図師光博×松本陽一(4)

※2017年9月5日、都内某所にて

図師光博×松本陽一(4)

笑いを取るにはアクシデント

図師
今思い出したことがあって、僕、『ザ・ボイスアクター』で確かやったんですけど、ああいう単発で出るもので笑いを取るには、アクシデントが一番わかりやすいんですよね。
松本
はいはい。
図師
例えば噛む。あえて噛む。
松本
引っかかるとか。
図師
靴脱げちゃうとか。
松本
つまづくとか。
図師
僕がやる手法なんですけど(笑)。お客さんに「図師さんよく噛むからね」って言われた時点で、これって騙せてるんですよ。
松本
(ここで言うと)これもう使えませんよ?
図師
ひゃっはははは。

松本
次、図師くんが噛んだら「あいつやりやがったな」ってなりますから。
図師
でも、お客さんにそれを言われた時点で僕はちょっと「あっ、うん、(騙せてたぞ)」って安心する。でもこの人からはダメな人って思われるんです。
松本
そうですよね。
図師
噛んじゃってる人だもの。
松本
多少哀れみも…。
図師
哀れみも(笑)。だから僕の中で(の満足)しかないんです。騙せて笑いが取れたなって思うのは僕の中でしかない。言ってしまえば、同じ舞台上にいるキャストですら噛んだなって思うかもしれない。でも、それでよかったりする部分が自分の中にある。騙せてるというか、あえて噛んだんじゃなく、芝居が出来たんだって。自分の中で満足感を得てしまう部分があるんですね。
松本
その手のテクニックというか、極端な話ですけど、演技でもトークでもそうだと思うんですけど、自分を騙す上手さのある人ってうまいと思うんですよ。
図師
あーなるほど。
松本
つまり噛む時に本当に甘噛みした感じになってるじゃないですか。テクニックでここで今舌を噛んだじゃなくて、自分であえて引っかかった時の人間の演技をしたと言うか。
図師
うんうん。
松本
つんのめるのもそうですよね。何もないところで、(何かが)あるかの気持ちになる。これはまあ普通の演技でもそうですし。例えば、トークショーで多少段取りをしていて、すでに知っている情報に対しても、初めて聞いたかの様に「えっ!」「そうだったの!?」って、いうような反応もしますし。
図師
はいはい、そうですね!
松本
でも、ちゃんと騙せたら盛り上がるし、そんなのトークショーである話じゃないですか。僕も自分でトークを回したりしてる時に、知ってるけど初めて聞いたような感じとか、やったことあるなーって。
図師
ほんとそうですよね。
松本
でもそれは演技には繋がるものですけど。
図師
確かに。だから芸人さんとか漫才師の方って、凄いですよね。常に初めて喋ってるかのような…。
松本
初めてのように、そんなわけないだろ(笑)っていう、ツッコミをする。
図師
名演技ですよね。
松本
200回300回どころじゃなく…
図師
たくさんやってるわけですもんね。それを見てる人は、これ初めて喋ってるんだろうなって感覚になるってのは名演技だとな思うし。たぶん僕は芸人さん達から、そこを学んだと思います。ベタですけど、「本番は台本を忘れてください」「そこで初めて起きたことを本当に思ってください」って演技指示が、やっぱり究極なんです。それが演じられればそれが一番だから、芸人さんってそこを勝手にやるんですよね。
松本
はい。
図師
アクシデントもアクシデントだし、でも本当は稽古してるし、でもそこが本当の意味ではアクシデントにお客さんには見える。そういうところが多分僕の真髄というか、重きを置いてるところだと思うんです。

本人役の難しさ

松本
もう一回図師ワールドに戻ると、あれですよね、「図師光博」役をやったことありますよね(笑)。
図師
うはははは(笑)。あるんですよ(笑)。(2016年9月『バックトゥ・ザ・舞台袖』)
松本
あれ、極まれりですよね(笑)。
図師
あれはでも…、すごい難しいですよね。正直言うと。
松本
そうですよね。嫌でしょ?
あれは、実名で出るのが何人かいる、っていうギミックの脚本でしたね。中野(裕理)さんとか。
図師
そうです。本人役っていうのが趣旨だから、役名が別の名前で、本人です、でも成り立つは成り立つ話なんですけど、それをたまたま本当の僕の名前にしているっていう。でも、ハードルは高いですよね、あれって。僕を知ってる人は面白いですよ。まず、出てきて最初のセリフが「どうも図師です。」だから。
松本
あ、そうなんだ(笑)。
図師
一番最初のセリフが(笑)。
だから、その日によってウケが違って、あ、今日は僕を知ってる人が多いなとか(笑)。でも僕のことを知らない人は、今度はマイナスになるんですよ。
松本
そうですよね。そりゃなりますよ。

図師
え、なんで笑ってるの?名前言っただけじゃん、って。で、俺がちょっとなんかしたら、まあ簡単に言えば身内ネタみたいになると、知らないお客さんはどんどん引いてっちゃう。
松本
そういう風に感じちゃいますよね。
図師
だから、そことの戦いなんですよ。そこの人たちを、「あ、そういうものなんだ」って面白くしないといけないから、そこは結構考えました。僕のことを知らない人にも面白くないと、お客さんの間ですごく温度差が出ちゃうんで。
松本
話それますけど、舞台上でのそういう感度っていうのが、それこそ、お笑い芸人さん並みにありますよね?
図師
僕は正直言うと、師匠というか、教えてもらった人はあんまりいなくて、そういった存在なのは芸人さんなんですよ。僕の先輩の。
松本
へえ。
図師
教わったのではなくて、その芸人さん達から勝手に僕が盗んだというか。たぶん、感覚としてそうなんだと思います。僕が若かりし頃、ずーっと付き人かのように、金魚のフンかのようについていって、そこばっかり見てたから。
松本
へえー。じゃあ、ちょっとその歴史の話にいっちゃいます?
図師
はい。

(つづく)