高橋明日香×松本陽一(4)
“アイドル芝居”からの脱却
- 松本
- 話を戻すと、『まなつの銀河』の初演で、アンナ・クリストフでしたね。
- 高橋
- はい。私もすごい印象あります。
- 松本
- ちょっとイカれた、無邪気にイカれた役でしたね。
- 高橋
- うん、うん。
『まなつの銀河に雪のふるほし』(2012年)
一番右ががあすぴー演じるアンナ・クリストフ
- 松本
- あれも「高橋さんどこにキャスティングしますか」って言われて、絶対これがいいってキャスティングした記憶があります。
- 高橋
- そうだったんですね。へぇー。
私も初稽古のことはすごい覚えてるんです。松本さんや宇田川さんにお会いするのが久々だったんですよ。
- 松本
- 『関ケ原』以来ですね。
- 高橋
- 私は「やっちゃったな…」っていう自負があるので(笑)。
- 松本
- アハハハハ(笑)。
- 高橋
- ヤバい、これでまた下手な芝居したら、「こいつなんも変わってねぇな」っていう目で見られると思って。必死で台本覚えて、こんな風にやろう、みたいな感じのことをやったんですよ。
- 松本
- そうなんだね(笑)。
- 高橋
- そうなんですよ。超緊張してた。みんなの前でやるっていうより何より、松本さんと宇田川さんに見られるっていうのが一番緊張して。
- 松本
- その頃から宇田川が一緒に演出に入るようになりましたね。
- 高橋
- そうですね。怖かったんですよ、2人とも居たから。
- 松本
- で、次が確か『傭兵ども!砂漠を走れ!』ですよね。
- 高橋
- あー、次がそれか。
- 松本
- 『まなつの銀河』で、あー、やっぱりいいな、って思って。
- 高橋
- 松本
- (笑)。変な話、『関ケ原』のあれは…。
- 高橋
- 帳消しになりました?
- 松本
- ちょっと戻った(笑)。
- 高橋
- 戻った?あー、よかった(笑)。取り戻してきた。
- 松本
- で、『傭兵ども』の時に、スナイパーのガクレキをやって、今言ったような僕たちの歴史がひとつゴールになるというか。
それ以来、安心して一緒にずっとやりたい女優さんになるんです。
- 高橋
- あー。
- 松本
- そうそう、Dプロにヒグチ妻役で、あのビジュアルで出演してもらったでしょ。
最初に監督と、ヒグチくんのストーリーを作っていく時に、その時点であすぴーだったんだよね。わりと、ご指名な感じで。
- 高橋
- おお〜。
『Dプロジェクト』ヒグチ君とヒグチ妻(上映会イベントにて)
- 松本
- ヒグチくんに嫁がいたら面白いな〜って言った瞬間、もうあすぴーにオファーしようって思ってた。
- 高橋
- アハハッ(笑)!
