エリザベス・マリー×松本陽一(6)
旗には高すぎる布
- 松本
- 『TRUSH!』の振付の話もしたいんですが、何曲振付けたんですかね?
- リズ
- プロローグ、オープニング、ウーピーやって、タンゴやって、ロックやって、その後は……、
- 松本
- フェス のちょっとしたヤツがあって
- リズ
- フェスとポイ の悲しみのダンスがあって、決起があって……、
- 松本
- バトル、ラスト。
- リズ
- 9曲だ!(笑)
- 松本
- 結構ありましたねえ。
- リズ
- でも、不思議とあんまり苦労した印象が無いかなぁ。決起くらい。
- 松本
- あの曲は苦労したんですか?
- リズ
- 決起の曲は全然踊ってないじゃないですか。だからこそ苦労しましたね。物語的にも凄く重要なシーンなのは分かっていたので、踊りも当然なんですけど、踊りじゃない強さで表現できないかな?っていうのが一番にあった。だから、あの曲はそんなに踊ってないんです。
- 松本
- ある意味、引き算ですよね。
- リズ
- やっぱり、ずっと踊っているだけでは、面白くないし、私がすごく飽き性なのですぐ飽きてしまうんですよ。例えばダンスナンバーを作るときだと、大人数がずっと踊っていると、それはどんなに人が入れ替わったところで、見る側の印象的には“大人数”なので。
- 松本
- うん、確かに。
- リズ
- だから、大人数で踊った後は2~3人で踊るところがあって、徐々に増えていって、また大人数に戻ってと変化させるんです。決起のシーンは、階段を上ったり、時にはエレベーターで下りたりするアプローチの仕方になってます。ただ、ダンス的には引き算をしているけれど、熱量はすごいものを目指してました。あとは、中心人物である3人の未亡人アール、フェス、ポイが強くいたい、3人を目立たせたい、という意図もあって旗を持たせたんです。
- 松本
- あの旗はいいアイデアでしたね。
- リズ
- 良かったですよね。旗ってなんで出てきたんでしたっけね?
- 松本
- えっと、僕のアイデアだと思う。
- リズ
- そうですよね、確か。
- 松本
- ロックの家を表すのに布で囲う案が出て、その布を旗っぽくしたらいいんじゃない?って話になったんだよね。後で振ったらいい、とかアイデアも出ていて、最初から旗の構想があったかのように上手くはまった。
- リズ
- そうですね。その後に、旗の色をアール、フェス、ポイの衣装の色みたいにしたらいいんじゃないかってアイデアが出て、松本さんに布を買いに行ってもらったんだった(笑)。
- 松本
- 買い出し、楽しかったですね。ああいうの好きなんですよ(笑)。
- リズ
- ああ良かった(笑)。
- 松本
- 日暮里の布問屋で、
- リズ
- トマトね!
- 松本
- 結構な時間と、そこそこのお金をかけて選びました。後で高いって怒られましたけど。
- リズ
- あれはいい布でしたね。
- 松本
- 普通は旗なんて、1mあたり100円、200円で売ってる布を使うんですけど、ポイの布はレース素材だったから、1mあたり1,480円!
- リズ
- あははは!(笑)旗にはなかなか使わない布でしたね。
見よ、これが噂の旗だ!!
「TRUSH!」アクト動画その⑥~決起の宴~
噂の旗!動画でもご覧ください。
- 松本
- でも、『TRUSH!』を思い出すと、時間が経って薄れてるっていうのもあるかもしれないけど、大変だった記憶があんまりなかったですよね。
- リズ
- あ!私もそうなんです!大変だった記憶も、スランプもあんまりなくて。創作に対してすごく楽な気持ちでいたのは、やっぱり周りのサポートがあったのと、信頼できるメンバーが居たのと、私のやりたいことやっていいんだ!っていう開放感(笑)。もちろん脚本ありきなんですけど、もともと松本さんと方向性が近かったのもあると思うんです。
- 松本
- うん、多分それが大きかったと思いますよ。だから、苦労した感じがないのと、大変だった感じがないのと、今思い返すと、スーッと出来た気がする。
- リズ
- 私、振りを作るのは、稽古が終わって、帰ってきて夜に作るってパターンが多かったんですけど、『TRUSH!』は不思議と、あんまりそれをやってないんです。稽古が13時からだとしたら、朝の10時に稽古場に行って、それまでの3時間で作ったりしてました。
- 松本
- 確かに稽古場で、アイデアが上から降ってくるのを待ってる顔してましたね。
- リズ
- あー、ありましたねー(笑)。
- 松本
- 降臨待ち、みたいな。割と現場の感じで作ってるのかな、と感じました。
- リズ
- 振り自体は家や稽古が始まる前に作るけれど、人の移動を含むムーブメントの振付は、どう頑張っても脳みそが十数人分もないので、実際に人を動かしてみないとわからないところがあったんです。
創作中は動かない!?
- 松本
- ちなみに、家で1曲考えようとなったらどのくらいかかるんですか?
- リズ
- 1曲か~、う~ん。すごく早いと、4~5時間で出来る場合もありますけど……
- 松本
- でも、まあまあかかりますよね。
- リズ
- そうですね。
- 松本
- 家で振付を考えてる時って、どういう風景なんだろうな~。
- リズ
- 私は頭の中で作って行くから、こういう感じ なんですよ。
- 松本
- 座っていても、 ここは今すごい動いていると。
- リズ
- 動いてます。頭の中で身体を動かしてみて、いける!って思って、メモを書いて……みたいな繰り返しです。
- 松本
- 頭の中で画が出来て、それを忘れないように記録する。
- リズ
- 振り自体も忘れてしまわないように、棒人間がいっぱいいるメモが残ります。後は、見たい画を先にバーって考える。誰と誰が向き合って、すれ違ってる画がいいな~~、ってなって、 手を伸ばして……、
- 松本
- いい表情してる(笑)。
- リズ
- ダンスにドラマがある時ほど、そういう考え方をしてます。むしろ座ってないで、寝っ転がってる時の方が多いです。寝っ転がって、こうやって…… あはははは(笑)
- 松本
- それは曲を聴いてるの?
