細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編(3)
※2017年11月28日、シアターKASSAIにて
好きな役者と嫌いな役者
- 松本
- 好きな役者のタイプとか嫌いな役者のタイプってあります?
- 扇田
- 僕の好きな役者は、イカレてるやつですね。
- 一同
- (笑)
- 扇田
- よくそんな発想でそのセリフを読んで来たな!って。もちろん(物語として)成立していないとダメですよ。成立した上で、イカレたことをやってくるやつは、やるなコイツって思います。
- 松本
- ボブジャックシアターは、今、日本で稀有なイカレ劇団ですよ。
- 一同
- (笑)
- 細川
- ボブジャッククレイジーだ(笑)。
- 佐藤
- 太ってる人が居るのに、また太ってる人を加入させた。デブ増しするか~!すげ~!と思って。
- 一同
- (笑)
- 松本
- あの補強は出来ないですよ。どういう事!?って。僕だったら困りますよ。
- 佐藤
- びっくりの補強でしたね。
- 扇田
- (野球で言うところの)キャッチャー2人入れましたからね。踊れるデブとただのデブが入ったんです。
- 一同
- (笑)
- 扇田
- 良いんですよ、僕は。(メンバーに)入りたいって人は、どんどん入ってもらって。
- 細川
- (佐藤さんに向かって)プロデューサー・役者目線での好きな役者は?
- 松本
- プロデューサー目線は聞きたいですね。
- 佐藤
- 人柄ですよ、人柄。
- 松本
- ほぅ、人柄。
- 細川
- あ~。(納得)
- 扇田
- チケット(を多く)売る人じゃないの?
- 佐藤
- チケット売る人、芝居が上手い、人柄が良い。この3本柱のバランスで考えてます。一応あるんですよ、俺だって。
- 一同
- (笑)
- 松本
- 順序というよりは、チャート表みたいな感じですか?
- 佐藤
- チャート表です。人柄めっちゃいいけど、あ~でもやっぱり芝居……。うーん、それが良いバランスで……、
- 松本
- まあそうですよね。
- 扇田
- 分かる、分かる。
- 松本
- 2個あって1個ないじゃダメだし。
- 佐藤
- 人柄めっちゃ良くて芝居上手いけどチケットがあんまり売れない人、チケットたくさん売るけど人柄……。でも、人柄悪い人って勝手に居なくなっちゃいますよね。
- 扇田
- なんか総合力ですよね。要するに稽古場の雰囲気、ですよね。
- 佐藤
- 稽古場の雰囲気はめちゃくちゃ大事です。
- 細川
- うん。
稽古場の雰囲気が及ぼす影響
- 佐藤
- 稽古場の雰囲気が良い場合と悪い場合で、それこそ集客も変わってくるんです。
- 松本
- それは経験したことがありますか?
- 佐藤
- 悪い方に転がったら、だいたい劇団員以外のゲストが、ゲストだけで飲みに行くんですよ。そこで、現場の悪口を言い始める。そうなるとちょっとヤバい。ENGはそうなったことないですけど、他の座組みでそういうことがあったので。
- 松本
- そうなると、宣伝やチケットを売るモチベーションも上がってこないですよね。
- 佐藤
- 言うことを聞いてくれなくなっちゃう。
- 松本
- その状況だと作品のクオリティも下がりますよね。
- 佐藤
- やっぱり「お客さんを呼んでください」は言わざるを得ないんですよ。でも、「呼んでください」だけだと「じゃあどうやって呼べば良いの?そっちも宣伝しろよ」って言われちゃう。だから、とっかかりとして、今日は役者の公開です、今日はチラシの公開です、みたいな宣伝材料をいっぱい作るんです。あとは、カメラマンさんを稽古場に呼んで、稽古の写真をめっちゃ撮って。
- 細川
- それ!
- 松本
- 僕ね、一度のぶさんに「ENGさんのTwitter に上がってる写真、なんかすごいかっこいいんですよね」って、全然(裏事情を)分からずに聞いたら、カメラマンさんを入れて一眼レフで撮ってるって教えてくれたんです。
- 佐藤
- 3人入れてます。
- 松本
- すごいなと思いました。
- 扇田
- すご~い!
- 松本
- 普通に僕らも役者も、稽古場の写真をTwitterに上げるじゃないですか。でも、のぶさんのところは見たくなる度合いが違うんですよ。それがなんでだろうって思ってたんです。
- 扇田
- やっぱり集客に繋がりますか?
