今年一年振り返り①「ボイルド・シュリンプ&クラブ」

今年一年振り返り。

毎年年末に、自分自身の備忘録的な意味も込めて、今年一年で上演した舞台などの活動を振り返っています。
今年の作品群は、
5月「ボイルド・シュリンプ&クラブ」
6月「ガールズトークアパートメント2020」
8月「袴DE☆アンビシャス」
10月「ペーパーカンパニーゴーストカンパニー」
11月「12人の私と路地裏のセナ」

でした。このうち2作品 
#袴DE
#12セナ 
が公演中止、来年に延期となりました。それについては最後に振り返るとして、まずは、今年一発目の
#シュリクラ
から振り返りスタート!

4月〜5月
劇団6番シード第72回公演
「ボイルド・シュリンプ&クラブ」
シアターKASSAI

藤堂瞬演じる御堂筋海老蔵と、椎名亜音演じる諏訪蟹子の探偵コンビが事件を解決するミステリーコメディ。
まさにテレビドラマのような1時間×4話というスタイルで、1話2話がA公演、3話4話がB公演、全部一気に上演する一気公演もやりました。一気公演は評判が良かったですねえ。13時に開演して、途中長い休憩は入れましたが、終演は18時半という、なんと5時間半の公演!!!どうせマチネソワレで2公演とも観るのなら一気公演の方がいい、という声をたくさん頂きました。またこういう2バージョン公演とかあったらやりたいと思います。というかすぐ来年にある予定です笑。

この作品は「倒叙ミステリー」と言って、観客は犯人が最初から分かってる状態で始まるミステリーの形のことを言います。古畑任三郎がまさにこの形です。最近古畑知らない世代が出始めてるのには驚いた笑。
CASE1「地下鉄ジャックを阻止せよ」
CASE2「イタリアンの罠」
は2012年に初演(10年前かっ!)した台本に加筆したもので、
CASE3「ピエロの逃避行」
CASE4「浮気調査は世界を救う」
は新作でした。全4時間は演出も大変でしたが、探偵の二人、とりわけ謎解きを担当する藤堂は台詞の海に溺れておりました。しかし、しっかり間に合わせてくるのが信頼の劇団員って感じで頼もしかったな。各話ごとに振り返ります。

CASE1「地下鉄ジャックを阻止せよ」
松木わかはさん演じる普通のOLが犯人。冒頭で「半蔵門線をジャックします」と警察に予告電話するシーンから始まります。この何の変哲も無い会社員がなぜ地下鉄をジャックするの?という謎を、探偵達が解いていく流れ。
松木vs藤堂のやりとりが脚本家的にも好きで、稽古場でもずっと二人で台詞合わせしてましたね。こういう心理戦がやりたくてこの倒叙形式にしたというのは大いにありましたし、それを存分に表現してくれました。
一方椎名演じる蟹子は、冷静に考えるとかなりのイカレキャラクターで、初演時が6ヶ月連続公演のラストで新作だったので、なかなかの遊びテンションで描いた感が月日を経てやってみたら思ったこと。ちなみに再演のA公演と、新作のB公演では、同じ作家(わし)が書いた同じキャラとは言え、やっぱり熱量が違うなと思いました。シリーズもので作家が何人がいるみたいな。それは主演の二人にも伝えて、蟹子のパーソナルはこのイカレ1話でよろしく、という話をしました。
ラストは、失踪した恋人と再会するというなかなか素敵なホンだと思います。駅員演じた遊佐邦博さんと慶洲君のコンビもいい味出してたな。川上献心君演じたサラリーマンの末路がちょっと可愛そう。

CASE2「イタリアンの罠」
神谷未来紘さん演じるイタリアンレストランのオーナーシェフが、ワインセラーでスポンサーである会社社長を殺害するところから物語が始まります。この回が一番正統派ミステリーという感想が多かった気がします。殺人事件ですしね、レストランが舞台のワンシチュエーション感もあるし、オーナーがいかに厨房を抜け出して殺害し5分で戻ってきたか、という密室&時間差トリック的な要素がそうさせたのでしょうね。これも再演作ですが、当時マジで死ぬほど苦労して書きましたよ。「不思議なものは何もない」というミステリーを書く勉強にもなった話です。
その分、コメディ色が弱まるので、宇田川さん演じる大家のバアさんがシェフに恋するサイドエピーソードなんかを入れました。樋口演じる村田刑事もコメディリリーフ的な位置で登場するのですが、それが一番活躍するのがこの話かな。その相方として台本上はほとんど記載のない「ファンファン」というホステス?嬢、1話で女子高生を演じていた花実優さんをモブ的に配役したのですが、面白かったのでめでたくCASE4で再登場することに。こういうのもシリーズ物の面白さですね。
ラストは、オーナーが味覚障害になって、それを隠す為に野口オリジナルさんが演じる副料理長が…という謎解き二重構造は良かったなと思っています。殺人事件ですからね、犯人のその後を想像すると結構辛いものがあるのですが「この店を頼んだぞ」という最後のオーナーの台詞は気に入っています。

