ミキシングレディオ2020 振り返り〜コロナ対策劇場編〜

「ミキシングレディオ2020」〜コロナ対策劇場編〜

これから演劇を再開する方へ何か参考になればと思い、今公演で行ったコロナ対策を書いています。今回は劇場編です。

もう一度書きますが、コロナへの価値観や考え方は様々です。やれることやれないこと(お金とかも含めてね)、対策の良し悪しなども様々な意見があるかと思います。これからもうしばらくは続くであろうこの時代で、わりとトップバッター的に公演を行った者の備忘録として参考にしてもらえたらと思います。今回は出来るだけ明日使えそうなことを書いていきます。

・舞台と客席の間に飛沫防止シートを設置
・客席と客席の間に飛沫防止シートを設置
・お客様には検温、アルコール消毒、マスク着用でのご観劇
・チケットはすべて前売り、グッズもネット販売
・換気休憩
・終演後の面会はなし
・フェイスシールド着用公演

大きくはこの7つです。上記6つは公演開催発表と一緒に告知。フェイスシールド着用は、試行錯誤(役者の安全性含め)が必要だったので、後ほどの告知となりました。これらはすべて、劇場の方針や構造、団体の都合、予算の都合、などなど様々な事情が絡んできます。これももう一度書きますが、緊急事態宣言明けすぐの公演だったので「やれることは全部やろう」をモットーにしています。今後情勢の変化やここまでやらなくていいorもっとやらなくてはいけないなどの変化は大いにあると思っています。あくまで2020年6月の出来事として読んでくださいね。

《舞台と客席の間に飛沫防止シートを設置》
ラジオ局の生放送という物語設定に合わせてアクリルパネルとなりました。これは素材がどうであれ、舞台美術の一部のようになるんじゃないかなという目論見は最初からありました。そして舞台美術の青木さんがまさしくそのようなプランニングをしてくださいました。
アクリルパネルは6ミリの厚さのもので、舞台用語のいわゆるサブロク(90センチ×180センチ)を6枚並べました。舞台面ではなく客席面に下から設置。その段差分で高さ165センチくらいの壁となりました。背の高い菅野くんが舞台挨拶の時に少しはみ出してたな笑。照明が反射しないように今回はシーリングという前から当てる照明を使っていません。照明の話をすると、フェイスシールドの反射防止も含めてかなり数を減らした形での灯り作りとなっています。
飛沫防止対策としては100点だと思います。舞台上の飛沫が客席に流れることはまずほとんどないだろうと言えるくらいの遮断感があります。透明度も高く、視覚的な問題はほとんどなかったと思います。一部の席からはパネルのつなぎ目でキャストの顔が曲がって見えるという現象が起きました。出来るだけそうならないようにスタッフさんが頑張って設営してくれましたが、アクリルパネルのクセと劇場床面のフラット誤差で少し曲がってしまう箇所が出ました。それを解消するにはパネルを厚くするというものですが、8ミリにすると予算が爆上がりします笑。6ミリ以下だと多分ゆらゆらするだろうという話でした。
セリフ(音声)が聞き取りづらくなるのは当初から想定していて、舞台前面にフットマイク(大きめの劇場でよく使うもの)、舞台美術にピンマイク(ブースとサブを仕切る低いパネルに仕込んでありました)を仕込んでキャストの声を拡声しています。
問題はこの一点ですね。「ライブ感」かなと思います。遮断が完璧であるということはそれだけ客席と舞台が分離されるということです。演劇、特に小劇場が持つライブ感は弱まるのはどうしてもあるかなと思います。今回の劇場ではひな壇3段目くらいから後ろがむしろ生声が聞こえているライブ感があったように思います。とはいえ最前列のお客様はアクリル越しでも役者のライブ感を楽しんでもらえたようなので、これも観客の受ける印象次第といったところかなと思います。
前説で「まあまあ(お金)がかかった」みたいな笑い話にしましたが、本当にアクリルパネルが品薄で入手するのに大変苦労されたみたいです。本来は1枚1万円くらい?で、その1.5〜2倍くらいの金額がかかりました。これ劇団の持ち物として残してありますので、もし使いたいという方がいたらこのサイトの問い合わせフォームからご連絡ください。格安で貸し出します!(切実)
アクリルパネルのメンテナンスはアルコール系だとクラック(ひび)が入るそうなのでご注意。ハイターを薄めたやつ(塩素系?)を使っていたようです。

《客席と客席の間に飛沫防止シートを設置》
制作の島崎がこのアイデアを提案してくれた時に、これなら公演がやれるかも、と思ったアイデアでした。説明むずいので写真で見てもらう方がわかりやすいかと。こちらです。

このように、客席の椅子をパイプで作った枠で囲い、ビニールシートで覆って、完全に個室状態にしました。これは私も座ってみましたが、快適です。めちゃ快適です。一蘭は偉大だなあと思いました笑。これはすべて手作りです。材料はすべてホームセンターで揃います。枠は塩ビパイプで、水道管用だったかな。島崎曰く「水道管というシールを剥がすのが一番面倒な作業だった」とのこと。これらを組み合わせて椅子に結束バンドで固定します。枠の高さは後ろや隣のお客様の視線の妨げにならないよう、座席の位置によって微妙に変えてあります。僕もチェックしましたが、どの席から見ても舞台が見えなくなるということはありませんでした。匠の技ですね。ビニールシートは市販されているビニール袋です。元々はビニールを貼って、公演毎にすべて消毒作業をするというプランだったのですが、このビニール袋をかぶせるという形になったおかげで、すべて廃棄して取り替えるだけという安全面でも作業面でも画期的に楽になりました。とはいえ私も手伝ったのですが、全席にビニールをはめる作業…なかなか大変です。音の聞こえにはほとんど影響ありません。

