INDEX
山岸謙太郎×松本陽一(1)
100人に連絡する計算高さの無さ
- 山岸
- さっきも『ディープロジック』のパンフレット用の対談だったから、対談続きですね。
- 松本
- 対談は今日まとめてやっちゃおう、って(笑)。そう言えば、昨日は映画祭で上田監督とご一緒だったそうじゃないですか。『カメ止め 』の話からしちゃっていいですか?
- 山岸
- あ、そんな話から始めるんですね!?
- 松本
- 以前からのお知り合いだとか。
- 山岸
- はい。
- 松本
- 上田監督のツイートを見ると、彼がまだ映画製作を知らない頃に、とにかく映画作りについて知りたくていろんな監督にアポを取った中、唯一会ってくれた人なんですってね。
- 山岸
- そうみたいですね(笑)。
- 松本
- 上田さんからしたら、恩人みたいな……
- 山岸
- 恩人というほどでは無いと思うんですけどね。上田くんが東京に出てきて、しばらく数年ブラブラしてて、「映画を作るんだ」って決めた時に、「じゃあ、映画を作るには先人の人達のお話を聞きたい」って考えて100通くらい手紙やメールを出したんですって。
- 松本
- それもすごいっすよね。
- 山岸
- いやまあ、そういうことをやる人間なんですよね~。
- 松本
- 売れる人ってすべからく何かあるんだろうな。100件連絡するっていうエピソードみたいなものが。
- 山岸
- 100っていうバカっぽさも良いじゃないですか(笑)。その1つの区切り方からして。
- 松本
- うんうん。
- 山岸
- 彼は他にも面白エピソードがあるんですよ。昔、琵琶湖を手作りの筏で渡ろうとして沈没して、警察沙汰になったり、東京に上京するのも、確かヒッチハイクで来ているんですよね。
- 松本
- すごい人ですね~。
- 山岸
- 東京に出てきてからも、小説を出版するって話になって、それが詐欺で何百万かの借金を背負ったらしいし。いわゆる“やらかすタイプ”なんです。
- 松本
- あ~、顔付きも人の良さそうな人だな、っていう印象ありますね。
- 山岸
- そうですね(笑)。人は良いと思います。純粋だし、純粋だから目的に向かって進んでいく。普通の人は、それが成功かどうかって不安に思うけれど、でも彼は思い込むタイプなのか、とりあえず100人に連絡しようと思ったら、100人に連絡する。計算高さの無さですよね。
- 松本
- ある意味、 ワンピースのルフィー的な、思い立ったら勢いで!みたいな……
- 山岸
- 本当にそういう感じです。僕が昨日映画祭で上田くんに会って一番感動した事は、何一つ変わっていないこと。昨日の上映会も、「僕みたいなものが審査員なんかって思って断ろうかと思ったんですけど、山岸さんに頼まれたから断れませんでした」って言ってたんだよね。
- 松本
- あれだけ映画が大ヒットしたのに。
- 山岸
- あれだけ大ヒットしても、全然おごりがないな~、って。
- 松本
- あれくらいヒットしたら変わりそうなもんですけどね。
- 山岸
- 僕だったら変わりますね(笑)。
僕がハッシュタグ広げたのに
- 松本
- 上田さんっておいくつなんですか?
- 山岸
- いくつだろう?30…6とかそれくらいですかね?
- 松本
- 僕らよりちょっと下くらいだ。あの……『カメ止め』が大ヒットした時どうでした?
- 山岸
- ……ぷっははは!
- 松本
- 山岸監督が冗談まじりに「 嫉妬した。僕がハッシュタグ広げたのに」みたいなツイートをしてたじゃないですか。
- 山岸
- 結果的にはそうですね(笑)。そもそも100人に連絡した時に会っていたとはいえ、僕もプロジェクトヤマケンでいろいろな人に会ってた中の1人が上田くんだったんですよ。特別印象に残っているかと言われればそうでもない。言われれば覚えてるし、凄くいい目をしている人だな、好奇心がすごいな、と思ったけどそれぐらいしか覚えていなかった。『キヲクドロボウ』 を撮った後だったんで、どういうふうに撮ったのか教えてあげて。君たちもチーム作って撮るんだったら僕らはこうやったから君たちも苦労するよ、みたいなことを話してあげて「分かりました!」って、それっきりだったんですよ。もしかしたら彼は完成後に上映会とかのメールを僕にくれていたのかもしれないんですけど、プロジェクトヤマケンには割とそういう連絡がいっぱい送られてくるので、その中で埋もれたかもしれないし、観に行ってはいないと思うんですよね。その後、新人監督映画祭で『東京無国籍少女』 が上映されるって時に、同じ会場で上田くんの『彼女の告白ランキング』 っていう作品が上映されたんです。その時は、山岸謙太郎、上田慎一郎、あともう1人、田口 監督という、今ウルトラマンとかの監督やられている方の3人の作品が上映されていて、不思議な組み合わせでしたね。そこで初めて上田くんの作品を見たんですけど……そこから嫉妬は始まっています。
- 松本
- あ~、やっぱり面白かったですか。
- 山岸
- めちゃめちゃ面白くって、もう終始腹抱えて笑ってた。
- 松本
- 上田監督は基本、コメディー路線なんですか?
