今年一年振り返り⑩「火消しの辰と瓦版屋の娘」

今年一年の舞台を振り返っています。のラスト!

11月30日〜12月4日
劇団6番シード第75回公演
「火消しの辰と瓦版屋の娘」
築地本願寺ブディストホール

さて今年最後の舞台、一言で言えば大変だったけど楽しかったなあ。高宗歩未が体調不良で降板となり、急遽エリザベスマリー・マリーが代役をやってくれて、初日のみ中止とさせて頂きましたが、残り7ステージ無事にやり切ることが出来ました。リズの最大級の感謝と、他にも沢山の方々に支えられて幕を開け、そして幕を下ろすことできました。ありがとうございました。お客様もコロナ渦からだいぶ戻ってきてる感もありました。

ご覧になった方は分かると思いますが、高宗が演じる予定だった「満久蘭(まくらん)」という役は、台詞の量も、担う役割も、えぐい量があったのですよ。リズさんはほとんど寝ないで台詞を入れたみたいです。交代が決まった瞬間から、できるだけ台詞を他の演者さんに差し替えたのですが(台本ご購入頂いた方は探してみてください)、それでもそんなにたくさんは差し替えられず、最後の事件のあらましを語る長台詞は当初カンペを用意しました。たった1日の稽古を終えたリズさんは「やっぱ(台詞を)入れたいっすね」と漢の中の漢発言をし、そして本当に入れきって初日を迎えました。

そんな彼女の千秋楽の舞台挨拶。
「満久蘭は高宗の役です」
「初めて自分のためじゃなく、誰かのために芝居した」
こんなに豊かな言葉が言えるんですよ。すごいっすよ。

さて、物語のほうは、この作品は3年前に上演した「なまくら刀と瓦版屋の娘」の続編、というかシリーズ作で、表の1時間と裏の1時間を描くという「同時刻同時進行コメディ」というのが最大の魅力の時代劇です。

僕自身もすごく楽しみにして、今作のホンを書き始めたのですが、3年前どうやって書いたか本当にわかんない笑。
マジでむずいです。このホンは。特許取りたいなんて言いましたが、誰かやってみるといいよ、本当にむずいから。

表と裏を同時に書き始め、同時に稽古して、最後に上演したような順番で通し稽古をしてみたのでした。なので、とりあえずわかんなくなったら、どっちかのホンを進める。すると反対側の演者の出はけが決まるので、それに合わせて台詞の行数やタイミングを合わせていく、という書き方をしました。もう予言者のような心持ちで「たぶん裏もうまく行く」と信じて書き進めたという訳です。結果、ほぼうまく行きました(後で書き直すとかがあまりなかった)。

主人公お紙の椎名亜音は、当たり役というか伸び伸びと演じてましたね。シリーズならではの魅力ですね。今回相方となった火消しの辰役の鵜飼主水君とのコンビ感も良かったですね。

鵜飼くんは、なんだろうな、本当に真ん中がよく似合う役者さん。千秋楽の前説で鵜飼くんとも話したけど、イケメンかって言われたらそこまでじゃないんですよね、でもど真ん中センターフォワードがよく似合う。どんな台詞書いても嫌なやつにならないですよね。ラストに「バラすなよ、粋じゃねえなあ」って台詞があるんだけど、それ言ってる辰が粋なんだよな。

キャストは本当に厚みがあって、最高の時代劇コメディがやれた手応えがありました。旅一座の座長、佐次郎役の丸山正吾くん、二奏屋役の塩崎こうせいさん、花形役者の那海さんなど、中盤も厚みがすごくて、そこに前回からの続投キャラの藤堂、若林、浮谷などが絡み、さらに宇田川や小島節子さんなどベテランがやんちゃし、さらに、小沢&樋口がWコメディリリーフですよ。樋口の小悪党奉行人は良かったな。

あとそうだ、真野未華さんですよ。この人の胆力はやっぱすごいね。圧倒的なブレなさであの劇中劇をやってましたね。昨日の俺アカで助演女優賞にノミネートすべきでしたね。漏れてました。

この作品は3部作で完結予定でして、次回はお紙がついに結婚か?祝言の朝の表と裏を描く、

「祝い鰹と瓦版屋の娘(仮)」

にご期待ください!

これにて振り返り終わり!
今年も一年ありがとうございました。来年もどうぞご贔屓に。

今年一年振り返り⑨「モーニングコール屋」

今年一年を振り返っています。あと2作品!

