたね。あとキャストも楽しそうだった。終演直後にすぐ打ち上げできる、しかも青空の下で。そりゃ気持ちいいですよ。まあでも3日が限度かな。毎日バーベキューはそれはそれで。健康とかね。

バーベキューは制作チーム(とわし)の仕込みが大変でした。焼きそばですがね、制作の翼君がどこで仕入れた技術か知りませんが(ボブジャ制作の菅原さんのスキルだったかな?)野菜はバラバラに炒め、麺はレンジでやわらかくしてとか、別々に炒めて最後に混ぜるとか、超効率を極めて分業制で大量の焼きそばを作りました。給食センターみたいでした。私もカコ編2話になったあたりからひたすら鍋を振っていました。肉などの材料も車で20分くらい走ったところにあるコストコみたいな量販店で大量買い出ししてました。

劇場隣の建物に宿泊施設と稽古場が。愛犬ちくわも連れていけるという至れり尽くせりな環境。毎朝私、朝食作りましたよ。夕食は普段劇場でやっているケ(ケータリング)の比じゃない量が消費されて行きました。作っても作っても終わらねえ。足りねえ。の日々。キャストも(スタッフも)なかなかできない経験が出来て楽しかったと思います。こういうのは地方公演ならではなんだろうなあ。

相当な田舎で、コンビニまで車で行かないといけないくらいの場所でしたが、沢山の方にご来場頂いて、連日満員御礼が出るほどでした。旅気分で遠征してくれた方や大阪から東京へ舞台を観にきてくださる
方々などなど。あとなぜが石部さんが来てた笑。

この「47都道府県制覇の道」は本当にゆるい企画で、死ぬまで?(劇団が消滅するまで?)に達成するにはかなり途方も無いですが、少しずつ進めていきたいので期待せずお待ちください。ルールもゆるくて、劇団か劇団員(一人でも)がその土地の公演に参加したら制覇です。つまり椎名君が名古屋公演に出演したら愛知県は制覇です笑。とはいえ新しい土地を求めて少しずつ動いていきますが、これまでの街、大阪や滋賀などにもまた行きたいですしね。体と資金が沢山欲しいところです笑。

次回は、目次に書くの忘れてた。5月「あすぴー一人芝居〜DOLL〜」と字幕フォーラム&ショーケース「アマゾンさん」「ふたりカオス〜惑星エリス〜」です。毎年書いてるけど、年内に終わらせたい。

今年一年振り返り③「未来切符〜カコ編〜」

今年一年を振り返っています。

「未来切符」続き。

今作は6つの短編を「ミライ編」と「カコ編」の2つに分けて上演しました。劇団員を主人公にした6つの短編ということで、一演目に収めると各話20分弱となってしまう。短編で20分と30分じゃ随分印象が変わるのです。ある程度がっつりやりたいなと思ったので3つずつ×2演目という形にしました。尺の制約がなくなったのでミライ編もカコ編も第3話は40分くらいになりましたてへ。
カコ編は時間がどんどん過去に遡っていくという形。バブル期→高度成長期→太平洋戦争です。今年大河ドラマのいだてんでこの辺りを描いてましたが(大河的にはこの辺りの時代はコケることが多いみたいですが)調べてても楽しかったですね。大変でしたけど。こういう近過去の時代って言葉使いが分からないんですよね。歴史文献には事象や出来事、人物などは書いてあっても、あんまり当時の言葉使いが分かるような資料がない。でも当然2019年の今と同じ喋り方はしていないはずで。こういう時はその時代に作られた現代劇の映画を見ると参考になります。昔書いたギブミーテンエンという終戦直後を舞台にした作品は昭和25〜35年くらいの現代劇の映画をたくさん借りて観ました。
と色々言葉使いについて書きましたが、カコ編第1話「ジュリアナ犬」はバブルの流行をこれでもかとデフォルメした流行語のオンパレード。デューダするっていう転職の意味の流行語懐かしいって書いたんだけど、今でもデューダあるんすね。あとアッシー君、まさに大どんでん返し、などなど。第2話「枕の意味」では江戸落語口調。どちらもデフォルメされた台詞並びでしたね。短編で時代感素早く出すのにあえて誇張したかも知れません。それでは各話の話を。