- 山岸
- 元々、芸人にもなりたいと思ったことがあるみたいなので、やっぱりコメディーですね。本当に面白くって、終わった後もいろいろと話を聞いて。そこから逆に僕が上田くんに興味を持ち始めて、会って色々話してっていう感じで。
面白いってなんだろう?
- 松本
- あの……映画や演劇に絞ってもいいかもしれないですけど、“面白い”基準って何でしょうね?
- 山岸
- 難しいですよね。
- 松本
- 例えば、単純にストーリーが面白い、とかがあると思うんですけど、例えば僕は細川さん の舞台。
- 山岸
- 伍長 じゃなくて、ほっそんの方ね。
- 松本
- 彼の舞台を初めて見た時に、人と違う衝撃を受けたんですよ。作り手としての面白いって何だろう?っていう話かもしれないですけど。良い映画とか、良く撮れてるとか、面白い話はいっぱいあるじゃないですか。
- 山岸
- はいはい。
- 松本
- だけど、強く面白いと思うとか、嫉妬するほど面白いっていうのは、何かもう1個違うじゃないですか。
- 山岸
- あ~、そうっすね。
- 松本
- 同じ作品を見ても、僕が細川さんに感じた事を別の人は感じないかもしれない。
- 山岸
- ん~。
- 松本
- ただ僕は、一定のクオリティーや物語を作る純度というか、深みというか、作家性というか……そういったものを超えたら、クリエーターは同じように感じるんじゃないかな、って思いはあるんですよね。
- 山岸
- 一定の……一定の?
- 松本
- なんだろうな……なんて言えばいいんでしょうね?馴れ初めみたいな話に飛んじゃうんですけど、僕が山岸監督の作品で最初に見たのが『イヤータグ』なんです。それも同じ衝撃だったんですよ。つまり、「こんなものを作るすげーやつがこの世にいるんだ!」っていう、まだ出会ったことのない人への“嫉妬”みたいな、センサーというか基準というか。それは、僕がモノを作りたいと思う、物語を作りたいって思ってるからかもしれないですけど。……これ、ストーリーだけじゃないと思うんですよね。
- 山岸
- うん、ストーリーだけじゃないですね。
- 松本
- そうですよね。
- 山岸
- 面白い・面白くないって、嫉妬と微妙に違うじゃないですか。
- 松本
- うんうんうん。
- 山岸
- 単純に面白いと思っても嫉妬しないってパターンも。
- 松本
- ありますあります。
- 山岸
- でしょ?僕は、6番シードさんの舞台って一番最初に何を観てるんでしょうね?『ザ・ボイスアクター』の前だから……。
- 松本
- 何だろう?ちょっと調べますか 。
- 山岸
- 振り返らないと分からないですね……えっと、砂漠は……。
- 松本
- 『傭兵ども!砂漠を走れ!』 ですか?
- 山岸
- 『傭兵ども~』は『ザ・ボイスアクター』 の前ですよね?それは間違いなく見てる。それも『東京無国籍少女』がきっかけですよね。
- 松本
- ちょっと待ってくださいね。えっと、初演の『傭兵ども~』がここで……。
- 山岸
- その前は何ですか?
- 松本
- その前はたぶん見ていないと思いますよ。初演の『傭兵ども~』が最初じゃないですか? この辺ですよ。
- 山岸
- あ~、『ボイルド・シュリンプ&クラブ』 は見ていないもんな。僕ね、『傭兵ども~』を見た時はめちゃめちゃ面白いと思ったけど、嫉妬は無かったんですよ。でも、いつからかな、ここ最近嫉妬するんです。なんでですかね?
- 松本
- 嫉妬は掘り下げると面白いかもな……。
(つづく)