※2018年8月20日、都内某所にて
エリザベス・マリー×松本陽一(3)
ハーフのコンプレックス
- リズ
- 今までミュージカルばっかり観てて、小劇場と呼ばれてるものをあんまり観たことが無かったところに『デッドリー』ですね。
- 松本
- 確か、キャストさんで決まってた人が急病だったか、もしくはずっと決まらない一枠があって、誰が来るんだみたいに思ってた。そうしたらすごく名前にパンチの効いた人がきた。
- リズ
- そうなんですよね(笑)。
- 松本
- 「エリザベス・マリーって人が来ます」って言われて、思わず「大丈夫ですか?」って返しちゃった。
- リズ
- しかも、改名して二個目くらいの演目です。
- 松本
- それまでは何て名前だったの?
- リズ
- それまでは「水谷まり」っていう子役ネームを使ってました。
- 松本
- 子役ネームなんてあったんだ。
- リズ
- 子役の頃はカタカナの名前が嫌いだったんです。変に目立っちゃうから、それがすごく嫌だった。だから母親の旧姓を使って子役ネームを作ったんです。
- 松本
- (外国人と日本人の)ハーフですよね?
- リズ
- はい。父がイギリス人です。
- 松本
- ハーフに対するコンプレックスとかは感じてないの?
- リズ
- もちろんありますよ。
- 松本
- 子どもの頃っていじめられたりすることもあるのかなって思って。
- リズ
- コンプレックスもいっぱいありますし、いじめがあってもおかしくなかった。でも私には幸いなことに、いとこのベッキー(女優・タレント)がいたので。地元が一緒で、同じ小学校だったんですよ。だから、上の学年にベッキーもいるし、その妹で今ダンサーとしてすごい活躍してるジェシカもいるから、ハーフであることを理由にいじめられることはなかった。
- 松本
- そういういじめはなかったんだ。
- リズ
- そう、2人が居たからなかった。ただ、コンプレックスはありましたよ。ベッキーとジェシカは英語が喋れるんです。でも、私の家は家庭内で英語が出てくることがほとんど無かった。っていうのもさっき話に出たイギリス人の父親が日本語が物凄く上手だからなんです。
- 松本
- そうですね。一度、『テンリロ☆インディアン』って作品(2016年10-11月)で英語監修(セリフに英語が出てくるため)をしてもらったんです。その稽古の時も、すごく日本語を知っていて、侘び寂び的な言葉とか関西の漫才レベルのツッコミまでしていましたよ。
- リズ
- そうなんですよ。自分のことを小生って言ったり、時には我輩って言ったりするくらい日本語がすごく好きなんですよね。だから、家の中でも日本語で育ったので、英語を使う機会がなかったんです。
- 松本
- でも、ハーフだと知ったら英語も喋れるものだと思っちゃいますよ。よく言われるでしょ。
- リズ
- そうなんです。英語の聞き取りはできるけど喋れないっていうのは、小さい頃からコンプレックスとしてずーっとあった。だから、子役をやるって時にカタカナの名前を変えたかった。
- 松本
- カタカナが嫌だったんだ。
- リズ
- 今思うと、親にちょっと申し訳ない気持ちなんだけど、その時は嫌でした。
- 松本
- じゃあ「水谷まり」の「まり」も漢字にしたの?
