※2017年4月13日、シアターKASSAIにて
サカキバラダイスケ×松本陽一(5)
“ゲーム”と名が付くものが好き
- サカキバラ
- でもですね、ちょっと前後にはなっちゃうんですけども、僕はそこまでの間にビジネス講師の仕事もやっていたので、実はそんなに違う方向ではないんです。
- 松本
- そんなに高度なことではない?
- サカキバラ
- 高度なことではないというより、発想としてはベースとして存在していた、という話です。
- 松本
- ビジネス講師って、どういうことですか?
- サカキバラ
- えーとですね、うーん、ちょっとこれ、文章にして面白いかどうかわからないんですが。
んとー、例えばで言うと、人狼ゲーム(会話を通じて嘘つきを探していく、複数人で行うコミュニケーションゲーム)ってあるじゃないですか。
- 松本
- はい。
- サカキバラ
- 人狼をゲームとしてやっていく中で、あいつ意地悪だな、とか、あの人すごく素直だとか、いろんなことが出てきますよね。ゲームってどうしてもみんな真剣になっていくので、いろんなことが見えてくるんですよ。その見えてきたものを使って、君ってこういうような感じの人だよね、みたいな感じの自省を…あ、ジセイって自分の反省ですね…をしていくんです。
- 松本
- あー、はいはい。
- サカキバラ
- 自省をしていく中で、自分とはどういう人間であるとか、それをビジネスに活かすにはとか、仕事をする上で自分の態度っていうのをどのように改めていくべきかとか、そういうようなことをゲームを通じて考えるみたいな。そういったことをやっているゲーミングっていうジャンルがあるんですよ。
- 松本
- それは参加する人が体験して自省するんですね。
- サカキバラ
- そういうことです。
ゲームをやっていく中で、自分の取った行動が他の人に思わぬ影響を与えていたりする事があって。例えば、ゲームの中で荒い言葉を使ってしまいました、と。そうすると、言った本人はゲームに勝つために必要なことを伝えるつもりで、軽い気持ちで使った言葉でも、相手の人は非常に傷ついていた、とか。
- 松本
- ありますよね。
- サカキバラ
- それって普段の生活では話し合えなくて、そんな出来事のあった次の日も馬鹿話をしたりお酒を飲んでワーっと盛り上がったりできるんですけど、実際にはその言葉そのものやその言葉が発せられたシチュエーションが深く、いつまでも心に残っていたりするものなんです。そういった「そういえばあの時、結構これ言われてグサッてきたんだよね」みたいなことを、ゲームの後に話し合う機会を設けるんです。ゲームの中で自分が採った行動を振り返っていって、自分の人間的な深みを追い求めていく、という自己分析のひとつがゲーミングです。そういうことをするための手法がいくつもあって、そのうちの1つですね。
- 松本
- その講師になるきっかけは何だったんですか?
- サカキバラ
- えーと…ゲームが好きだったからかな!
- 松本
- ゲームっていうのは?
- サカキバラ
- 本当にいろんなゲームが好きだったんですよ。元々のところで言うと、一番初めはコンピューターから入ったんですけど、コンピューターが好きで、コンピューターゲームから入っていって、その後にいろんなゲームをやっていって…“ゲーム”って名前の付く言葉が好きだったんですよね。
- 松本
- じゃあ、そのコンピューターゲームも、人狼ゲームのような対人ゲームも興味があったと。
- サカキバラ
- “ゲーム”って名前の付くものに対して、無条件で飛びつくみたいなところがあって。
- 松本
- あー。
- サカキバラ
- コンピューターゲームもそうだし、対人ゲームもだし、あと“ゲーム理論”っていう経済学の理論なんですけど、そういうものもあるし、ゲーミングもそうだし…。
- 松本
- ははぁ、この辺に少しスナフキンが見えてきたような気がしますね。
- サカキバラ
- ふふふ…、ゲームかぁ…。
- 松本
- じゃあその、ある意味、シアターKASSAIを立て直したじゃないけど、そういうことをやってるのも、発想のベースにゲーム好きがあるみたいな?
- サカキバラ
- それもあるのかもしれないですね。
- 松本
- 例えばKASSAIがどんどん予約が入って、盛況になっていくとか、ゲームを色々やった結果が上手くいって面白い、みたいな感覚ですか?
- サカキバラ
- うんまぁ、嬉しいね、っていうのはありますね。
ただ…、経営的に正しいかと言われたら、実は正しくない気はするんですよ。
- 松本
- ほぅ!
