佐藤修幸×松本陽一(4)

※2019年3月1日、都内某所にて

佐藤修幸×松本陽一(4)

落ち着く声

松本
僕もね、最近、酔ったらもうツイートしないことにしています。
佐藤
テレビでも色々騒がれてますしね。気をつけないとやばいです。…というか、SNS自体が人間の手に余るツールなんです。神の所業ですよ、あれ。
松本
Twitterが?
佐藤
だって、ナントカカントカって言ったら、それが全世界に伝わっちゃうわけでしょ。そんなのもう神様じゃないですか。それが「コンニチハ」とかだったらまだいいけども、本当に人間の手に余るツールを全員使えるわけですよ、まじでやばいです。でもそれは今、どんどんいろんな人と繋がれて、宣伝という用途ではものすごくいい。でもそれって考えてやらないと。本名出していたら、なおさらですしね。

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松本
なんか悪いこと言われたりした事あります?
佐藤
いや、僕は、ありがたいことにあんまり無いですね。ただやっぱり、ゼロではなくて。最近ENGを)会社にしましたけど、会社にする前はほとんど自分1人で手作業で行う感じだったんで、チケットを郵送する作業なんかも…
松本
あー、予約した人全員にね。
佐藤
そういった事前作業もそうだし、本番中の席がどうたらみたいな意見もね。いろいろこっちの不備があった時にネットで書かれたり、直接言われたりしましたよ。
松本
いわゆるクレームみたいなやつ?
佐藤
そうですね。ただ僕、そういう対応はかなりやってるんです。昔、とある会社の事故受付のバイトをやってたんです。自動車事故を起した人が電話してくる窓口なんですけど。
松本
CMでやってるような?
佐藤
そうそう、守秘義務があるからどこの会社かは言えないですけど。だから僕、事故にあった人からの電話を聞き続ける、すごい所で働いてました。大体テンパってるか怒っているか、泣いているか。
松本
そうでしょうね。
佐藤
そういった人を落ち着ける仕事をしていました。
松本
何年やってました?
佐藤
8年くらい。役者さんの紹介で始めたんです。僕ね、その会社で表彰されたんですよ。「聞いていると落ち着く」って。
松本
あのねー、のぶさんの声は、それはちょっとあると思いますよ。
佐藤
本当ですか!まあちょっと…フフフ。ありがとうございます!今、誉められるターンかな、もっと誉めてもらってもいいんですよ。
松本
柔らかい声ですよね。役者さんとしても、いわゆる製作者、プロデューサーとしても、人にとても良い音がする。
佐藤
ありがとうございます。発声って、大きい声と小さい声があるんだけど、通る声で安定してるんです、音が。それは心がけてますね。
松本
僕が今日聞きたかったことの1つでもあるんですけど、のぶさんって凄く信念があって強そうに見えるんですけど、でも、柔らかいんですよ。その謎が何なのか知りたかったんです。
佐藤
あー、そうですかね。
松本
強さとか圧を与えないといけない瞬間って演出家やプロデューサーにはあると思うんですよ。のぶさんは強めの態度や語気なのに柔らかいな、って思うのは声なのかもしれないですね。
佐藤
そうなんですね。昨日、ある人と飲んで話したんですけど「なんか優しそうですね」みたいに言われて、でも、話せば話すほど、俺優しくねーなーって思って、そう伝えたんですけど、もしかしたら声なのかな…。
松本
まあ、声は要因の1つにすぎないかもしれない。ちょっと謎めいていてまだわからないですけど、優しくなさそうとか、きつそうというか、そういう一面があるのに柔らかいんですよ。

プロデューサーとしての現実

佐藤
優しい…ですかねぇ?究極まで優しかったら、いや、普通に優しい人でも、まずプロデューサー業ってできないですよ。
松本
一般論のイメージとしてもそうだと思いますよ、やはりタフじゃないと出来ない仕事ではある。
佐藤
メンタルを守るのはもう最優先事項ですね。はははは。
松本
己のね。
佐藤
数あるプロデューサーがみんなメンタルをやられて倒れていく中、自分の、「俺はやられないぞ。俺は最後に死ぬ。戦場で大将は死なないんだ!」みたいな思いはありますね。役者は、やっぱみんな思う所ありながら活動を続けてるんで、長く続けば続くほど、舞台の収益からお金を払っていければみんな満足しますけど、そんなの流石に無理じゃないですか…。こんなこと載せて大丈夫かな(笑)?そんな中でやっていて、バランスを取って行くとなると…
松本
例えば「安いギャラで頑張ってもらっている」っていう呵責なんかもあります?
佐藤
なるべく払うようにしています。…けど、やっぱりどうしても若手の子までは行き届かないですよね。実際、自分もそうで、僕は30歳で初めてノルマのない舞台に出たぐらいだったんで。それは本当は良くないんですよね。僕は続けるって意識があったから、続けてきましたけど、普通に考えたら絶対に無理だし。
松本
この対談企画で掘っていきたい話題は沢山あって、今の話題もその1つ。以前の対談でサカキバラさんとやった時に、役者のギャラについて「演劇界に残された最後のフロンティア部分」って仰っていたんです。

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佐藤
理想は、みんな最低限1ヶ月暮らせるように支払いたいんですけど…
松本
理想はね。実際、それは…無理なこと?
佐藤
いや無理とは言わないですよ。僕は実現させようとしているんです。ほぼほぼ満席にするってことは最低条件。それがほとんど出来ないで死んでいくんです。それが出来たとしてもグッズが売れないとダメ。グッズが売れてもまだちょっときつい。
松本
それでもですよね。
佐藤
それでもですねー。まあ、四人芝居のように人数が少ない公演で全部埋まれば、役者にめっちゃ払うこともできますけど。
松本
まあね。
佐藤
どうあっても、こっちのプロモーション不足なんですよ。今ある、できる材料でやるしかないから、何を言っても愚痴になっちゃうんですけど。

(つづく)