- 松本
- この ギャップが面白いと思って。それは『関ヶ原』の夫婦役の思い出があったかもしれないね。夫婦揃って暗殺者の設定になったのは、『傭兵ども』でライフル銃を持ってて、ちっちゃい人が大っきい銃を持つっていう構図が結構美しかったから。
- 高橋
- すっごい面白い役来たな〜って思ったんですよ。スナイパーだし、私も銃を持つ役やるの久しぶりでしたし。なかなか無いんですよ、銃を扱う役って。
- 松本
- そうだね。
- 高橋
- だから、出来る機会が少ないから、そういうチャンスを与えてくれることに、めっちゃ感謝です。
- 松本
- 話を戻しますけど、確か『傭兵ども』の稽古の早い時期に、「なんか変わったよね?」みたいなことを聞いたと思うんですね。
- 高橋
- あ、はい。
- 松本
- なんか、演出家さんに厳しく言われて成長した、っていう話だったと思うんですけど。
- 高橋
- はい、そうなんです。
『まなつ』の直前にやったイベントで、音楽とお芝居の融合みたいな舞台で一緒にやらせてもらった演出家さんに勉強させてもらいました。
まずオーディションを受けたんですよ。公演は1日だけの舞台だったんですけど。出てる人たちが、ほんとすごい人たちだったんで。歌手の相川七瀬さんとか、お芝居部分で平野良さんとか。
- 松本
- あー、イケメン俳優の。
- 高橋
- そうです。めちゃめちゃいろんな舞台に出てらっしゃる。
テレビに出てる方とか、そういう人ばっかり舞台でした。そのオーディションを受けたら私のことをなんか気になってくれて、取ってくれたんですよ。で、勝負所だ、と思って頑張ってたんですけど。
その人たちが、まず言ってくれたのが、「今のままだと君はアイドル芝居で終わっちゃう」。
- 松本
- 高橋
- 「僕たちはそれを変えたい」って言ってくれて。
そういえば確かにアイドル舞台しか出てこなかったから、ほぼ。6番シードさん以外。自分がアイドル芝居してるっていう自覚がなくて。
- 松本
- まあ、アイドル芝居ってそもそもどんな感じか、って話ですけどね(笑)。
- 高橋
- たぶん、芝居っていうものをそもそも分かってなかったんだと思うんですけど。
そこから、私が一番、足引っ張ってたんで、精神的なものから付きっきりでやってもらって。
- 松本
- へえー。
- 高橋
- 「目をつぶって。そこには真っ白い世界が広がっています。」
- 松本
- へえー!
- 高橋
- 「あなたには何が見えますか?」
なんかほんとに精神をコントロールするみたいな。そういう練習から始めてくれたんです。
- 松本
- そういう演劇メソッドなんだね。
- 高橋
- そうですね。それでそこに出てきた人と会話して、とか。
- 松本
- はぁー。
- 高橋
- で、私、そこで初めて泣いたんですよ。泣けてきちゃったんです。
- 松本
- それ一歩間違えると結構危ない話だけど、一歩間違えなければ結構ちゃんとしたレッスン方法なんだよね(笑)。
- 高橋
- そうなんです。
それ見て、「君は大丈夫だ。たぶん変われる。」って言われて。
- 松本
- へぇー。
- 高橋
- 心の問題だと思ったんですよね、その演出家の方は。
- 松本
- ひょっとしたら、『関ケ原』の時の壁もそこだったのかもしれないね。
- 高橋
- んー、そうかもしれないですねぇ。
感情移入するってことがあまり分からなくて。
- 松本
- 役に?
- 高橋
- そうです。気持ちがもともと動かない人だったんで。
- 松本
- まあ、確かに、上手だけどお行儀のいい芝居だな、って昔は思ってましたね。
- 高橋
- あー。いい子にしてる感じ。
- 松本
- なんかダメ出ししづらいというか。そつがなく、まあいっか、ってなる。
- 高橋
- 悪くはないんだけどみたいな(笑)。
- 松本
- うん(笑)。でも、グッとはこないよね、みたいな。
- 高橋
- うーん。
- 松本
- なるほど、そういうレッスンをね。
- 高橋
- はい。やっていただいて。
周りの人たちも、宮地真緒さんとか、すごい方たちのお芝居を見て、やっぱ私とは全然違うことが分かって。次、もしこの方たちと共演したときに、変わっていたいな、っていうのをすごく思って、そこから頑張ろうって思ったんですよね。
- 松本
- だから『まなつ』か『傭兵』かちょっと覚えていないんですけど、そのあたりから変わったな、って思ったんですよ。あと、とっつきやすくなった感じがしますね。
- 高橋
- ATフィールドが徐々に(笑)。
- 松本
- そう(笑)。
やっぱ、色々外に出てる感じがして。演技もそうですけど、普段の稽古場でのたたずまいとか。
たぶん、共演した人はみんなそう思ったと思いますよ。
- 高橋
- よく言われます。確かに。
- 松本
- 何があったんだろうな、って。
- 高橋
- 徐々にでしょうね。いろんな人と関わる中で変わっていったんだと思います。
(つづく)