「ミキシングレディオ2020」〜コロナ対策劇場編〜
これから演劇を再開する方へ何か参考になればと思い、今公演で行ったコロナ対策を書いています。今回は劇場編です。
もう一度書きますが、コロナへの価値観や考え方は様々です。やれることやれないこと(お金とかも含めてね)、対策の良し悪しなども様々な意見があるかと思います。これからもうしばらくは続くであろうこの時代で、わりとトップバッター的に公演を行った者の備忘録として参考にしてもらえたらと思います。今回は出来るだけ明日使えそうなことを書いていきます。
・舞台と客席の間に飛沫防止シートを設置
・客席と客席の間に飛沫防止シートを設置
・お客様には検温、アルコール消毒、マスク着用でのご観劇
・チケットはすべて前売り、グッズもネット販売
・換気休憩
・終演後の面会はなし
・フェイスシールド着用公演
大きくはこの7つです。上記6つは公演開催発表と一緒に告知。フェイスシールド着用は、試行錯誤(役者の安全性含め)が必要だったので、後ほどの告知となりました。これらはすべて、劇場の方針や構造、団体の都合、予算の都合、などなど様々な事情が絡んできます。これももう一度書きますが、緊急事態宣言明けすぐの公演だったので「やれることは全部やろう」をモットーにしています。今後情勢の変化やここまでやらなくていいorもっとやらなくてはいけないなどの変化は大いにあると思っています。あくまで2020年6月の出来事として読んでくださいね。
《舞台と客席の間に飛沫防止シートを設置》
ラジオ局の生放送という物語設定に合わせてアクリルパネルとなりました。これは素材がどうであれ、舞台美術の一部のようになるんじゃないかなという目論見は最初からありました。そして舞台美術の青木さんがまさしくそのようなプランニングをしてくださいました。
アクリルパネルは6ミリの厚さのもので、舞台用語のいわゆるサブロク(90センチ×180センチ)を6枚並べました。舞台面ではなく客席面に下から設置。その段差分で高さ165センチくらいの壁となりました。背の高い菅野くんが舞台挨拶の時に少しはみ出してたな笑。照明が反射しないように今回はシーリングという前から当てる照明を使っていません。照明の話をすると、フェイスシールドの反射防止も含めてかなり数を減らした形での灯り作りとなっています。
飛沫防止対策としては100点だと思います。舞台上の飛沫が客席に流れることはまずほとんどないだろうと言えるくらいの遮断感があります。透明度も高く、視覚的な問題はほとんどなかったと思います。一部の席からはパネルのつなぎ目でキャストの顔が曲がって見えるという現象が起きました。出来るだけそうならないようにスタッフさんが頑張って設営してくれましたが、アクリルパネルのクセと劇場床面のフラット誤差で少し曲がってしまう箇所が出ました。それを解消するにはパネルを厚くするというものですが、8ミリにすると予算が爆上がりします笑。6ミリ以下だと多分ゆらゆらするだろうという話でした。
セリフ(音声)が聞き取りづらくなるのは当初から想定していて、舞台前面にフットマイク(大きめの劇場でよく使うもの)、舞台美術にピンマイク(ブースとサブを仕切る低いパネルに仕込んでありました)を仕込んでキャストの声を拡声しています。
問題はこの一点ですね。「ライブ感」かなと思います。遮断が完璧であるということはそれだけ客席と舞台が分離されるということです。演劇、特に小劇場が持つライブ感は弱まるのはどうしてもあるかなと思います。今回の劇場ではひな壇3段目くらいから後ろがむしろ生声が聞こえているライブ感があったように思います。とはいえ最前列のお客様はアクリル越しでも役者のライブ感を楽しんでもらえたようなので、これも観客の受ける印象次第といったところかなと思います。
前説で「まあまあ(お金)がかかった」みたいな笑い話にしましたが、本当にアクリルパネルが品薄で入手するのに大変苦労されたみたいです。本来は1枚1万円くらい?で、その1.5〜2倍くらいの金額がかかりました。これ劇団の持ち物として残してありますので、もし使いたいという方がいたらこのサイトの問い合わせフォームからご連絡ください。格安で貸し出します!(切実)