第1話「ジュリアナ犬」
宇田川美樹主演。バブル絶頂期のジュリアナ東京を舞台にした作品。この物語が一番書き出すのに苦労したかも。宇田川さんが劇団ミーティングで作品のブレストをしていた時に「犬がやりたい」と言い出し、面白いねえとなり、バブル期を描くのはカコ編のスタートとしてはいいなと思い、「ジュリアナ犬」というバカっぽいタイトルが思い浮かびました。そこからはたと困った。劇団公演で久々(らしい)に宇田川さんでゴリゴリのコメディをやりたいなとは思っていたのですが、

犬ってなんだよ。

という至極当然の問題にぶち当たります。着ぐるみ着て出る?コメディとは言え、そういうナンセンス的なテイストは作品群全体からしても少しスベるなあという予感があり(今思えばそれくらい振り切った作品が一つくらいあっても良かったかも)、とりあえず犬を男にして、牧野君に演じてもらうことにしました。
服装もどこにでもいるようなにいやんがいい。と普通のジーンズにセーターといった出で立ちに。
そこから脚本的に大いに悩みます。それはこの犬がどう見えるかというところ。この作品のルールみたいなことです。パターンは二つ。

宇田川さん演じる主人公ヒトミにだけ犬に見える(他の人には人間に見える)。
「え、こいつ犬じゃん」
「何言ってんの、イケメンじゃん」
「イケメン!?」

もう一つは、ヒトミにだけ人間に見える(他の人には犬に見える)。

「え、こいつ人だよね」
「犬だよ」
「犬ぅぅ!?」

これでけっこう中身が変わってきます。いわゆるすれ違いコメディですから、どっちの方がすれ違うのかなと悩み、後者にしました。前者だとどうなってたのかな?それはそれで面白かったかも。

これでマッチアップは終わったのですが、そこからストーリー展開にも悩みが。ジュリアナ東京で犬が出て、面白い感じにはなったんですが、はてこの短編は何がしたいのか、みたいなことです。ひたすらおバカに笑ってもらうのはいいんですが、物語になんか着地点がないと切符も出せない。そのあたりからミライ編を書き進めて色々見えてきて、清水さん演じる女子高生カコをミライ編の母親にしようというナナメ軸アイデアが出てくるのでした。1991年→2021年だから年齢も合いそうだ、ミライ編とカコ編の橋渡しにもなる、と進んでいきます。そして壮絶不幸のカコちゃんをバブルの二人が助けるという、ある意味人情ものの物語になりました。壮絶な不幸(高校生で妊娠、彼氏と別れ話、親が夜逃げ、借金取りがカチコミに来る、住む家もなくなる)ってたたみ込むようにぶち込んだら違和感ないんだなという謎の学びをした作品です笑

第2話「枕の意味」
土屋兼久主演。前述しましたが劇団員を主人公に物語を書くとなって「なんかやりたい役ある?」と聞いた時、土屋が言ったのが「落語家」。確か言葉や喋りをもっと掘り下げた役がやってみたいといった意図だったと記憶してる。僕も落語には興味があって、短編ならではの、物語全体が一つの落語みたいになったら面白いなと思って書きました。演出的に落語以外のシーンも全て高座でやる(つまりは土屋はずっと落語ポジション)というアイデアは稽古が始まってから決めました。やっぱリスキーでもあったんでね。あと足が痺れるんじゃないかなあとか笑。土屋はうまいこと上体を上げたりして凌いでたみたいですけどね。結果本当に短編ならではのお気に入りの話となりました。長編は無理です笑。

