エリザベス・マリー×松本陽一(4)

※2018年8月20日、都内某所にて

エリザベス・マリー×松本陽一(4)

男女の振付の違い

松本
具体的に振付師として仕事を受けたのはいつぐらい?
リズ
初めてちゃんとお金をもらってやったのは、ちょっと空いて23か24歳の時ですかね。その頃、お恥ずかしながらちょっとアイドル活動をしてまして。自分のユニットの振付を自分でやっていたら、それを観てくれた他のアイドルのプロデューサーさんから、このアイドルさんにつけて欲しいってお願いされたんです。「え、いいんですか?ちょっとやってみます」って引き受けて、アイドルグループじゃなくて一人のアイドルさんに、ライブで歌う曲の手振りみたいなのをつけてあげたりしたのが、お仕事としては最初ですかね。
松本
今でも結構やってるんじゃない?
リズ
最近はアイドルさんの振付もやってますし、舞台の振付もちょっと増えてきましたね。アイドルさんの振付はいかにその子たちが可愛く見えるか、躍動感を見せられるかのアプローチの仕方で、舞台とはまたちょっと別。人数も全然違うので。アイドルさんは少ないと2~3人、多くても7~8人なんですけど。でも、舞台だと多い場合は30人くらい動かしたりします。
松本
そうですよね、大演舞みたいな。
リズ
舞台の振付を初めてやったのは、もうちょっと遅かったですね。
松本
ちなみになんて作品でしたか?
リズ
えっとね、@emotion(アットエモーション/門野翔さん主宰)の、
松本
@emotionなんだ。
リズ
Re:black』っていう作品。まだ@emotionさんが第2回とか3回とか、だいぶ若い時(2013年のvol.3公演)ですね。結構後悔が残ってるんですよ。
松本
どんな後悔?
リズ
その時に初めて男の子に振付をしたんです。女の子の振付はアイドルさんで経験値があったからできるのは分かってたんですが、やっぱり異性なので女の子に振付するよりも、難しいんですよね。格好良く見せてあげるやり方が分からなくて。
松本
全然違うわけだ。
リズ
全然違いますね。女の子みたいな振付をすると、見え方がなよなよした男の子になってしまう。足をバッって外に開くのと、内に入れてるのとじゃ全然違って。
松本
うんうん。
リズ
こういう付け方をしてしまうので(振りをやりつつ)男の子だったらやっぱりこっちなんですよね(同じ振りを微妙に変える)
松本
んんん?違いが分からない。もう一回やって。
リズ
女の子だとなんか、こういう付け方(ふわっとしたやわらかな動き)

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松本
ああ、華やかですね。
リズ
でもこれを男の子にやると……。
松本
まあ、なよっちい。
リズ
なよっとするんですけど、男の子だったら足をドン、とした方がいいんですよ(微妙に直線的で少しだけ重心を下げた動きに変える)
松本
ちょっと動きが違うだけで、こんなに印象が違うんだ。
リズ
足がどっちに開いてるかで変わりますし、男の子ってふわっとした動きがあんまり得意ではない。どっちかっていうと(動きながら)こういう、こういう・・・こういう。
松本
パリパリっとして、勢いがあるやつ。
リズ
そうなんですよ。勢いがあるのをつけるべきだったなっていうのは、その時に終わってから後悔しましたね。

役者をどう輝かせるか

リズ
振りを付けてる最中はあんまり見えてこないんですよ。終わってから改めて映像で見たりすると、もうちょっと出来たなぁと。(自分が振付した)過去の作品見ると、いやもう……、
松本
反省しますか?
リズ
反省むっちゃします。(かなり強調して)むっっちゃくちゃ反省します。