《開場、換気休憩》
基本フローはこんな感じです。
開場は15分前。事前に行列を作らないようお願いしてあり、開場の直前から、
整理番号順に並ぶ→チケットをお客様自身でもぎってもらう→検温→アルコール消毒をしてご入場

みなさま本当に協力的で、毎ステージスムーズに開場できました。私も検温やアルコール消毒を担当したのですが、嫌な顔をされる方はおらず、むしろ「ありがとう」とお声かけ頂いた方も多数いて驚きました。開演前に泣きそうになったのはここだけの話。検温って経験した方は分かると思いますがちょっと緊張しますよね。私が検温器を銃を持つように(両手で)構えていたのは反省しております笑。マスク着用率も99.9パーセントでした(お一人だけタクシーに忘れた方がいて、その方にマスクをお渡ししたらお金を出して買いますと言ってくださいました)。開場時間が15分しかないので、お手洗いのみ30分前から解放しました。その後私の前説があって、開演となります。前説は何気にいつも緊張した笑。

換気休憩を上演の間に10分程度入れました。それ用に舞台中央のパネルを固定しない形で作成してもらい、パネルをずらして劇場奥の扉(外)を開けて換気しました。その休憩中にも舞台面の消毒作業を行いました。舞台監督さん、私、音響さん、声の出演真由美役のL山田さん、R古梨さんで行いました。これがいつも稽古場でやっていた風景です。
換気休憩はこの物語はむしろキャストにとってはありがたかっただろうなと思います(くっそハードな芝居なので)。あと昨今は上演時間が2時間でも「長い」と言われるような風潮もあり、1時間で休憩はちょうど良かったかも知れないですね。演出としては、完全なノンストップ1幕劇なので、その雰囲気が損なわれてないように、休憩明けに少し前から始めて(前回までのあらすじ的な)スムーズに後半に入っていけるようにしました。宮古田役の大島くんの絶叫が後半の始まりなので、彼は通常の倍絶叫したことになります笑。
今後換気休憩も当たり前になるようなら、脚本家や演出家は少し意識すると面白いかなと思います。ここで休憩!?気になる!?みたいなやり方とか、逆に前半後半が綺麗に分かれている感じとか。これは逆に面白みを増す為という意味のアイデアです。
上演中もマスク着用でのご観劇をお願いしました。水分はこまめにとってくださいとアナウンスしました。咳エチケットも前説でお伝えしました。前説でジョークで言った「笑いエチケット」はそこそこウケました笑。

《フェイスシールド着用公演》
フェイスシールドの試行錯誤のあれこれは前回の稽古場編を読んで頂くとして、最後まで悩んだのがこの項目です。アクリルパネルを設置したので、キャストの飛沫がお客様に飛ぶことはなくなりました。つまり今公演の本番中のフェイスシールド着用の意義は「キャスト間の本番中の感染予防」ということになります。一方でキャストは本番で最高のパフォーマンスをするというのが最大の目的でありそれが仕事です。それくらいフェイスシールドはキャストへの負担が大きなものでもありました。映像の現場だとリハーサルまでシールドをつけて、本番で外すという話も聞きました。今再開したサッカーも試合中に(おそらく相当)接触がありますが、試合中はマスクもシールドも着用してません。そのかわりに2週間ごと全選手がPCR検査を受けているそうです。このように、最後のパフォーマンスの部分で感染対策をどこまでやるか、どのようにやるか、というのは本当に難しい部分だと思います。ガイドラインには「演出上支障がなければマスク着用」と言った文章にとどまっています。ちょっとツイッターで大喜利みたいになってたし。最初から書いているように、この公演は「やれることを全部やろう」から始まっています。なのでまずはキャストが安心して全力で芝居ができるということを考えてフェイスシールド着用公演としました。そしてご覧になった方はわかると思いますが、それはもう飛沫が飛びまくる演目です。作品のカラーだったり、舞台上でそれなりに距離が取れる演出だったり、今後は舞台美術の中でアクリルやシートを使ってみたりと、対策のやり方は様々できると思います。前回書いたようにマスクも使いようで面白くなると思うし。今私が思う1番のポイントは「キャストが安心して演じられるか」ということだと思います。キャストやスタッフ、脚本家演出家の知恵と工夫によって色々な上演の形が生まれてくると思います。今マスク公演やシールド公演がいくつか上演しているという話を聞きました。どちらもつけずにやる公演もきっとたくさんあると思います。そこには主催者や演出家、そして出演者の様々な判断があってのことだと思います。

前回照明のテカリが、と書きましたが、主にテカるのは上を向いた時、横を向いた時でした。すべてのシーンでテカらないようにするのは無理ですが、できる限り「このシーンのここテカってる」とキャストに伝え、テカらない顔の向きなどをキャストは微調整しました(なかなか大変だったろうなと思う)。場当たりというリハーサルがあるのですが、そこでキャストさんは照明の当たり具合などを確認しますが、今回はテカリにかなり時間をさきましたね。