10月19日〜23日
オハ劇「モーニングコール屋」
コフレリオ新宿

オハ劇さんは、右近直之さんと愉快な仲間たちが、その名の通り朝に公演やイベントを打っている団体さんで、今年2回「稽古初日」という、朝台本を配ってその場で読み合わせをするという企画に呼ばれまして(前回記事のバスケットボールダイアリーズもそこで久々にお披露目した)、そのご縁でオハ劇さんが初めてやる劇場公演に携わることとなりました。今回の振り返りで何度が書いてますが、新たな出会いを大事にという年初の目標がまた実現しました。

3本の短編のオムニバス公演で、私は1作目の「スヌーズ彼氏」の脚本・演出と、2作品目の「MORNING COLLER LEGENDS(脚本・麻王)」の演出を担当しました。3作品目はワハハ本舗の我善導さんの「アサノオト、カン、キノウタ」で、モーニングコールをテーマにした三作品です。

「スヌーズ彼氏」
新作書き下ろし。朝が壊滅的に起きれない女性が、スヌーズ彼氏という目覚ましアプリで朝起きれるようになり、仕事に恋に奮闘するというお仕事系ラブコメディ。はらみかさん主演。
何かの公演の楽屋で、役者さんに「モーニングコールってやったことある?してもらったことある?」と聞いたところ、意外とある人が多くて、そのエピソードにヒントを得て書き下ろした作品です。昨今のテレビドラマのような、シンプルでキュートなラブコメになったと思います。仕事と恋に奮闘する女子ってやつです。はらみかさん恋愛ものあまりやったことなかったみたいで、恋愛台詞地味に苦戦してましたね笑。

「MORNING COLLER LEGENDS」


映像作家の麻王さんの脚本。演出を担当しました。このホンね、やばいのよ、最初読んだ時、マジ引き受けなきゃ良かったって思いました笑。
あらすじも書きずらい笑。決して起きない女性を起こす為に、モーニングコーラーという、まあ特殊部隊というか、マーベルというか、な面々が彼女を起こそうと試みるが…。という、ジャンルはなんだろ、SFおバカコメディって感じかな。
間違いなく、僕は書かない世界観で、僕が演出したことない世界観でした。だからチャレンジ精神ですごく楽しめました。普通演出だけの仕事だとそんなにプレッシャーないんだけど、この作品は初日に緊張したな。とにかくおバカを全力で突き抜けようとキャストと細部までこだわったなー。そして超絶カッコいいオープニングアクトは、コージさんがすべて構成してくれました。あと数日で稽古終わりの段階で「軽い感じでオープニングアクト的なことやるとカッコいい、からのおバカがいいと思うんです」と提案され、いいですね!と応えたのですが、楽曲からダンスから、キャラ紹介の小道具まで全部用意してくれて、かつ…

めっちゃ尺ある!!!

全然軽くないよ!!!

正直間に合わないんじゃないかと思いました。がっつり踊ってるやん。

この作品に出てた織田あいかさん、3話の一人8役もツボで、面白い女優さんでした。インド人の役ツボ。

そして、昨日ちょうどオハ劇さんの新しい企画「ファーストテイク」で、書き下ろしの「エンドクレジット」という10分の短編を、まさにファーストテイクという感じで、一発本番で上演されました。これも面白い企画でしたね。

オハ劇さん、右近さんは「面白がる力」を大事にされていて、それは僕も通じるところがあるので、参加して楽しい団体さんです。来年もなんかありそうです。

あと1作!大晦日に残ったな笑。

次回は、12月
劇団6番シード「火消しの辰と瓦版屋の娘」です。お楽しみに!

今年一年振り返り⑧「バスケットボールダイアリーズ」「ホームセンターズピリオド」

今年一年を振り返っています。

9月17日〜25日
feathers stage「ショートストーリーズ」

私脚本の短編2作の上演。私は「バスケットボールダイアリーズ」の演出。「ホームセンターズピリオド」は劇団東京都鈴木区の鈴木智晴氏の演出でした。

どちらも短編の中ではとても気に入っている作品で、ホームセンターのほうは、昨年(だったかな?)扇田さん演出で上演されましたね。バスケのほうは、振り返り③の記事で書いた6バンjackNGで上演予定(演出扇田さん、主演宇田川ですげえ楽しみだった)でしたが延期となったので久々の上演でした。

このバスケットボールダイアリーズはね、えぐいハイテンションの芝居なのですよ。ずっと絶叫しながら喧嘩してるような、この座組ほとんどの方は初めてご一緒する女優さん達だったのですが、ホント大変だったと思います。

物語は、弱小実業団女子バスケチーム「だいありダイアリーズ」の試合の、ハーフタイムだけを4試合分描くというトリッキーな構成のグズグズコメディ。主人公のキャプテン陸がイカれテンションのキャラで、舞台2作目だったかな、の公野舞華さんは相当な難易度だったと思いますが、だんだんと頼もしいキャプテン感が出てくるんですよね。後にも先にもこんなトリッキーな主役ってないと思いますよ笑。完全Wキャストで、もうひとチームの陸は小見川千明さん、この方は面白い個性を持ってて、なかなかはっちゃけたキャプテンを作ってくれました。