- リズ
- まりは平仮名にしてましたね。今はマリーって表記してるんですけど、本名だと漢字なんですよ。
- 松本
- あ、そうなんだ。
- リズ
- 日本名で漢字の「まり」っていう名前を持ってるんです。語呂がいいので、エリザベス・マリーにしちゃってる。大人になってからは、逆に目立った方がいいんじゃないかって思うようになったので。
- 松本
- やっぱね、エリザベスって女王の名前じゃないですか。名前だけ聞くと相当高飛車なやつがくるんじゃないか!?って思っちゃう。
- リズ
- そうですよね。分かる~(笑)。
- 松本
- エリザベス女王、マリー女王が来る!みたいな。
- リズ
- 昔から高飛車に思われがちだったんです。顔付きも性格キツそうに見えるタイプなんじゃないかな。
- 松本
- 僕も、最初にデッドリーの現場に来た時、キツそうなやつが来たって思った。
- リズ
- あちゃ~(笑)。
キャリアが悪目立ち
- 松本
- 『デッドリー』は初舞台の子も多くいる中で、空いていたダブルキャストの枠に、なんかキツそうで、キャリアありそうなやつが来て、逆にやり辛いって内心思ってたの。
- リズ
- そりゃそうですよね~。
- 松本
- 圧倒的な記憶として残ってる。
- リズ
- 私も逆の立場だったらそう感じると思いますもん。
- 松本
- デッドリーみたいな現場は、キャリア浅い子がみんなで頑張って作っていくのがそれなりにバランスが取れるじゃないですか。
- リズ
- そうですね。
- 松本
- でも12歳から舞台を何本かやってたリズさんは、一人だけ突出して演技が出来てたから悪目立ちしててどうしようかな、ってなりました。
- リズ
- 最初のダメ出しで「もうちょっと年齢を落としてください」って言われたのはすごく覚えてます。
- 松本
- そうなんだ。
- リズ
- しかも、デッドリーの登場人物の中でも年齢が下の役だったんです。
- 松本
- 下級生で弱い保険委員の役だったんだよね。それこそ本当に初舞台の子にぴったりの役なんです。
- リズ
- そうですね。
- 松本
- そこにキャリアもある、個性もあるエリザベスってやつがどーんっと来た。
- リズ
- やけに貫禄がある保健委員で、むしろ女医かと思うくらいの(笑)。
- 松本
- いかに(存在を)消していくかみたいな作業でしたね。
“ご開帳”!?振りをワードに
- 松本
- でも、それ以外にもすごい覚えてることがあるの。あの公演の振付は別の方だけど、役者の中のダンス指導係として振付師さんがいない練習時の指導っぷりが凄すぎた。こいつはますます何者なんだってなりました。
- リズ
- 指導係に抜擢されたのは嬉しかったですね。最初から指導係になってたわけではなくて、振付師の方からダンスを教わった時に、私の振り覚えの良さと、たくさん質問をしてたことから、じゃあよろしくって任せて下さったんです。
- 松本
- 振付を教える人って振りを簡単なワードに変えていくじゃないですか。正式名称はあるのかもしれないですけど「肘上げて、伸ばして、くるりんぱ」みたいに言い表したり。
- リズ
- 「カツラ、取って、あげる~!」みたいなのもあったり。
- 松本
- そうそう。デッドリーですごく覚えてるワードが、足を開く振りに対して付けてた「なんとかかんとか、ご開帳~!」なんだよね。なんて独特なワードを選ぶんだ!?ご開帳ってなんだよ!って。
- リズ
- ありましたね(笑)。
- 松本
- 人の記憶って面白いね。そんな昔のご開帳ってワードを覚えてる。すごい印象があったんでしょうね。
- リズ
- 松本さん、よく覚えてますね。でも、(手を左右に動かしながら)切り刻む!みたいに噛み砕いたワードに変えるのは今もよくやりますね。やっぱりダンスやってる人にしか分からない単語で、いきなり「パドブレ」って言われても分からないですよ。だから最初に拍に合わせて、1、2、3、4って教えてから、実はこれ「パドブレ」っていうんですよ、っていう教え方にするっていうのは昔から心掛けてます。
- 松本
- じゃあ、振付師の方の話をもっと聞きたいんですが、
- リズ
- お!振付師の話、しましょう。
- 松本
- これまでの話で、小学6年生の頃には人に教えるのが上手かったから、その素養はあったんですね。
- リズ
- そうですね。仕事としてではないけど、初めて振付をしたのは18歳頃の短大の時ですね。短大の授業だったり、あとはみんなで振付を作って発表するのが課題だったりしたので。……あ、違う!もっと前ですね。
- 松本
- もっと前?
- リズ
- 中学校ですね。
- 松本
- え、中学校?
- リズ
- 中学校の授業で創作ダンスがあって、
- 松本
- 最近あるね。
- リズ
- 私たちの時にもあって、ガンガン作ってました。ほとんどその時習ってたダンススクールで習った振りを繋ぎ合わせてましたけど。
- 松本
- 最初はそうですよね。
- リズ
- 最初はやっぱり知ってるもの、観たことあるものしか出せないので。まず中学の創作ダンスから始まり、高校でも体育祭の応援合戦でダンスがあってその振付をやったり。大学でも創作課題のために作ったりしてました。
(つづく)