サカキバラダイスケ×松本陽一(2)

※2017年4月13日、シアターKASSAIにて

サカキバラダイスケ×松本陽一(2)

明るい照明、暗い照明

松本
じゃあ、照明の話からしましょうか。
サカキバラ
あー、はいはい。
松本
何本ぐらいやってますかね?数えきれないぐらいだと思うんですけど。
サカキバラ
一番多い年がたぶん50本超えてたんですよ。途中ちょっとセーブしていた年もあるので、15年間として、ざっくり500本から600本の間ぐらいだと思います。
松本
その間に、成長とか、照明家として変化とか、そういう時期とかエピソードってありますか?
サカキバラ
そうですねえ、ボクのスタンダードって実は6番シードなんですよ。
松本
ほう。
サカキバラ
って言うのは、比較的全体を明るく取る方向性なんですよね。
松本
はい。
サカキバラ
で、明るく取らない演目もあって、例えばバンタムクラスステージの細川さんだと、こういう明かりは全然使わない。
松本
ある意味真逆というか。
サカキバラ
そうですよね。6番シードのスタンダードは、前明かりがあって、横の明かりがあって、トップがあってっていう、舞台照明でいくとかなりオーソドックスに近いんですよ。そこから違うものを要求されてくる演目であったり、演出家さんが現れてきたときに、結構大きく変えるっていうことはありますね。
松本
ああ、その都度手に入れていくという。
サカキバラ
そんな感じはありますよね。
松本
僕の芝居って、今回もそうですけど、いわゆる地明かり(舞台の全体を照らす照明)という一つの明かり、ベースの明かりで、基本明るめなんですけど。
サカキバラ
そうですね。
松本
サカキバラさんはそっちがベースで得意ですよね。
でもある時期、UDAMAPだったと思うんですけど、僕も色んな演目をやるようになって、例えばオープニングとかに、すごい派手な明かりが欲しくなるような時があって、昔ちょっと物足りないなって感じてた部分が、どっかのタイミングで劇的に派手になったな、って思ったことがあるんですよ。
サカキバラ
あー。
松本
『アリゾナ★侍★ガールズ』(2013年8-9月)の時かな。
サカキバラ
それはですね、どちらかというと、腕の問題ではなくて、技術の問題ですね。LEDライトを使うとか…。
松本
あー、機材の問題ですね。LEDが導入されたのが5~6年前ぐらいですか?
サカキバラ
そうですね。KASSAIを始めて1年くらいで使い始めたので。その頃からフェードイン、フェードアウトという、照明の点き消しの一番最後の部分がある程度許容範囲内かなって感じになってきたんで。
松本
あー、昔はLEDだとカチカチしてたんですよね。

