細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 前編(3)
ノリとウソの処世術
- 松本
- じゃあ、扇田さんのお話を。
- 扇田
- はい。
いやー、みんなしっかりしたエピソードがあっていいなぁ。
- 細川
- いや、しっかりしてないでしょ(笑)。
- 扇田
- 僕はほんとにもう、ノリとウソで、ここまで…… 。いや、ほんとにそうなんですよ。
- 松本
- スタートは役者さんですか?
- 扇田
- いや、僕はスタートは…ちょっとこんなこと言うと嫌われるかもしんないんですけど。
- 細川
- はい。
- 扇田
- 僕、とにかく要領のいい人間なんですよ。
- 細川
- (爆笑)
- 扇田
- ものすごく要領がいいんですよ。あと、平気で堂々とウソをつく人間なんで。
- 一同
- (爆笑)
- 扇田
- いや、ほんとに。言ってしまうと詐欺師なんですよ。
- 細川
- その風貌やし(笑)
- 一同
- (笑)
- 扇田
- 今は役のため!
あと、僕普通に、頭も良かったんですよ。
- 細川
- がははははは(笑)。でしょうね。
- 扇田
- 要領がいいんで。
普通に学校に行って、高校も結構いい高校行って。
- 佐藤
- はい。
- 扇田
- 大学も、全然勉強しなかったんですけど受かったんですよ。
- 佐藤
- えー?
- 扇田
- 就職する時、僕らの世代って就職氷河期だったじゃないですか。
- 細川
- うん。
- 松本
- そうですね。
- 扇田
- 当時はバブルが崩壊して、変な奴が企業に受け入れられるみたいな風潮があったんですよ。
- 佐藤
- あー、あったかも。
- 扇田
- そうなんですよ。そんな中で、僕、超態度でかく就職活動してる人だったんですよ。
質問されたら、「その質問の意図が分かりません」とか。
- 細川
- マジで?
- 扇田
- 「それで僕の何を見てるんですか?」とか。
- 細川
- 手、こうしてたん?
- 扇田
- もうこんな感じですよ。
- 一同
- (笑)
- 松本
- むしろバブルな感じですけどね(笑)。
- 扇田
- でもそれがウケて、めっちゃ内定もらったんですよ。
- 細川
- うはははははは!!(笑)。
- 扇田
- もうなんもしてないですよ。大学時代なんもしてないですよ。部活でバスケをやってたくらいで。それでも、当時あった都市銀行の半分ぐらいから内定もらってたんです。
- 佐藤
- えええー!
- 扇田
- そうなんですよ。就活で言ってること全部ウソですよ?
- 細川
- あぶな!
- 佐藤
- え?この話はほんとですよね?
- 扇田
- この話は、全部ほんと。
- 一同
- (笑)
- 扇田
- その中で、今で言うみずほ銀行に入ったんですよ。
- 細川
- えええー!!
- 佐藤
- えええー!!
- 細川
- あかんやん、この見た目。こんな酔拳の最後の敵みたいな。
- 松本
- みずほ銀行 で良かったんじゃないですか?
- 扇田
- ノリで入ってね。普通に就職して1年ぐらい働いてたときに、なんかすっげえつまんねえな、って思ったんですよ。
- 佐藤
- 銀行が?
- 扇田
- 銀行がっていうか、なんか、何でしょうねえ。
- 佐藤
- 社会が?
- 扇田
- このままこうやって普通に自分の人生が終わんのかな?って思ったんですよ。
- 細川
- そんときいくつ?
- 扇田
- それが25歳のときです。
- 細川
- ほお。
- 扇田
- で、25歳ぐらいのときに、家でぼーっとドラマ見てたんですよ。
- 細川
- うん。
- 扇田
- 「芝居やってみようかなー」って思って。
- 佐藤
- マジっすか!?
- 扇田
- ほんとそんなノリなの。
- 佐藤
- かっこいいー!
- 扇田
- それを思ったのが4月ぐらいの話なんですよ。1カ月後の5月に「会社辞めます」って言って。
- 細川
- ほお。
- 佐藤
- 上司に?
- 扇田
- 当時の支店長に。
- 松本
- みずほ銀行の?(笑)
- 扇田
- そうなんです。そしたら支店長が、まあ、そういうのは若手社員によくあるからっていうことで、「なんか話があるんだったら聞いてやるよ」って言って、めっちゃ高そうな店に連れていかれたんです。
- 細川
- うん。
- 扇田
- 「何か仕事に悩んでんのか?」って聞かれて、 「いや、僕ちょっと役者やろうかなと思って」って言ったら、
- 一同
- (笑)
- 扇田
- もう止める言葉がない、みたいな感じで「ああ、そう」って。
- 佐藤
- そうですよね。
ノープランから始まる演劇人生
- 扇田
- 銀行を辞めた次の日ぐらいに上京して、ツテもなんもなしに。
- 細川
- ちょっと貯めた貯金みたいなので?
