細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編

intro

 

細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 後編(1)

※2017年11月28日、シアターKASSAIにて

多彩な郵便屋さん

(休憩中、全員が席に戻るまで雑談が続き、『D・ミリガンの客』の日替わりゲストの話題に)

椎名
なんで夢麻呂さんから始めたんですか。
佐藤
ホントそれですよ、なんで最初を夢麻呂さんにしたんですか。
松本
(郵便屋の)役に一番合ってたから。
佐藤
あれ、合ってたんですか!?
扇田
ブチ切れる役だから。
佐藤
確かにキャラクターには合ってたな。
松本
僕、のぶさん(佐藤さんの愛称)の日替わりゲスト回好きでしたよ。
扇田
一番話が入ってきましたよ。たみしょう(民本しょうこさん/ボブジャックシアター)の回は、必死だったもん。
佐藤
俺、たみしょうさんの回を客席で見ていて、真っ青になりました。これを求められてるの?やばい!って焦りました。
扇田
僕はカレー役で、みんなの手紙の話をいつもはフラットに聞いてるんです。でも、たみしょうの回だけは感情移入して聞いてる風にして、場の空気を作らないとって思ってました。
一同
(笑)
扇田
もうぐちゃぐちゃだったから。
松本
話を戻さないといけないのね。
佐藤
いや、彼女は天才ですよ。
扇田
天才って言っちゃダメですよ。
松本
ボブジャックシアターは本当に個性派劇団になりましたね。
扇田
なっちゃいましたね。

(チリリン♪ドアベルが鳴って細川氏が戻ってくる)

椎名
今、細川さんの日替わりの郵便屋に向けて、みんなプレッシャーかけてましたよ。
扇田
細川さん、(これまで出た)みんなは爆笑取ってましたよ。
細川
やめろ~~~!
一同
(笑)
細川
それ、ほんま憂鬱なん。なんで引き受けたんやろ。いっつも引き受けてから後悔する。
松本
僕も、細川さんの作品に日替わりゲストで出た時、超緊張した。
扇田
細川さんが日替わりゲストの時は、カレー役は松本さんですよね。(カレー役はWキャスト)
細川
松本さんと役者同士で絡むの初めてだわ。
松本
そうですね。
扇田
『ゴジラ対キングギドラ』みたい。
一同
(笑)
細川
日替わりゲストのシーンの稽古をしたんですけどね、(郵便屋の登場シーンでドアを)ガチャっと開けたら、6番シードとかこの面々がこっちを一斉に見るんですよ。セリフなんか出るわけないですよ。
扇田
入ってくるんだから、そりゃ見ますよ。
佐藤
それ、僕、回避する技思い付きましたよ。(本番で)やっちゃいましたけど。
細川
やるなよ~~~。

セリフの臨場感と美しさ

松本
あれ、これ、ぬるっと対談再開してる?(笑)じゃあ後半戦行きましょうか。さっき話が途中だった、脚本の日本語が美しいって話。
細川
あ、僕のやつですか、ありがとうございます。
松本
細川さんの脚本はやっぱり独特ですよね。
細川
そうですね。例えば、ヨーロッパのシェイクスピア・シアターの役者は、古典のセリフを当時の発音で言うこと自体が芸なんですって。僕も、セリフそのものを聞くことを楽しみにしたいから、セリフ自体がかっこ良くなきゃいけないと思ってます。だから、(観劇していて)セリフがダサいなって思うと、ちょっと残念なんですよ。自分はセリフをかっこ良くしたいから、倒置法とか、それらしい…外国が舞台だったら、いかにも外国人が言いそうなジョークを入れるとか、そういう工夫をしてます。