確かトワイライトゾーンだったかな、アメリカの古いテレビドラマ(映画だったかな)で世にも奇妙な物語みたいなオムニバスものがあって、第二話を若き日のスピルバーグが演出してたんですよ。それがホラー系、サスペンス系の作品群の中に、ハートウォーミングなクリスマスの奇跡的な話をぶち込んできて、とても印象に残ってたのです。そういう異質な回にしたいなと思っていたところはあります。6編のうち一つだけちょっと変わってるよねみたいな。首を括ろうとしていた若夫婦や、境内で出会ったルンペンなど、どこかファンタジーを感じさせるというか。この物語全部土屋演じる落語家、縁次の夢だったんじゃないかな、みたいなね。全編落語テイストでお送りしたので、その雰囲気は出せたんじゃないかな。しかし椎名な漫談は絶品だった。

第3話「ポンコツ玉砕隊」
樋口靖洋主演。これも異質といえば異質。だからこの未来切符全体を通して、色々チャレンジした演目であったのかも知れないですね。そういう感想もいただきましたし。終戦直前の頃のパプアニューギニアを舞台に、ひたすら逃げ続けた男を描いた物語です。開始しばらく樋口しか出ない短い(本当に短い!10秒くらい)シーンを暗転を挟みながらフラッシュ風に見せていく演出。こっちの方がリスキーだよ。で、実際リスキーでしたわ。稽古場でひたすら段取りを繰り返しましたが劇場で場当たり(照明や音響を合わせる)をやった時に大問題が発生。それは、暗転の残像が計算よりも全然残ってた(または残らなかった)というもの。残像とは、照明を落としても一瞬で見えなくなるのではなく残像がふわっと残るんですね。それを稽古場で計算してたのですが(具体的には照明落ちても樋口は芝居を少し残す)、思ったより残る。そして残らないシーンも発生(照明の種類によって残像感が変わる)。例えばここは4秒で次のシーン、3秒で次、だからその間にキャストはここまで移動しておく、などの段取りが崩壊。全部劇場で段取りを組み直すという作業が!今回この場当たりがカコ編初日の朝にあったので、マジで久々に幕が開かないかもという冷や汗をかきました。間に合いました。

戦争もの。短編だから重くなりすぎずいける、と思ったところはありましたが、やはり重いですね。僕は死ぬまでに「戦争ものだけど、ずっと笑っていられるコメディを作る」という目標のひとつがありますが、この作品はコメディを狙ってはいませんが、なかなかに戦争を扱うのはやっぱり難しいですね。これがカコ編のラスト、ひいては未来切符のラスト(切符としてはスタートだけど)になるので、その読後感はもう少し明るくしたかったなというのが正直なところです。でもご都合の良いハッピーエンドもしょうもないので、あのラストの二人の表情は良かったなと思います。

という訳で各話書いてきたら長くなっちゃった。次回に繰り越して、滋賀公演など、もう少しだけ未来切符続けます。続く。

今年一年振り返り②未来切符その1

今年一年振り返り②「未来切符〜ミライ編〜」

今年一年を振り返っています。

5月
6番シード
「未来切符〜ミライとカコの6つの物語〜」
東京公演
下北沢GEKI地下リバティ
滋賀公演
滋賀里劇場

いろんなところで話してますが、この演目はファンクラブイベントで「劇シナ書き終えて脳みそ空っぽなんです。6cでどんな公演が観たいですか?」というガチファンミーティングから生まれました。
取り入れた意見は、
・6cメンバー全員が主人公
・短編集は案外人気

です。この二つを掛け合わせて、劇団員が主人公の6つの短編を上演しようと思ったのでした。未来切符という発想はなんだったかな。この頃、「時間」に興味があって、私は現代劇を多く書いてるので、なんか時空を超えるというか、時間軸が動くような物語が作りたいなあと思っていたのです。そこで、時代が少しずつ違う6つの短編は面白いんじゃないかと思った次第。そこから、
・椎名はアンドロイド顔をしている。ゴリゴリの未来編にしよう。
・宇田川さんはバブルの頃が面白そう。本人の最初のアイデアは「犬やりたい」
・小沢さんのオタク老人のネタは随分前からちょっとあっためてた。
・土屋は「落語家」がやりたいと志願した。

