久保田唱×松本陽一(1)
【ネタバレ注意】対談中、過去作品のストーリーの核心に触れる部分がございます。ご了承の上お読みください。
絶妙に仲良くない
- 松本
- そろそろ始めましょうか。
- 久保田
- はい。
- 松本
- よろしくお願いします。
- 久保田
- よろしくお願いします。
- 松本
-
今日はありがとうございます。
あの、この企画は、なんかある日突然、いろんな人と話してみたいなあと思って。
僕ら、演出家とか脚本家って、ほんとに話す機会ないですよね。
- 久保田
- そうですね。まず(笑)。
- 松本
-
まず会わない(笑)。
結構、電話とかでお仕事の話を、劇団員の出演依頼だったりとか、そういうのはしょっちゅうやらせてもらってるじゃないですか。
- 久保田
- はい。
- 松本
- で、第1回のゲスト誰がいいかな、っていう時に、パッと久保田さんが出たんですけど。
- 久保田
- ありがとうございます。
- 松本
- 聞きたいことがすごく沢山ある人で、そして、かつ、絶妙に仲良くないっていう。(笑)
- 久保田
- ハハハハハハハ(笑)
- 松本
- この距離感が。
- 久保田
- はい、はい、はい。
- 松本
- 仲のいい演出家さんとか、よく会う人とかいます?
- 久保田
- あんまり…。他のセクションとは何かで会うことがあっても、やっぱり演出家同士って、会わないですよね。まず仕事場が一緒にならない。
- 松本
-
ああ。例えば、たまに、業界飲み会とかあるじゃないですか。
脚本家さんとか、演出家さんとか。
- 久保田
- はい。はい。はい。
- 松本
- で、ご挨拶とかするんですけど、その後、絶対に会わないですよね(笑)。
- 久保田
- ハハハハ(笑)。
- 松本
- 俳優さんとか、プロデューサーさんとかだと、そのつながりが縁になって、とかあるんですけど。
- 久保田
- はい。
- 松本
- 脚本家さんと挨拶してもしょうがないな、って思うんですよね。
- 久保田
-
そうなんですよね(笑)。
仕事敵というか(笑)。
- 松本
-
そうなんですよね。ライバルなんですよね。
なのでちょっと改めてこう、この企画で、そういう聞いてみたいことがある人をお呼びして、お話させてもらいたいなあ、みたいなのが。
- 久保田
- ああ。
- 松本
- 一番、久保田さんが(笑)。
- 久保田
- ハハハハ(笑)。
- 松本
- 例えば、バンタムクラスステージの細川さんとかも、ちょっと面白い演出をされるので、いろいろ聞いてみたいなと思うんですけど、ちょっと仲いいんですよ。
- 久保田
- あー。
- 松本
- 久保田さんとの距離感よりも(笑)。
- 久保田
- フハハハハ(笑)。
- 松本
- ちょっと1回目じゃないな、と。
- 久保田
- はい。はい。
- 松本
- で、まあ肩書きで言えば一緒じゃないですか。脚本家であり…、
- 久保田
- そうですね。まあでも、僕の方がすごい後輩というか(笑)
- 松本
- ちなみにおいくつですか?
- 久保田
- 僕は今年32です。
- 松本
- 沖野君とおんなじぐらい?
- 久保田
- 沖野と1つ違いですね。1歳差。
- 松本
- 劇団はどれぐらいになりました?
- 久保田
- この劇団は今度9周年ですね。 12月で。
- 松本
- じゃあやっぱり僕の方が倍ぐらい(笑)長くやってる。ムダに長いですね。
- 久保田
- いやいやいやいや、そんな。
- 松本
- 「脚本家」「演出家」あと「劇団主宰」っていう三本柱、これが一緒なので、この辺のお話を聞けたら面白いかなと。
- 久保田
- はい。
チラシのリード文がうまい
- 松本
- じゃあ、脚本からいきましょうか。
- 久保田
- はい。はい。
- 松本
-
久保田さんの作品って、すごくやっぱり、言葉ちょっとどれが正しいのか分からないんですけど…、仕掛けだったりロジックの人だなっていうのがすごくあって。
例えば、『時をかける206号室』 だったら、部屋があって、最終的に主人公の男が5人ぐらいいてとか。
この間の『今だけが 戻らない』 だと、タイムスリップしてきて、過去を見たっていう自供する男が現れたっていう、チラシのリード文のキャッチーさというか。
- 久保田
- はい。
- 松本
-
あと、『バックトゥ・ザ・舞台袖』
このあたりの発想、つまりチラシに書かれている最初の5行ぐらいのやつが。クッソうまいな、と思うんですけど。
だと、舞台袖で、さらにタイムスリップ。かつ、その30年後に同じ作品を演っていたっていう。
- 久保田
- あー。嬉しいですねぇ。
- 松本
- そういう発想、スタートって、どこからなんですか?
