サカキバラダイスケ×松本陽一(7)

※2017年4月13日、シアターKASSAIにて

サカキバラダイスケ×松本陽一(7)

最後の1/3にものすごい人数がいる

サカキバラ
小劇場ってだいたいが1公演100人~200人規模な訳ですよ。
松本
はい。
サカキバラ
公演の収入と支出のバランスと、関わる人間の数を突き詰めて考えていったら絶対に成り立つはずがないはずのところで、少しずつ経済が成り立つセクションが増えていった時に、最後に残されたフロンティアがおそらく役者。
松本
そうそう、僕も順番論だと思うんですよ。技術スタッフさんも安いお金で仕事引き受けて頂いたりしてるのであれですけど、順番に対価が払われていて、役者の1つ前が脚本家・演出家なんですね。僕の立場からすると、一番最初にしてくれればいいのに…。
サカキバラ
いひひひ(笑)。
松本
まあ需要と供給っていう話なんだと思いますが。必要人数比、替わりがいるかどうかっていう。で、やっぱり最後に残されてるのが役者だな、って僕も思います。
サカキバラ
そこは本当に難しいところなんですよね。今、仮に東京の演劇のチケット代の平均が4,500円だとします。実際には4,000円くらいだと思うんですけど計算しやすくするために。そうすると4,500円の内訳は大体3分割されるんです。
松本
ほぅ。
サカキバラ
まず、劇場だったり稽古場だったり、事前準備や公演を打つための準備部分に1/3、
松本
1,500円。
サカキバラ
そこからその、(舞台セットを指しながら)こういった美術だったり技術スタッフと機材のほうに1/3、残りの1/3が演出家さんとか役者さんにいく。っていう感じのバランスになるよなーっていつも思ってるんですけど。そこをドーンと崩さないときっと役者さんに生活に足るギャランティを渡すのは難しいんですよ。あと、役者さんのさらに難しいところは、役者さんって数多いんですよね。
松本
そうですよね、人件費だけの話をすると、今の配分では、最後の1/3にものすごい人数がいるってことですよね。
サカキバラ
ふふっ、そうなんです。

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松本
本当はもっと居ますけど、技術スタッフさんが5人だとすると、役者さんが20人くらいいる感じ。
サカキバラ
あのー、決してこの計算方法が正しいとはボクは言い切らないんですけど、一般的な、労働者の考え方をするときに人日(にんにち)で計算するんです。
松本
にんにち!?
サカキバラ
1人の人が10日間働いたら10人日、100日働いたら100人日。っていうことなんです。
松本
なるほど。
サカキバラ
10人の人が10日間働いても100人日。という形で考えていったときに、役者さんパートの人日って非常に多い訳ですよ。例えばこの『人生ガムテ』の公演って、何人ぐらいいましたっけ。
松本
1つの公演(現代編・大正時代編の2公演あった)でいうと、16人くらい。
サカキバラ
16人が30日間練習して…、まぁいいや、計算しやすくするために30日間で稽古と公演まで終わらせたとして計算すると、えーと、480人日。
松本
480人日…。
サカキバラ
えらいことになりますよね。そこの部分に1人日=10,000円として、本当は480万円の取り分、先ほどまでの話で言うと「3分の1」部分が出ないといけないっていうことになってくる訳で。でもそんなのありえない。そもそもチケット代でそこまで行かない。
松本
なので、昔からずっと言われてる事だと思うんですけど、スポンサーを付ける、助成金を貰うっていうのと、さっき言ったようにチケット代を高くする、っていうこの3つくらいしかないんですよね。普通に考えると。

