サカキバラダイスケ×松本陽一(9)
頼みの役者が取り残されて
- 松本
- プロデュースってベースはやっぱり役者さんなんですよね。
- サカキバラ
- そうなんですよね。
- 松本
- もちろん、作家さんが一つの柱になっている公演もあるんでしょうけど。いつの時代も役者さんの魅力やファンの方々ってのは変わらないとは思いますが、今はちょっとそれが強すぎるのかもしれないですね。
- サカキバラ
- うーん。
- 松本
- 役者頼み。
- サカキバラ
- それは大きいと思いますね。
- 松本
- これ、絶対結論出ないですね。
- サカキバラ
- ですね。
- 松本
- 役者頼みって言いながら、役者が今一番取り残された場所にいるっていう話に戻っていく…(苦笑)。
- サカキバラ
- 取り残された、っていうのは単純に数の問題だったりするので、例えば極端な話をすると、一人で500人とか呼べる人は、どんどんと今、発生してきてますね。
- 松本
- そうですよね。全然面識ないんですけど平野 良さん とかって、それぐらいの…もっとなのかな…分からないけど、人気のある方はそれぐらいあるんだろうと。
- サカキバラ
- そうですね。たぶん、500枚・600枚売る人はそこそこいるはずです。
- 松本
- だとしたら、コストの話だけをすると、500枚売る人がシアターKASSAIで一人芝居をやれば絶対潤う形になる…(笑)。1人ですから。
- サカキバラ
- そう…ですね。だから、そういう人だったら、例えば、極端な話、この至近距離で見られるって話になると一万円でも売れると思うんですよ。
- 松本
- うん、チケットの価値も上がったり。
- サカキバラ
- ただまぁその辺のバランスの試行錯誤は、きっといろいろとみんな自由にやるといいね、ってそんな感じです。
- 松本
- 企画の話で言うと、島崎翼 が番外公演で、いろんな挑戦がしたい、自分が面白いと思うことにチャレンジしたいという発想があるみたいで、次の次とかで、本来なら絶対に埋まらない…いわゆる興行的には…だけど、四人芝居をやりたいと。
- サカキバラ
- それ言っちゃっていいんですか?
- 松本
- まだ、やりたいレベルの話(笑)。
- サカキバラ
- うん、やりたいレベル、ね。
- 松本
- だけど、あのー、劇団とかプロデューサーとしては、例えば“役者さんの数×何十枚”って考えてた時期もあったんです。今思うと、えらいえげつないなと思うんですけど(笑)。それがイコール数字、動員数になるってことにならなくなってきてるな〜と。僕の中では、僕の界隈では、良い意味だなと思うんですけどね。
- サカキバラ
- そうですね。
- 松本
- ここ何年か、アイドルファンの人や、演劇ファンじゃないけどライブ関係が好きだって人が、良い意味で演劇関係に流れてきたと思うんですね、
- サカキバラ
- はい。
- 松本
- で、そこから少しお客さんが人じゃなくて作品を見始めたようなところがあるんじゃないかと。つまり…「誰それが出てるから絶対面白いから行く」だけじゃなくて、例えばチラシだったり企画だったり、「え?三人芝居なの?」とか「松本がシリアス劇をやるの?」とか、そういう何らかのもっと面白い魅力っていうものがきちんとあればお客さんが来てくれる環境になっているような気がしますね。
<脚注>
平野 良 /2008−2010年に『ミュージカル テニスの王子様』シリーズに出演。以降、主演多数。『ふしぎ遊戯』や『ハイスクール!奇面組』などの2.5次元舞台だけに留まらず『お気に召すまま 』等の舞台や、TVドラマ、バラエティに出演するなど幅広く活動している。
観客との距離感
- サカキバラ
- それは…ちょっと6番シードという団体の特殊事情も絡んでいて、6番シードという団体自体がお客さんとかなり近いところにあるっていうのがすごいんですね。何かをやった時に、道を違わなければ共感してもらいやすいんです。共感して、「あ、なるほど」っていうふうにエモーションを動かされる関係性に今、お客さんとあるんですね。
- 松本
- ほほー。
- サカキバラ
- Dプロジェクト なんかもそうなんですけど、参加型の企画のようなものを積極的にやっていく中で、意外性であったりとか独自性であったりとかが伝わりやすくなっている、っていう意味なんです。
- 松本
- 伝わりやすい。
- サカキバラ
- 例えば、ポッと、「アイドル・イケメンだけを起用した公演を今後やってきまーす」っていうプロデュース団体を作ったとします。そこがすごく斬新なことをやっても伝わらないんですよ。
- 松本
- そうかもしれないですね。少しずつ認知度上げろって話かもしれないですね。昔、こんなにいいことやったり斬新な企画やっても響かないなって時期が、6番シードでもすごく長い時間あったので(笑)、ようやく響き始めたってことですかね。
- サカキバラ
- うーん、そうですね。この先の演劇ではすごく重要なことです。
- 松本
- さっき言ってたコミュニケーション?コミュニティ?
