細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編(8)

 

細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編(8)

※2017年11月28日、シアターKASSAIにて

作品作りで譲れないもの

(時計を覗き込む松本、扇田)

松本
あ、過ぎてる。
扇田
結構過ぎちゃいましたね。
松本
じゃあ、最後にひとつ聞いていいですか?舞台を作ります。自分の劇団や自分主導で作る現場なら、なんの現場でもいいです。一番こだわりたいこと、一番最初に出て来るものって何ですか?
(全員すごく考え込む)
扇田
え~!
細川
一番最初に…。
佐藤
ちょっと帰って考えて来ていいっすか?難しいな~(笑)。
細川
なんやろ。
佐藤
一番最初に出て来ることですか?
松本
または、それだけは譲れない、みたいなものですね。
佐藤
それだけは譲れない…。

扇田
え~!
松本
「忍耐」みたいなできるだけ短い言葉で聞ければ。
細川
あ……、(言おうとしたがまとまらず)あ~違うな。
佐藤
じゃあ後輩なんですけど先に言いますね。僕はとにかく僕自身が面白いと思うものですね。
僕が妥協して迎合してつまんない、ってのは嫌で、僕が観て面白い、僕が一番のお客さんでいたいので。それが僕の一番のモチベーションにつながるじゃないですか。次もやろうと思うし、この公演も頑張ろうと思う。そうするとそれも下に伝わるんですよ。
だから、つまんなかったらつまんない、って言いますし、オブラートに包んで「ちょっとここ面白くないって思うな」って伝えたりします。
だから、世の中とズレないようにしたいし、僕の価値観が鈍らないようしたいので、僕は僕の好きなものを観たりする、みたいなこともやってます。すごい雑な言い方をすれば「遊ぶ」かもしれないです。
扇田
遊ぶ感覚ね。
佐藤
そう、遊ぶ感覚。でも責任は取らなきゃいけない。責任を取ることと遊ぶことを両立させられたらいいんですかねぇ。
扇田
一番かどうか分からないんですけど、演劇は(英語で言うと)PLAYなんで、僕も「遊ぶ」だなあ、と思ってやってますけど。
細川
(扇田を指差して)詐欺師やなあ!(笑)もっともらしいこと言って。
一同
(笑)
佐藤
演劇はプレイ、かぁ。
松本
今日の扇田さんの話は「遊ぶ」っていうのがなんかすごく分かりますよね。
佐藤
遊び人なんですね。
扇田
言葉が悪い!(笑)
松本
ドラクエでいうと、そこでしょ?
細川
遊び人。じゃ、次は賢者じゃねぇかよ(笑)。
(スタッフ補足:RPGゲームのドラゴンクエストでは、遊び人はレベルが上がると賢者に転職できる)
細川
僕は手短に。やっぱり、(佐藤さんと)同じですけど「責任と権力」ですね。
責任とるから権力持たせろって。僕も新作で作ることが多いので、新作だからこれがどうなるかっていう説明ができないんですよ。でも、絶対面白くなるし、観たことない感じになるから、黙っておいて欲しいんです。これがどうなるの?大丈夫なの?っていう茶々入れが一番邪魔なんです。それをやることで普通になっていくんですよ。
佐藤
薄まっちゃうんですね。
細川
だから責任取りますから、色々言わないで権力俺に持たせて、っていうのが大事ですね。そこを曲げちゃうと結構しんどいですね。
佐藤
確かにそれは大事ですね。
扇田
なんだろうなあ、譲れないもの。
細川
プレイでしょ?
扇田
いやいやいや。
佐藤
プレイじゃないんですか?
扇田
プレイは常日頃なんですよ。日常からプレイなんで。
佐藤
ほぉ~。
細川
のらりくらりしやがって!(笑)
一同
(笑)
松本
僕、質問しておいて自分の答えを持ってなかったんですけど。聞きながら考えました。自分がさっき「求道」って言ったように、自分の面白い、突き詰めたいっていうものもあって、これは(扇田さんに)遊びがずっとあるのと一緒で、たぶんずっとあるから、これは「譲れないもの」じゃないんだろうな、って考えたんです。そうすると僕は、特に脚本なんですけど、新作を作るときに、「誰かのために作る」っていうモチベーションが結構大事だなって思うんですよ。例えばそれは主演女優であったり、劇団のだれかであったり、小説によくある「母に捧ぐ」とか「友人なんとかに捧ぐ」とかもそうです。すごく具体的な例で言うと、『メイツ』(2014年10-11月初演)っていう作品をやったときに、元スクールメイツの方に取材をさせていただいたんですよ。その方が観て、客席で「良かった」って言ってもらうのがたぶん一番嬉しいことだった。いつもあるわけではないけれど、いや、いつもあるのかな?振り返ってみたときに、僕はやっぱり誰かのために作るって言うのがモチベーションなのかなっていうのは感じますね。
佐藤
すごい力が生まれますしね。
松本
ええ。

