山岸謙太郎×松本陽一(14)

※2019年11月25日、某所にて

山岸謙太郎×松本陽一(14)

クリエイターとして色を持つ

山岸
僕も松本さんも器用にやれるほうなんですけど、やっぱりクリエイターとしてちゃんとした色を持たないとダメだな、とは思ってはいるんですよ。松本さんはやっぱりコメディ。暗いのをやったりすると評判よくないっていうのは、一つに、松本さんにそれを求めていないっていうことだけだと思うんですよ。
松本
うーん。
山岸
松本さんがおそらくダークなものにチャレンジし続ければ、自然に「松本さんってそういう色なんだな」ってなっていって、また評価も変わっていくんじゃないかと僕は思うんですよ。やっぱりお客さんが何を求めて来てくれるかっていうのは、すごく大事なことだと思うんです。「こういうのが見たかったら僕のところに来てくれたら見れるよ」っていうのは、お客さんにとってもすごくいいことだと思うんです。
松本
さっきの岩井俊二監督の話みたいなことですね。
山岸
ええ。なんでも撮れる人ってやっぱりなかなか……。別に名を残したくてやってるわけではないですけど……名は残らないですよね。

松本
言葉で言うと職業監督みたいな。
山岸
そうです。どんなジャンルでも対応できますよ、ちゃんと完成に導きますよって人って、クリエイターとしてもちょっと僕は寂しい気がしてしまっていて。「これなら山岸に頼みたい」って言われるもの……だから「ルパン三世の実写化を頼むなら、山岸しかいないでしょ」にならないといけない、と今は自分の中で思ってます。それまでは器用な監督になりたいと思っていた部分もあるんです。どんなものでも撮れる自信もあったし。でもそうじゃなくて、お客さんがTSUTAYAに行ってどのジャンル見ようかなっていうのと同じ感じで、僕にはちゃんとしたこのジャンル、山岸にこれを任せれば間違いはない、をしっかり持っていた方がお客さんにとっても良いだろうなって。
松本
そうですよね。園子温監督って言われたらパッとイメージできますもんね。
山岸
園子温みたいな映画が見たい、っていう時に、ちゃんと園子温に手が伸びる。
松本
そして、園子温が絶対に見たくない日もあるじゃないですか。
山岸
ある。園子温を避けたい日、ってのが。
松本
わかりやすいですよね。

松本流・群像劇の手法

山岸
だから逆に言ったら、本当に辛いことがあって「これは劇団6番シードを見て明るくなろう!」って思って劇場に行ったら、めちゃめちゃ重たい話をやってた場合……ってことじゃないですか。やっぱそれは何か違うのかなってなってしまうとか。
松本
お友達の劇団のBobjack Theaterってところが、『明日ちょっと元気になる劇団」ってキャッチフレーズを掲げていて、ハッピーエンドにこだわる劇団さんなんですね。素敵だなと思ったんですよね。
山岸
うんうん。
松本
ハッピーエンドの難しさをよく知っているので、そこに気持ちを置いて物語を作るっていうのと、お客さんがそう思って来てくれるわけじゃないですか。それでバッドエンドだった時の裏切りと言うか。
山岸
うん(笑)。そうなんですよ。
松本
僕もどこかで、小さくまとまりたくないみたいに思っているところがあったり、いろんなジャンルを書くのが好きっていうのもあるんですけど、1ついろんなものをやって、自分のもっと特化したものだったりっていうのをもう一個上の段に持っていきたいってのもあるかもしれない。
山岸
正にそうですね。
松本
僕は何かね、自分で言うのもあれなんですけど、あんまりコメディじゃないんですよ……(苦笑)。
山岸
本当は(笑)。
松本
すごく難しい、ジャンルが作りづらいヒューマンドラマみたいなところなんですよ。
山岸
でも、群像劇ですよね。
松本
あ~、それも一つ売りにしてもいいですよね。
山岸
演劇だから群像劇、っていう気が最初はしてたんですけど、多分松本さんってそうじゃなくて、何を書いても群像劇が得意なのかな、と。
松本
それは多分、意識的に「群像劇、群像劇」って思わずに今まで作ってきましたけど、多分……上手いかも(笑)。
山岸
ふふっ(笑)。僕はそう思います。他の演劇を見たりして、小劇場ってやっぱり全部のキャストにスポットライトが当たらなきゃいけないので。
松本
群像劇にならざるを得ない。
山岸
そう、自ずと群像劇になるんですよね。でも他の演劇作品を見ると、やっぱり美味しい所って主人公が多いじゃんってなるんですよね。でも、6Cさんってみんな美味しい所があるし、なんなら主人公よりも脇のキャラクターの方が印象に残って終わることって多くないですか。
松本
そのことなんですけどね、僕、長年の研鑽の結果かもしれない(笑)。ちょっと得意気にそのロジックを話しますと……
山岸
はい(笑)。
松本
本来ストーリーを担う主人公。その主人公の位置づけとか作り方が絶妙に上手くなってると自分でも思うんですよ。今、逆のことを仰ったじゃないですか、他を見ると主人公ばっかりだって。
山岸
ええ。
松本
実は僕、主人公ばっかりのように作ってるんですよ。
山岸
ほほぉ~。
松本
主人公さえ、つまりメインのストーリーさえちゃんと作れていれば、脇役が必ず引き立つ……っていう。そのためには、色々、絡ませたりとかのテクニックが必要なんですけど。見終わった時に上手い群像劇だなって思ってもらえるのは、主人公の扱いが上手いってことなのかなって。僕が最初に脚本を教わった映画学校の先生から「シナリオは主人公がすべて」って言われたのをずっと心において物語を作ってきたんで。
山岸
そういうことかもしれませんね。話の核がちゃんとできているから、脇が見えてくると言うか。多分、軸の話を追うのにお客さんが一生懸命になってしまうと、脇に意識がいかないし。
松本
そう、サイドストーリーとか言うじゃないですか。必ず置いていくんですけど、上手くない脚本はサイドストーリーが本当にサイドなんですよね。
山岸
別物で浮いてしまうと言うか。
松本
単に役者さんの見せ場を作っただけのシーンに見えちゃう。
山岸
結構そういうの多いですね。
松本
そういうのを見ると、偉そうにダメ出しをしたくなって。
山岸
うはは(笑)。
松本
「そこはね、ちょっと前に主人公と道ですれ違うだけでも違うんだよ」みたいなことを言いたくなる(笑)。
山岸
人間関係において全て伏線が貼られているんでしょうね。何もなく、ただ出てくる人がいないのかな。
松本
でもね、この間、あるプロデューサーさんに、舞台で全部のキャストが美味しかったってお客さんが思える人数は、僕は17人が限界だと思う、みたいなちょっとしたおもしろ話をしたんですよ。
山岸
キャスト数で?
松本
そうです。17人を超えるとやっぱり端役が生まれてしまう。最近はちょっと腕が上がったのか、20人ぐらいまでギリギリいける。
山岸
おぉ、いけるんだ。
松本
でも危険なんだよね。
山岸
こちらからすると17人でも相当多いのに。
松本
それがさっき言ったようにストーリーにちゃんと含ませた上で、2時間の演劇作品として無駄な人が居なくて全員面白いねって思わせられるギリギリかなぁ。3時間あればまた違いますけど。そんな話をしたら、他の演出家もやっぱり、みんな同じように言ってて。あるプロデューサーは(演出家から)「キャスト数23……じゃあ、美味しくない人が6人出るけど良い?」って怒られたことがあるって。
山岸
あ~。
松本
やっぱりそうなんだな、って。

