今年一年振り返り④「CUBE〜6C春の大感謝祭&新劇団員お披露目公演〜」B公演

今年一年を振り返っています。「CUBE」の後編。

B公演
「浪人街の左利き」
脚本家トークショーなんかでも話したのですが、この作品が新作では一番苦労しました。実にわかりやすいベタな時代劇なんですが、やっぱりベタこそ難しいを痛感。

浪人街でくすぶる三人の浪人は、賞金首の女の子と出会い、やがてその女の子を救う為、武家屋敷に乗り込むが…。

といったあらすじ。オオダイラ演じる主人公の左平次は左利きで普段から刀を右に差している(通常は左)という変わり者。樋口演じる権三、小沢演じる煮右衛門、そして七海とろろ演じる下女の傘奈の4人のぐずぐず底辺の人間たちが世直しを行うという、まさに痛快時代劇って感じ。最近時代劇なんて大河くらいしか見ないですね。僕が子供の頃に見ていた水戸黄門とか銭形平次とか、そういうテイストは入っていたような気もします。

当初は会話劇というか、チャンバラは想定してなかったのですが、やはり左利きの剣士の魅力は刀を抜いてなんぼだろうとなって、急遽、四面四角之助役(この名前いいよね)の名倉君に殺陣指導をお願いして、左利きならではの刀捌きを作ってもらいました。感謝。

オオダイラの魅力ってちょっと変わっていて(と僕は思っていて)、華があるようでない、ないようである、存在感がないようである、あるようでない、って印象なんだよなあ。伝わるかなあ。絶妙にイケメンのようでイケメンじゃないし笑。いやイケメンか。とにかくいろいろ絶妙で独特なんだよな。キャッチコピーをつけるとしたら「クセ強透明人間」とかどう?

そのオオダイラの新劇団員お披露目公演の主演と考えた時に、すぐにふっと、樋口と小沢と3人でつるんでる絵のイメージが出て、ネタ帳にメモしてあった「左利きの鮭」という謎タイトルを使って時代劇に発展しました。隠し砦の三悪人のリスペクトもあったかな。そんなこんなもあって、オオダイラには「とにかくど真ん中(主演)の演技を意識しろ」と演出しました。彼の魅力は引き出せたんじゃないかな。

傘奈役の七海とろろさんが良かったですね。樋口あたりが言ってたと思うが彼女の陽キャラは鉄板です。あの料理歌なんだよ笑。

「ジャガーノート」
細川博司脚本。バンタムクラスステージの細川さんの短編を、以前コラボした時に「同時会話」という演出で「シカゴ新喜劇」にしたのが自分でも衝撃で、短編集やるならまたやりたいと思っていた演目。藤堂瞬、石田太一、高宗歩未、平野隆士の4人芝居。

最初に本を読んだ時にスタイリッシュなのに登場人物たちが滑稽で、でも普通にやるとスタイリッシュ勝ちして、どうやったら僕の感じた滑稽さが出せるのかなと考えた時に、

「ずっと口論」

という同時会話演出を思いついたのでした。これは演じるのは激ムズいのと、凄まじいチームワークというか阿吽の呼吸が必要になる演出です。太一君は唸りながら果敢にチャレンジしてくれてましたね。同時に入れていくセリフはもちろんアドリブなのですが、ある時高宗が、高宗は娼婦でボスの女という役なのですが、

「この○○カ○野郎!」

とさすがに舞台でもピーが入るような言葉で罵って、太一君をノックアウトするという稽古もありました。

稽古もジャズセッションのように、メインの楽譜(台本)はあるんだけど、残りのアレンジは全てキャスト同士のセッションで作っていきました。なので本番でも毎回違う空気感と観客の反応になる演目でしたね。

「巨匠と三毛猫パスタ」
新作書き下ろし。可愛らしい三毛猫と、プライドの高い料理界の巨匠が二人。この設定だけでもう漫画。これをできるだけ漫画漫画するのが目標でした。なんで三毛猫と会話できるのとか、あの実況の人何、とかを気にせず楽しんでもらいたいライトコメディです。

夢麻呂さんがA公演の「アンダーライン」では超薄リアリティ演技だったので、こちらではそれはもう伸び伸びと演じておりました。小沢さんと夢麻呂さんってこれまでも何度か共演してると思いますが、こんなにどシンプルに絡んだのは初めてなんじゃないかな。最初と最後のシンプルダンスをつけてくれたのも夢麻呂さんだったと思います。史上最速で振り入れが終わったって笑ってました。

ストーリーとしては、三毛猫を巡って店の権利書をかけたフレンチの巨匠とイタリアンの巨匠が、料理対決するというもの。つまりストーリーとしては勝つか負けるか引き分けとかそれ以外かというスポーツものの構造と同じシンプルなもの。第一試合どっちを勝ちにするか(他の選択肢もありました。没収試合とか)はとても迷いました。

「シークレットナンバー1643」
新作書き下ろし。劇団員だけの演目と最初から決めていて、新劇団員2人の入った劇団の色はどんな感じになるのか楽しみだった演目でもあります。結果、拍子抜けってくらいオオダイラと高宗が馴染んでいて、もちろんそれはそれでとても良いのですが、あれ、前からずっとこのメンバーだっけ?って思うくらいでした。いや、ほんと。
この脚本の構造は変わっていて(観客には変わってるかどうかなんてどうでもいいくらいおバカな話ですが)、割と高速で物語が展開して行きます。35分くらいの話で、15分の段階で全員デスゲームに参加し、そして全員デスられたところまで進んでいます。その後、それもデスゲームのシナリオのうちだったと推理し、必死で脱出し、それもシナリオだったと分かり、実はそこにゲームの命題の「ハッピーになれる」要素が隠れてて、そんでもって主催者は宇田川演じる近所のおばさんだったというオチ。小気味良
い短編になったかなと思います。劇団座付き作家としての反省は、キャラがどこかで見たような感じになってしまったことかなと。長く劇団をやっていく課題でもありますが、どっかで見たキャラの幅を超えていくのは俳優だけでなく脚本演出としても意識していかなくてはいけないですね。

というわけで、全7作品、盛りだくさんの公演になったかなと思います。

公演のキャッチフレーズ「さあ、演劇を楽しもう」
そこまで強い意識を持ってつけた訳ではないのですが、時勢と相まってキャストスタッフ、そしてお客様にも響いた言葉になったのかなと思います。

次回は、7月

Re:piod PROJECT「また逢おうあの空の下で」

です。お楽しみに。

トムコラム