細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編(5)
レアな病気になっちゃった
- 佐藤
- 僕は35歳の時に結婚したんです。婚約して、新居に引っ越した2日目から頭が痛くなったんです。ハウスシック症候群だ、いや、肩こりだ、なんて思っていたんですけど、3週間頭痛が続いたので流石に病院に行ったんです。そうしたら「脳の静脈が詰まってます。今日か明日死んでもおかしくないですよ」って言われて、そのまま入院。脳静脈洞血栓症という、200万人に1人ぐらいの病気でした。
- 扇田
- 血栓症ってそれぐらいの確率なの?
- 佐藤
- 動脈の血栓は起こりやすいんですが、静脈は珍しいんですよ。しかも、男性よりも女性に発症することが多い症状なんですって。そんなレアな病気になっちゃったわけです。でもこっちは結婚目前だから、ドラマみたいに「僕は結婚するんです!3月10日のサトウの日に入籍するんです!」って言って。そうしたら、お医者さんが感動して、血がサラサラになる注射を打ってくれたんですよ。「2時間は効果が持続するから、その間に婚姻届を提出してきなさい」って。
- 松本
- まだ病院にいたんですね。
- 佐藤
- 今日死ぬ、明日死ぬって言われてましたから。そして、その2時間の間に役所に行って婚姻届を出してきたんです。この日のエピソードがもう一つあるので話しますね。その時、ちょうど佐藤圭右 さんって役者さんがお見舞いに来ていて、「俺も佐藤だから付き添うよ」って謎の主張をして、彼も一緒に役所に行ったんです。病院に戻って来てから佐藤圭右さんが「これ、必要だろ?」って言って、エロ本を置いていったんですよ。いらないお節介を焼きやがって……って思いながらエロ本をバッと開いたら、間に10万円入ってたんですよ。
- 一同
- ええ~!
- 細川
- うわ、かっけぇ~。見た目は、子泣きじじいみたいなのに。
- 佐藤
- あ、ご存知ですか?
- 細川
- 自分の作品に出演してもらったこともあるので。
- 佐藤
- そうなんですね。佐藤圭右さんって、自慢じゃないですけど“まりも荘”っていうアパートに住んでいる超貧乏な人なんですよ。その中の10万円を出してくれたってすごいことですよ。俺と嫁、エロ本持ってボロボロ泣いてるっていう、病院の人に不思議がられる状態でした。
- 松本
- サトウの日のエピソード、めっちゃ良いですね。
- 佐藤
- だんだん死生観と違う話になって来ちゃいましたけど。
- 扇田
- もう病気は大丈夫なんですか?
- 佐藤
- 薬は毎日飲んでます。それに、数ヶ月に1回は病院に行って検査を受けてますが、異常は無いので大丈夫です。でも、それがきっかけで「あ、俺、死ぬかも」って、吹っ切れたんです。今は健康ですけど、やりたい事をやろう!と思いますね。
- 松本
- なんか 似てますね。
- 細川
- 二人が兄弟みたいに見えてきたわ。
- 扇田
- 同じ髪型してみます?
- 佐藤
- いや、僕、結婚してるので、同じにはなりませんよ。
- 一同
- (笑)
- 扇田
- 羨ましいなぁ。
細川作品の死生観
- 細川
- 今度は僕が話す番かな。そもそも、僕の場合は、作品にすごく死生観が出るんですよ。
- 松本
- そうですよね。
- 佐藤
- 『サンサーラ式葬送入門』 好きです。
- 細川
- ありがとうございます。あの作品は、本当にお客さんに受けるかどうか不安だったから。
- 扇田
- 初日に観に行って「どうだった?どうだった?どうだった?」ってめっちゃ聞かれました。
- 一同
- (笑)
- 細川
- 出演していた役者がみんな、「頑張ってクオリティは上げてるけど、これどうなのかな?」って首傾げてましたから。
- 松本
- そう考えるとかなり攻めた作品ですね。
- 佐藤
- 僕は「最高でしたよ!」って称賛してたのに、夢麻呂さんが「俺の役、大丈夫かな?」って言ってた。
- 細川
- 夢麻呂さんは「細川くん、俺、これでいいの?」って最後まで首捻ってたもん。「それでええから!」って返して。
- 佐藤
- 良かったですよね、夢麻呂さんの芝居。
- 細川
- うん、めっちゃ良かったです。今までというか若い時というか、死生観で遊んでたなって気付いたんです。この歳になると毎日、体のどこかしらが痛かったり、明らかに体力が落ちてきたのが分かるから、ほんまに明日死ぬかも知れへんなっていうリアリティが出て来ました。脚本を書き始めて一気に書ける量が、以前に比べて減るんですよ。大阪 時代は、脚本・演出・プロデュースまで自分でやっていたのが、だんだんと全部は行き届かなくなったと感じたり。だから、バンタムクラスステージの活動も間を置いてるんです。そうすると、人生であと何本作品を作れるんかな?って考えたりします。
- 佐藤
- まだまだ行けますって!……無責任な発言だけど(笑)。
- 扇田
- ビッグになりたい!みたいな夢はないんですか?