アクリルパネルのメンテナンスはアルコール系だとクラック(ひび)が入るそうなのでご注意。ハイターを薄めたやつ(塩素系?)を使っていたようです。
《客席と客席の間に飛沫防止シートを設置》
制作の島崎がこのアイデアを提案してくれた時に、これなら公演がやれるかも、と思ったアイデアでした。説明むずいので写真で見てもらう方がわかりやすいかと。こちらです。
このように、客席の椅子をパイプで作った枠で囲い、ビニールシートで覆って、完全に個室状態にしました。これは私も座ってみましたが、快適です。めちゃ快適です。一蘭は偉大だなあと思いました笑。これはすべて手作りです。材料はすべてホームセンターで揃います。枠は塩ビパイプで、水道管用だったかな。島崎曰く「水道管というシールを剥がすのが一番面倒な作業だった」とのこと。これらを組み合わせて椅子に結束バンドで固定します。枠の高さは後ろや隣のお客様の視線の妨げにならないよう、座席の位置によって微妙に変えてあります。僕もチェックしましたが、どの席から見ても舞台が見えなくなるということはありませんでした。匠の技ですね。ビニールシートは市販されているビニール袋です。元々はビニールを貼って、公演毎にすべて消毒作業をするというプランだったのですが、このビニール袋をかぶせるという形になったおかげで、すべて廃棄して取り替えるだけという安全面でも作業面でも画期的に楽になりました。とはいえ私も手伝ったのですが、全席にビニールをはめる作業…なかなか大変です。音の聞こえにはほとんど影響ありません。
《開場、換気休憩》
基本フローはこんな感じです。
開場は15分前。事前に行列を作らないようお願いしてあり、開場の直前から、
整理番号順に並ぶ→チケットをお客様自身でもぎってもらう→検温→アルコール消毒をしてご入場
みなさま本当に協力的で、毎ステージスムーズに開場できました。私も検温やアルコール消毒を担当したのですが、嫌な顔をされる方はおらず、むしろ「ありがとう」とお声かけ頂いた方も多数いて驚きました。開演前に泣きそうになったのはここだけの話。検温って経験した方は分かると思いますがちょっと緊張しますよね。私が検温器を銃を持つように(両手で)構えていたのは反省しております笑。マスク着用率も99.9パーセントでした(お一人だけタクシーに忘れた方がいて、その方にマスクをお渡ししたらお金を出して買いますと言ってくださいました)。開場時間が15分しかないので、お手洗いのみ30分前から解放しました。その後私の前説があって、開演となります。前説は何気にいつも緊張した笑。
換気休憩を上演の間に10分程度入れました。それ用に舞台中央のパネルを固定しない形で作成してもらい、パネルをずらして劇場奥の扉(外)を開けて換気しました。その休憩中にも舞台面の消毒作業を行いました。舞台監督さん、私、音響さん、声の出演真由美役のL山田さん、R古梨さんで行いました。これがいつも稽古場でやっていた風景です。
換気休憩はこの物語はむしろキャストにとってはありがたかっただろうなと思います(くっそハードな芝居なので)。あと昨今は上演時間が2時間でも「長い」と言われるような風潮もあり、1時間で休憩はちょうど良かったかも知れないですね。演出としては、完全なノンストップ1幕劇なので、その雰囲気が損なわれてないように、休憩明けに少し前から始めて(前回までのあらすじ的な)スムーズに後半に入っていけるようにしました。宮古田役の大島くんの絶叫が後半の始まりなので、彼は通常の倍絶叫したことになります笑。
今後換気休憩も当たり前になるようなら、脚本家や演出家は少し意識すると面白いかなと思います。ここで休憩!?気になる!?みたいなやり方とか、逆に前半後半が綺麗に分かれている感じとか。これは逆に面白みを増す為という意味のアイデアです。
上演中もマスク着用でのご観劇をお願いしました。水分はこまめにとってくださいとアナウンスしました。咳エチケットも前説でお伝えしました。前説でジョークで言った「笑いエチケット」はそこそこウケました笑。
《フェイスシールド着用公演》