信じることが大事

扇田
でもやっぱり、綺麗事かもしれないですけど、お客様が喜んでくれることが一番だし、パンフレット写真とかを撮ってる時にいいショットが撮れると、これはお客さんキャーってなるぞ~、とか思いますよね。
細川
うん、思う。
佐藤
早くSNSに)上げたい!ってなる。
扇田
それが結局、最終的なモチベーションっていうか、演劇をやってる一番の理由ってそこだと思うんですよね。自分が面白い、好きだと思ってることをやっていて、それを観てくれる、喜んでくれる方もいらっしゃって、っていう環境が楽しい。でも、それは「作る」とは違うのかなあ。
佐藤
思考を重ねた結果、そうならざるを得なくなるところもありますよね。大体モテたくて(演劇を)始めるじゃないですか。
一同
(笑)
松本
有名な脚本家さんがおっしゃってましたけど、スタート時の主人公の動機はできるだけ不純がいいって。だから、男子高校生であれば、女にモテたいみたいな動機でいい。そして、ゴールは崇高な方がいい。そういう脚本のロジックがあるんですよ。
細川
純度が上がっていくんですね。
扇田
(突然ヒザを叩き)あ、ありました。作品を作る上で大事なもの、ですよね?僕は演出家だからだと思うんですけど「信頼」ですね。
佐藤
お~!
細川
(下を向いてこみあげる笑いをこらえる)
扇田
ほんとですよ~(笑)。
佐藤
誰からの信頼ですか?
扇田
一緒にやるスタッフさん、一緒にやる演者さんのことを(自分が)最後まで信じようと思うんです。
細川
その髪型で言われても。
扇田
髪型関係ないでしょ!(笑)
一同
(笑)
佐藤
「信じる」は大事ですよね。
扇田
信じることが大事だなあって。信じなくなったら終わりだと思ってます。それが一番ですかねえ。
佐藤
(細川さんに向かって)信頼してくれたら余計なことも言ってこなくなりますよね。
細川
まあそういうことですよね。言われるってことは、自分がまだ信頼されてないんだよね。わははは!(笑)
佐藤
そんなことないですよ。自分に対する自信はやっぱりないとダメじゃないですか。
扇田
自分が信じないと信頼してくれないのかな、って考えがあるので。
佐藤
確かに。
扇田
そこが劇団員とは違いますよね。劇団員はもう信頼関係があるもんだと思ってるから、そこはあんまり気にしないでいいんです。俺がこんなこと言ったら、こいつら俺のこと信頼しなくなる、みたいなことは思わないので。だから今回の『D・ミリガンの客』もそうですよね?
松本
まあ、外の役者さんよりは、やっぱりもう一個違うところにいますよね。
佐藤
劇団員に気を使ってもね。劇団員からしても嫌じゃないですか。信じてついて来てるのに、気ぃ使わないでくださいよ、みたいな。
扇田
そうね(笑)。
松本
でも僕は割と気を使ってる方だと思いますよ。
佐藤
あ、ほんと?じゃあ、中野に優しくした方がいいかな。
一同
(笑)
扇田
俺、たみしょう大好きですよ。
佐藤
ほんとですか?いや、俺だって好きですよ。中野のこと。
一同
(笑)
扇田
そうですよね。大好きだからこその。
佐藤
まあ、そうです。
扇田
大好きだからこそのムカつきね。
細川
なんだこれ。
一同
(笑)
佐藤
この終わり方イヤっすね。
扇田
あはははは!(笑)
一同
(笑)