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松本
一緒ですね。役者さんが過去の演技を見て反省するとか、僕が過去の脚本を読み直して、なんて甘いんだ!ってなるのと。
リズ
(笑)
松本
その時、評価を得たとしても、今の自分から見たら若いな、安いなとか思っちゃう。
リズ
表現方法を知らないな、ってすごく思っちゃう。
松本
あ~、知らないね。
リズ
今の私は、役者さんをどう輝かせるかが一番(大事)って思ってて。
松本
あ、その順番聞きたかったんですよね。
リズ
役者さんをどう輝かせるかですね。例えばお芝居がどんなに上手でもダンスができない人がいるじゃないですか。そういうのを見せない。
松本
土屋(兼久)くん(6番シード)とか。
リズ
あはは、そうですね(笑)。土屋さんみたいなタイプの人もいるけれど、その人をダンスが出来ないように見せてしまったらこっちが負けだなって思うんです。例えば土屋さんで言うと、足元がすごく苦手なタイプなんですよ。
松本
なるほど。
リズ
だから足元しっかり立ってて、手振りだけだったら出来る。
松本
実際、『TRUSH!』で土屋くんを初めて見た人は、ダンスが苦手なイケメン俳優とは思わないはずで。
リズ
そうなんです。最近ずっと、そこを意識して作るようにしていて。どうやったらこの人が格好良く見えるか。立ち姿だけでも格好いい人っているから、そういうのを活かす方法を考えるようにしてます。あとはその分、踊れる人がたくさん踊ればいいっていう表現。表現で賄う、じゃないけれども。
松本
うん。
リズ
個々の能力や伸び代には限界があって、少ない稽古期間でダンスの振付にも限界は絶対あるじゃないですか。いきなりぐんとは伸びないので。それを違う表現方法でどんどんよく見せてあげたいっていうのが一番です。
松本
それはキャリアですかね。さっきの男性振りと女性振りの差に気付いたことも、経験というか引き出しというか。
リズ
そうですね。
松本
同じような振りでもちょっと重心下げたら変わるとか、土屋くんだったら下半身を安定させればいいっていう経験則が蓄積されてる。
リズ
今まで作ってきた作品を見ても、主役のこの人は、ここで踊らせないで1回くるっとターンさせるだけでひとつ浮き立って見えたな、とか、今までの経験から作品を作る上で大事なものが見えてきたかな、って感覚はすごくありますね。
松本
演出と一緒かもしれないですね。演出も、経験が重なれば重なるほど、色んなことが分かるようになるというか。あんまり衰えを感じないんですよ。この先(衰えを感じることも)あるのかもしれないですけど。やっぱり経験と引き出しが増える、だからどんどん色んなことができるようになる。
リズ
はい、分かります。手法が色々出てきますよね。私よく、自分の手札って言うんですけど、(トランプの)カードを切るみたいな。まず曲をもらって振付する前に、自分の手札を一旦全部書き出すんです。

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松本
手札ってどういう書き方をするの?
リズ
うふふふ(笑)普通にメモで、ネタ帳みたいな感じなんですけど。分かりやすく、「上下、回る、カノン、シンメ、追いかける」とか、ワードで全部出して、自分の中で一応ありだなって思う表現の方法を出しちゃう。
松本
その作品の雰囲気とか音楽を聴いて、今回の手札はこれ、みたいな?
リズ
そんな感じです。例えば、ペアダンスっていう手札も一応あるんですけど、作品的にはペアじゃないなと思ったら、それはやっぱり除外する。
松本
今回の手札ではないな、って。
リズ
ないと思ったものは外して、全般的にこれはいける、これはいけるって手札をばーって書いていく。あとは、奥行きを使うとか、今までに蓄積されてきて思ったことをばーって書いていく。他にも、色んなを動画みたり、自分が舞台観に行って「うわ!この表現面白い!」って感じたものを結構惜しみなくやってみたりもします。丸々は使わないですけど。

キャラクターを見せる振付

松本
以前『ヨミガエラセ屋』(2016年3-4月)の時に振付をお願いしましたよね。ダンスの音源が来て、最初に構成を作るじゃないですか。
リズ
はい。
松本
その時リズさんが「この音は面白いから、もらって良いですか」って言ったんですよ。
リズ
あのブレイクのところですね。
松本
曲がブレイクしてちょっとデジタリックな、ピコピコ音が落ちるところ。普通に考えたら、そこって役者が移動するんですけど、
リズ
そうですね。
松本
なんとなく固定概念で思っていた箇所を、「ここ使いたいです」って言われて、新しい発想だなって思った記憶があるんです。
リズ
あの時は本当に、ぱっ!て出てきた感じですね。正にアイデアが降りてきた。こういうデジタルな手振りでピコピコしたいなっていう印象がすごい強かったので、ここ欲しいなって。音として面白いところは、この音にはめたいって思うことが結構あったり、歌詞がある曲だったら歌詞にはめるのが好きですね。
松本
ドラマ性とかを気にするの?
リズ
そうですね。物語に沿ってる歌詞がある場合だと、そういう振付を付けるのはヒントにもなります。あとは脚本を読んで、脚本の雰囲気やキャラクターで考えます。『ヨミガエラセ屋』だと、キャスト紹介のところで全員違う振りを付けましたね。
松本
結構長々やりましたよね(笑)。
リズ
やりましたね(笑)。
松本
今思えば、長えなぁとも思うんですけどね(笑)。
リズ
全員、2エイトずつ(8拍を2回繰り返すこと。4小節)くらいかな?それを全員異なった振付にして。あれは、贅沢に振付したなって思います。
松本
あんなに丁寧にキャラ紹介するのは、あんまりないし僕もやったことなかった。
リズ
そうですよね、私もなかなかない経験でした。ダンスをあんまりやったことないキャストさんが多かったんですけど、『ヨミガエラセ屋』の話自体、キャラクターが強く出ていたので、作りやすかったです。
松本
キャラクターを見せる振りでしたね。
リズ
見せる振付で、こういう心情だろうなとか、こういう未来が待ち受けてるな、っていう振付をしたのがすごい面白かったですね。

(つづく)