つまり2チームあった訳ですが、通常のWチーム上演以上に、チームカラーに違いが出て面白かったですね。全然違うチームになった。マネージャー役の高宗歩未と冨永さくらさんなんてまるで違うアプローチだったし、その差を生かした演出にもしたかな。

「ホームセンターズピリオド」は盟友鈴木智晴氏の演出。直接演出してる現場を見た訳ではありませんが、ストーリーラインに丁寧で、キャストのポテンシャルを活かす演出だったのではないかと想像しました。脚本家としてとても満足です。この物語って初演した当時よりも月日を重ねて、再演を重ねて、より良くなってる気がする。作品が勝手に育っているというか。この物語のラストで、同級生で自殺願望のあった小学校教師が、実は煉炭を使って体育館で子供達を殺そうとしていたという事実がわかるのです。そしてその動機が、生徒達が先生をいじめていたということも明らかになります。文字で書くと相当えぐいですよね。でもこの告白の台詞も、初演の時よりもはるかに今日的というか、響くセリフになっていて、そういう部分もこの物語は育っているのかも知れませんね。

今年は短編づいてるんだよなあ。松本プロデュースに始まり、CUBEも、そして次の「モーニングコール屋」も。
毎年30日の夜に、今年一年の俺作品を俺が表彰する完全俺企画「俺アカデミー賞」というのをやっているのですが、今年は短編部門を作ろうかしら。

次回は10月
オハ劇「モーニングコール屋」
です。お楽しみに。

今年一年振り返り⑦「12人の私と路地裏のセナ」

今年一年を振り返っています。

8月10日〜16日
劇団6番シード第74回公演
「12人の私と路地裏のセナ」
中野テアトルBONBON

リベンジの夏第二弾!(リベンジの夏とは前回記事参照)

コロナはなんで夏に増えるんでしょう。3年連続だから絶対なんか科学的理由があると思うんだよな。という訳で、ええと、7波でしたっけ?また猛威をふるい始めていました。勘弁してよ。心が、心がもたないのよ。

と、リベンジ公演がまた中止になったらそれこそもう立ち直れないぞ、いろんな意味でな、とリベンジ第一弾も一緒にやった演出助手の増野君と話していた矢先、

私がコロナ陽性になってしまいました。

今回の稽古は、昨年通し稽古まで行った段階で中止となり、全キャスト続投ということもあって、2週間の集中稽古で本番に向かうスケジュールでした。その半分くらいを療養に当てなければならなくなりました。しかし、増野君が、そしてキャスト皆さんが頑張ってくれた!その間、昨年の通し動画を見ながら、増野君が現場を切り盛りして、とても順調に稽古が進みました。私が復帰した時は、昨年の通し稽古より先の位置にキャストがいて、さらなる高みを目指そうとしていました。

主演の樋口は昨年の骨折が治ってから、タップダンスの自主トレを重ねていました。ここで作品の話をすると、この物語は、12人の人格者を持った田島という男が、セナという女性と出会い、1日限りのタップダンスショーを開くという、ちょっとファンタジックなヒューマンドラマ。人格者が実在の人物だった、セナは本当は…などなど、複雑な多重構造になっていて、昨年の稽古は、それはもうじっくりとキャストさんと私で、キャスト同士で、考察を重ねたような作品です。リベンジワンの袴DEもそうでしたが、その昨年の時間というのが確実に力になっていて、しかもそれを一定期間寝かせておいた熟成感というか、それがさらに作品の深みとなっていくのです。中止やリベンジ公演はもちろん2度とやりたくありませんが、よかった点があるとすれば、確実にこの「長期熟成」をあげますね。

そうそう、この作品のメイキングは昨年から撮影しており、昨年の稽古の様子から中止となった日、そして今年私がリモートで顔合わせに参加した様子など、かなりのドキュメンタリーになるんじゃないかと思ってます。2月ごろ発売だったかな?お楽しみに。

脚本としては、今までにないアプローチと世界観の世界を、とにかくあまり計算せず、左脳よりは右脳で書いたような、そんな作品になりました。ネタ帳の最初のページは、思いついたままの小説調になっていて、その雰囲気をそのまま戯曲にしたいと思ったものです。なったかな。

演出としては、美術青木さんのアイデアの照明タワーが、絵作りの新しい扉を開いた!と感動しました。このタワーには一応ルールをつけて、人格者達の脳内会議(と呼んでいた)のシーンにだけつけました。つまり、合間に謎めいて入る人格者たちの実在のシーンには入れないようにルール付けしました。1シーンだけ例外で、走行する車の流れる街灯的な感じで使いました。照明タワーは今後もいろんな作品で活躍できるポテンシャルを持ってますね。

