山岸謙太郎×松本陽一(2)

※2019年11月25日、某所にて

山岸謙太郎×松本陽一(2)

もうTwitterなんて見たくない!

松本
僕、『カメ止め』はインディーズ製作であれだけ話題になって、かなり今風の言葉で言うとバズったので、これからDプロジェクトを映画館で掛けるとなった時に、どんなもんか見に行ったんです。でも、面白かったけど嫉妬はしなかったです。
山岸
おぉ~。
松本
その点は良かったなって。なんでしょうね、嫉妬するしないの差は。
山岸
僕は、めちゃくちゃ嫉妬しました。僕が見た時はまだ『カメ止め』はヒットの兆しは無かった一番最初の状態。周りの人たちは「これ面白いよ」ってなっていたと思うんですけど、ヒットとか、全国で流れるなんて考えてもいなかった。でも、面白くて嫉妬もしたし、見ながら「これ以上面白くならないでくれ」って思ったくらい嫉妬した気がするんですよね(笑)。でもやっぱり面白かったんで、そこは認めなきゃいけないな~って思って、終わった後上田くんに、「すごい面白いからここで終わらせるのは勿体ない、僕にやれることがあったら言って欲しいし、誰かツテが必要なら言って欲しい」って話をしました。
松本
まだ単館上映の頃ですよね。
山岸
そうです。その後も嫉妬がありながらも、良かったとかいろんな人に見て欲しいとかTwitterで書いていたし、応援コメントも書いたりしてたんですよね。嫉妬はありながらも「まだまだ」と思ったんですけど、そのうちだんだんおかしなことになっていくじゃないですか。
松本
イライラしてくるんだ(笑)。
山岸
めちゃくちゃイライラしてきて、もうTwitterなんて見たくない!ってなっていくんですよ。まず上田くんをブロックするってところから始めて(笑)。
松本
そこまで!?
山岸
ブロックじゃないか、ミュートだ。
松本
流れてくるの嫌だからね。
山岸
そうそう。変な話、『カメ止め』がヒットしてた間、僕鬱っぽかったんですよ。割と朝起きるのも辛かったりだとか。
松本
ちょうどDプロジェクトが全部終わって、いよいよ長編化しようという頃ですか。
山岸
そうですね。
松本
先を越された感があったな、とは思いますよね。
山岸
ありますね。僕は調子に乗ってるつもりはないんですけど、やっぱりプロジェクトヤマケンでインディーズ映画としてはそれなりのものを作ってる自負はあるし、もしインディーズとして何か世の中にドンと出るとしたら俺だ!ぐらいには思ってるところはあったんですよね。やっぱり『カメ止め』みたいになりたかったっていうのが正直凄くあったんで、テレビを見てもTwitterを見ても「あ~、俺じゃなかったんだ」って思った。今でも複雑なんですよ。上田くんの出ているテレビ番組をほぼ全部録画してる。たぶん上田くんのお父さんお母さんか俺かくらいの勢いで(笑)。
松本
え?ミュートしたのに(笑)?
山岸
でも、見てなかったです。HDDレコーダーに入ったまま。『カメ止め』の直後くらいに一回飲んで、すごい面白かったよって話をして、その次に撮った『イソップの思うツボ』(2019年)って作品の時も軽く挨拶くらい、でもそんなに言葉を交わす程のことは無く。やっぱり、ずっと上田くんに対しては複雑な思いがあったんですけど、昨日映画祭で会って、長く話して、上田くんが何も変わっていないってところを見てから、スーッと僕の中の上田くんに対する悪き心が全部なくなったんです。だから、たぶん僕もう見れるんですよ、撮り溜めした上田くんの番組(笑)。もっと早い段階でTwitterのミュートは解除していますけど。ミュートしてても他から入ってくるから意味なかったし。
松本
スーッと、かぁ……。たぶん近しい関係だからってこともあるんでしょうね。
山岸
大きいでしょうね。
松本
いわゆるライバル。
山岸
うん。

嫉妬しやすい人と嫉妬しにくい人

松本
つまり、良い作品を見ても嫉妬しないっていうのは……例えば「めっちゃ面白いけど、僕絶対作らないな」っていう作風ってあるじゃないですか。
山岸
はいはい。
松本
それは絶対嫉妬しない。単純に称賛して終わり。
山岸
うん。
松本
「凄いな~」「売れると良いな~」って思うことは最近もあったんです。20代前半くらいの若い演出家が、こんなに大人な芝居を作ったんだ、っていうのを見て。でも、それは嫉妬しなかったんですよ。ある程度距離の話なんですかね?立場だったり、作風だったり。『カメ止め』は、偉そうに言いますけど、「あ、僕はこれ作れる」ってなったんです。