《その他》
あとは、忙しいスタッフさんにお弁当やケータリングを出すのが現場では普通にありますが、今回は各自で買って頂く形にしました。松本ケ長でおなじみのケータリングも今回は行ってません。平井がすごく残念がっていたな笑。私も作りたかった笑。楽屋は2チーム公演なので、Wキャストの席をうまく配置して間隔を出来るだけ取りました。とはいえ楽屋はどの劇場も基本狭いですからね。ここは別場所を借りるわけにも行かないし、小屋入りまで、そして千秋楽までのキャストの感染予防意識を高めておくのが重要かと思います。楽屋をビニールシートで分ける案もありましたが、逆にリスクが上がる(飛沫残りなど)気がしてやめました。換気は常に行いました。公演初日からはキャストは客席に立ち入らず、舞台に上がる靴はキャストは衣装靴、スタッフは舞台面用の靴に履き替えて移動していました。
キャストスタッフ、関係者などもすべて検温を毎日行いました。

そして演劇恒例の本番前の気合い入れもソーシャルな形で。普段なら肩を組んで円陣なんですけどね、今回は大きな広い輪を作って、拳を上に突き上げる形でした。
「ミキシングレディオ、オンエア!!」

とりあえず今公演のコロナ対策編は以上です。「初めての試みだよ」と笑いながら舞台客席空間を作ってくれたスタッフ陣に、様々な制約をポジティブに立ち向かってくれたキャスト陣に改めて感謝です。なんか忘れてるものがあったら追記します。演出面でもいくつかあるのですが、それは作品振り返りと一緒に次回!

ミキシングレディオ振り返り〜コロナ対策稽古場編〜

「ミキシングレディオ2020」が無事昨日幕を降ろしました。
たくさんの方にご来場頂き、千秋楽はスタンディングオベーションを頂きました。緊急事態宣言解除から稽古を始め、短期間で芝居を作り上げてくれたキャスト陣、新たなチャレンジに挑んでくれたスタッフの皆様、そしてご来場くださった皆様、ご来場が難しくても応援してくださった方々など、感謝してもしきれない思いです。やはり特別な時期の特別な公演だったと思います。

本来なら作品についてのあれこれを、振り返りコラムするのですが、取り急ぎこれから演劇を再開する方達へ向けて、何か少しでも参考になればと思い、今回行ったコロナ対策について出来るだけ具体的に書いて行こうと思います。たぶん長くなります。

そしてコロナへの価値観や考え方は様々です。やれることやれないこと(お金とかも含めてね)、対策の良し悪しなども様々な意見があるかと思います。これからもうしばらくは続くであろうこの時代で、わりとトップバッター的に公演を行った者の備忘録として参考にしてもらえたらと思います。公演を行うか中止かなど、劇団員とともにものすごく考え悩み、精神的な苦労もありましたが、そういったメンタル方面の話は今後どこかでゆっくり振り返りますね。今回は出来るだけ明日使えそうなことを書いていきます。

まず大前提に「出来ることは全部やろう」の精神で臨みました。今後効率化だったり、そこまでしなくてもいいorもっとやらなければいけないといった認識の変化、情勢の変化もあるでしょう。あくまで2020年6月の出来事として読んでくださいね。

《稽古場編》
・毎日の検温
・一時間おきの換気、消毒、手洗い、うがい
・マスクまたはフェイスシールド着用稽古
・リモート稽古
・稽古時間の短縮

が大きな対策ですかね。まず一番リスクが高いのが稽古場と参加するキャストだというのを念頭に置きました。今回恵まれていたのは稽古場さんも空き部屋が多い時期で、稽古する場所と別に空き部屋をキャスト控え室として無償で貸してくださいました。これによりかなりソーシャルディスタンスに余裕ができました。もし団体さんやスペースに余裕があれば2部屋あるととてもいいですよ。でもそれは厳しいだろうなあお金とか色々な意味で。区民館などを使ってる団体さんならもう一部屋押さえておくとかいいかもです。

基本フローはこんな感じです。
・キャスト着到→手洗い、うがい→控え室で検温→稽古着に着替えて、稽古場へ。稽古場の入口にもアルコール消毒を設置しました。
・一時間おきに換気休憩、その都度、稽古場のテーブルや小道具なども全て消毒。
・今回2チーム公演だったので、入れ替え時は稽古をしていたキャストが消毒を終え、次チームと交代といったスパンで稽古が進みました。稽古場に入るときに稽古靴に履き替えています(これは普段からもそうですが、たまに外履きオッケーの稽古場もありますので)。

「検温器」
検温器は劇場でも使うので少し値段高め?の良いものを買いました。1台7000円くらい。おでこで測るやつ。2秒で測れます。なんか安いやつは精度や時間がイマイチらしい。劇場でお客様に使ったものと同じものです。

