サカキバラダイスケ×松本陽一(3)

※2017年4月13日、シアターKASSAIにて

サカキバラダイスケ×松本陽一(3)

5%の新しい工夫

松本
具体的には新しい5%っていうのは、どういうのがあるんですか?。
サカキバラ
あー、今までで言うと何だろう。6番シードではないんですけど、UDAMAPの『ガールズトークアパートメント』の初演(2010年7月-8月)かな。
松本
中野MOMOでやったほうですね。
サカキバラ
そうですね。あれは、夕景を転がし(床に置く照明)で作ってるんですよ。
松本
転がしっていうのは、下から当てるやつですよね。
サカキバラ
はい、そうですね。
松本
あれって、窓がある照明でしたよね。
サカキバラ
ええ。(舞台セットを指しながら)これと同じような感じで窓の抜けがあって。自然光っていうのは太陽の明かりなので、だいたい灯体は上の方にあるんですよね。でもあのときは転がしで、下の方から当てたんですよね。
松本
それはなぜ下から行こうと思ったんですか。
サカキバラ
たぶん、そっちの方が空間が広がるなって思ったんですね。
松本
あー。明かりの伸び具合っていうか。
サカキバラ
そうですね。
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『ガールズトーク☆アパートメント2010ver』(2015年 再演)

松本
窓の外に転がしたんですよね。
サカキバラ
窓の外に転がしてましたね。
松本
じゃあ、夕日が上に伸びるみたいな。
サカキバラ
そう。
松本
へえ。
サカキバラ
もちろん、上からも吊っていたので、分かる人でないと分からないですね。
せっかくですから夕景、出してみましょうか。今回は上からしか伸ばしていないんですけど。
(実際に夕景の照明を出してみせる)

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サカキバラ
これが上から伸ばしている形になるんですよね。
松本
ああ。
サカキバラ
窓を開けると分かりやすいんですけど。
松本
(窓を開けて)こういうことですね。
サカキバラ
そう。