- 扇田
- そうそう、最後にちゃんとボーナスをもらって。銀行を辞めて上京して、そこからはケチの連続なんですよ。
- 細川
- うん。
- 扇田
- とにかく何をやったらいいか分からないから、学校に行こうと思ったんですよ。
- 佐藤
- あー、演劇学校ですね。
- 扇田
- 東京に来てからそれを考えてるんですから、なんてノープランな!
- 細川
- うん。
- 扇田
- でも、演劇の学校って学費が高いんですよ。
- 佐藤
- 高いっす、高いっす。
- 扇田
- こんなのに金払ってられない、もったいないと。
- 細川
- ふんふん。
- 扇田
- だから、タダでできるところないかと思って探していて、僕、何を考えたのか、某大手事務所の所属オーディションを受けに行ったんですよ。芝居やったことないのに。
- 細川
- おお!?
- 扇田
- そしたら、散々「え?何で来たの?」みたいなことになって。「芝居やったことないんだよね?」「あ、ないっす」って言って。
- 細川
- んははははは!(笑)
- 扇田
- 「でもなんかできる気がします」って。
- 一同
- (爆笑)
- 佐藤
- たくさん内定取った自信があるから。
- 松本
- 失礼ですけど、見た目ですごくイケメンというわけでも……
- 一同
- (笑)
- 松本
- ないですよね。
- 扇田
- そうなんですけど、なんかやれる気がするんです。
- 細川
- ほんで、ほんで?
- 扇田
- で…なんかね、受かっちゃったんですよ。
- 佐藤
- いや、すごいですね。
- 細川
- 俺、この話ワークショップで言おう。
- 一同
- (笑)
- 佐藤
- 今のところ、ノー挫折。
- 扇田
- ノー挫折なんですよ。
- 松本
- 持ってる人ってことですか?
- 扇田
- 分かんないです。
それで当時、竹中直人さんや本木雅弘さんがいる事務所に所属したんです。
- 佐藤
- へぇー。
- 細川
- そこの末席?
- 扇田
- ええ、末席です。普通に役者やってましたけど、でも仕事なんてなんもないじゃないですか。
確かにバーター で仕事は沢山もらえるんですけど、ほんとに脇役ばっかりで。
芝居の勉強がしたいと思っていて。そしたら今一緒に劇団ボブジャックシアターをやっている守山 と、当時バイト先が同じ飲食店だったんですよ。2人とも「芝居の稽古したいねぇ」「だったら2人でやろうか」って言って、2人で芝居の稽古始めたんですよ。タダで。
- 松本
- 守山さんって、ボブジャックシアターの脚本家さんですよね?
- 扇田
- ええ、そうです。
- 細川
- ああ、なるほど。
- 扇田
- 2人で2時間ぐらい延々とエチュード やったりとか。
- 細川
- 2人きりで?
- 扇田
- 2人で。せっかくだから形あるものにしようって言って立ち上げたのが今の劇団なんですよ。
- 細川
- はぁー!
- 佐藤
- へぇー。
- 扇田
- これが役者のエピソードです。
演出家になったのは劇団を始めて4年目か5年目くらいに、あるプロデューサーさんに1本の脚本が気に入られて、これをやりたいって言われたことから始まるんです。
- 細川
- うん。
- 扇田
- 当時、僕はずっと役者やってて、守山が脚本・演出だったんですけど、ただみんなで読み合わせして、舞台に立ってるみたいなもので、演出なんてやってないに等しかったんですね。そしたら「外部から演出家連れてきます」ってプロデューサーさんが言うんで、なんか悔しかったんですよ。
- 佐藤
- うんうん。分かります。
- 扇田
- 自分たちの作品を誰かに触られるのが 。
- 細川
- なるほど、なるほど。
- 扇田
- やったことないのに「あ、僕演出やれますよ?」って。
- 一同
- (爆笑)
- 佐藤
- 軽いノリっすねぇ!
- 扇田
- なーんの実績もないのにやれると思います、みたいに。
- 一同
- (笑)
- 松本
- 佐藤さんがずいぶん悩んで演出をやったというのに。
- 佐藤
- あー、でも俺も、軽いノリでやったかもしれない。
- 松本
- へぇー、最初は軽かったのか。
- 扇田
- 結局そこで全然うまくできなくて、悔しくて、ちょっと演出を一生懸命やろうかなと思って。
- 細川
- なるほど。
- 扇田
- その後、演出をやらせてもらうようになって、そこから今に至っているという。
- 細川
- 意外とそんなもんなんですね。
- 扇田
- そうです。僕はノリとウソでずっとここまでやってきましたから。
(つづく)