「消毒」
・過去掃除のアルバイトをしていて、食品衛生責任者の資格も持ってる宇田川さんが色々調べてくれて、消毒隊長と呼ばれていました。
テーブルや小道具の消毒はコロナ対策に有効とされている「界面活性剤」の成分が入っている洗剤を使いました。キュキュットとか食器洗い洗剤などに入っている成分で(同じ銘柄の洗剤でも入ってるのと入ってないのがあるらしいからご注意)、経済産業省のホームページに製品一覧が載っているそうです。次亜塩素酸水は(当時)効果が不明という話が出ていたので、メインは界面活性剤入りの洗剤を使いました。この辺りの最新情報は色々調べてみてください。アルコール、エタノール系は少し値段が高いので、手指、フェイスガード、音響機材、で使いました。後で書きますが、アクリルパネルはアルコールNGです(ヒビが入るらしい)。
・すべて消毒と聞くと「大変だなあ」「めんどくさそうだなあ」と思いがちですが、みんなでやれば5分かからないです。本番中の換気休憩中に私とスタッフがやっていたのを見た方はわかるかと思います。そんなに手間ではないです。あとは「みんなでやる」というのが大事だったのかなと思います。全キャストのコロナ対策の意識が共有されるし、皆楽しんでやってました。メイキングのキャストインタビューでこの消毒作業が思い出に残ってると語っていたキャストがたくさんいました。演出助手さんがやるとか、若手だけでやるとかではなく「全員」でやるというのは大事な気がしますね。

「一時間おきの換気・消毒休憩」
演出家としては稽古がブツ切れになってリズムが作れないんじゃないかといった不安はありましたが、これもそういうリズムになっていけば普通になりますね。むしろキャストさんはマスク着用稽古で負荷がかかっているので、ちょうどよかったくらいの気すらします。なので学校みたいな感じかな。1時間やって10分休憩のリズム。よく演出しててノリノリになって時間忘れるというのがあるので(演出家あるある)劇団員にそうなったら止めて、と伝えてました笑。実際何度か止められた笑。
4時間の稽古だとすると30分くらいは今までより稽古時間が短くなるので、演出や演出助手さんはそのあたりは計算して進める必要があります。

「マスク着用稽古」
基本稽古中は「マスク」か「フェイスシールド」のどちらかを必ず着用した状態で稽古しました。フェイスシールドは色々手間がかかるので、マスク着用稽古の方が主流でした。もちろん演出もキャスト同士も最初は表情が見えない難しさがありましたが、すぐ慣れます。きっと今平井杏奈は面白い顔をしてるんだろうなと想像できるようになる笑。音のこもりもすぐ慣れます。ピッタだっけ?通気性のいいマスクを役者さんはよく使ってて、音の響きも良いです。マスク公演をするならこれかなってくらい。稽古初日レベルで慣れます。僕は作風的に微妙ですが、顔が見えない面白さ(ミステリーとかアングラ系とか)を利点にした演出もあるんじゃないかなあと思ったくらいです。能のようにお面文化もあるしね。つくづく演劇は偉大だな笑。
マスクで気をつけなければいけないのは熱中症や呼吸困難などのキャスト負担です。マラソンでマスクトレーニングみたいなのがあるのかな?そういう高地トレーニング状態になってますので、皆疲労感は強かったはずです。一度椎名くんがのぼせたような状態になり、外の空気を吸って元気を取り戻すといったこともありました。その時私のハードなコメディではマスク公演は無理だなと判断しました。
あとマスクでセリフをガンガン喋るとマスクがずれてくるというストレスとキャストは戦ってましたね。土屋は早い段階でフェイスシールドメインの稽古スタイルにしていたように思います。

「フェイスシールド」
これはひたすら試行錯誤したので長いぞ。メガネ型のフレームにシートをつけるタイプを購入し、それを元に使いやすさ、見やすさなど、様々な試行を重ねました。元となったものは、メガネ30個、シート60枚で3万円くらいだったかと。価格は5月下旬の頃のものなので今は変わってるかもですね。シートは丁寧に洗わないとすぐ傷がつきますが、基本1枚を本番まで使用しています。傷などで換えた人でも2〜3枚程度ですね。
試行錯誤は
・着用方法
・固定方法
・通気や見栄えのためのカッティング
の順番ですかね。飛沫や口の大きさを確認しながら、最後にカッティング作業をしました。半仁田さんが口を大きく開けた時の伸び幅がすごくて(ジムキャリーばりにめちゃくちゃ開く)、普通にカッティングしたけど絶叫シーンではみ出し、もう一度カッティングするということがありました。シートも安くはないので、使い捨てという訳にはいかないので、最後のカッティングは結構繊細な作業です。
いろんなキャストさんがとにかく知恵を出してくれたので、採用されたモデルにキャストの名前がついています笑。

《土屋モデル》
通常のメガネフレーム(透明)に着色して衣装メガネ風にして装着。これ一番作業的にも楽なやつです。目の部分と顎サイドあたりをカッティング。
フェイスシールドでの演技はシートとキャストの口の距離が結構肝で(喋りやすい、音がこもらない、曇らないなど)このモデルはその不安要素がなく、安定感もあります。弱点は照明のテカリ。

《名倉モデル》
土屋モデルを転じて、普通のメガネに結束バンドでシートだけをメガネに直接つけたもの。メガネキャラに使用(御手洗、橋口、清川)。メガネにも個性が出せるし、土屋モデルと利点、弱点は同じです。名倉君はボツになったストローで胸に固定するバージョンなど様々アイデアを出してくれました。