- 久保田
- 多分それっていろんな作り方の人がいると思うんですけど。僕は、割とタイトルを先に考える方で。
- 松本
- あー、やっぱり。
- 久保田
- なんか面白そうなタイトルだったり、意味がありそうなタイトルを考えた後に、これになるためにはどうしたらいいかなって(笑)考えたり。
- 松本
- はい、はい、はい。
- 久保田
- あと、描きたいシーンが最初にあったりして、そのシーンを作るための物語を作る、っていう時もありますし。
- 松本
- 例えば、じゃあ『今だけが 戻らない』はどういう順序だったんですか?
- 久保田
-
『今だけが 戻らない』は、タイムスリップものを、なんか純粋にやろうと思って。久しぶりに。
『バックトゥ・ザ・舞台袖』はちょっとコメディだったりしますし、『時をかける206号室』は結局タイムスリップしてないとか、ただただ振り返ってるだけだ、みたいなところがあって、なんかもうちょっと爽やかなタイムスリップものがあってもいいんじゃないかな、って思って考え始めたんです。
タイムスリップものなのに、今が戻らなかったら矛盾しているようで、過去は戻るのに、今は戻らないのかっていう。
- 松本
- はい、はい、はい。
- 久保田
- 矛盾しているようで、いいかな、と思って始めたんですけど、結果的には全然爽やかじゃなかった(笑)
- 松本
- 結構重たかったですね(笑)。
- 久保田
- そうですね。
- 松本
- でも僕は、ラストシーンで、あぁ、『今だけが 戻らない』だなあ、って。どうやったってバッドエンドじゃないですか。
- 久保田
- そうですね。
- 松本
-
だけどなんか、カタルシスはあって。
物語がうにょっとして登場人物たちが消化不良で終わるんじゃなくて、やるだけやって泣いている最後の3人の顔が、素敵なカットだなあって思いました。
- 久保田
-
嬉しいです。
そうですね、あのシーンも、それこそ思い付いて、これをやりたいな、と。
これを思い付いた理由っていうのが、ちょっと、実は、あ、こんなことあるんだなっていう、初めての作り方だったんですけど、それはちょっとさておき、ちょうど直前…
- 松本
- え、それ、さておく?(笑)
- 久保田
- ハハハハ(笑)。それちょっと後で(笑)。
- 松本
- ああ(笑)。
- 久保田
- ちょうど直前の舞台が『バックトゥ・ザ・舞台袖』で、結構タイムスリップしちゃったんで、なんかいかにもタイムスリップしそうなボクラ団義の本公演が、本当にタイムスリップしないほうがいいな、って思い始めちゃって、途中で。
- 松本
- はい。
- 久保田
- なので、未解決事件を扱っていた、あの特命捜査対策室は出したいと思っていたので、彼らはいるし、過去のタイムスリップをしてきた男もいるけど、でもほんとはタイムスリップしてなくて、っていうのを基盤にしようと思ったのが、物語の最初の方で。
- 松本
- 結局SF要素って、ほぼゼロですよね。
- 久保田
- そうですね。まあ、起こってること自体はファンタジーですね。
- 松本
- あのー、科学捜査班がこう、追体験できるみたいな 、まあ最近ならできそうなレベルじゃないですか。
- 久保田
-
そうですね。
意外と根拠っていうか、実際に起こっていることになぞらえてやったりしてて。観た人も「そんなことほんとにあるの?」って結構言ったりするんですけど、でもそれが本当に起こっている世の中なんだよ、みたいなことをちょっとやりたかったりしたんです。
とにかくそういうのもあって、タイムスリップだけどタイムスリップしてない、っていうところを基盤に考えたときに、一番最初に、その人になった気持ちで体験できる装置っていうのを割と堂々と出しておきながら、実はそれがタイムマシンの仕組みそのもので、最終的にそれが今だけが戻らないっていうラストシーンに向かっていくっていうところを一番基軸に考えようと思って。
- 松本
- ほう。
- 久保田
- その後、そのためにはどうしたらいいんだろうかみたいなことや、犯人の人生みたいなところの物語を追加していったり、っていう作り方でしたね。
- 松本
- 確かに最初に割と堂々と出してますよね。
- 久保田
-
そうなんですよ(笑)。
一番最初に出しておいて「なんなんだろう?」って思ってるけど、それがタイムマシンじゃん、っていうのが、繋がっちゃえば、っていう。
(つづく)