目指したい未来

山岸
ある程度、群像劇というか……。僕の中で、松本さんの強みが意外とコメディではないのかも?って思ったのが、松本さんが好きな映画が『ラブ・アクチュアリー』(2003年/リチャード・カーティス監督)って話をしたときに、あ、そこなんだ、と思って。
松本
ド群像劇ですね。
山岸
ド群像劇だし、群像劇の一番難しいところをやっている映画じゃないですか。
松本
そうですね。
山岸
あんなに淡いテーマで……、バラバラでも良いじゃん、みたいなところもあるんだけど、やっぱりあの人たちじゃないと繋がらないというか、目に見えないもので各々のお話が繋がってる映画なので……。ああ、そういうのが好きなんだ、ってちょっと思いましたね。
松本
あの……あれが目標みたいなところはありますね。さっき、ヒューマンドラマの括りの話をしましたけど……例えば、ゾンビものでもいいんですけど、世界観が強いと、やれることもいっぱいある。
山岸
そうなんですよ。
松本
で、『ラブ・アクチュアリー』は、ただクリスマスの街を描くだけなんで、……無い、んですよね。無い中でドラマを作る難しさというか、恐怖を知っているので、あそこであんなに豊かな物語が作れるっていうのがすごいなっていう……。
山岸
そうっすねぇ……。
松本
最近観た『THIS IS US(2016年9月~)っていうアメリカの連続ドラマがあって……。見ました?
山岸
いや、知らないです。
松本
それの第1話もすごく秀逸なんですけど。
山岸
それはNetflixか何かで?
松本
僕はTSUTAYAで借りたんですけど、たぶんどこかの配信でもあると思います。
山岸
THIS IS US』、探してみよう。
松本
そのドラマも、本当にどこにでもいるような人のヒューマンドラマを、ほんのちょっとの仕掛けだけで面白くしているんです。ただ、仕掛けがほんのちょっとなんで2話以降だんだんしんどくなるんですけど(笑)。
山岸
あ~、なるほど(笑)。
松本
だけど、最終目標はそこに行きたい、みたいな思いはあるんです。
山岸
う~ん……そういう意味では、僕はエンターテイメントなのかな。なんなんだろうな……闇なんだけど(笑)。でも闇ってね、ダークな闇っていう印象は僕の中には無いんですよね。暗闇から何かが出てくるワクワク感なんですよ。それが僕の中ではルパン三世であったりとか……
松本
たとえば『ダークナイト』(2008年/クリストファー・ノーラン監督)とか?
山岸
ああ、『ダークナイト』は好きですね。
松本
あれもなかなかダークですけど、超バッドな感じもしないし。
山岸
そうですね、やっぱりヒーローなんで。
松本
エンタメ感強いし。
山岸
子どもっぽくならないヒーローものみたいなのが好きだとは思います。
松本
でも、闇って言っても『ジョーカー』ではない……んですよね…?映画のティストとしては。
山岸
う~ん、『ジョーカー』は……。最近観た映画で面白かったのはなんですか?って聞かれて『ジョーカー』って答えましたけど、僕、あの映画そんな好きじゃないんですよ(笑)。
松本
ふふっ(笑)。
山岸
『ダークナイト』に出て来るジョーカーの方がやっぱり格好良いし、好きではあるんですね。ただ、あの面白いっていうのは……興味深いっていう意味で面白いんですけど……でも、やっぱりそうですね。
松本
これ、対談としては非常に……少し将来を語ることもあり、面白く締まったんですけど、Dプロ全然話してない(笑)。
山岸
良いんじゃないっすか(笑)。

松本
途中ちょいちょい言ったくらいですかね。時間的にもかなり喋りましたし。
山岸
良いんじゃないですかね。
松本
ありがとうございました。
山岸
ありがとうございました。

(おしまい)