《藤堂モデル》
ネック装着で下からつけるタイプ(古田、社長、典子、シゲさん、宮古田など)。見栄えの良さや照明のテカリなどをほぼ完全に防げるので、当初はこのモデルを中心にひたすら試行錯誤しました。問題は装着時の安定感です。それを解消するのに、スポンジ、耳かけ紐など様々足されています。まず元々のメガネフレームを逆にしてシートと装着します。メガネの突起部分が下(首側)になるので、そこにスポンジを挟み胸(喉元)に置けるようにします。それでも固定はしないので、透明な輪ゴムで耳掛けし、メガネのフレーム部分にもスポンジをボンドで接着し、首部分での安定感を足しました。すべてのフェイスシールドに言えますが、キャストの顔の大きさ、首の長さなどでそれぞれカスタマイズが必要です。この藤堂モデルは首が長いキャストには向かない形かも(首の短い樋口の安定感たるや)。
とにかく見栄えが一番よく、照明テカリも一切ないので、このネック式はキャストの演じやすさが一番の課題です。樋口や工藤さんは衣装として首にタオルを巻いて安定感を増していました。小沢さんはネクタイの下にスポンジを入れ、ネクタイを盛り上げることで安定感を作っていました。

《新井モデル》
そして稽古最終盤に生まれたのがこの形(真希、カッキーなど)。元々のメガネフレームを反対に頭につけてメガネの縁の部分に結束バンドで止める形。当初は「逆名倉モデル」と呼ばれていて、様々な人の英知が結集したかのようなモデル笑。今後もシールド公演があるとしたらこれが主流になるだろうなって感じ。メガネキャラでなくてもいけるし、安定感は半端ないです。頭の後ろにあるメガネ部分は髪型などで隠せます。弱点はやはり照明のテカリ一点のみ。あと女性の髪型に制約が出るかもしれない。今回女性でこの形は真希役の椎名と、L加奈役の柳瀬さんでした。結ばない系の髪型だとどうなるのかな。とにかくひたすら喋る主人公椎名がこのモデルで通し稽古をした時の喜びようったらすごかった。多分ダンスなどの激しい動きも大丈夫です。

あとボツになったのが「大島モデル」という、ネック式の安定感を増すためにメガネの突起部分をアゴにつけて固定するという形。同じようにアゴ装着のマウスシールドも試験購入しましたが、やはりセリフを喋る時のストレスが大きいということでボツになりました。セリフが少ないとかダンス公演とかならマウスシールドは使いやすいんじゃないかと思います。囲う面積も少なめにはなりますが、見栄えやテカリもほぼ気にならないでしょう。

あと曇り防止用にメガネクリンビューを吹きかけて本番などをやりました。一定の効果はあったかなと思います。あと曇りは湿度がたぶん関係することが分かってきたところで稽古終了となりました。フェイスシールドと湿度は音の響き含めけっこう関係性がありそうです。
フェイスシールドは飛沫が残るので管理をきちんとしないと逆にリスクが上がると言われています。稽古場でも本番でも自分のシールドは自分で洗浄、消毒し、所定の場所にしか置かない、というのを徹底しました。
マスクでずっと稽古してて、ようやく試行錯誤を終えて全員がフェイスシールドを着用して稽古した時の演出家の視界の広がりはすごく覚えています。みんなの芝居のギアも一段上がったように見えました。豊かな表情の演技も、当然芝居の魅力のひとつです。

《稽古時間など》
通勤リスクを抑える為に、いわゆる時差通勤という時間帯を稽古時間に設定しました。
・11時〜16時
・11時〜19時
です。遅い時間の満員電車もあるなと思いこの時間にしましたが、最近は遅い時間の電車は空いてるから演劇界でよくある13時〜21時は良いかと思います。
稽古時間は緊急事態宣言明けからで3週間、延べ日数17日、延べ稽古時間は100時間でした。これは2チーム公演としては少ないです。通常公演なら足りる量かなと思います(もちろん演出家さんによる)。ダンスや殺陣などがあればまた変わるでしょうしね。稽古時間や日数の短縮は何よりの対策になりますから、作品クオリティと稽古の効率化は今後も進めていくべきでしょう。ただコロナ前までは「効率化が全てじゃないぞ」と思ってたような古い人間でもありますので、演劇の稽古時間というのは引き続きいろんな人が考えていくことなんだろうと思います。
今回、キャスト体力や健康維持のため「3日に1日休みを作る」という形のスケジュールで進めました。これは良かったと思います。だいたい稽古最終週は集中稽古といって7日〜10日連続稽古になるのが普通ですが、そこにも3日置きに休みを置いたので、キャストの休養にもなったし、本番直前のメンテナンス(美容院とか、マッサージとか)が小屋入り3日前にあったのはとても良かったと思います。演出家としても連日ハードになるころなので良かったですね。これはコロナ関係なく今後もやろうと思います。