などなどあってそれぞれの物語が少しずつ膨らんでいきました。
切符が6つの時代を渡っていくというのは、その後のアイデアです。短編をつなぐ物語の縦軸をどうしようかな、あんまりタテタテしてもやだな(そういえばこないだのポップンさんの短編集もこの縦軸が主張しすぎないけどちゃんと貫いてる感が絶妙に良かった)と思って結構悩みましたが、シンプルにタイトルにある通り一枚の切符にしようという思いに至ります。これで行こうと思った一番の理由が、
未来編は一枚の切符がどんどん未来に進んでいく。つまり物語の順番通りに進んでいく。しかし過去編はどんどん過去に遡る。この構成が面白いなと思ったからです。物語のラストで一枚の切符のスタートが明かされる。ちょっと危険な匂いもする構成ですが、こういう時は面白嗅覚を信じるがよろし。切符で言えばミライ編の第1話が一番難しかった。未来と書かれた謎の切符が物語にすごく意味を持つ出方をするけど、明かされないまま先に進むので。短編集として消化不良にならないかがとてもヒヤヒヤした記憶があります。それではミライ編各話について。

「35キロメートル地点の奇跡」
藤堂瞬主演。2021年の東京という絶妙にちょっとだけ未来、つかほぼ現代劇の感覚で書いたので、まあ現代劇ですねこれ。東京オリンピックの終わった翌年、マラソンコースとなった神田神保町の古本屋街が舞台なのですが、

マラソン札幌開催になった!!

と言う訳でちゃんとこの物語はSFになりましたね笑。けっこう丁寧にマラソンコースをリサーチしたんだけどな。ロケハンもした笑。
藤堂演じる図書館司書が古本に引かれたアンダーラインの謎に迫るというヒューマンミステリー。きました私の好きなジャンル、ヒューマンミステリー。書くのはすごく難しいんですけどね、普通のミステリーより感動が大きいので僕は好きです。この図書館司書探偵というのも絶妙に面白い探偵像だなあと思って、宮島さん演じた恋人の小説家志望の女の子とのコンビもので続編書きたいなあと思いました。ラノベ感あるよねごめんなさいラノベよく知らないけど。案外早くこのシリーズの続編は実現しそうです。お楽しみに。
物語の中心となった本は村上春樹さんの「ノルウェイの森」実は今まで読んだことありませんでした。僕が子供の頃空前のベストセラーで赤と緑の上下巻というのが強烈に記憶の中にあって、カコ編のバブル期を描いた「ジュリアナ犬」に繋がるなと思ったから。作中少しだけ宮島さん演じる流瀬が読んでいる本は伊坂幸太郎の「砂漠」宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」などです。伊坂さんの「砂漠」は大好きな青春小説。こういう感じで人それぞれにある本の物語っていいですよね。神田神保町にはそんな本が山ほどありますよ。

