佐藤修幸×松本陽一(3)
カーテンコールで言うべきことは
- 佐藤
- あと、今やってますけど、出来ればやりたくないのが、カーテンコールで物販の紹介をすること。
- 松本
- それ、未だにうちの劇団でも議論になるんですよ。
- 佐藤
- 出来ればやりたくない。で・き・れ・ば。ただ できない。
- 松本
- はははは!(笑)
- 佐藤
- はははは!(大笑)
- 松本
- それは、なぜです?
- 佐藤
- 流石にそこまで、なんというかこう、清らかになれない。やっぱ物販が売れなかったら生活していけない。死んじゃうんですよ。
- 松本
- 言うと言わないでは、売れ行きが全く変わるみたいですよ。
- 佐藤
- やっぱりそうなんですね。
- 松本
- うちの劇団も、最近は言うのが基本です。でも作品によって、すごくシリアスだったり、みんなが涙を流して終わる話の時に、主演の人が「グッズなんですけど…」ってなるとちょっと興ざめちゃう。それもあって、グッズ紹介の人選も考えたりします。
- 佐藤
- あー、そうですね。
- 松本
- うちの劇団でいうと宇田川さんが「そんなもん言わなくたって買う奴は買うよ」ってタイプ。だからいつも議論になっちゃう、言うべきか言わないべきか。
- 佐藤
- 宇田川さんの考え方も分かります。じゃあUDA☆MAP の時は…
- 松本
- …言ってますね。
- 佐藤
- 言ってんじゃねぇか!(笑)
- 松本
- 言わなかった時もありますけどね。
- 佐藤
- へぇ、そうなんだ。ENGは劇団じゃなくてプロデュース団体だから、誰かに「物販紹介を言ってください」って頼まないといけない。
- 松本
- まぁね、ゲストさんだし。
- 佐藤
- だからうちは毎回、 石部さんが言うんです。それから、キャストが終わった後に挨拶とかするでしょ。あれも結構…
- 松本
- 気ぃ使います?
- 佐藤
- うん。あれも、僕の嫌いなパターンがあるんですよ。いきなり「じゃあ今日は○○さん!」「ええ、僕ですか?ええ、聞いてないっすよ」ってなるのが…。
- 松本
- ああ、わかるわ…。
- 佐藤
- いやいやいや、話を振られたのが嫌なの!?って。まぁ、役者は悪くないんですけど。
- 松本
- あのまごつきの時間、どうでもいいですよね。
- 佐藤
- そうなんですよ。だからそれを回避するために、うちは小屋入りの時に誰が喋るか全部決めて、座長にLINEして、キャストに伝えてもらいます。そうしたら、あらかじめ考えてくれるので。まあ面倒臭い話ですけど。
- 松本
- でも、それで品が生まれるかもしれない。
- 佐藤
- そうです!だからね、手前味噌ですけど、うちの公演の最後の挨拶だと結構良いこと言うんですよ。
- 松本
- あとね、役者さんの心構えもちょっと変わるんですよ。
- 佐藤
- ああ…そうか。
- 松本
- 僕、珍しく『劇シナ』の時のカーテンコールについて、劇団員にダメ出しし続けたんですよ。
- 佐藤
- いや、でも、あれ素敵でしたよ。僕も1回、初日だったかな、松本さんに「挨拶長くないですか?」って言ったんです。
- 松本
- あ、ありましたね。
- 佐藤
- はい。
- 松本
- 土屋くんの後に、宇田川さんだったかな、良いコメントだけど2人ともが長く言っちゃった。同じようなことが他の日もあって、「劇団員今日もかよ」って思って。朝、全員が集まって前日のチェック、ダメ出しをするんです。その後に「劇団員ちょっと」って集めて、「昨日のカーテンコールですけどね」って。やっぱり、僕も品が欲しいんだと思いますね。
- 佐藤
- そうですね。まぁ、いいことを押し付けがましく言うのもね。
ルリ子プロジェクト
- 佐藤
- ちょっと前は良いことを言うのが流行ってたんですよ。
- 松本
- ああ…流行り廃りがある。
- 佐藤
- 最近はちょっと良いこと言いすぎて、言い尽くしちゃった感がある。「お客様のためにみんな頑張って…」みたいなのはもう普通になっちゃった。最近は、どんどんハードルが上がってるんですよ。この前感動したのは、梅田悠ちゃんが手書きの手紙を用意して、緊張しながら読んでた時。でも書いてある内容がちょっと訳わかんなくて。でもそれを頑張って考えてきて、懐から出して読んでること自体がすごいなぁと思いました。プロだなぁと。
- 松本
- へえ…カーテンコールにも流行り廃りがあって、いろんないきさつがあるんですね。
- 佐藤
- カーテンコールの挨拶で お客様の向き合い方がわかってきたんですよ。こっちから見てて。で、やっぱちゃんと向き合ってる人は、面白いこと考えてきたり、お客様に添ったことを言うんです。でも、その覚悟がまだないと結構自分の話しちゃうんですよ、あそこ。
- 松本
- うん。
- 佐藤
- 僕もしちゃうんですけどね。「すっごい充実してて」とか、「すっごい今回の現場はみんな仲良くて」とか言っちゃうんですよ。でも、ちゃんとしてる人は、自分の“芝居とお客様はこうあるべきだ”みたいな話をちゃんとするんですよ。あれすっごい、良いですよね。
- 松本
- 髙田Twitterに感想書いてください」なんてことも言いますよね。 くんや福地教光くんとかがよく言ってる印象かな。それに「演劇は口コミが大事」とか「
- 佐藤
- ああ、それも大事ですよね。
- 松本
- 「口コミで広がる、まだまだ小さいコミュニティ…」みたいな話。少し前から劇団で使うワードがあって『ルリ子プロジェクト』っていうんです。
- 佐藤
- なんですか?それ。
- 松本
- 浅丘ルリ子さんが…超ベテランの浅丘ルリ子さんが、映画の舞台挨拶の際にすごく真顔で品の良い感じで、「ぜひ、お友達に伝えてください」「ひとりでも多くの人に見て欲しいって言っても、なかなか見てもらえないのが映画」みたいなことを仰っていたんです。
- 佐藤
- うんうんうん。
- 松本
- 僕はそれをニュースかなんかで見て、感動したんですよね。単に一般的な、口コミしてくださいっていうテレビ越しのお願いなんですけど、思いと言い方と品格でこんなに届くんだ!って。まだTwitterとかない時代だったんですけど、その映画を観たら絶対、絶対口コミしようって思ったんですよね。
- 佐藤
- おお!