- サカキバラ
- あぁ、コミュニティが強くなるっていう…。
- 松本
- ウチは期せずしてというか、意識せずにそういうふうになってきてる?
- サカキバラ
- そういう気はしますね。
- 松本
- でも、割とそんな気はします。なんとなく。僕はファンの人との距離感が近ければ近いほど良いってタイプでもないし、劇団員もそうなんですけど、気が付いたらそうなってる感はちょっとあって。
- サカキバラ
- そこから難しくなってくるのは、コミュニティって強固になればなるほど、 侵入を防ぐんですね。
- 松本
- そうですね。
- サカキバラ
- そこら辺のバランスだったりとか、そういうのは絶対に 。
- 松本
- それはちょっと劇団として考えていきたいな、っていうのは思ってるところですね。
- サカキバラ
- 新しいお客さまはいつでも必要で、新しいお客さまと今まで見てくださったお客さま、両方必要なんです。今まで見てくださったお客さまだって、東京から転勤しましたとか、卒業して就職して忙しくなって芝居を観に行かなくなっちゃいましたとか、
- 松本
- 単純にね。
- サカキバラ
- そういうことも起こってくるし、今回は来れませんってこともあるし。新しいお客さまはいつでも必要です。
2.5次元に行くことに本当に意味があるか
- 松本
- ここ5〜10年くらいで、2.5次元舞台 と呼ばれる作品が一気に増えて、そこから1人で500人以上動員できる役者さんが多数出てきたように思いますね。
- サカキバラ
- 2.5次元っていろいろな面で分かりやすいですからね。セールスポイントも作りやすいし、認知もさせやすい。ただ、その2.5次元に行くことに本当に意味があるかは、ずっと考えていかなきゃいけない。あれです、タコ の足を食ってるようなものかもしれなくて。
- 松本
- おお?新しい言葉が出てきたぞ。タコの足食ってるって何ですか?
- サカキバラ
- 2.5次元って今お金が落ちるジャンルなわけですよ。で、一定のお金が落ちることが決まっている演目のところに、各事務所さんが、これから売り出したい役者を投入する。役者さんがその後に売れるために、その演目をやるっていうことが発生するんですよね。
- 松本
- テニミュ をやったら、次は…みたいな。
- サカキバラ
- そう。今だと『忍たま乱太郎』とかいくつかあるんでしょうけど。事務所のパワーバランスとかそういうのも働いているみたいな、そこに出ることがその後に売れるためのシステムになっている、と思うんですね。ちょっといやらしい言い方をすると、役者を売るためにその演目を使っている、って言ったらいいんですかね。いい演目を作るために、その役者を起用するとか、いい演目をお客さんにお見せするために作っているといえる形に成っていないって言ったらいいのかな。エントリークラスの役者さんの内、イケメンでこれから売っていこう、アイドルでこれから売っていこうっていう役者たちを、より高い商品価値にするために演目を作り続けているって言ったらいいのかな。
- 松本
- 順番がちょっと違うということ?
- サカキバラ
- そういう感じがありますね。演目が、役者を売り出すためのマーケティング装置になっている。で、一本二本ならともかく、そこを目指した演目が氾濫してきたときに何が起こるかっていうと、多分どこかで、すごく売れないっていうことが起こる気がするんです。実際今起こってるんじゃないですかね。
- 松本
- もう、そんな気がしますけどね。
- サカキバラ
- 売れてる演目はめちゃくちゃ売れるけど、売れない演目は全然売れないという・・・。
- 松本
- まぁ雨後の筍みたいになっちゃってますからね。
- サカキバラ
- そうですね。誰しもが知っている有名なタイトルの演目でも、小屋入り前に3割程度しか売れてないとか、ざらに聞きます。タイトルの乱立に対して、制作面が追い付いてないんですよね。ちょっとジャンルはズレますけど、アイドル芝居の方で言うと・・・この7~8年、アイドル芝居を、松本さんも演出に時々入るアリスインプロジェクトや他のところがやってきて、アリスインはずっと続けられてるけど他のアイドル芝居の座組は続けられていない。続けられてるところはどこかっていうと、2つ3つだけのような気がします。
- 松本
- そんなに少ないんですか。
(つづく)