細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編(4)
叱られたくないって思ったら終わり
- 佐藤
- 好きな役者ってどんな人ですか?
- 細川
- 好きな役者のタイプはいっぱいあるんだけど、嫌いな役者のタイプはひとつだけ。聞かなくていいことを聞いてくる役者。
- 扇田
- あ~、分かるわ~。
- 細川
- 「あの、次の時にこれをこうしたいと思うんですけれど、やってみていいですか?」「うん、やって」
- 一同
- (笑)
- 細川
- それ以外に何て答えたらいいんですか!?
- 扇田
- これは演出家あるあるですね。
- 松本
- 休憩中に聞きに来る役者の大半は良くないですね。
- 佐藤
- 演出家の隣に座ってるから、それは俺も知ってます。それ聞く必要ないよね?って。
- 松本
- ゼロではないんですよ。もちろん確認したいことはあると思うんです。ただ、そのうちの95%くらいは、聞きに行くことが目的や達成感になっている感じがある。
- 細川
- あと、俺が嫌いな「やっていいですか」は、叱られたくないから聞いてるんです。
- 扇田
- 叱られたくないって思ったら終わりですよね。だから僕、アリスインプロジェクトとかで演出する時は、こんなことしたら叱られるかも……っていう雰囲気に絶対ならないようにしますね。そういう時にうち の民本 を連れて行くと楽なんですよ。
- 一同
- (笑)
- 佐藤
- 分かります!俺の場合、中野裕理さん がそれなんですよ。中野が稽古場の序盤で、あり得ないミスをしたりして誰よりも先に失敗してくれる。それを「中野さん、今日も飛ばしてますね~!」って、肯定するんです。
- 扇田
- でしょ!訳の分からないことをやってスベってるのを「あっはっは!面白いね~」って僕が笑いながら見てるから、みんながガンガン乗ってくるんですよ。
- 細川
- なるほどね。
- 扇田
- そうすると座組みが豊かになるんです。
- 松本
- あの二人、そんな効能があったの!?
UDA☆MAPで二人揃っての演出ばっかりだったから 。二人もいらないんですね。一人でいいんだ。
- 一同
- (爆笑)
- 扇田
- 丸裸でワーって群衆に突っ込んで行って、バサーって斬られてくれる。
- 細川
- 図師 くんとかも近いよね。
- 扇田
- そういう人がいると、 やっていいんだ、っていう現場になる。アイディアを出し合わない現場ってつまらないじゃないですか。
- 細川
- 叱られたくなくて、ゴール前までボールを持って行ってるのに外すのが嫌だからシュートしない、とかね。
- 扇田
- お前が蹴れよ!ってね。
- 細川
- 俺はそれを、特に若い男の子に思っていて、
- 佐藤
- かっこつけちゃうんですよね。
- 細川
- いいよ、叱られろよ。俺は叱るけど、あなたは死なないから、って。
- 扇田
- うちの劇団はそれだけが自慢です。そんなやつばっかりなので。
- 一同
- (笑)
- 松本
- 演出家やプロデューサーってその場の雰囲気作りのスキルも必要ですよね。なんとなく想像するに、扇田さんはそういうのがお上手なんだろうなって。僕なんかは割と細かく演出しちゃうタイプだから、雰囲気作りの面でどうなんだろうな。
- 細川
- 俺も細かいです。
- 松本
- 逆に、萎縮しちゃう役者もいるのかな。
- 扇田
- いや、そんなことはないと思いますよ。
- 佐藤
- 僕は細かい演出家の方が嬉しいですけどね。
- 扇田
- 現場のレベルに合わせるじゃないですか。
- 細川
- そうですね、それはやらざるを得ないことで。
- 扇田
- この現場は最初から楽しい雰囲気をわざと作らなくても、みんなが絶対やってくれるって思える現場だったら任せますし。
- 松本
- そうですね。今回の劇団公演 は、ほぼ劇団員だけだったので、その気遣いはゼロでしたね。ゼロも良くないなって思ったりもしましたけど。
- 扇田
- 松本さんの嫌いな役者は誰ですか?
- 松本
- 嫌い、ねぇ……。
- 佐藤
- 誰?って聞くの!?
- 一同
- (笑)
- 細川
- 好きな役者のタイプは?
- 松本
- 好き、ねぇ……。今、順次公開中の図師くんとのインタビューでもそんな話をしてるんです。 でも、パッと出てこないんですよね。たくさんあるのかな。
- 細川
- むしろ組み合わせとかですよね。
- 松本
- そうですね。役者単体でっていうより、このコンビでさせたいっていうのは山ほどある気がします。単体で好きっていう感覚にはあんまりならないです。やりやすいとかはありますけどね。
- 佐藤
- 座組みのバランスはやっぱりありますよね。あと、自然体な人がいいですよね。僕は、石部 さんと中野 を男女でそれぞれ信頼してるんですけど、あの二人は義の心があるんですよ。
- 松本
- 義?