山岸
なんかそんなこと仰ってましたよね。
松本
だとすると、悔しくない。
山岸
敵わない感がない。
松本
そうですね、敵わない感……。全く敵わないと、嫉妬じゃなくなるみたいなんですけど、「やれたかもしれない」とか「先を越された」とか、すごく近しい反抗心とか対抗心が嫉妬を生むのかな。
山岸
僕の上田くんに対しての嫉妬は、それでしょうね。やっぱりインディーズ映画として風穴を開けたい、俺がやるんだ!って思っていたことを持っていかれたから。
松本
立場としてね。
山岸
やっぱそこに対する嫉妬というか、まあ、自分の不甲斐なさみたいなことも併せて……。嫉妬って人によると思います。松本さんはきっと嫉妬しにくいタイプの人間じゃないかな。僕は真ん中よりも嫉妬しやすいタイプ。だって、僕の知り合いで湯浅(弘章)監督という、最近はドラマも撮ってたりする、僕と一緒に押井監督の下でやっていた監督がいるんですけど、その監督は10年くらい前の時にワンピースの作者にめちゃくちゃ嫉妬していました。マンガ家だし、その当時からワンピースは圧倒的に売れていたんで、「自分としてはそんなところに嫉妬するなんて思ったこともなかったけども、この人は年齢が近いというだけでこんなにも嫉妬するんだ」って驚いたんです。ある種、彼の良いところで、それによって、何かのパワーを生み出しているところもあると思うんですよね。
松本
そうですね。そして、嫉妬は歳と共に減るかもしれませんね。
山岸
あ~なるほど、年齢的なものも。
松本
僕は、それは薄れたかも。若い時は「負けたくない」とか「早く名を成したい」っていう欲望が、いろんな人にあるじゃないですか。
山岸
ありますね。
松本
年齢を重ねると、他者と比べるよりは自分の中にあるものと……ってのは、ちょっとあるかな。
山岸
確かにそれはあるかもしれないですね。自分のやり方とか、自分のやりたいことが、だんだんフォーカスが絞られてくるから。若い頃は、マイケルジャクソンにすら嫉妬するような、「何かすごいものになりたい」っていうだけのエネルギーでだけでやっていたものが、だんだん自分のやりたいものが絞られていくと、そこに引っかからなければ嫉妬ではなくなる、っていう感じはあるかもしれないですね。

探究的に映画を見ると

松本
監督はやっぱり映画をたくさん見てらっしゃいますよね。
山岸
子供の頃に映画を見てなかったので『逃想少年』の時期に1日に2~3本を毎日見てました。むしろ、見ないとダメだって思ってやってたんです。
松本
それは資料として見ているの?
山岸
楽しんでもいましたが、資料として見ておかないと引き出しがないんですよね。こうしたいって思った時に、どうやればいいかが分からない。引き出しを増やさなきゃいけないと思って映画を見てます。今でも1日1本、週に1回映画館に行く、っていうのはやってます。
松本
1日1本っていうのは家でNetflixとかの配信を見てるってこと?
山岸
そうです。映画を1本見るか、ドラマを2本見ます。
松本
それ結構大変ですよね。
山岸
大変ですよ(笑)。
松本
最近2時間物を見るのが辛くなってきて、DVDを借りても見ないで返すこともあるんですよね。
山岸
スタートしちゃえば見ますよ。スタートするまでが、しんどいですよね。最近僕も見れない時があって、でも見ないよりはいいかなって思ってとりあえずスタートして、途中で止めて寝るのもありにしてます。その続きを移動中にスマホで見るとか。配信だからできることですけどね。断片的でもいいから1日に1本見るということにしてます。
松本
すごいっすね。
山岸
でもこれをやらないと、上田くんみたいに子供の頃から映画が大好きでずっと見ていた人と戦えないんですよ。この間話した時も、やっぱり俺は映画を彼ほどには多く見てないんだなと思いましたから。
松本
資料として見ていると、つまらなくなる時期はありませんか?一般的に映画を趣味として、休日の楽しみとして見る人とはやっぱり目線が違うじゃないですか。
山岸
どうしてもそうなりますね。
松本
でも、面白い映画はすごい良かったって思うでしょ?
山岸
思います。
松本
その辺って何か違います?最近何を見ました?
山岸
最近ですか?ちょっとベタになりますけど、やっぱ『ジョーカー』(2019年/トッド・フィリップス監督)は面白かったな~。
松本
そういう時どういう目で見ているんですか?これ、僕もよく聞かれるんですけど。
山岸
映画監督をやるようになってからは、やっぱり1回目ちょっとまともに見れてないんですよ。『ジョーカー』は、僕3回くらい見てますけど、自分の見方が複雑すぎてちゃんと見れていなかったって思うからもう1回見たいなっていうのと、ここって何であんなふうに感じたんだろう、もう1回そこを事前に思いながら見てみたいな……とか。

松本
探究ですよね。
山岸
探究にはなっていくところはありますね。
松本
複雑ってどういう見方なんですか。
山岸
お客さんになったり、作り手になったり。気持ちが行ったり来たりしちゃって、中途半端な見方をしてしまった、みたいなこととか。
松本
わかります。僕もこの間見た舞台、まさにそんな見方しちゃって。良い舞台だったんですけど、途中の大事な感動ポイントを完全に作り手の気持ちで見ちゃったんですよ。
山岸
あ~~~。
松本
その伏線を回収するさらなる感動ポイントでお客さんはズビズビ泣いてたんですけど、僕は(その気持ちに)入れなかった。
山岸
入れなかったこと、あります、あります(笑)。
松本
冷静に見ちゃってるわ~、って。

(つづく)