- 細川
- 僕が以前から言っている夢は、外国を舞台にした作品をハリウッドで映画にすることなんですよ。
- 扇田
- わ~、ビッグ~!
- 佐藤
- かっこいい~!
- 松本
- これはビッグですね。
- 細川
- ハリウッドで映画に出来るように設定も書いてるんですよ。実は登場人物の人種とかも、イタリア系やアイルランド系だったり、ユダヤ人だったりと、決めて書いてるんです。その人が言う冗談も、こういった感じのジョークを言うとか決めてます。それを何とかしてハリウッドで映画化したいんですけど、今のところ、特に手掛かりはないですね。
- 一同
- (笑)
- 扇田
- いやでも、今の世の中、何が起こるか分からないですからね。
人生で何作品作れるのか
- 松本
- 自分が作れる作品の数って話が細川さんから出ましたけど、僕はまだ30代の若い頃に、生涯の目標を立てようと思ったタイミングがあったんです。僕は30歳の時に結婚したんですが、その前ぐらいに、この世界で続けていけるのかどうか本気で悩んだ時期がありまして。
- 扇田
- 悩みますよね。
- 佐藤
- 30歳くらいは悩みますね。
- 松本
- やるぞ!って腹を括る瞬間もあって、決心すると少し軽くなるじゃないですか。軽くなると、なぜか運気が回ってくるようになるんですよね。
- 佐藤
- 不思議とそうなりますよね。
- 松本
- ちょっと話が逸れるんですけど、うちの母が励ましてくれた名言があるんです。「あなたは夢が見つかって、それを一生懸命にやれていて幸せだね」って言われて、そこまでは普通の言葉なんです。そこに「それで食べて行けたらいいね」って言ってくれて、順番が逆だったんですよ。その頃の悩みは、芝居じゃ稼げない、結婚もしなきゃいけない、とか現実的な問題だったんです。でも母の言葉で、順番は逆なんだって思えて気が楽になったんです。その後、「食えたらいいね」って気持ちでいたら、実際に食えるくらいになりました。その頃に、漠然としていてはいけないから、生涯の目標をざっくり立てようと考えたんですよ。主に脚本の話なんですけど、生涯で舞台の脚本を100本、映画の脚本を10本書けたら、だいたい良い感じかなと思ったんです。
- 佐藤
- へぇ~面白い。
- 扇田
- 本数で決めてるんだ。
- 松本
- その頃僕は多作で、新作をバリバリ書いていたんです。今でも書くペースは早いほうだと思いますけど。それでも計算すると、60歳過ぎても書いてなきゃいけない目標数なんですよ。
- 佐藤
- 今何本くらいなんですか?
- 松本
- 数えて来るの忘れちゃって……。でも、まだ50本いってないです。折り返してはいない。
- 佐藤
- 良い目標ですね。まだ半分行ってないなら、頑張らなきゃ!ってなりますよね。
- 松本
- その時は漠然とした目標でしたけど、今は良い目標だなと思います。それと同時に、歳を取れば取るほど、求道する気持ちが強くなってきた気がします。脚本も演出も、積み上がれば上がるほど……う~ん何て言ったらいいんだろう。
- 細川
- 分かりますよ。だんだん、これ要らないな、っていうのが見えてきて。
- 松本
- 自分の小屋でずっと 打っている人で居たいって思う感じで、より職人っぽくなっていく。
- 佐藤
- 役者もだんだんそうなっていきますけどね。こういったところを研ぎ澄ませていきたい、とか。
(つづく)