久保田唱×松本陽一(6)
“鬼の久保田”は風評被害!?
- 松本
- じゃあ演出家編に。みんな聞きたいことだと思うんですけど、最近巷で“鬼の演出・久保田”と言われたりしていますが…?
- 久保田
- あれは風評被害ですよ(笑)。
- 松本
- いやいや、どれぐらい鬼で厳しいのか聞きたいんですよ(笑)。6番シードの作品に沖野君や竹石君に出演してもらっているので、噂は少し耳に入るんです。やっぱり“きちっとしてる”っていうのはよく聞きます。開始時間にきっちり始める。そういう几帳面なところはあるんですか?
- 久保田
- そうですね。時間には厳しいというか。
- 松本
- 僕もそっちの方が好きなんですよ。ゆるい現場はすごくゆるいですよね。僕は開始時間に「おはようございます」って挨拶するんです。でも、挨拶する団体は初めてだ、って驚く人が結構いて。実際にはやらないけど、柔道場みたいに入ってくる時に一礼するくらいでもいいじゃん、神聖な稽古場なんだから。そういうのちゃんとやった方がいいな、って思ってます。
- 久保田
- 僕も稽古場入る時は、「おはようございます」って言いますし、始める時は必ず挨拶します。劇団の時は、自分が主宰しているところなので自分でルールを作って、役者を集めて円を作って挨拶して、伝達事項を伝えてから稽古に入る、っていう流れにしてます。みんなで一度しっかり立ってから始めましょうって。
- 松本
- それそれ。あっちこっちに点在している時に挨拶しても、ね。
- 久保田
- 自分の劇団ではなくプロデュース公演だと、依頼されて演出をさせてもらっているだけなので、自分のところほどにはきっちりとはやらないですが、稽古の頭の挨拶はします。
- 松本
- あと噂で聞いたのは、劇団員さんに厳しい、とか。
- 久保田
- (苦笑)。確かに、客演さんには言わないようなことも、劇団員だと言いますね。
- 松本
- でもそれはありますよね。他の役者さんに気を使っている訳ではないんですけど、いろいろ知っているから言うんですよね。
- 久保田
- 劇団員の場合は、アドバイスすることで彼らがちゃんと生きて行くのに役に立ったりして、劇団の相対評価につながったりするので、多少口うるさいなと思われても劇団のためになるならって。あとは、集合時間に遅れたら、劇団員であっても客演さんであっても、そこはしっかりしてくださいって注意しますね。めちゃくちゃ時間に厳しい人間かと言われると…、自分が甘えちゃう面があるので、自分もしっかり守ることで、いろんなところが守られるかな、と思っています。
- 松本
- 自分に厳しい方なんですね。
- 久保田
- どうですかね〜。
- 松本
- 断片的な情報ですけれど、うちの椎名がこの間の『今だけが 戻らない』に出演した時、「仕込みで自ら荷物を運ぶ鬼の演出家」ってツイートをしてましたし、前説もやりますよね。公演後にチケットの状況の話も結構言う、ってことも知って。いろんなものに対する厳しさっていうのが、“鬼”と言われるゆえんなのかなと。
- 久保田
-
元々は、ネットテレビとかラジオ番組でやっている企画がひどかったのが発端だと思うんです。例えば、沖野だと…、今やっているネットテレビの前の番組でドッキリを仕掛けました。稽古場の打ち合わせスペースで、隠しカメラを仕込んでおいて「主演の映画が決まったよ」って伝えたんです。
「僕もよく分かってないんだけど、ホリプロさんから連絡があって、全国規模の公開作品らしい」と。この時はホリプロさんに裏で協力してもらってました。
- 松本
- それ、リアルですね。
- 久保田
- この時、もっとリアルなのが、「今度打ち合わせがあるから、一緒に行こう」と目黒の事務所にお邪魔して、マネージャーさんがいっぱいいるフロアの奥の会議室に連れて行って。そこには、石原さとみさんとかを担当している本物のマネージャーさんがいる訳ですよ。
- 松本
- 仕掛け人ってことですよね。うわー、信じますね。
- 久保田
- そこで、僕の方で事前に作っておいた企画書を、マネージャーさんから出してもらって。その方が担当している方の名前は使っていいということだったので、ヒロインが石原さとみさんで、友達役が中尾明慶さんなんて目の前に出された企画書に書いてある訳です。
- 松本
- ひどいドッキリだな(笑)。
- 久保田