- 佐藤
- もちろんです。
- 扇田
- なるほどね。
- 佐藤
- 本番が始まりじゃなくて、情報公開がワクワクのスタートなんですよ。あと、何より自分がワクワクしていないと(ダメなんです)。僕、本当に面白いと思って宣伝してるんです。全然つまらないのに「ものすごく面白いですよ」って言うと、嘘が下手だからバレちゃうんですよ。
- 松本
- (自身が面白いと思っていることが)のぶさんのモチベーションとか成功の秘訣の根幹じゃないですかね。稽古場にずっといるのも、そういうことですよね。
- 佐藤
- 頭が良いわけじゃなくて、ただ正直なだけなんです。僕、通し稽古を見て「つまんなかった」って言ったことが1回だけあります。「今回の作品、つまんないかも」って言って、もちろん(キャストが)しーんとなって暗くなるんですけど、「ごめん、嘘つきたくないから……」「どうしよう。つまんなかった、どうしよう……」って。キャストは「ええ~!?」ですよね。
- 細川
- さっきから名言ばっかり出すなぁ。ワクワクのスタート……正直なだけだから……。ええわぁ~。
- 一同
- (笑)
- 松本
- やっぱり、ワクワクは大前提じゃないですか。僕も大いに共感します。
- 扇田
- 演劇って……辛いこと多いじゃないですか。
- 細川
- うん。
- 扇田
- 諦めなきゃいけないこともたくさんあるし、楽しくないとやってられないところもあるじゃないですか。
- 細川
- そうですね。
- 佐藤
- だから、ビジュアル公開とか、宣伝動画の撮影とかやるんですけど、座組みの空気がこっちに向いてると全部良い方に行くんですよ。これが悪い方に行ってると、写真を勝手に上げないでください、とかになっちゃうんですよ。
- 扇田
- ええ~!
- 細川
- あるある。
- 佐藤
- 事務所の許可を取ってください、とか。
- 扇田
- そんなのあるの?
- 佐藤
- 全然ありますよ。
- 扇田
- ひょえ~!
- 佐藤
- 肖像権ってあるじゃないですか。
- 扇田
- もちろんありますけど、
- 佐藤
- 肖像権を調べたら、本人が嫌だったら「嫌だ」って言えるんです。本人が嫌じゃなかったら、全然いいんです。
- 扇田
- ほ~。
- 佐藤
- そういうのも全部、空気が良ければうまくいくんです。厳密に言えばひとつひとつ許可を取らないとダメですけど、こっちのホスピタリティも限界があるし、座組み全体の事を考えたら稽古場写真をSNSに公開した方がいいよね、とか。もちろん、ブサイクに写っている写真を公開しちゃったら文句も出ますし、そこはごめんなさいって言ってすぐ削除する、っていう対応はしますよ。でも、やっぱりその辺りのバランスはすごい考えます。だから(自分が稽古場に)いないと、誰かが文句を言い出すんじゃないかって心配なんです。
- 松本
- やっぱり場の空気や流れは大切ですよね。
- 佐藤
- それが全部、集客とかで良い方に行くので。なるべく暗いムードを作らないようにしてます。
自分のベストを尽くす
- 扇田
- (演出家という立場の)我々は、どんな現場に行ってもとにかく最善を尽くそうとするじゃないですか。
- 細川
- はいはい。
- 扇田
- 例えクソのような脚本を渡されても。
- 一同
- (笑)
- 扇田
- それでも頑張るんですよ。とにかく面白いものにしないと、って。
- 細川
- 辛い……。でも、ここ(演出家)が頑張らなアカン、最後の一線だ、ってなりますね。
- 扇田
- 俺が折れたら終わりだ、って思うじゃないですか。でも正直なところ役者さんって、自分に付いてくるお客さんもいらっしゃるから、この(面白くない)作品を見せてしまって自分のお客さんが「あ~、つまんね~」ってファン離れたらどうしよう、って思ったりしないんですか?
- 佐藤
- あります。だから役者も必死ですよ。「う~ん……」ってなる作品もたまにはあるけれど、ファンの人には変なものを見せられないから。
- 扇田
- この考え方がすごく素敵だと思うんですよ。
- 細川
- うん。
- 松本
- 対談で高橋明日香さんに同じ質問をしたことがあるんです。「正直つまらない脚本もあるでしょう。そういう時はどうするんですか?自分のファンも同じような反応になるんじゃないですか?」って。そうしたら、「(つまらない脚本もあるけれど)この中でやれることをとにかく考える」っていう答えが返ってきて、役者さんってやはり強い責任を持ってやってるんだなって。[ 高橋明日香×松本陽一(9) ]
- 扇田
- でもそこに、ファンの付いている役者とファンの付いていない役者の差が出ると思います。ファンが付いてない役者は、そこで諦めちゃうんです。今回つまらないから、そんなに宣伝しないでおこうって。
- 細川
- あぁ、そうですね。
- 佐藤
- 確かにそうかも。あんまり宣伝してくれない。
- 扇田
- ファンの付いている役者は、自分のファンが見に来てくれるから絶対に下手なものは見せられないので、とにかく自分はベストを尽くす、ってなるんですよね。
- 松本
- 確かに。
- 佐藤
- 意識の違いですよね。
- 扇田
- 最近そういう心持ちに変わった役者さんが僕の周りにいて、それからその人の芝居はすごく面白くなったんですよ。
- 細川
- なるほどね。
- 松本
- それは変わりますよ。
- 佐藤
- 意識が上がったんでしょうね。
- 扇田
- (その人は)元々すごく芝居が上手だったんですよ。でも、何かつまらないものを僕は感じていたんですね。ところが最近ファンが付いてきて、その子が(作品を良くするために)発言をするようになった。見に行った本番で、確かに舞台自体はそんなに面白くないかもしれないけど、とにかくその子がすごく輝いていて、これはお客さんも納得するなって思ったんですよ。
(つづく)