この作品も1年以上かけて無事幕を下ろしたのですが、不思議な手触りの、独特な位置づけの作品になりました。まるで絵本の中から生まれて、そして絵本の中に消えていったような。そんな物語です。

次回は9月
「バスケットボールダイアリーズ」「ホームセンターズピリオド」です。お楽しみに。

今年一年振り返り⑥「袴DE☆アンビシャス!」

今年一年を振り返っています。

7月13日〜18日
UDA☆MAP vol.11
「袴DE☆アンビシャス!」
池袋BIG TREE THEATER

リベンジの夏第一弾!
8月の12セナとこの作品は昨年公演中止となっており、2連続でリベンジ公演があるという今後も一生ないであろう(ないでほしい)ラインナップの夏を過ごしました。その第一弾。

昨年、2公演だけ上演してコロナで中止となった公演です。主催の宇田川美樹も、私も、キャストのみんなも期するものがあったと思います。全キャストが同じとはならなかったのですが、新しいキャストと共に、再び「スカッピー」に挑む日々が始まりました!

時は大正。貧乏な家の出の女学生カヲル(若林倫香)は、満月の夜に動き出した学校の銅像、杏美林ウメノ(宇田川美樹)と共に、伝説のスポーツ「スカッピー」でオリンピックを目指すが…。

といったあらすじで、まさに少年ジャンプのどスポ根もの。近年のUDA☆MAPは少年ジャンプ味が年々強くなってる気がする。という訳で劇中でその「スカッピー」というスポーツ競技をやるのです。演劇というよりスポーツ観戦というくらいガチでやりました。

スカッピーのルールを超簡単に説明すると、羽子板、薙刀、タンバリン、大きな団扇を使って紙風船を台の上にいるカナメというキーパー役に渡す。すると攻撃チャンスとなり「わっしょいわっしょい」と声が続いている間にセンターサークルで紙風船を割れば得点、というポートボールとカバディと格闘技を混ぜたようなスポーツです。

これ全部オリジナルでルールも全部私とキャスト達で作り上げたのですが(改めて考えてもすごいことですよね笑)、本当に面白い競技になっていて、サスケが陸上種目になるみたいなニュースもあったし、マジでオリンピック競技にならないかなと思っている。

これを舞台でガッツリ2試合(1公演でね)やる訳です。何が大変ってボールが紙風船なのでかなりの不確定要素がある状態で、本番の舞台上で試合をやる訳です。もちろん筋書きがあり(その段取りを覚えるのも大変なのですが)、結末は決まっているのですが、この不確定要素がかなりのライブ感とキャストの躍動感につながったと思っています。何度でも言いますが、

これは、マジで、キャストは、大変です。鬼です。
お前が書いたんや。

しかし昨年作り上げた部分も大きく、キャストはその流れをおさらいしつつ、さらにパワーアップした感がありました。もう普通にスカッピーのアスリートみたいになってた。一度、最初の試合のシーンで「みんなうますぎる」ってダメ出しをしたような気がする。ボールがえぐいくらいのテクニックで回るのよ。初めての試合って設定なのに。
それくらい、仕上がりまくりました。

だんだん各チームが本当のスポーツチームのチームワークみたいになっていくんですよね。攻撃手であるクルネ(小林亜実)やノゾミ(鶴田葵)が的確にポジションを指示したりね。前回骨折で別役になっていた稲葉麻由子も躍動しておりました。
最強敵チーム「チームデンジャラス」のリーダー、ツルギ役の松本稽古さんの無双っぷりは凄かったな。

さらに今回は吊り技(宙吊り)など演劇的演出も増やし、舞台監督さんの手は(人力であげていたので)大変なのことになりました。その舞台監督さんは千秋楽に粋な横断幕を垂らしてくれました。これは感動。ありがとうございました。


最終試合が終わる前の最後のダイジェスト演出がすごい好きなのよ。両チーム円陣で吼えてから、ここはダイジェスト演出なのでボールはある体でパフォーマンスするのですが、そのエネルギーたるや。
あと最後にツルギと生徒会長ユイ(堀有里)ががっきと握手するシーン。はい、沢山の感想に合ったように、そうです、スラダンのアレです。 

こんなにすごい熱量の舞台はなかなかないし、簡単にはやれないんじゃないかな。2年越しとなりましたが、無事終わることが出来ました。わかんないですが、4年に1度オリンピックイヤーに再演するっていうのも面白いかも知れないですね。そうやって競技人口をコツコツ増やしていこう笑。

次回は8月、
「12人の私と路地裏のセナ」
リベンジの夏第二弾です。