稽古時間を短くすると

松本
もう1つ、人日を減らす作業として、、単純に稽古時間を短くするという策もあるんですけど…。たぶんサカキバラさんも舞台のプロデューサーとして少し頭にあるようなことかもしれないんですが、
サカキバラ
そう…ですね。
松本
とはいえ、一方で舞台は単純に時間がかかる。っていう、ウチの劇団でもずいぶん短くなりましたけど、昔はそれこそ…
サカキバラ
3ヶ月?4ヶ月?くらいやってましたよね。
松本
そう、3ヶ月やってましたね。それはまあまだ若い劇団で、勉強って意味も含めたくさん稽古して、まだ黎明期みたいな時期でもあったと思うんですけど。今の劇団で、ちょっと前までは基本6週間。半分になりましたね。
サカキバラ
はい。
松本
最近もうちょっと短くなりました。単純に、週4日でやってたのを週6日にするっていうことがあったり、劇団員が成熟してきて…というのはありますが、とはいえ、ある程度時間をかけるっていうことに舞台はどうしても意味がある。
サカキバラ
ありますね。
松本
以前、演出家として演出が付ききる最短時間どれくらいですか?って聞かれた時に、ちょっとお話しましたよね。
サカキバラ
あははは!そうです。
松本
僕は2週間だと思うんです。最短でできるのは。
サカキバラ
うん。
松本
ただ、そこにはない、深まり部分っていうのはもうちょっと(時間が)必要なのかな、って。
サカキバラ
そうですねぇ。
松本
ひょっとしたらその仕組みを変えることなのかもしれない。でも、それは単純に、たくさんの回数、役者でやれるようになるっていう方法論ですよね。
サカキバラ
そうです。
松本
で、そこにたくさんやれる仕事が来るのかっていう話もありますよね。
サカキバラ
あとは、役者さんはどうしてもバック(自分扱いのチケットの券売数によってギャラの一部が変動するしくみ)になることが多いので、じゃあ、年間12本やってた時は各公演100人呼んでた人が、24本やった時に100人呼びつづけられるか。たぶん無理です。つまり公演の数を増やせばいいかっていうとそうでもない。
松本
そうなんですよねぇ。
さっきの稽古場の立地の話もだけど、稽古時間の短縮もひとつの、それが全てを解決はしないけれど何かが変わる一助にはなるんですよね。
サカキバラ
そうですね、いろんなところのコストを減らすのは、解決策の1つではありますねぇ。

知名度ゼロの子でも面白いんじゃないか

サカキバラ
ただ、稽古日数を減らすという選択肢は、ある意味ちょっと危険なところがあって、稽古日数が少なくても出来る人しか座組に入らないんですよ。
松本
うーん、なるほど。
サカキバラ
これが何を意味しているかというと、上手い人だけ(公演の)数が増える。上手くない人がそこに対応しきれないので、そこに入っていけないっていう。今、全体的に稽古日数が少なくなってきてるから、エントリークラスの人達が上手くなれる機会が少なくなってきてる感じがしますね。
松本
なるほどね!僕も外部でやったりして、稽古時間がどんどん短くなってるのにすごく違和感があるんです。さっき言ったような話で、与えられた時間の中で作りきるのが演出家の仕事ですから、ちょっと危惧していて。ひょっとしたら今回の『人生ガムテ』で少しそういう思いがあったのかもしれないなって、今考えてます。
サカキバラ
ほぅほぅ。

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松本
今回、オーディションでたくさんの方と会ったんです。
サカキバラ
珍しいくらいオーディションで採った感じでしたね。
松本
ひとつ前の『Life is Numbers(2016年9月)っていうのが、まさに今サカキバラさんが仰ったような、いわゆるちょっと売れてるというか、実力も人気もある人達が集まった公演だったかなと、僕は思っていて。とても満足いっている作品でお客さんの評価も良かったんです。でも一方で、このままずっと高田(淳)くんや図師(光博)くんがウチに客演して高いクオリティの芝居をして、人気者としてお客さんをたくさん動員してくれる、みたいなことを続けていればいいのかを考えると、お客さん含め違うんじゃないかな、っていうのは、少し自分の中で先取り感としてあったんですよね。お客さんがどう思ってるかは分からないですけど。なので、それこそ知名度ゼロの子でも面白いんじゃないかな、とか、知名度はあるけどウチは初めて、とか、今回でいうと中神さんっていうベテランの方がオーディションに来て下さったりとか。
サカキバラ
はい。
松本
劇団の世界を広げるっていう意味もあったんですけど、さっき言ったそうじゃない人達っていうのが上がってきたら何か面白いことになるんじゃないかとは思い、そして今、現代編が終わった段階ですけど、すごくその子たちが劇団員に引けを取らない良い芝居をしてる。単純にお客さんから、オーディションやってクオリティ落ちたね、素人っぽい人達がたくさんいたねって思われたら終わりなんで。そうじゃないことに出来るんだ!という手応えを感じましたね。

(つづく)