- リズ
- 聴いてなかったりします。
- 松本
- へぇ、聴いてなかったりするんだ。じゃあ、家で立つにせよ寝るにせよ、これ で4~5時間、頭の中で考えたり手を動かしたり、たまに立ってみたりして作ってるんだね。
- リズ
- そう、廃人みたいになってます(笑)。そっちのパターンが多いですね。でも、とにかく体を動かしてやんなきゃっていうパターンもあります。とにかく動いて、音に合わせて何か 、こう動いてみて、手がこっちに出たから……体は、こっちか?!みたいに動きながら、どうリズムが取りたくなるかを考えてどんどん繋いでく作り方ですね。アイドルさんだと後者が多いです。
- 松本
- 動くパターンだと、とことん動くんだね。
- リズ
- 最近は頭の中で組み立てるパターンの方が多いですけどね。携帯のメモには、電車の中で書いた「1、2、3、4、手伸ばす、右足引く、ステップ、5、6で、燃える花、7、8、弾く。次が2、3、4パントマイム」っていうメモが残ってたりします。
- 松本
- 暗号ですね。
- リズ
- 確かに暗号ですね(笑)。電車の中でも、つり革につかまってこう やって考えてることは多いですね。松本さんはどうやって考えるんですか?
- 松本
- 僕の場合は、演出より脚本の方が似ているかもしれないですね。パソコンの前でこういうこと ですね(笑)。
- リズ
- やっぱり微動だにしなくなって、頭の中で、あ~~ってなりながら考えますよね(笑)。
- 松本
- 大体、作業の話でいうと、最近の傾向としてはロスタイム含めて4~5時間なんですよね。締め切りに追われたら変わりますけど。脚本だと、ワンターン3時間くらい。漫画喫茶にいると2時間は漫画を読んじゃう(笑)。
- リズ
- あはは、わかる~(笑)。
- 松本
- 3時間ずっと書いてることもないです。それくらいで脳が尽きちゃう、くたびれちゃう。だから、時間がある時にはもう無理せず、今日は終わりにして明日書こう、と切り上げる。創作のやり方は、近いですね。
- リズ
- 同じような感じかもしれないですね。
- 松本
- いっぺん自分の作業風景を定点カメラで撮ってみようかな。作品のメイキングに入れたろうかな、って(笑)。
- リズ
- (笑)おもしろ~い!いいんじゃないんですか、早回しのタイムラプスみたいな感じで見せたら。私もやってみようかな。全然動かないで、ずーっと座って、ん~~あ~~って、腕を動かしてるくらいなんだけど。
- 松本
- でも、今の話は面白かったですよ。
過去の作品にヒントを探す
- リズ
- あとは、過去の自分の振付した動画を見たりし始める。
- 松本
- 昔の作品を見返したりします?
- リズ
- しますね。表現の方法として、過去の振りを持ってくることはあんまり無いんですけど、自分の手札を書き出して行く中で、存在を忘れている手札もあるんです。動画を見返すと、あっ、そっか!こんな面白い表現あったな、って思い出すことも出来るんです。
- 松本
- あ、それは分かります。脚本だと、後半の中盤くらいでいつもしんどい思いをするんですが、それを必ず毎回乗り越えて来たんです。リズさんが過去の動画を見るのと同様に、あの作品は何だっけ、これがキーワードだったんだ、みたいに過去の脚本を振り返ることは、たまにありますね。
- リズ
- 乗り越えるための、自分へのヒントを得られたりしますよね。
- 松本
- うん。『TRUSH!』だと決起の宴のシーンが、脚本家の用語で“ミッドポイント”っていう、物語がグッと再生に向かう、一番深いところがあるんです。その1個前のシーンがいつも難しいんですよ。今回だと、「未亡人のアールさんが語る、そしてダンスを踊る」ってところ。最初に構成表を渡した時にはもうあったでしょ。
- リズ
- ありましたね。
- 松本
- でも、脚本は書けてなかったんですよ。
- リズ
- そうなんだ!
- 松本
- 最初のプロットでは、トラッシュと呼ばれる主人公の男の方がそのシーンに居たんです。最後に出来上がった脚本では恋人のクリケットになってるんですけど。これを思いつくのに滅茶苦茶、時間がかかった。それを思いつくまで、3時間ずっとこうやって 、結局何も進まず帰るっていうのを2日間くらいやってる(笑)。
- リズ
- あはは!(笑)
- 松本
- トゲが抜けるというか。
- リズ
- なるほど。
- 松本
- アールさんが過去を語って悲しいダンスを踊れば、彼女の過去の流れはできるから、なぜか 行けないのはどうしてだろう?ってずっと考えた時に、あ!トラッシュじゃなくてクリケットが聞けばいいんだ。主人公はここに居なくていいんだ、って気付いたんです。女達の思いとしてね。
- リズ
- そうやって上手くいかない時は、過去の脚本とかを見て、ヒントを探しますか?
- 松本
- 似たような葛藤をした脚本を思い出すんですよ。似たような場所や似たような流れのものは、何だったかなって。
- リズ
- そっかぁ。
- 松本
- まあ、僕の中ではあそこでクリケットが出てきたのが大ホームランですね!あれは、すごく気持ちよく物語が流れた。
- リズ
- いいシーンでしたもんね。
(つづく)