- 松本
- で、その感動を劇団員に伝えて、『ルリ子プロジェクト』っていうのをやろう、おちゃらけた感じじゃなくて真摯な気持ちで、動員を、口コミを増やそうって。それを…10年くらい前ですかね。今でも土屋くんとかは、「ルリ子でいきますか」とか、そういう言葉を使ったりするんです。
- 佐藤
- なるほど~。
尽きない悩み
- 佐藤
- あと悩むのは、プロデュース団体にゲストで来たタレントさんは、宣伝をするべきかしないべきか問題。
- 松本
- ああー。
- 佐藤
- そういうのあるじゃないですか。
- 松本
- はい。
- 佐藤
- それがねぇ、ずっと行ったり来たりしてますね。「するべき」「いや、ゲストで役者として来てるからしなくてもいい」「いや、自分が出る作品ならするべき」って。
- 松本
- 僕はやっぱり、団体とかにもよるかな、っていう気もするんですよね。
- 佐藤
- でも劇団員は、絶対宣伝した方がいいですよね。
- 松本
- あ、そうだ!僕、挨拶で良いなって思ったのがあったんです。ボクラ団義さんは劇団員さんの人数が結構多いじゃないですか。まだあんまり知らない頃に見に行った時に、最後の挨拶で、グッズ紹介を含めて劇団員全員が短いフレーズでとんとんとんって繋いでいったんです。
- 佐藤
- ああ、ありますね。
- 松本
- それでこの人たちが劇団員なんだ、って分かったんですよ。
- 佐藤
- 確かに分かりやすい。
- 松本
- そんなに知らない僕からしたら、これは良いプロモーションでもあるし、ちゃんと告知もしてるし素敵だなって思って。それも真似しました(笑)。
- 佐藤
- ありましたね。でも、今やってないかな。だいたい最後に高橋雄一くんが、アフターパンフレット のことを、「持って帰ってランチョンマットにでもしてください」とか「家に帰って冷蔵庫にでも貼っておいてください」ってボケるんです。それをいつも、今日は何て言うかな?って楽しみにしてました。宣伝は、こっちが強制的にさせることはできないけど、した方が健全ですよね。やっぱり。
- 松本
- 僕が以前、ちょっと商業的な舞台を観に行った時、グッズの宣伝なんかを役者さんにやらせていたんですが、良い時と悪い時があって。良い時は心からで、悪い時は義務感なのが…。
- 佐藤
- ああー、やっぱりそうなんだよな。無理矢理やらせてもしょうがない。うん、そうだぁ…。
- 松本
- でも、役者さんとしては、もちろんグッズが売れることは、別に売り上げがとかじゃなくても嬉しいと思う。
- 佐藤
- まぁ、そうですね。
- 松本
- だから、挨拶がそもそも嫌っていう人もいるかもしれないですけど、お願いすればみんな楽しくやってくれることが多い。
- 佐藤
- そうですね。全国ロードショーみたいな映画でも、キムタクさんとかでも、テレビに出て宣伝するわけでしょう?だからどんなに売れててもみんなやってることなんですよ。仕事として、事務所がやらせてるのかもしれないですけど。
- 松本
- でも、理屈は一緒ですよね。
- 佐藤
- だから、もっと小規模ですけど、自分が出る時は宣伝してますね。でも、やっぱりちょっと忘れちゃう。「あ、やべっ!今日宣伝してねぇや」みたいな。
- 松本
- 結局、ゲストに言わすべきかどうかの悩みは…。
- 佐藤
- その悩みは…、強制はやっぱダメ。理想は、上手く現場が転がっていればみんな勝手にやってくれる理論。集客も、芝居の質も。すべてにおいて、上手く転がってればいいんすよね。だから結構、前の対談の時も話しましたけど、稽古場のムードとか気にしますね。ネガティブなことは、なるべく言わないようにしてます。ツイートとかもそうだし。酔っぱらった時は危ないですけど。酔っぱらって変なこと呟いちゃうんですよね。
(つづく)