細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編(7)
演出家の怒り方
- 細川
- だから演劇の未来に後輩たちがちゃんと夢を持てるようにする責任が、僕らにはあるかなと思っているんです。何の気なしに演劇の世界に入ったんですけど、20年ぐらいやってるとなんか責任感みたいなのが出て、ちゃんと伝えなきゃいけないと思っちゃう。
- 佐藤
- 分かります。
- 細川
- ワークショップとかをやると必死になっちゃうんですよね。
- 松本
- 熱血先生みたいな(笑)。
- 佐藤
- そうすると離れていきません?僕、「それじゃダメなんだよ!」とか、厳しいこと言っちゃうんですよ。やめてほしくないから。
- 細川
- うん、言っちゃう。
- 松本
- で、やめちゃうんですね(笑)。
- 佐藤
- やめちゃうんですよ(笑)。
- 扇田
- 演劇学校あるあるですよね。僕もあんまり怒らないでくれ、って言われましたね。怒ってやめられるのが一番困るから。
- 佐藤
- そうでしょうね。
- 細川
- アイドルの現場とか怒れないですよね、絶対。
- 扇田
- 怒れないですねえ。
- 佐藤
- 「そんなんじゃダメだよ、続けられないよ…」と思うから言っちゃうと、「こわーい」って思われる。
- 扇田
- 僕は、個人的には言いますよ。アリス とかでも言いますよ。
- 松本
- 僕はあんまり気にしたことないですよ。もともとあんまり怒らないので。
- 佐藤
- 怒らなさそう。
- 扇田
- 怒らないけど、怖いんですよ。
- 細川
- 松本さん、素のトーンでキツいこと言うからね。
- 扇田
- 椅子に座る直前とかに厳しいこと言うんですよ。
- 松本
- 今回ね、劇団員だからより厳しくなるんですよ。
- 佐藤
- あー、そりゃ劇団員には言うでしょ。
- 松本
- 普段の劇団員にも言わないぐらい厳しく言いましたね、今回。
- 扇田
- 演出席に座る瞬間、 「なんでできねぇかなあ。」 「それじゃ次のシーン行きまーす。」って(笑)。え、ちょっと待って、今めっちゃキツいこと言いましたよね?って。
- 一同
- (笑)
- 細川
- でも俺、松本さんがブチ切れてるところ、何回か見たことあるよ。昔、『Call me Call you』って舞台 があって、稽古場で松本さんがめっちゃ怒鳴ってたのが、怖かったですよ。
- 佐藤
- へぇ~。
- 細川
- 俺、日替わりゲストの稽古で行ったんやけど、行ったらちょうど松本さんがブチ切れてたから、ちょっとまずいタイミングで来ちゃったな……って。
- 松本
- ブチ切れたのは 遅刻してきたからだったかな。
- 細川
- そうだったんですかね。
- 松本
- 遅刻してきた上に態度も悪くて、先輩がもう注意してたんで、僕が言うまでもないと思ってたんです。でも、それこそ現場の空気を良くするために、誰かが音頭を取って返し稽古をやってたら、その人がミスをしたんだったかな。これはもう僕が言わなきゃいけないと思って言ったのかもしれない(笑)。
- 佐藤
- 怒ります?声荒げます?
- 細川
- 現場によりますよ。荒げるときには荒げます。
- 松本
- 荒げます?
- 扇田
- 荒げたこと一回もないです。
- 一同
- (笑)
- 松本
- なさそう(笑)。
- 細川
- 僕が一番声を荒げるのは、場当たりの時とかに、俺がしゃべってんのに聞かない人がいた場合かな。
- 佐藤
- 場当たりはね。
- 細川
- なんでかっていうと、怪我するから。
- 佐藤
- うんうん。
- 扇田
- 僕も厳しくは言いますよ。 「ちょっと聞いて、今」とか言いますけど「コラー!」とか怒鳴ったことは一回もないですね。
- 細川
- 「 はい、じゃあこうしてくださいね~。 お前ら聞けー!!!」
- 一同
- (笑)
- 細川
- 「 聞け、おりゃー! はい、じゃあ次行きます」みたいな。
- 佐藤
- 戦略切れだ。
- 細川
- そうそう。ビジネス切れです。
- 扇田
- 今ちょっとなんか言わないといけないな、って。でも、感情が高ぶって切れるって感じにはならないですよね?
- 細川
- ないない(笑)。
- 佐藤
- そうですよね。そうなったらおしまいですよ。
僕は怪我をさせたくないっていうのがあります。あと時間を守れ。
「怪我をするな」「時間を守れ」は顔合わせで絶対言います。
- 細川
- 結局社会人と一緒なんですよね。始めた頃は、サラリーマンより楽して生きれるかなぁ、みたいな気持ちがあったんですけど、あんま変わんねえなーって(笑)。
- 佐藤
- そうですね。 「時間は人として守ったほうがいいです」って言いながら、自分自身がすげぇクズなのに、なんで時間のことで怒ってんだろう、って思ったりしますよ(笑)。俺、そんな人間じゃねぇなー、と思いながら「皆さん、次の現場のためにも怪我をしてはいけません」って言ってる。
- 一同
- (笑)
- 松本
- 突き詰めていくと、いい制作者、いいスタッフ、いい役者さんはみんな社会人として立派な人だっていう(笑)。
松本ブチ切れエピソード
- 松本
- 僕は本当にブチ切れたこと一回だけありますね。
- 扇田
- えー!
- 佐藤
- あります?
- 松本
- スタッフさんですけど。
- 細川
- あー、そっちか。
- 松本
- 初日の公演で、音響さんがもう病気気味にできなかったんです。オープニングアクトの前に暗転して、音楽が1分間出なかったんですよ。
- 佐藤
- え!
- 扇田
- うぉ~。
- 松本
- 暗闇で。
- 佐藤
- え~、コワっ。
- 松本
- 1分間ずっと無音で、誰も何もできないんですよ。放送事故ですよね。
- 細川
- てか、1分後に出たんだ?
- 松本
- うん。それで、マチネ
「いいからCDどこにあるか言ってよ!!」
とソワレ の間に別の人に替えることになって。その短い時間しかなくて必死なんですけど、その人がもう、のらりくらりかわすんですよね。
- 一同
- (笑)
- 松本
- 僕はブチ切れたし、開場も開演の5分前まで押して、お客さんはみんなロビーで待ってもらったんです。でも、そのブチ切れた声がエアモニ でロビーに流れたらしくて(笑)。
- 一同
- (笑)
- 松本
- プロデューサーさんか制作さんが音響ブースに行ったんですけど、その音響ブースにいる音響さんと客席で指示を出す僕が火だるまになって言い合いしてるので、そのエアモニを切るということすらできなかったっていう。
- 一同
- (笑)
- 佐藤
- ずっと聞こえてたんですか?
- 松本
- いや、なんかうまくやったらしいです(笑)。
- 細川
- うまくって(笑)。
- 松本
- あれが生涯で一番切れたやつですね。
- 細川
- それは切れますわ。
- 佐藤
- それはすごいですね。
- 細川
- スタッフさんで変な人は僕も切れるかな。質を下げてしまうからお客さんに対して失礼なので。
- 扇田
- そうですよね。
(つづく)