《リモート併用稽古》
6Cオンラインというリモート演劇でリモート稽古しまくったのでノウハウはありました。なので試験的に導入してみました。稽古場で何人かが稽古し、リモートで何人か参加という併用型です。結果から言うとそこそこ使えて、そこそこ難しいって感じです。脚本や演目にもよるかなと思います。この稽古のコロナ対策の意義は「稽古場の密防止(人数の抑制)」「通勤などの外出リスクの軽減」ということになります。それとともに時間のない中で芝居を仕上げる、出番がなくても(少なくても)稽古場で他のキャストの芝居を見て空気感を感じる、という演劇にとって大事な部分もあります。だから良し悪しですね。使える演目と効率的じゃない演目があるって感じかなと思います。今作はみんな出ずっぱりで全体の空気感が大事な芝居なので後者ですかね。今回は前半声だけの出演となる道路交通情報センター成瀬役の水野さん、朝比奈さんが多くリモート参加しました。
当初はブースの中がメインの芝居の時にサブを全部リモートで、とかその逆とかを考えていたのですが、台本上ずっと交わりあっているのでそこまで区切った形の稽古は(時間的にも)難しいなと思い、大幅なリモート併用(キャスト半分リモートとか)はやめました。稽古場が広かったという理由もあります。今回は最大3名程度のリモート参加でした。
稽古場では当然リモート参加者の声は若干の誤差があって聞こえますが、それはあまり気にならなかったです。なので今後色々使えると思いました。
例えばシーンや出番が分かれているような脚本なら、今日は過去回想チームはリモートで、とか。あとこれ結構あるなと思ったのは、少し体調が悪いけど無理すれば行けるみたいな時って役者さんは無理して来ちゃうことが多いです。なので風邪やインフルエンザ対策とかでも使えそうです。生理痛重い人などにも有効かと。少し体調が悪い時は無理せずリモートで参加はありですね。
今回は通し稽古をリモート中継して、逆サイドのキャストさんやスタッフさんが在宅で稽古見をしました。狭い稽古場で人数多い芝居なら密回避にはとても良いです。
使用したのはzoomで、長時間使うなら有料(無料だと40分まで)です。私は年間2万円のやつに入ってます。

《その他》
あとは食事の時のリスクが高いと思い、食事休憩は皆ソーシャルディスタンスを取って食事しました。みんなでワイワイ話しながらというのができないのは寂しいですけどね。これも皆さん徹底してました。
いわゆる決起集会や打ち上げといった飲み会も開催していません。稽古最終日だったか、初通し稽古の後だったか、みんなで「くう〜ビール飲みてえ!!」って笑ったのも良い思い出です。リモート飲みをやろうかと思ったりもしましたが、リモート疲れしてたので笑、結局やらずじまいでした。本番を終えた打ち上げも10日後を予定しています。

やっぱりめっちゃ長くなったな!!
劇場編は後日にします。
続く。

告知「松本陽一が脚本のすべてを語り尽くすトーク&セミナー」第二回開催!

昨年やって好評だった、
「松本陽一が脚本のすべてを語り尽くすトーク&セミナー」
を今年も開催したいと思います。これは文字通り、私がひたすら脚本について語り尽くすもので、トーク&セミナーとしていますが、そんなに堅苦しいものではありません。
脚本に興味がある方、脚本はどんな風にして書いてるんだろう、といった興味のある方ならどなたでもご参加頂けます。もちろん脚本を書いてみたい、勉強したいという方にはそれなりにノウハウを提供できますし、俳優さんが聞いても役に立つ内容だと思います。
前回は物語の構造系の話でタイムオーバーになってしまったので、今回は台詞の書き方や細かいギミック、アイデア、みたいな方面を掘り下げられたらなと思っています。
第二部は映画監督の山岸謙太郎さんをゲストにお招きして、映像や映画のシナリオの世界を掘り下げていきます。

「松本陽一が脚本のすべてを語り尽くすトーク&セミナー」

劇作家・脚本家・演出家の松本陽一による脚本セミナー第2回を開催します!面白い物語作り方、脚本の構造、題材の探し方、伏線回収のコツ、などなど、普段なかなか聞くことの出来ない作家のテクニックや裏側を完全公開!実際に上演されたテキストを使って、トーク&座学形式で物語作りの極意に迫ります。ものつくりに興味のある方、演劇や映画をより深く楽しみたい方、俳優やクリエイター志望の方など、幅広く学べる内容です。

○日時
3月15日(日)
第一部…14時〜16時
第二部…16時半〜18時半

1. 第一部 14時〜16時
《上演台本から学ぶ脚本家の隠れたテクニック》
使用予定台本(予定)
「未来切符」「なまくら刀と瓦版屋の娘」「沼田☆フォーエバー」「KAIRO(細川博司脚本)」他

・台本は1ページ目が大事(世界観の立ち上げ)
・伏線の貼り方、回収のコツ
・一行の台詞、読む解く鍵は10ページ前にあった?(台詞の持つ意味、置き方、並べ方)
・演劇の台本は映画の編集のように繋げる(観客の想像力の誘導)
・俳優はどのようにして脚本を具現化するか。

1. 第二部 16時半〜18時半
「作家VS作家トークショー」 ゲスト…山岸謙太郎(映画監督)
映画「ディープロジック」「三十路女はロマンチックな夢を見るか」の山岸謙太郎監督をゲストに迎え、作品作りの苦悩やノウハウ、ハリウッド映画など題材に脚本構造を読み解く意見交換などをトークショー形式で行います。
・映像脚本と演劇脚本の違い。映像演出と演劇演出の違い。
・ハリウッド映画のシナリオを読み解く。(映画「ジョーカー」「パラサイト」など)
・脚本に社会性(時代を切り取る力)は必要か。
・売れる作品と作りたい作品。

第二部終了後に松本陽一、山岸監督を囲んでの懇親会を開催します。物語について、脚本について、自由に語り合いましょう。
※参加は自由です。懇親会参加費は実費となります。

○場所
小松川さくらホール・集会室4
江戸川区小松川3−6−3(都営新宿線東大島駅徒歩10分)

○参加費
1部2部通し参加…4500円
各部のみ参加…2500円
※各部30名まで。定員になり次第締め切らせて頂きます。
※懇親会参加費用は別途実費となります。懇親会のみのご参加はできません。