「絶滅した男」
小沢和之主演。2054年だったかな、オタク文化が衰退した時代に、昔伝説のオタクと呼ばれた老人が立ち上がる!(サウナで)。という物語。伝説のオタク、今は老人、という男の悲哀を描いた一人芝居を小沢さんでやったら面白いんじゃないか、というアイデアを、5〜6年前に思いついていて、ずっと寝かせてました。
30年後という近未来をコメディで描くにはどこがいいかなと思って思いついたのが「サウナ」。お風呂とかそういう場所って、もちろん設備は未来化するでしょうが、裸の付き合いは30年くらいじゃ廃れないかなあと思ったから。テレビのリモコン操作で近未来感を出してみました笑。スチームに浮かび上がるとか、このありえそうな感じ、っていう近未来あるある感はうまくいったかな。テレビとお茶の間の双方向放送は、昨年の紅白を見て思いついた(みんなが送った動画を背景に歌手が歌ってた)。小沢さん、宮井さん、大野さん(滋賀は森崎さん)のおじさんトリオのグズグズコメディ。こういうのいいですよね、ずっと見ていたい気になる。実際2時間やるとむつこい。確か全6話中、最初に書きあがったのがこの作品。3日くらいで書いた。
おじさん達のオタ芸はウケましたねえ。あとなんか泣ける。狙い通りといえば狙い通りになりました。こういうのがコメディやってて一番楽しいところ。全力でバカやってる人を見ると笑って泣けるのだ。シャンソン歌手役の宇田川さんは、女優でありシンガーであるSetsukoさんにご指導頂いて、元々歌うまい人でしたがめちゃくちゃ上達してましたね。千秋楽イベントでオタ芸の邪魔なし笑に披露して、それ聞いた宮島さんら出演者が涙するという。その勢いでこないだライブで歌ってたな。オタ芸を振り付けてくれたのはエリザベス・マリー。大人が全力でおバカなことをハイクオリティをやるの、とても大事。

「エッフェル塔は燃えているか」
椎名亜音主演。2121年フランス・パリ。これ一番楽しかったし、お気に入りの作品です。3人の淑女がオートゥと呼ばれるAIアンドロイドで、フランスに起きたテロ事件を止める。というもの。こうやって書くとバリバリSFサスペンスものみたいだけど、3人の女性の友情物語ですね。女の友情という難解な感情をAIは理解することができるのか、みたいなことです。衣装をシンプルでレトロな感じにしたり、音楽や(描かれてはないが)街の雰囲気も懐古主義の未来感を作りました。僕も当初AI同士の会話ってどんなだろうと想像したり調べたりしたのですが、書き始めると不思議と感情は仕組みが理解できていくような気がしました。ああ、まさに脚本家もAIと同じく学びながら成長してるのかなと思ったものです。小難しい単語や言い方の羅列はオートゥ役の椎名、那海さん、高宗さん(滋賀、兵頭さん)は大苦戦してしてましたね。脚本書いてる時は楽しくてしょうがなかったけど。ああ、回りくどくなってないな、もっと回りくどく喋ろう、文献から引いてこよう、みたいな。
「泥棒猫という表現は42の言語で共通だったかしら」
というセリフがあって、佐藤ののぶさんが「そうなんだ」って感心してくださったのですがごめんなさい創作です。ロシュフーコ(だったっけ?)とか友情からみのことわざは本当にあります。
僕が脚本を書きながら学んだAIの仕組み?をキャストに伝えながら、一緒に思考回路を構築していきました。つまり役者さんに「言葉はなんで喋るの?」という思考から始めるようなものです。こりゃ大変ですよ。

え、どれくらい笑うの?笑うという行為の意味は学習してるから反芻してるだけ?いや感情も動いているよ。え?感情が動くとは?

みたいなことです。100年後ってどうなの?とか、そもそも場所がフランスパリ、役名がソフィア、ブルック、といった翻訳劇のテイストもあり、作り上がるのはかなり苦労しました。SFってこういうのすべてやって世界観として立ち上がるから難しいですね。ちょうど次回演出作品もこんな感じのテイストなんじゃないかな(脚本・細川博司さん)。世界観がとにかく大好きな作品でした。
お気に入りのシーンは、最後にオートゥ3人が靴を脱いで走り、その靴を見て3人で笑うというシーン。これだけで女の友情という命題を表現できたのは、我ながらナイスアイデアかなと思います。今年一くらい良いアイデアかも。あとはブルックのキスシーンかな。大人なSFが作れたんじゃないかなと思います。全編シャンソンも良かったですね。

とりあえずミライ編はこのくらいにして、次回はカコ編、あとは滋賀公演やキャストさんの感想なども書きたいなあ。次回へ続く。