フェイスシールドの試行錯誤のあれこれは前回の稽古場編を読んで頂くとして、最後まで悩んだのがこの項目です。アクリルパネルを設置したので、キャストの飛沫がお客様に飛ぶことはなくなりました。つまり今公演の本番中のフェイスシールド着用の意義は「キャスト間の本番中の感染予防」ということになります。一方でキャストは本番で最高のパフォーマンスをするというのが最大の目的でありそれが仕事です。それくらいフェイスシールドはキャストへの負担が大きなものでもありました。映像の現場だとリハーサルまでシールドをつけて、本番で外すという話も聞きました。今再開したサッカーも試合中に(おそらく相当)接触がありますが、試合中はマスクもシールドも着用してません。そのかわりに2週間ごと全選手がPCR検査を受けているそうです。このように、最後のパフォーマンスの部分で感染対策をどこまでやるか、どのようにやるか、というのは本当に難しい部分だと思います。ガイドラインには「演出上支障がなければマスク着用」と言った文章にとどまっています。ちょっとツイッターで大喜利みたいになってたし。最初から書いているように、この公演は「やれることを全部やろう」から始まっています。なのでまずはキャストが安心して全力で芝居ができるということを考えてフェイスシールド着用公演としました。そしてご覧になった方はわかると思いますが、それはもう飛沫が飛びまくる演目です。作品のカラーだったり、舞台上でそれなりに距離が取れる演出だったり、今後は舞台美術の中でアクリルやシートを使ってみたりと、対策のやり方は様々できると思います。前回書いたようにマスクも使いようで面白くなると思うし。今私が思う1番のポイントは「キャストが安心して演じられるか」ということだと思います。キャストやスタッフ、脚本家演出家の知恵と工夫によって色々な上演の形が生まれてくると思います。今マスク公演やシールド公演がいくつか上演しているという話を聞きました。どちらもつけずにやる公演もきっとたくさんあると思います。そこには主催者や演出家、そして出演者の様々な判断があってのことだと思います。
前回照明のテカリが、と書きましたが、主にテカるのは上を向いた時、横を向いた時でした。すべてのシーンでテカらないようにするのは無理ですが、できる限り「このシーンのここテカってる」とキャストに伝え、テカらない顔の向きなどをキャストは微調整しました(なかなか大変だったろうなと思う)。場当たりというリハーサルがあるのですが、そこでキャストさんは照明の当たり具合などを確認しますが、今回はテカリにかなり時間をさきましたね。
《その他》
あとは、忙しいスタッフさんにお弁当やケータリングを出すのが現場では普通にありますが、今回は各自で買って頂く形にしました。松本ケ長でおなじみのケータリングも今回は行ってません。平井がすごく残念がっていたな笑。私も作りたかった笑。楽屋は2チーム公演なので、Wキャストの席をうまく配置して間隔を出来るだけ取りました。とはいえ楽屋はどの劇場も基本狭いですからね。ここは別場所を借りるわけにも行かないし、小屋入りまで、そして千秋楽までのキャストの感染予防意識を高めておくのが重要かと思います。楽屋をビニールシートで分ける案もありましたが、逆にリスクが上がる(飛沫残りなど)気がしてやめました。換気は常に行いました。公演初日からはキャストは客席に立ち入らず、舞台に上がる靴はキャストは衣装靴、スタッフは舞台面用の靴に履き替えて移動していました。
キャストスタッフ、関係者などもすべて検温を毎日行いました。
そして演劇恒例の本番前の気合い入れもソーシャルな形で。普段なら肩を組んで円陣なんですけどね、今回は大きな広い輪を作って、拳を上に突き上げる形でした。
「ミキシングレディオ、オンエア!!」
とりあえず今公演のコロナ対策編は以上です。「初めての試みだよ」と笑いながら舞台客席空間を作ってくれたスタッフ陣に、様々な制約をポジティブに立ち向かってくれたキャスト陣に改めて感謝です。なんか忘れてるものがあったら追記します。演出面でもいくつかあるのですが、それは作品振り返りと一緒に次回!