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松本
これが通常の夕景っていうことですね。
サカキバラ
そうです。まあ実際こんなにアンバー(琥珀色)な夕景って東京の都市部ではほぼないんですけどね。
(サカキバラさん、照明を元に戻して席に戻る)
サカキバラ
下から当てると何が起こるかというと、天井まで明るくなっていくんですよ。そっちの方が空間的にあの演目としていいなあ、と思ったんじゃないかな。
松本
僕は舞台演出家でありながら、演出家としてはイエス・ノーぐらいの感じで、今の話も「へえ、そうなんだ」ぐらいで専門的なことは割とお任せするようなところがあるので、ちっちゃい発見や変化なんだなって思いました。面白いなって。
サカキバラ
そうですね。思い切って変えるとか、そういうやり方もあるんだと思いますけど、別にお客さんは照明を観に来てるわけじゃないんで(笑)。だからボクの理想としては、照明のことに触れられたら負けだなって思ってるんですよ。
松本
それで思い出したのがデッドリースクールの初演だったと思うんですけど、お客さんの感想で「照明が良かった」みたいのがあったんですよ。光が良かったって。たぶん、夜になって舞台装置にあった蛍光灯が点いた明かり、あれ印象的な画だと思うんですけど。
サカキバラ
あ〜、あれね。
松本
その話をサカキバラさんにしたら、「あんまり照明を褒められるのもアレだな」って(笑)。で、その時に舞台美術がいいから照明が映えているみたいな、相互関係の話をされたような記憶があるんですけど。
サカキバラ
そうですね。基本的な話なんですけど、例えば今回はセットを青木君(舞台美術家 青木拓也氏)が作ってるじゃないですか。ここまでセットを組める人が手がけた場合は、地明かりって結構バツンってシンプルに出すだけで全然画になるんですよね。
松本
なるほど。
サカキバラ
で、そこに対して照明がやることは何かっていうと、細かい調整はもちろんあるんですけど、邪魔をしないことなんですよね。
松本
邪魔しないこと。
サカキバラ
そこで変な主張をバンバンバンバン入れたりしてもあまり意味がないと思ってて。ここに関しても見やすいっていうのがやっぱり一番かなってことでやってます。
松本
地明かりとはちょっと違う照明で印象に残っているのは『関ケ原でダンス』ですかね。
サカキバラ
はいはい。
松本
あれは夜の関ケ原で雨が降っている一幕物で、ずーっと夜で、夜明けで終わるっていう。しかも外。
サカキバラ
ねえ。
松本
提灯とかもないみたいな(笑)。
サカキバラ
うーん。
松本
あれは苦労されたと思うんですけど。
サカキバラ
まあ、苦労したっていうか、やりようは全然あって、極端な話で言うとシーンが変わったときにネタをどんどん入れていけば、なんとなくそれっぽくはなると思うんですよね。じゃあ、関ケ原って本当にそういう所なの?っていうと、全然違うじゃないですか。
松本
はいはい。
サカキバラ
こう、だだっ広ーいんですよね。もちろん、だからこそ色んな他の軍の動向が見えたりして、小早川が裏切ったとか、ドラマになっていったりするんですけど。なので『関ケ原でダンス』に関してはそこにあんまり灯体数を使うのは避けたんですよ。確かあの時、付帯設備料のプランの真ん中でやってるんですけど。照明の灯体数は。
松本
あー100灯までっていう(笑)。
(注:劇場にある照明を使うほど、付帯設備料という金額が加算されていく。劇場によっては「松竹梅」的な、パック料金コースプランが採用されており、ここでは、そのプランの「竹」を使用したため、使える灯体数が100灯までだったということ。劇場によっては、劇場費より付帯設備料の方が高くつくこともあるため、公演主催には悩みの種の一つ)
サカキバラ
じゃあ、真ん中でやったときに、どこに凝るかっていうと、やっぱり雨が降ったっていうところと、その後に雨が上がって虹が出たっていうところ、その2カ所に注力すべきだ、って思ったんですよね。話の展開から。であれば、ベースの明かりはあまり変えないで、できるだけシンプルに、で、一番最後の所でドンと使った方がいいねっていうことになったんですよ。
松本
ベースの地明かりがほぼSS(エスエス/side spotの略)でって、横から取るような感じでしたよね。
サカキバラ
そうですね。
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『関が原でダンス』(2011年)

松本
綺麗でしたよ、雨が降ったときの明かりが。あの、物語って風景の印象ってあるじゃないですか。最近は脚本家としても演出家としても使えるようになってきたんですけど…。ちょっと話戻りますけど、夕景ってちょっと黄昏でしょ。だからちょっと物語がアンバーになるシーンに、明かりも夕方にしてみようとか。今回の『人生ガムテ』の話で言うと、色々あるけど最後ノスタルジックになっていく時間帯を敢えてやるとか。で、その時の雨っていうのは、本来雨っていうのはちょっと陰鬱な方ですよね。映画とかでもそうですけど。
サカキバラ
そうですね。
松本
なんか画的に落ちていくところがベースなんですけど、『関ケ原でダンス』は雨が降ることによって良くなる話だったんで、雨が降って逆に明るくなった(笑)。あれは、本当に水槽の中に役者さんがいるような、すごく綺麗なブルーだったなあと思ってるんですけど。
サカキバラ
あの時の灯体数の半分を雨に使ってるんですよね。で、残りの半分の半分を虹に使ってるんですよ。
松本
(笑)。じゃあ、4分の3をスペシャルな明かりに使って、残りの4分の1で地明かりをやっていた、と。あー、なるほど。そんなに使ってたんですねえ。
サカキバラ
(実際に数えてみて)うん、大体そんな感じだと思います。
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『関が原でダンス』(2011年)
虹のシーン

(つづく)