久保田唱×松本陽一(3)

※2016年12月3日、都内某所にて

【ネタバレ注意】対談中、過去作品のストーリーの核心に触れる部分がございます。ご了承の上お読みください。

久保田唱×松本陽一(3)

文字による演出は、たぶん真逆に思われてる

久保田
よく小説とかマンガとかが映画化されるとき、この時間でこれが描けるわけないよね、そりゃ小説の方が面白いよね、とか言われたりするんですけど、そうじゃない描き方もあるんじゃないかなあって思っていて。
松本
あー、まさにそんな感じでしたね。それが久保田作品に共通してるかもしれないですね。『今だけが 戻らない』に出演させてもらった椎名が、最初になんかプロットを配られて、それがめちゃ面白い、もう小説だっていう話をしてたんですけど。
久保田
今回はそうです。犯人の人生を頭から、5年前の事件に入り始めるところまでバーっと書きました。
松本
犯人っていうのは…。
久保田
真壁啓っていう。
松本
真犯人のことですね。
久保田
はい。吉田宗洋さんと、高田淳さんがやられてた役に成り代わった、真犯人の真壁啓っていう人がいて、物語には全部出しきれないんですけど、そういう背景があるからこそ、こういうことになってしまったっていう人生の始まりとか。

松本
あの、途中映像でちょっと流れたやつ。
久保田
はい。あれが、そうですね、12ページ書いたんですけど、あそこに流れたのはたぶん12分の1か2かで(笑)。
松本
それはもう小説ですね。
あの演出、文字で読んでいく作業と、全く知らない情報が休憩前にぶっ込まれるじゃないですか。あれはもう、ある意味、演出に小説という手法を取り入れているんじゃないかなって。『耳ガアルナラ蒼ニ聞ケ』も文字演出多かったですよね。
久保田
頭に。あとちょこちょこ途中でも入りますね。
松本
歴史的な背景とか。なんか、そういう小説的演出はお好きなのかな、とか。
久保田
そうですね。まあ、いいことか悪いことかで言うと、僕もそれが全ていいと思ってる訳ではないんですけども(笑)。
例えば独白も、諸先輩方からすると、賛否分かれるところで。登場人物が独白で説明するのってどこまでありなのかっていう。
松本
はい、はい。
久保田
起こってることは何も説明されてないのに、会話で見えてくる方がおしゃれだなと思って。
松本
まあ、よく言われますよね、それ。
久保田
そこで、その会話で見えるためにあらかじめバッと説明しておくとか、あとは、僕が舞台上に文字を出す時は、たぶん真逆に思われてることも多いかもしれないんですけど、実は全部読めなくてもそんなに影響がないようになってるんですよ。文字を出すから、よく文字を読めないとついていけない話なんでしょ、と思われがちなんですけど、文字を出すことによって、そこで補足情報を得られる人もいるんじゃないかぐらいなところで、実は文字を無しにして観ても成立するようになっていたりして。
松本
なんか、テレビのテロップとか、ネットでアイコンをクリックするとそこに情報が出るとか、そういうような意味合い。
久保田
なんですかね。真壁啓の人生もあそこで出しながら、その後、高田淳さんが電話で語っているのを聞くと重複していたりするので、別に読んでいなくてもなんとかなるようなところで。
『耳ガアルナラ蒼ニ聞ケ』も実はその程度で。最初にバーっと出るんですけど、なんかそれっぽい歴史の知識をもし持ちたかったら持っといてね、ちょっと映画っぽいよね、みたいな感じ。舞台を観ると、その直後に佐藤修幸さんが実は同じようなことを説明してるっていう。
松本
僕は、真壁啓のあれを見たときに、好きか嫌いかで言ったら、あんまり好きじゃないんですよ、テロップとか。元々映像もあんまり使わないんですけど。それは多分、読まないと成立しない、みたいなイメージだからだったんですけど、もう久保田さんは途中で文字を読むっていうのを演出に組み込んでるんだなあって。小説と舞台を混ぜ始めたんじゃないかって、あれを見たとき思ったんですけど。
久保田
フフフ(笑)。読む作業というか。
松本
今まで舞台という生のものがあって、文字が補足というか、なんなら苦肉の策みたいなことを言われることもあると思うんですけど、舞台という表現に読み物を混ぜて成立させるっていう演出スタイルだって僕は思いましたね。
でも、そう言われると、あの情報なしでドンと休憩に入ってそのまま続けても成立するんですね。
久保田
そうですね。ただやりたかったことと言えば、あれだけの事件やいろんなことが起こっていて、登場人物も、舞台だからもうこれ以上人が出てこないっていうのは分かっているので、そこに来て、絶対犯人だっていう名前が出る。今まで出てきてない名前だった瞬間に、お客さんが「あ、あー」ぐらいな(笑)。多分イラっとする人もいるでしょうし、「ウソでしょ!?」と思う人もいるだろうし、ワクワクする人もいるだろうし。
松本
僕も、「誰だこいつ!!」って思いましたよ(笑)。「ぶっ込んできた!!」って(笑)。

久保田
そうそう(笑)。やっぱりあの瞬間、「誰だよ!」「なにそれ!」って(笑)。
松本
もう結構な情報量で(両手を額の位置まで上げて)こうなってるんですよ?で、雰囲気でも尺的にも休憩だって分かって、休憩前映像だな、って感じたところに、(舞台を指さす仕草)なんだこの情報!!と思いましたよ(笑)。
久保田
そうです。あそこ、あの名前だけで実はいいんですよ、ほんとは。その後出る情報はどうでもよくて。
松本
なるほど。
久保田
「真壁啓」って名前が、そいつがどう考えても犯人です、っていうのが出れば、「何それ!」(笑)って。
松本
「いないよね?真壁、いないよね?聞いてないよ!」ってなりますよね。
久保田
いないよね、ってなることを目的としてるとこがあって。
松本
なるほどー。
久保田
その「何?!」っていうその感じで入って、「大丈夫?ここまでのいろいろ、ちゃんと成立する?」みたいな感覚の中、後半を観ると、謎が解かれることが多いというか。解かれていくから。
松本
休憩のタイミングも、「後半」=「解決編」みたいな感じですよね。
久保田
そうですね。

(つづく)