photo

サカキバラ
はい。そうすると、派手にするのってどうするんだって話になってくると、スモークをガンガン焚いて光の筋を見せるっていう方法しかなかったのが、まあまあいろいろパキパキ変えていくとか、そういうことが可能になって、そこで結構変わったかもしれないですね。
松本
バンタムさんの仕事もやられてるんですよね。
サカキバラ
KASSAIでやるときだけです。
松本
この間の『サンサーラ』(『サンサーラ式葬送入門』2017年3月)もそうですよね?
サカキバラ
ああ、そうです。
松本
いわゆる、さっきおっしゃっていた細川さんの、僕とは真逆の演出と言いますか、役者さんも背中を向けさせたり、明かりの陰影だったりによる見せない演出なんですけど…。『ルルドの森』(2016年2月)もサカキバラさんですよね?
サカキバラ
そうです。
松本
僕は普段こっち系の照明でしかサカキバラさんとお仕事していないので(笑)、あ、こういう照明も作られるんだ、と思った記憶があります。
サカキバラ
あー、なるほど。
細川さんの作品はですね、ボクとは相性はいいことはいいんですけど。
松本
相性?
サカキバラ
ボクはどっちかというと、さっき言ってたスモークをバンバン焚いてガンガンガンガン筋を出すっていうのがそれほど好きではないので。細川さんの作品はあまりそういうのをやらなくていいんですよ。だから、ひとつひとつのシーンを陰影つけるとか、抜きとかそういう細かいものでパツンと取るとか、そういうことができるんですね。
それと、そうなると今度は(電源の)回路数っていう問題がでてくるんですけど。
松本
はいはいはい。
サカキバラ
回路数的にこっちの方を使わなくていい分、そっちに回すみたいな。
松本
あのー、これは舞台の裏方のことを知らない方も読む対談なんですが、回路の話は面白いですよね。うちらはしょっちゅう戦わせている話ですけど。
サカキバラ
ええ。
松本
あのー、演出家はこれをやりたいあれをやりたいって言うんですが、使える灯体の数と、それよりもなによりも回路の数っていう。
サカキバラ
まあ、そうですね。
松本
回路が足りないので、どれを削るとかっていう話はよくしますね。
サカキバラ
しますね。
松本
ちなみに、KASSAIだと回路数はどのぐらいですか?
サカキバラ
60ですね。
松本
ということは、60パターンの照明が作れるっていうことですか。
サカキバラ
うーん、そうですね。実際にはそれの組み合わせになってくるので、60パターンというか、60種類の…なんていうか、一般のご家庭で言うとスイッチを入れると明かりがつく、そのスイッチが60個あるっていうことで。
松本
はいはい。
サカキバラ
で、そのスイッチごとに明かりを強くしたり弱くしたりできるっていう。
松本
ということは、1階のリビングがつきます。その奥のダイニングキッチンがつきます。2つ同時につけたら1階が全部明るくなります、ってそういう感じですね。
サカキバラ
そういうことです。
松本
横の間接照明がつきますとか。それを組み合わせて、ダイニングキッチンと間接照明だけつけるとかっていうのが60個あると。
サカキバラ
っていうことですね。
松本
あのー、『ルルドの森』のブラインドの明かりとかすごい良かったなと思うんですけど。
サカキバラ
あー、ブラインドね。みんな好きですよね、結構(笑)。
松本
あれ、具体的にはどうやるんですか?
サカキバラ
あれは、ソースフォーという名前の灯体を一般的によく使います。これを使うと、ネタ(様々な模様の光のこと。ネタを出すための金属板素材もネタと呼ぶ。または種板、またはゴボとも)が出せるんです。例えば窓の模様だったり、水玉の模様だったり、
松本
床に木の影が落ちたり。僕も良く使います(笑)。
サカキバラ
便利ですよね。あれ(木の影)があると、とりあえず外なんだなって。
ネタ

ネタ(種板、ゴボ)

松本
とりあえず外に見える。
サカキバラ
あのブラインド明かりは、そういうネタを出す灯体を使っています。
松本
その他にも、LEDライトだったり、ムービングライトっていう動く照明だったりとか、機材の発達や進化もあるんですけど、なんか、それだけ何百もやってると、新しいものっていうのはなかなか出てこないんじゃないですか?発想とかアイデアとか。
サカキバラ
ボクは照明家ではなくて照明屋さんなので、95%はオーソドックスでいいと思っていて、残りの5%でなにか変わったことがあればいいかなあ、と考えているんですよ。で、その5%って演目によってあったりなかったりするんですけど、気合入れるときはだいたいその5%ぐらいで、自分が今までやったことのないものを入れる、っていうのがボクのパターンですね。
松本
なるほど。照明さんの仕事の順番として、まず稽古場で通し稽古をご覧になったり、台本読んだりしますよね。
サカキバラ
はい。
松本
で、その芝居の印象で演出家と打ち合わせをするんですか?5%はその時にひらめいたりとか?
サカキバラ
たぶん、それが一番大きいですよね。あとはどこかに出掛けて、ああ、こういう感じの明かりがあるなあ、とか。
松本
街で。
サカキバラ
街だったりもするし、他の演劇を観たときだったり、映画を観たときだったりとか。あんまり単純に何もないところからスポーンと思いつくことってないんですよね。

(つづく)