図師光博×松本陽一(6)
野球と挫折
- 松本
- 原体験や東京に出て来てからの話を伺いましたけど、その前の話も聞いていいですか?子供の頃とか。
- 図師
- なるほど、いいですよ。
- 松本
- 生まれはどこなんですか?
- 図師
- 生まれは宮崎県なんです。両親が宮崎の人なので。でも、育ちはずーっと愛知県です。
- 松本
- 名古屋?
- 図師
- 名古屋から結構離れた、岡崎市ってところで、ど田舎ですね。だから、演劇も何もないです。僕ね、高校野球やってたんです。
- 松本
- 野球少年だったんだ。
- 図師
- 365日、ずーっと野球やってました。そこそこ強いチームで。で、高校3年生で負けて、甲子園行けなくて、終わりってことになって。
- 松本
- どのくらいで負けたんですか?
- 図師
- 4回戦くらいだったかな。すぐ負けたんですよ。燃え尽き症候群でしたね。何もやることないんですよ。次の目標もできない。
- 松本
- 3年生で引退みたいな感じですか。
- 図師
- それで、大学行くの?就職するの?ってなるんですけど、目標が何もないから困りました。一応、親が大学行かせてくれましたけど、あんまり通わなかったですね。ずっと遊び惚けてた時に、友達が映画を撮るっていうから参加したらハマっちゃったんですよね。
- 松本
- 僕は部活とかやったことないんですけど、相当 捧げてるわけでしょ?
- 図師
- はい。今年の夏も高校野球やってたじゃないですか。甲子園で負けると、球児達が泣いて歩けなくて抱えられながらグラウンドを去りますよね。
- 松本
- そうですね、抱えられて。
- 図師
- 僕、ちっちゃい時から「さっさと歩けよ!」って思ってたんです(笑)。だけど、実際負けると立てないんですよ。僕もなったんです。
- 松本
- 4回戦で。
- 図師
- ずーっと「甲子園行きたい!」「甲子園に行くんだ!」って思って、一年中野球をやっていたから、負けると立てなくなっちゃうんです。涙も止まらないし。僕も支えられて球場を出たんです。
- 松本
- ははぁー。
- 図師
- ああ、これ以上は無いな、って。これ以上泣くことは無いな、って思ったんです。それくらい捧げちゃってたから。
- 松本
- ちなみに、人生その後、それ以上泣いたことはまだ無い?
- 図師
- 無いです。あ、でも、芝居は、そういう意味では近いものがありますけど、目標が消えることはないから。自分でやめない限りは途絶えさせられることがないから。だから、あれ以上は無いです。泣きながら歩けないっていうのが、本当にあるって知りました。
- 松本
- 一回燃え尽きたんですね。
- 図師
- 大学で野球をやるか?って話になった時に、自分がそこまでの実力じゃないっていうのは察していたからやらなかったし。
- 松本
- ちなみにポジションはどこだったんですか?
- 図師
- ピッチャーです。
- 松本
- え!ピッチャー!それは重たいですね。
- 図師
- いやでも、エースじゃなくて控えですよ。でもそれこそ、その野球の強い高校……僕、頭悪かったんで、中学の時、高校どうするの?ってなって、行ける高校が限られてたんですよ。その中で野球の強いところに行こうって思って親に言ったら、「ムリムリムリ!あんたがあの高校
最初、ショートに並んだんですよ。ショートに十数人いるわけですよ。
は無理だよ。」って言われて、腹が立って。実際その高校に行ったら、 特待生ばっかりで。
- 松本
- あ、希望部署に並ぶの?(笑)
- 図師
- 部活入って半年くらい経ってからですよ。それまでは球拾いばっかりだから。初めてのノックで、「お前ら好きなポジションに行け」って言われて。ショートって人気だから、10人以上いるんですよ。前3人くらいは特待生なんです。僕は後ろの方に並びながら、1球目で諦めたんですよ。あ、次元が違う、って。
- 松本
- うははは(笑)。
- 図師
- ああ、これか井の中の蛙って。もう 上手すぎて。ああ、おふくろが言ってたことはこれだなって。でもまぁそこから頑張って。
- 松本
- ピッチャーの方が余程門が狭そうだけど?
- 図師
- まぁ、変化球ピッチャーでしたからね。
- 松本
- 当時から変化球投げてたの(笑)。
- 図師
- そう、当時から変化球(笑)。直球ではスコスコ打たれるから(笑)。でもそれで、控えで10番っていう。
- 松本
- すごい!いわゆる2番手の控えですね。
- 図師
- まぁまぁ2番手控えみたいなところありますよね。一応それで大会を終えたから。親としてはピッチャーとしてベンチに入ったんだ!って。
- 松本
- ……で、立てなくなった。
- 図師
- 立てなかったですねぇーーー。だから、それこそ青春です。今思えば。
社交的?人見知り?
- 松本
- そんな野球少年を芝居に引き込んだのが、映画祭で笑いを取れたこと、なのが、面白いですね。
- 図師
- いや~、でもそうですよね。なんか味わったことのない……。なんかこのキャラクターだと、なんか小学生の時からずっとワイワイしてるって思われるかもしれないですけどね。僕、意外にモテてたんですよ、一番のピークは小学生の時ですけど。……ヘッヘヘ。もう、バレンタインデーは、家のチャイムが鳴り止まないくらい。
- 松本
- へぇ~。
- 図師
- ピンポーン♪って鳴ったら「ありがとう」って言って受け取って、中に戻ったらまたピンポーン♪って。僕の部屋に友達が何人か居て、もらったチョコレートを食べるっていう。
- 松本
- それはすげーやつだね。
- 図師
- すごかったんですよ。小学生の時だけなんですけど。ヘヘッ。だから、言ってしまえば、勝手にちやほやされてたんですよ。だからそんなにワーって やらなくても。
- 松本
- その幼少期や高校生の時の図師くんは、どっちの図師くん?社交的な感じなの?人見知りなの?
- 図師
- あっでも……、”ーーーー!!!もしかしたらですけど、その時点で社交的だと思われたいと思ってたかもしれない。 あ
- 松本
- うん、作られた方の“図師”に。
- 図師
- だから、そう考えたらどっちが本当なんだか分かんないですね。
- 松本
- そうですね、掘り下げてみるとね。
- 図師
- あー、どっちなんだろう?
- 松本
- ピンヒールで踏まれても表情変えなくなったのはいつ頃ですか?
- 図師
- でも結構前からかもしれないです。なんか、この人怒ってるんだろうな、って時あるじゃないですか。
- 松本
- うん。
- 図師
- あの空気とか耐えられなくて。
- 松本
- はいはいはい。
- 図師
- それ多分ちっちゃい時からだと思うんです。あんまり自分の感情を察せられたくないというか。……あー、昔からなのかなぁ?もしかしたら。
- 松本
- その可能性ありますよね。
- 図師
- ってなったら、これが本当の僕ですよね?どんどん分かんなくなってく。何が本当なんだろう?分かんなくなってきた。
- 松本
- 表情を変えないってことですか。
- 図師
- 自分の中では、バレたくない。人見知りなんだな、この人、って思われたくない。だから、表現としては「あ、ど~も~」って言ってる。
- 松本
- 子供の時からだとすると、それが本当 なんだ。
- 図師
- ですよね。でも一個、自分で乗せてる……。本当の純粋な陽気な人って、根がなんかもう…、
- 松本
- 根がラテン系っていうか。
- 図師
- そう!根がラテンみたいな、外国人みたいな人いるじゃないですか。
- 松本
- いますいます。
- 図師
- あれとは全く違うんですよ。
- 松本
- うん。
(つづく)