今年一年振り返り②未来切符その1

今年一年振り返り②「未来切符〜ミライ編〜」

今年一年を振り返っています。

5月
6番シード
「未来切符〜ミライとカコの6つの物語〜」
東京公演
下北沢GEKI地下リバティ
滋賀公演
滋賀里劇場

いろんなところで話してますが、この演目はファンクラブイベントで「劇シナ書き終えて脳みそ空っぽなんです。6cでどんな公演が観たいですか?」というガチファンミーティングから生まれました。
取り入れた意見は、
・6cメンバー全員が主人公
・短編集は案外人気

です。この二つを掛け合わせて、劇団員が主人公の6つの短編を上演しようと思ったのでした。未来切符という発想はなんだったかな。この頃、「時間」に興味があって、私は現代劇を多く書いてるので、なんか時空を超えるというか、時間軸が動くような物語が作りたいなあと思っていたのです。そこで、時代が少しずつ違う6つの短編は面白いんじゃないかと思った次第。そこから、
・椎名はアンドロイド顔をしている。ゴリゴリの未来編にしよう。
・宇田川さんはバブルの頃が面白そう。本人の最初のアイデアは「犬やりたい」
・小沢さんのオタク老人のネタは随分前からちょっとあっためてた。
・土屋は「落語家」がやりたいと志願した。

などなどあってそれぞれの物語が少しずつ膨らんでいきました。
切符が6つの時代を渡っていくというのは、その後のアイデアです。短編をつなぐ物語の縦軸をどうしようかな、あんまりタテタテしてもやだな(そういえばこないだのポップンさんの短編集もこの縦軸が主張しすぎないけどちゃんと貫いてる感が絶妙に良かった)と思って結構悩みましたが、シンプルにタイトルにある通り一枚の切符にしようという思いに至ります。これで行こうと思った一番の理由が、
未来編は一枚の切符がどんどん未来に進んでいく。つまり物語の順番通りに進んでいく。しかし過去編はどんどん過去に遡る。この構成が面白いなと思ったからです。物語のラストで一枚の切符のスタートが明かされる。ちょっと危険な匂いもする構成ですが、こういう時は面白嗅覚を信じるがよろし。切符で言えばミライ編の第1話が一番難しかった。未来と書かれた謎の切符が物語にすごく意味を持つ出方をするけど、明かされないまま先に進むので。短編集として消化不良にならないかがとてもヒヤヒヤした記憶があります。それではミライ編各話について。

「35キロメートル地点の奇跡」
藤堂瞬主演。2021年の東京という絶妙にちょっとだけ未来、つかほぼ現代劇の感覚で書いたので、まあ現代劇ですねこれ。東京オリンピックの終わった翌年、マラソンコースとなった神田神保町の古本屋街が舞台なのですが、

マラソン札幌開催になった!!

と言う訳でちゃんとこの物語はSFになりましたね笑。けっこう丁寧にマラソンコースをリサーチしたんだけどな。ロケハンもした笑。
藤堂演じる図書館司書が古本に引かれたアンダーラインの謎に迫るというヒューマンミステリー。きました私の好きなジャンル、ヒューマンミステリー。書くのはすごく難しいんですけどね、普通のミステリーより感動が大きいので僕は好きです。この図書館司書探偵というのも絶妙に面白い探偵像だなあと思って、宮島さん演じた恋人の小説家志望の女の子とのコンビもので続編書きたいなあと思いました。ラノベ感あるよねごめんなさいラノベよく知らないけど。案外早くこのシリーズの続編は実現しそうです。お楽しみに。
物語の中心となった本は村上春樹さんの「ノルウェイの森」実は今まで読んだことありませんでした。僕が子供の頃空前のベストセラーで赤と緑の上下巻というのが強烈に記憶の中にあって、カコ編のバブル期を描いた「ジュリアナ犬」に繋がるなと思ったから。作中少しだけ宮島さん演じる流瀬が読んでいる本は伊坂幸太郎の「砂漠」宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」などです。伊坂さんの「砂漠」は大好きな青春小説。こういう感じで人それぞれにある本の物語っていいですよね。神田神保町にはそんな本が山ほどありますよ。