○お申し込み
2月24日(月)22時より、カルテットオンラインにてご予約開始。
※懇親会にご参加を希望される方は備考欄に「懇親会参加希望」とご記入ください。
※コロナウイルスなどの社会情勢により中止、延期となる場合がございます。予めご了承ください。

水曜コラム⑤「六番寄席」2週連続公演振り返りってすごいな

2週連続の公演振り返り。

先週舞台「KAIRO」の最速振り返りをしたのですが、千秋楽翌日に別の劇場へ行き、仕込みやリハをしたのは初めての感覚でした。つか演劇人生で多分初めてです。

六番寄席。

という劇団イベントを先週末の土日で開催したのですが、これがなかなかの、なかなかじゃないな、相当だな、相当なボリュームで、イベントというよりひとつの公演、ひとつの公演というより、(毎ステージ違うものをやったので)みっつの公演を終えたような心持ち。終演後は皆、戦場から帰還した兵士みたいになってました。お疲れみんな!お疲れ俺!
うちの劇団は「楽しいこと全力でやろうぜ、いくつになっても子供みたいにはしゃごうぜ」という社訓のようなものがあるのですが、社訓はないのですが、そういう考えがみんなにあって、楽しくワイワイ企画しているうちに「こ、こりゃ大変だぞ」となり、でもダウンサイジングなんてかっちょわりいぜ、とばかりに全部盛り込んだらこんなイベントになりました。てへ。

おかげでお客様にもずいぶんと楽しんでもらえたようで何よりです。ゆるめのイベントもいいですし、そういうのを楽しむ方もいらっしゃいますから、どっちが一概に良いとは思いませんが、楽しいことに全力である劇団という矜持は大事だなと思いました。こういうイベントもあり、ゆるめもあり、みたいなことがいいんだろうな。毎回だと肩こるし、僕らには本公演というガチンコがあるからね。

元々は「わし、落語やりたいんだよね」という一言からだったらしいです。で、やりました落語。古典落語「粗忽長屋」にチャレンジしたのですが、奥が深いですねえ。感想を聞くと喜んでもらえたようで一安心。山岸監督から「談志師匠の完コピだ」とお褒めのツイートをいただきましが、まさに談志師匠が好きで、いろんな粗忽長屋を聞いたのですが、やはり談志さんで行こうと。実際耳で聞きながら喋ってみたら、クソ早いのね。おそるべき早さ!それをコピろうと早口でやった部分が「聞き取れなくて笑えなかった」という感想を聞いて、やっぱ一朝一夕に出来る芸じゃないなとしみじみ。あと「すごい緊張が伝わって」という恥ずかしい感想を複数の方から頂いたのですごい緊張してたんでしょうね。あんまり自覚ないんですけどね。でも小劇場落語会のようなものはやりたいな。今回参加できなかった石部さんの落語も見てみたいなあ。

初日は演芸の回ということで、椎名と浮谷くんが漫才をやりました。漫才ってとにかくハードルが高い。イベントだからグズグズでも許してね、みたいなことは両人も思ってなかっただろうし、素晴らしいクオリティだったと思います。イベントの他の演目も、例えば小沢さんの弾き語りとか、拙いけど想いが伝わる内容だったと思います。これ大事だよね。

椎名浮谷の漫才。藤堂宮島の殺陣コント(これわし大好き。中身どうでもよくなるあのバカさ)。土屋藤堂図師のロングコントなど、シナリオは全て演者である彼らが考えました。殺陣コントは藤堂が、ロングコントは土屋がシナリオ考えたそうです。日曜昼回の歌ライブといい、贔屓目なしにみんな多才だよね。と戦場のようなリハを見ながら尊敬しましたわ。椎名の縦笛の狂い弾きが僕は好きでして、今回も入れてほしいとリクエストしました。

そして樋口脚本の短編舞台「或る家族の物語」を上演しました。樋口の自伝的な話らしいですが、30分で見せていく流れや、僕が気に入ってるのは鳩時計の死かな、そういった樋口センスが随所に光る本でした。前説で言いましたが「誰でも一作は傑作を書くことが出来る。人生という名の作品を(詠み人知らず)」と言いますが、これはそういう一発ものじゃないなと最初に読んで思いました。もしその気があるならまた書いてみればいいと思う。

本当なら樋口に(演じた劇団員にも)じっくり時間をあげて仕上げられたらよかったのですが、書いてるようにとにかく戦場のようなリハ、演目数だったので、稽古は実質2日、十時間程度でした。それもあって私は演出助手としてでしゃばりまくり仕切りまくりで、短い時間で作品を仕上げるノウハウを駆使しまくりました。元々樋口とも演出は共同でみたいな話をしてて、やってみると樋口が予想以上に凛としてたので、出来るだけ物語根幹に関わる演出はやってもらおうと。ということで演出助手って実は初めてやったかも。裏側で黙々とやる職人感が好き。役者さんの芝居の生理を見ながら場面転換のキューを決めていくみたいなね。時計の音がチチチチチと鳴る場面転換が印象的だったと思いますが、いつ入れて、いつ消すか、を細かく何度も返す時間がないので、「図師くんと宮島さんが目を合わせて図師くんがふっとそらしたら時計イン」などと台本にメモっていきました。こういうの楽しいんだよなあ。俺の仕事渋いぜ、みたいなね笑。