- 佐藤
- 僕、三国志がとても好きなんです。さっき“時間”が大事っていう話をしたんですけど、僕は時間を費やして宮城 に大学の頃からずっとついてきて、中野も同じDMFの劇団員で自分をかなぐり捨てて裏切らなかった。石部さんも最初から、第1回の主演を務めてくれましたし、ずっとそこから座組みの空気を作ってくれたり芝居もやってくれたりしてるんです。そこに義の心を感じますね。そういう信頼関係ができている役者さんは、敢えてキツイことが言えるし、中野なんて失敗して怒られることで座組みが上手くなる効果がある。
- 一同
- (笑)
脱サラして不死身になった
- 扇田
- 急に話変わりますけど、この先の未来の話とか何かありますか。
- 細川
- えっ、もう対談の終わりに向けた話をする時間?
- 松本
- まあまあ喋りましたよ。1時間40分は経ってますから。
- 一同
- ええ~っ!
- 松本
- 未来の話をするには、ちょっと年寄りくさい話になるんですけど、死について考える事ってありませんか?細川さんはぶっちゃけ体のいろんなとこにガタが来てたりするじゃないですか。
- 佐藤
- えっ?病気なんですか?
- 細川
- 体ボロボロで、あちこち調子悪いですね。例えば最近、スマホで写真を撮る時にどうにもピントが合わないな~って思っていたら、俺の目のピントが合ってなかった。老眼になってたんですよ。だから、スマホを遠ざけないと見られなくなってきたの。あとは、痛風が出た。
- 松本
- そういうこともあって、未来を考える時に同時に終わりも考える年齢になってきたのかな、って思うんです。
- 細川
- そうそう。
- 佐藤
- このテーマは、僕結構話せますね。
- 扇田
- 僕ね、一切無いです。
- 一同
- (笑)
- 佐藤
- 髪の毛サッラサラですもんね。こんな40代なかなか居ませんよ。
- 細川
- 腹立つわ~(笑)。
- 扇田
- 体も健康もあんまり不安なところは無いですし、死に関しても特に考えないです。
- 細川
- そろそろ考えなよ。
- 扇田
- 元々、僕は脱サラして演劇を始めたじゃないですか。だから、会社を辞める時に「自分のやりたい事をやるためには、諦めなきゃいけない事もたくさんあるけど、それでもいいの?」って自問自答をすごくしたんですよ。その選択の結果、お金も無くて、結婚もしなくて、路頭に迷って死ぬ事もあるだろうけど、それは致し方ないな、と僕は思ってます。実際に僕は結婚していないし、このまま死んでも灰になるだけなので。ただ、いつ死んでも良いように、毎日悔いの無いように生きようと思ってます。こういう事言うとかっこ悪いけども。
- 細川
- 夢とか無いんですか?
- 扇田
- 夢はありますよ。夢はあるけれど、終わりは考えないって事です。もしダメだったらダメで良いじゃんって思ってます。
- 細川
- なるほど。
- 松本
- その夢は何ですか?
- 扇田
- 僕は自分が有名になりたいという気持ちは無いんですけれども、自分が面白いと思って作っているものに対して、面白いって思ってくれる人がもっとたくさん増えたら良いな、って事ですね。
- 佐藤
- あ~、俺も同じです。先に言われちゃった。俺も有名になりたいって欲が全然無くて、それで「売れてナンボでしょ」って考えの役者と喧嘩したことがあります。
- 扇田
- 僕はそこに死生観があると思ってます。売れなきゃダメっていうのは、売れないとお金が貰えなくて食っていけないからですよね。お金貰えないと将来が不安になる。つまり、その先に死があるんですよ。その不安が僕には無いので。
- 松本
- 脱サラの時に、捨てた?
- 扇田
- そうです。
- 佐藤
- すごいですね。
- 細川
- 不死身になったの?
- 扇田
- うん、不死身になった。
- 一同
- (笑)
- 佐藤
- ノー挫折で不死身って、全てを手に入れてますよね!?
- 扇田
- 今から、すごく下世話な話をしますね。脱サラの時に、今後誰かを養うことはできないと思ったから、結婚は諦めたんです。それ以来、彼女がもう……16年くらい居ないです。
- 一同
- えー!?
- 細川
- 関心無い割に16年って数えてるあたり、どうなの。
- 扇田
- この前、たまたま数えたんですよ。さらに下世話な話しますよ。その時から女性と性的な事をした事が1回も無いです。だから僕は、一周回って童貞です。
- 一同
- (爆笑)
- 佐藤
- それは言い過ぎ!
- 松本
- なかなかのカミングアウトですよ。
- 佐藤
- だからそんなに髪がサラサラなのかな……。
- 一同
- (笑)
- 佐藤
- 好きな子が出来たり、恋をしたりしなかったんですか?
- 扇田
- あんまりなかったですね。あ、ゲイじゃないですよ。
- 細川
- すごいなぁ。
- 扇田
- 皆さんはそういうのありませんか?
(つづく)