- サカキバラ
- 経営的に正しいというのは利益の追求なので、実際にはボクが儲からなきゃいけないんです。でもボクは儲かっていなくて、むしろさっき言った、年間に30~40本やっている照明の仕事のお金をここに注ぎ込んだりもしているんですね。
- 松本
- あぁ。
- サカキバラ
- でもその、上手くいってる感というか、活況を呈していると言ったら良いんですかね。みんなが楽しくやってますねっていうモードを長く作れることが、今の所ボクにとっては一番価値がある状態ですね。
稽古場を作ったワケ
- 松本
- 稽古場を作ったりしていったのも、同じような感覚ですか?
- サカキバラ
- えっと、稽古場に関しては、話がある程度は別になってきますね。元々でいうと、稽古場って必要だなって思ったんです。まず。
- 松本
- はい、はい。
- サカキバラ
- みんなが“稽古場ジプシー”とか言ったりするじゃないですか、いろんな施設を渡り歩いて今日はここ、明日はこっちみたいな。そういうことをやっている団体さんって、もちろんたくさんいらっしゃるんですけど、やっぱりどうしても伸びるのが遅くなるんですよ。やっぱりどこかにグッと腰を落ち着けて稽古をするってすごく重要なことだと思って、後はそれをどれだけ安く提供できるかっていう…挑戦だったというとちょっと言葉が大きいですけどね。
- 松本
- 少し僕はそういう志を感じたときがあって、あのー、曙橋にさらにケイコバB−1という稽古場を最近作られましたよね。そのオープンの頃のツイートで、出来た経緯やこういう思いで作ったみたいな文章を書かれていたんですけど、その内容がすごく役者さんのことを考えてる印象だったんです。
- サカキバラ
- あぁそうですね。
- 松本
- 覚えてます?
- サカキバラ
- 書いた内容自体は覚えてないんですけど、たぶん考え方としてはこういうことだと思うんです。
安い稽古場っていうのはあるんですよ。ただ、あるんですけど大宮の先だったりとか、
- 松本
- うん。
- サカキバラ
- 大宮の先に行って、さらにそこから徒歩で20分かかります、みたいなこともあったりするんです。
- 松本
- 駅からの距離がある場所という。バスだったりね。
- サカキバラ
- それは何を意味しているかというと・・・演劇人ってだいたい山手線の西側に住んでることが結構多いと思うんです。
- 松本
- へぇー。
- サカキバラ
- だいたい西側、つまり中央線沿いが小劇場の一番盛んな地域だった時期があったということなんですけど。そちらの方に住んでいる人が、例えば埼玉方面、もしくは渋谷から東急東横線で少し乗っていくつかの駅を移動して、そこで降りて稽古場に行くとする。そうなると、2路線3路線を乗り継いでいくことになり、行き帰りで1,000円くらい使う、ということが起こったりするんです。稽古が仮に30日間行われると3万円とか4万円が移動費で掛かります、ということになる時に、それって何なんだろう?座組さんが稽古場代を少し安く抑えるために、役者さん全体の交通費が大きく上がるのは本当にアリなんだろうか、って考えていくと、ちょっと分からなくなっていくんですよね。座組さんが安く稽古場を取りたいっていうのは、ボクもプロデューサーをやっているので分かります。でも、稽古場の値段ばっかり追求していっちゃうと、今度は演者さんに稽古場まで行く金銭、時間のコストを大きく強いることになる。座組さんにも優しく演者さんにもそんなに大きく交通費や時間の負担が掛からないっていう場所で稽古場を作りたかったっていうのがありますね。十条だったり、曙橋だったり。そういう趣旨のことを言ったんじゃないかな。
- 松本
- そういう感じでした。なので、シアターKASSAIのことと、稽古場を十条と曙橋に持たれていることは、志や、スタートがちょっと違うような気がしましたね。
- サカキバラ
- うーん、そう…ですね。あの、一本の演劇を作るという流れの中で考えてみた時に、演劇公演で儲かることってほぼ無いじゃないですか。まぁ普通だったら…例えばですよ、20人がその演劇に出ます。作演出が1人います。それに対して100時間の稽古をしました。20時間の調整を行います。2時間の本番を8回行います。ということになると、東京都の最低時給が大体1,000円くらいなので結構なお金が儲かってもいいはずなんですけどそこまでの利益は絶対に出ないんですよ、小劇場演劇って。
- 松本
- そうですねぇ。
- サカキバラ
- だから、稽古場も劇場も、制作側がお金をかけたくない気持ちはわかる。ただ、経済って結構正直な動きをするもので、お金をかければいいものができる、お金をかけなければどんどんチープなものになっていくんですよねー。それは稽古場を提供する側も同じです。そのバランスを取ってできるだけいいものを出していくっていうのが、稽古場を作るときのミッションって言えばミッションでしたね。
- 松本
- うーん。
- サカキバラ
- シアターKASSAIもギリギリだし、曙橋もギリギリだし。
(つづく)