松本
そろそろ締めポイントを考えてるんですけど、締まらないので。
佐藤
じゃあ続きは飲み屋で(笑)。
松本
じゃあこのあたりにしましょうか。
一同
はい。
松本
ということで、本日の対談、ありがとうございました。
一同
ありがとうございました。

---------- おまけ ----------

松本によるアフタートーク

ゲストのみなさんはセットの窓の後ろに待機

すごいですね。2時間ずいぶん越えましたけど、まだまだ全然話は尽きない感じで。しかも聞きたいことの半分も聞けなかった印象ですね。やっぱりたくさん持ってらっしゃいますね、みなさん。

細川さんは、もともと思っていましたけど、こんなに頭のいい方なんだっていう。普段話すと結構グズなおじちゃんなんですけど、(観客:笑)実際に脚本を作る話を聞くと、ちょっと劣等感を覚えるぐらいに、知識と造詣の元に作品を作っていらっしゃる。あとチャレンジをされているんだなあ、っていうのを『サンサーラ(式葬送入門)』の話とかを聞くとすごく思いました。


のぶさんは、最初に僕が興味を持ったのはTwitterだったと思うんです。「演劇の世界なんて飯食えないから趣味だよ」みたいなことを誰かが書いていて、実際なかなか厳しい世界ではあるんですが、そこにのぶさんが、「僕たちは高いクオリティで食ってます」みたいなことを高らかに宣言されていたんです。以前から名前だけは知ってたんですけど、なんかカッコいいな、この人と思って。そこから少し興味を持ってお付き合いして。ENGの前説の話もしましたけど、前説で携帯電話の話をしているときに団体への愛が出るって、不思議なんですよね~。普通の前説なのに、こんなに作品に対してお客様に対して開演前にプロデューサーがしゃべってるんだ、これはいい作品に間違いないとは思いましたし、実際にいい作品でした。自分が面白ければ、とか、座組みが良ければいい作品になるっていうのを、実際にプロデューサーとして結果に結びつけている稀有な人なんじゃないかと思います。思いを持っている人は沢山いますが、それとプロデューサーっていうのはやっぱり動員だのお金だのっていう話も当然つきまとう職業で、それできちんとコンスタントに自分の芝居を作られているのはすごいなっていう風に思います。

扇田さんは、さっき言ったように、ここ数ヶ月で一気に仕事を一緒に沢山した方なんですけど、こんな人だったんだって(笑)。(観客:笑)天才ですね。彼は平熱の体温が1度ぐらい高いらしいんですよ。それで、風邪ひかないんですって。なんか……ねぇ。(観客:笑)なんか、挫折知らずみたいな感じのイメージで、実際、考え方がそれを呼ぶんですかねぇ?僕はああいうタイプではないから、ちょっとうらやましいな、と思いますね。たぶん苦労は当然されていると思うし、いろんなことはあるんでしょうけど、うん…体温1度高いことはすごいことなんだなあ。(観客:笑)体温に例えてますけど、分かりますよね。いい言葉が思いつかないんですけど。ああやって、死なんて気にしないっていうのが本当に偽りなく出てる感じって、なかなかいないんじゃないかなっていう。それがまたあのボブジャックシアターっていう劇団の作品につながっているのかなっていう風に思います。

本当に刺激的な一晩でございました。時間があればね、5時間ぐらいやっても大丈夫そうですけど、(観客:笑)でも2時間半ぐらいはやってますけど。たぶんこれ編集作業が相当大変になると思います。(観客:笑)いつごろになるか分かりませんが、これをWebで公開していきたいと思います。その日を楽しみにお待ちください。本日はありがとうございました。(客席:拍手)


撮影協力:sheena & todo

今回の対談の撮影は劇団6番シードの椎名亜音さん、藤堂瞬さんにご協力いただきました。ありがとうございました!
前編から仕込んである sheena & todo の隠しページはもう見つけられましたか?まだの方はぜひ探してみてくださいね。

(おしまい)