結局演出助手の思い出みたいになっちゃいましたが、私的一番はやっぱ落語ですね。和服も「絶対買ったほうがいい」と藤堂に言われて上から下までまとめ買い。藤堂に着付けてもらって舞台に上がりました。あれ背筋伸びますね。創作落語(というほどのものでもないけど)「ドーハの喜劇」は楽しく喋ることが出来ました。

こういうガッツリ系?のイベント。ちょうちょいは難しいですが、年一、も難しいカモですが、ちょいちょいやって行きたいなと思った寄席でございました。次回を気長にお待ちください。

水曜コラム④最速!舞台「KAIRO」公演振り返り

舞台「KAIRO」終演しました!今その打ち上げに向かう電車で書いています。公演の振り返りは毎年年末にやってるのですが、電車が大塚に着くまでの時間で、書けるだけ書いてみよう笑。

僕は脚本と演出をやることの方が多いですが、今回は演出のみ。脚本は、盟友(と勝手に呼ばせて頂く)の細川博司さんでした。細川さんの本を演出するのも久しぶり。

演出だけやる時の僕は、おそらく最初は雑にホンを読みます笑。ざっくり読んだり、役者の声を聞いたりしながらチャンネルを合わせる?探る?ようなところがある。このホンのど真ん中はなんだろうなと考える。

僕はこのセリフだったのではないかと思うんですね。
芥「リンデンバウムのような神様(コンピューターが意思を持つこと)は、そう珍しいことではないのですよ」
乾「それを信じる方が時代遅れだ」

すみません、台詞は正確ではないです。これがこの超未来と謳った物語の、脚本が示したその先の面白さなんじゃないかと思いました。その先というのは、こういう人工知能ものの新しい提示の仕方、といった作り手、書き手側の意味もありますし、人工知能が暴走したら怖いねっていう現代起こりえそうな話のその先といいますか。だから超未来と言ってますが、近い未来の物語のようでもありますよね。近未来。そういう感想も頂きました。
ひとつ、現代性とのリンクをどれくらいにしようかと悩んだセリフがありまして。

椿「このままいけばみんなネットに繋がれて管理されてたって訳だよ」

クライマックス前、リンデンバウムの真相を語ると言ったシーンです。物語中では「電脳ネット」という言葉が沢山使われていて、ここも「電脳ネット」にした方がいいか、椿役の瀬戸さんと色々悩んだものです。ネットだと現代感が強いんですよね。でも脚本はここだけ「電脳ネット」ではなく「ネット」になってる。どれくらい現代とリンクするか、肌触りを感じさせるかの重要な部分ですが、結果電脳はつけずに上記のセリフのままで行きました。

肌触りというのは役者の演技全般に求めたものでもあります。こういう設定の物語はどうしても設定勝ちになりがち。「未来の世界は分かったけど、で?」みたいな感想をもらいがち笑。
わかりやすく言えば人間ドラマです。強い設定や特殊なあれこれに負けちゃうんですよね。今回は音響や照明を結構強め派手めに行きたいと思ってたので、より一層役者の演技や感情がくすまないように、これは繊細に演出したかな。演出したというよりは役者さんと一緒に作り上げたと言っていいでしょう。
最初に僕は台本を雑に読むと書きましたが、役者さんはそうは行きません。難しい単語や難しいカタカナ用語も、理解しないと言葉として発することが出来ませんし(できますけど、浅くなりますし)、砂漠都市「KAIRO」という場所はどんなところでどんなものを食べて、といった想像、もはや創造、そして時間軸が行き来するストーリーの理解など、今回は稽古場でここはじっくりと焦らず時間をかけました。僕は割とせっかち系の演出家かなと思ってるのですが、今回は、待った。一緒に考えた。一度それで稽古場がカオスになりましたが笑、演出家も正解は知らないよというメッセージの元、キャストが皆掘り下げ、作り上げてくれたものが、そう言った人間ドラマに繋がったのではないかと思っています。ウロボロスの意味を千秋楽前日に細川さんに聞いちゃった笑。そこは調べろよ。

演出としてはダイナミックにしていった感じかなあ。そんなにエンタメ作品にしようと思って始めてないのですが、出来上がってみたら結構なエンタメになったなあと思っています。
まずは美術と照明でしょうね。超立体舞台とあのLED照明ですね。照明さんが「舞台美術が強いのでシンプルな照明で行きましょう」と言っていたのが印象的。
地味に演出カラーを決定づけたのは「広く使う」だったかも知れません。細川さんの映画のような脚本は演出用語で言う「エリア芝居」が向いているし、それがより映画っぽさを出したりもします。
今回もそんな感じかなあと思ってたのですが、世界を広げたり、役者がダイナミックに動いた方が感情が出る出る理論(諸説あります)で、あの立体舞台を使ってどのシーンも大きく広げて演出したように思います。
あと音楽はノーラン節(クリストファーノーラン)だったかなあと。解放戦線の東がリンデンバウムに乗っ取られそうになるそれぞれのシークエンス(上記椿の語りもここ)を壮大な一曲でガンガン行ったのは大変気にいっている演出だし、あんまりやったことない形でした。

おっと電車が大塚に着きそうです。まあまあ書けたな。
ご来場心より感謝です。

色々無事に終わってよかったよかった。こういう奇跡は何度あってもいい。それは奇跡とは呼ばないね。人の力です。