「絶滅した男」
小沢和之主演。2054年だったかな、オタク文化が衰退した時代に、昔伝説のオタクと呼ばれた老人が立ち上がる!(サウナで)。という物語。伝説のオタク、今は老人、という男の悲哀を描いた一人芝居を小沢さんでやったら面白いんじゃないか、というアイデアを、5〜6年前に思いついていて、ずっと寝かせてました。
30年後という近未来をコメディで描くにはどこがいいかなと思って思いついたのが「サウナ」。お風呂とかそういう場所って、もちろん設備は未来化するでしょうが、裸の付き合いは30年くらいじゃ廃れないかなあと思ったから。テレビのリモコン操作で近未来感を出してみました笑。スチームに浮かび上がるとか、このありえそうな感じ、っていう近未来あるある感はうまくいったかな。テレビとお茶の間の双方向放送は、昨年の紅白を見て思いついた(みんなが送った動画を背景に歌手が歌ってた)。小沢さん、宮井さん、大野さん(滋賀は森崎さん)のおじさんトリオのグズグズコメディ。こういうのいいですよね、ずっと見ていたい気になる。実際2時間やるとむつこい。確か全6話中、最初に書きあがったのがこの作品。3日くらいで書いた。
おじさん達のオタ芸はウケましたねえ。あとなんか泣ける。狙い通りといえば狙い通りになりました。こういうのがコメディやってて一番楽しいところ。全力でバカやってる人を見ると笑って泣けるのだ。シャンソン歌手役の宇田川さんは、女優でありシンガーであるSetsukoさんにご指導頂いて、元々歌うまい人でしたがめちゃくちゃ上達してましたね。千秋楽イベントでオタ芸の邪魔なし笑に披露して、それ聞いた宮島さんら出演者が涙するという。その勢いでこないだライブで歌ってたな。オタ芸を振り付けてくれたのはエリザベス・マリー。大人が全力でおバカなことをハイクオリティをやるの、とても大事。

「エッフェル塔は燃えているか」
椎名亜音主演。2121年フランス・パリ。これ一番楽しかったし、お気に入りの作品です。3人の淑女がオートゥと呼ばれるAIアンドロイドで、フランスに起きたテロ事件を止める。というもの。こうやって書くとバリバリSFサスペンスものみたいだけど、3人の女性の友情物語ですね。女の友情という難解な感情をAIは理解することができるのか、みたいなことです。衣装をシンプルでレトロな感じにしたり、音楽や(描かれてはないが)街の雰囲気も懐古主義の未来感を作りました。僕も当初AI同士の会話ってどんなだろうと想像したり調べたりしたのですが、書き始めると不思議と感情は仕組みが理解できていくような気がしました。ああ、まさに脚本家もAIと同じく学びながら成長してるのかなと思ったものです。小難しい単語や言い方の羅列はオートゥ役の椎名、那海さん、高宗さん(滋賀、兵頭さん)は大苦戦してしてましたね。脚本書いてる時は楽しくてしょうがなかったけど。ああ、回りくどくなってないな、もっと回りくどく喋ろう、文献から引いてこよう、みたいな。
「泥棒猫という表現は42の言語で共通だったかしら」
というセリフがあって、佐藤ののぶさんが「そうなんだ」って感心してくださったのですがごめんなさい創作です。ロシュフーコ(だったっけ?)とか友情からみのことわざは本当にあります。
僕が脚本を書きながら学んだAIの仕組み?をキャストに伝えながら、一緒に思考回路を構築していきました。つまり役者さんに「言葉はなんで喋るの?」という思考から始めるようなものです。こりゃ大変ですよ。

え、どれくらい笑うの?笑うという行為の意味は学習してるから反芻してるだけ?いや感情も動いているよ。え?感情が動くとは?

みたいなことです。100年後ってどうなの?とか、そもそも場所がフランスパリ、役名がソフィア、ブルック、といった翻訳劇のテイストもあり、作り上がるのはかなり苦労しました。SFってこういうのすべてやって世界観として立ち上がるから難しいですね。ちょうど次回演出作品もこんな感じのテイストなんじゃないかな(脚本・細川博司さん)。世界観がとにかく大好きな作品でした。
お気に入りのシーンは、最後にオートゥ3人が靴を脱いで走り、その靴を見て3人で笑うというシーン。これだけで女の友情という命題を表現できたのは、我ながらナイスアイデアかなと思います。今年一くらい良いアイデアかも。あとはブルックのキスシーンかな。大人なSFが作れたんじゃないかなと思います。全編シャンソンも良かったですね。

とりあえずミライ編はこのくらいにして、次回はカコ編、あとは滋賀公演やキャストさんの感想なども書きたいなあ。次回へ続く。

トムコラム