松本
倒置法多いですよね。
細川
多いですね。倒置法好きなんですよ。だから脚本を書いていて「あ、いかん、普通に書いちゃった。倒置しちゃえ」ってなる。
一同
(笑)
松本
僕は情緒や印象を残す時に倒置法を使うかもしれないですね。役者さんは、倒置法を嫌うんですよ。日本語を普通に喋ってるとあんまり倒置法を使わないんでしょうね。
扇田
演出家目線なんですけど、日本語が正しいとか美しいっていうのは、その脚本を信頼するかどうかの第一歩だったりするんですよ。
松本
やっぱりそういうのも影響するんですね。
扇田
この脚本家さんの日本語はめちゃくちゃだとか、時制が間違ってるとか、それって基本的なことじゃないですか。そういうのを間違えてると、だんだんだんだん、ちょっと疑問に思ったシーンに対して「この人、間違えてるんじゃないかな」って一瞬思っちゃうんですよ。
細川
うんうん。
扇田
脚本を信頼できなくなってくるというか。
細川
後は臨場感を気にしますね。話し言葉と書き言葉って違うじゃないですか。文語じゃなくて、なるべく口語っぽく書きたいんです。例えば、何かのリアクションのセリフが役者のアドリブに見えると嬉しい。最近、コメディを書かせていただくことが多くて、ツッコミのセリフも書くんですけど、それに対してお客さんの感想で「あのアドリブがよかった」って書いてあって、そういうのは嬉しいですね。それに、人の意識の流れってそんなにちゃんとしてないんですよ。すごく大事な商売の話をしていたりしても、「ああでこうで、ところで腹減ったなぁ」って急にご飯の話に移ることもある。それでまた商売の話に戻ったり、いろんなところに意識が飛ぶから、そういうのも入れたいんです。
佐藤
それを計算できたらすごいですね。
細川
そこまで考えて脚本を書くようにしてますね。だからしんどいですよ。
扇田
これは口では言わないわ、っていう文語を、平気でセリフに書く脚本家さんっているじゃないですか。

細川
いるいる。
佐藤
しかも、さらっとそのことに触れると「いや、これはわざと間違えた日本語を使ってます」って答えたりするんですよ。
扇田
嘘つきだ~!なんでわざと間違えるんだよ。何の得があるんだか(笑)。
佐藤
僕も、絶対嘘だろ~!みたいなことがありました。
扇田
ウチ(ボブジャックシアター)の役者の話になるんですけど、丸山正吾(まるやましょうご)くんという俳優がいて、彼はかなり頭がいいんです。彼がいろんな舞台を見に行って、感想で必ず言うのが日本語の話なんです。『花魁の首』(脚本演出:細川博司/2017年7月)を見に行った後にすぐにLINEが来て、「扇田さん、細川さんに俺をアピールしておいてください。めっちゃ出たいです。久しぶりにこんなに美しい日本語の演劇を見ました」って書いてありました。
細川
嬉しいですね。『花魁の首』は日本語の正しさというよりは美しさですね。あとはなるべく、近代にできた日本語は使わないようにしてます。近代になって入って来た哲学とかがあって、それに合わせて慌てて作った日本語っていっぱいあって、そういうのはなるべく使わない。
佐藤
イントネーションも大事ですよね。僕、イントネーションが気になっちゃうんだよなぁ。

短いセリフも重要

細川
セリフの話だと、実際にやったら分かると思うんですけど、松本さんの脚本には「え、」とか「あ、」とか「それは…」みたいなセリフが細く入ってるんです。例えば5ページのこのセリフが上手くいかねぇなと思った時に、なんでだろうって考えると、そのセリフじゃなくて3ページの「え、」がちゃんと言えてなかったから、っていうのが多いんです。
佐藤
へぇ~。
松本
以前、合同公演をやった時に、お互いの脚本を演出したりとかお互いの作品に出演したりしたんですよ。(劇団6番シード&バンタムクラスステージコラボ公演『6C×BCS~夏のショートストーリーズ~』2014年8月)
細川
だから分かるんですけど、本当に「え、」とかを逃しちゃダメなんですよ。2ページ先のこの1行が言えなくなったりするんです。

佐藤
ははぁ~、すごいっすね。
松本
最近はできるだけ減らしてるんですけど、初期は本当に「え、」が多かった。反応が1個ないと、感情が1個進んでないって証拠だから。「え、」で1個進んでいたから、その2ページ先のセリフに行き着くんだろうなって思ってます。
細川
でも、脚本を書いてる時に、こことここが繋がってるって思いながら書いてるわけじゃないですよね。
松本
たぶん、書いている時は引きの画で見てると思いますね。
細川
ほんと、見事にそうなんですよね。ここの1行だから2個前のセリフかなって思うと違うんです。
松本
長台詞を演出する時は、長台詞自体には(演出的なことを)あんまり言わないんです。さすがに今回(『D・ミリガンの客』)の長台詞は長過ぎるので演出を付けましたけども。いつもは、長台詞に入る前までを丁寧に演出してましたね。
細川
ああ~、なるほど。
松本
そこを演出すれば、語り口とかの問題はあるにせよ、後は役者がそうなっていくので。脚本でもそうだと思います。セリフが滑ってるなって思って、何でだろう?って遡って、あ、この辺か!って判明するみたいな。そういうのはちょいちょいあります。
佐藤
役者さんを信頼してますね。良い役者さんだから、ちゃんとなるってことですもんね。
松本
でも、脚本上の成立って部分は大きいかな。


撮影協力:sheena & todo

(つづく)