そしてこの1話2話に登場するのが舞川みやこさん演じるメイドカフェ店員と、西澤翔君演じる繁華街で客引きをしているフリーター?の二人。舞川さんのゆるい接客最高でしたね、その発想はなかった!と稽古場で唸りましたわ。西澤くんの素を生かしたというか何と言葉にすればいいかの西澤ワールドと相まって、いい癖キャラになりましたねえ。こういう情報屋ポジっていいですよね、僕も大好きなジャンル。ジャンル?。CASE3CASE4では別の情報屋が出てきます。探偵+情報屋っつーのがたまらないのよ。今後もシリーズ続くなら新しい情報屋も増やしたくなる。でもこの人たちもまだ出て欲しいから悩む。

CASE3「ピエロの逃避行」
図師光博君演じる風俗店のサンドイッチマンのバイトをしているピエロと、七海とろろさん演じる恋人の風俗嬢の逃避行のドラマ。図師君呼ぶとシリアス班にしたくなるんだよなあ。あ、このホームページの対談企画に図師君との対談があってそのタイトルが「ピエロの葛藤」です。この対談からインスパイアされた部分はあったかも。お時間あればご覧ください。
連ドラで言うと異色回ってやつです。あんまりミステリー要素ないし、ロードムービー的な展開だし。恋人を守る為に風俗店の店長を殺害してしまったピエロ。真相はもう少し深いところにあって、そこに小沢さん演じる今は落ちぶれてしまった大道芸の師匠との歴史が絡み合っていきます。短編なので少し描き足りないな感はありますが、小沢さんにはとにかく薄い薄い演技を要求しました。「何もしないでそこにいるだけでいい」的な。
情報屋がCASE1、2とは変わって、ちょっとダークサイド方面な人々。花奈澪さん演じる偽造パスポートを売る裏社会の女リョウと、門野翔君演じる窃盗団のリーダー、タケルが探偵達に協力していきます。リョウは面白いキャラだったな。かっこいいのにコミカル要素もいけるし、なんかファニーな魅力はなみおさんのキャラ造形の賜物。CASE4で弁護士になるのとかもう。かどしょーは伸び伸び演じてましたね。普段のあいつに近いのかな、どうかな。本当にああいう奴としか見えない笑。あとアクションのキレえぐい。
宇田川さん演じる悪徳刑事・香水華はシュリクラの元になった作品「0:44の終電車」に登場したキャラクターでした。2018年にその作品を女性版としてアリスインプロジェクトで上演したのですが、その感じがもうすごく良くて、再登場させました。0:44に興味ある方は劇団のホームページで初演のDVDを販売してたと思います。みんな若いよ笑。
ラストの感動のデビルスティック。ラストにピエロがなんか大道芸をやって泣かせる、というイメージは早くからあったのですが、お手玉とかシガーボックスじゃちょっと絵が弱いなと思い、きっと難易度は鬼高いだろうと思ってたけど、顔合わせの日に図師くんの席にデビルスティックをそっと置きました。その後の奮闘はメイキングでぜひ。

CASE4「浮気調査は世界を救う」
土屋兼久演じる潔癖症のエリート刑事が特殊詐欺に加担していたというドラマ。まず殺人事件はやめようと思ったのです。古畑は全部殺人の倒叙ミステリーですが、探偵なので、殺人以外の事件も(ていうか殺人の方が稀であってほしい)解決したいなと思って思いついたのがオレオレ詐欺(特殊詐欺)でした。謎解きを組んでいくと案外、というか相当難しく、殺人の方が物語のフォーマットがあってある意味楽なんだなあと思いました。最終的に犯人が「参りました」となる論理の積み上げと、もう一つは情緒の完結ですかね。倒叙ものはこの二つの要素で「参りました」にならないと面白くないんだなあとこれまた勉強になりました。この話では、海老蔵が推理したパーツを最後に高宗歩未さん演じる部下が涙ながらに「警視の指紋が検出されました」という言葉で、エリート警視が観念します。ラストの野球場が古畑のラストシーン(スペシャル版除く)と同じだったのは狙いではありません。が、偶然でもないかもなあ。
土屋はこの公演をもって劇団を退団することになりました。まあひとり立ちと言いますが、その後の今年の彼の活躍を見ていると私も嬉しくなります。ラストに警視と海老蔵がピッチャーとバッターとして対峙する絵でこの物語は終わります。長らく一緒に舞台を作り、土屋のことを尊敬?信頼?していた藤堂とのラストシーンは、今思えばなんだか印象的ですね。なんてね。

この公演は山岸謙太郎監督にオープニングムービーを作ってもらい、主題歌もオリジナルで作成し(KIHOWさんの歌声たまんないよね。音楽配信サイトで購入できますよ。youtubeも貼っときますね)、準備から気合い入れて臨んだ公演でした。今振り返ると、3たびの緊急事態宣言中の公演となり、大変なこともいっぱいありましたが、37人という大人数の座組み(オーディションも久々にやりました)で駆け抜けられたこと、今頃しみじみしちゃうな。超沢山の人が関わってくれた一大プロジェクトと言ってもいいのかもしれませんね。ありがとうございました。
このシュリクラは絶賛シリーズ化の予定です。映像化も企みたい。次は誰を犯人にしようかなと想像するだけで、ワクワクが止まらないのですよ。ご期待ください。

初日から超長文になった!まあそれくらい規模感ある公演だったしね。
次回は、
UDA☆MAP「ガールズトーク☆アパートメント2020」
です。

トムコラム