- 「ここの主演を沖野さんにお願いしたいんですよ」ってホリプロの方に言ってもらったんです。沖野も「マジすか…」ってなってましたね。映画のタイトルがフラガールならぬ『フラボーイ』なんですが、「沖野さんで行くかどうかを、フラダンスを見て最終決定したいので、練習してきてください」って伝えて、別の方に協力してもらって作った見本映像のDVDを沖野に渡してもらいました。沖野にはまだバレていなくて、それから毎日、沖野はフラダンスを練習してましたね。その打ち合わせも練習も隠し撮りしていて、第一回のネットテレビの収録中にそれまで録った映像を流し始めたんです。ドッキリですとか何も言わずに。
- 松本
- ますますひどいですね(笑)。
- 久保田
- ですよね(笑)。それで、ネットテレビの収録中にその映像が流れ始めたものだから、沖野が「ちょっと待てよ!おい!どういうことだよ!」って怒り始めるんだけど、せっかくフラダンスを練習したので、その練習の様子も見てみましょうかって流して。見終わった後に「全部ドッキリでした!」というネタばらしをしました。そういったところから“鬼”って言われるんでしょうね。
- 松本
- それは“鬼”ですよ。でも、すごく面白いですね。
- 久保田
- 手が掛かってましたからねぇ…。でも、それからというもの、沖野くんはちょっと良い話があってもドッキリなんじゃないかって不安になるみたいですし、お母さんに至っては、未だに僕のことを許さないって言ってるらしいです。
- 松本
- お母さんに報告したんでしょうね、映画の主演決まったよ!って。
こだわりが生んだ“鬼の久保田”
- 久保田
- そういうことをやっている間に、ネットテレビ側で“鬼の久保田”って言われるようになって、それが舞台側にも影響するようになって、加藤凛太郎さんとかが“鬼の演出家久保田”っていうハッシュタグを作ったりして。僕からすると、舞台の方ではそんなに鬼のように厳しいことは言ってない。ただ、ちょっと頑張らないと出来ない演出を時々するんです。分かりやすい例えだと衣装の早替えとか、時間的に間に合うか間に合わないか、みたいな。ちょっと頑張って急がないと危ないよねっていう。「これちょっと厳しいかも知れませんね」という声が出た時に、諦めるのは簡単なんですけれど、この構図の方が絶対に良いのが分かっている。その「出来ないかも」という判断は今その時出たものであって、みんな熟練すると上がっていくじゃないですか。
- 松本
- 分かります。何度もあります。
- 久保田
- だから、とりあえずやってみよう。やってみて本当に出来なかったら何か考えるから。という方向に持っていくので、すぐに諦めることはしないですね。そういう点もあって、鬼の演出家と言われるんですよね。
- 松本
- そういう部分は、僕も鬼と言われれば鬼なのかもしれない。衣装の早替えって、絶対できるんですよね。一回目の早替えなんて、たいがい出来ないですから。「出来るできる。出来ると思えば出来る」と言い続けてやっていると出来るようになるんですよ。経験を重ねると、本当に出来ない事柄って分かるんですよね。
- 久保田
- そうですよね。パッと見ていて、これは出来ないなというのは分かるので、頑張れば出来るんじゃないかと思う点はやってもらいます。
- 松本
- 例えば、回転盆 の演出も大変だったと思うんです。今回の『今だけが 戻らない』も盆の演出がありましたけど、『時をかける206号室』の方が凄まじかったと想像しているんですね。
- 久保田
- 盆を大小5個使ってましたし、盆の上に盆がありましたからね。
- 松本
- しかも逆回転もありましたよね。
- 久保田
- 立体性が出るんですよ。
- 松本
- 話の流れで行くと多分大変だったであろう役者さんが、雑作もなくやってのけるのって、お客さんは気持ち良いんですよ。そういった、超大変なところを鬼のようにやっているんだと思うんです。
- 久保田
- あれに関しては、本当にそうだったと思います。みんなが、おい大丈夫か!?ってなってるけれど、僕は、やろう!もっとやろう!というところがありましたから。
- 松本
- でも、やれるっていうイメージが出来る、こうなった方が面白いっていうところがあるんでしょうね。よく、役者がしんどい舞台はお客さんが面白い、って言われたりしますけど。
- 久保田
- バラエティとかドッキリも似ていて、ここでこんなことまでされたらお客さんは「マジかよ!?」ってなるよね、ということなんですよ。さっきの映画の話も、企画を話すだけだったら簡単に出来るんですけど、そこで会社の人までもが出てきたら信じるよね、っていう。
- 松本
- 練習用のDVDまでつくってましたしね。そのこだわりの部分ですかね。
- 久保田
- やるからにはここはこうやりたい、っていうこだわりが出てくるんです。
(つづく)